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59話:がっかり元王都

 俺とイテルは探索者をやり過ごした後は、徒歩で時間こそかかったが無事に共和国の王都に着いた。


(やはり失敗の理由は服装か)


 ここに来るまで人間とは関わらない方向で移動をした。


 それでも関わらなければならない時にはだいたい余所者と睨まれることになっている。

 近づくのも嫌がられたり、声をかけた途端逃げていったり完全にこの国の人間は自分以外の相手を犯罪者だと思い込む疑心暗鬼に囚われていた。


 これは情報収集しようと近づけばすぐに不審の目を向けられ排除されることだろう。


(その上、見るからに自分たちの常識とは違う服で…………ついでに態度が悪かったんだろうな)


 魔女のイテルは人間という設定のNPCのはずなのに、完全に現地人を下に見ていた。

 そしてその言動を隠そうともしないのだ。

 喋らないように言ってもその視線、対応で端々に匂わせてしまっている。


(まぁ、相当我慢を強いる状況だからストレスで態度が悪くなるのはわからなくはないけどな。大地神の大陸での暮らしと比べれば未開の人間みたいに思ってるのかもしれない)


 常識だと思っていたことが叶えられない状況は、俺から見てもストレスフルなようだった。


 これだとどんなに見た目が良くてもエルフじゃ無理だ。

 いや、顔がいいからこその反感というのもあり得る。

 設定からして居丈高ってついているのだから、イテルほど我慢もできなかったんだろう。


(神の子孫としての矜持とか、なんでそんな設定したんだよ、俺)


 スライムハウンドなんかもこの世界では珍しい。

 些細な変化に敏感で、さらには家畜や野生動物のいつにない様子にも気づく者もいたのは実際に見てよくわかった。


 どうやら野犬や山の猛獣が降りて来たんじゃないかと備える人間がいた結果、エネミーたちは情報収集に失敗したのだ。


「さすがです、か…………至尊のお方」


 今、また神って言いかけたな。


「誰もここまでこれなかったのに、これほど容易に辿り着かれるとは」


 イテルは王都に着いたことに感動しているようだ。

 ここまでまともな情報収集してないことは気にしないなら良かった。


「知人が王都にいるという理由付けは良かったようだ。革命から六年経っているのだし、そうして知人の安否確認に動くのも不思議ではないのだろう」


 それと自らに関係ないと思わせられたのが不審の目の緩和に繋がったように思う。

 さらにはすぐに旅立つと知れて迷惑をかけられはしないと安心したのだ。


 シャイな日本人も驚く排他ぶりは、それだけ誰にも余裕がないことの表れだろう。


(国境からこっち、どの人も荒んでると思ったけど、王都がこれじゃなぁ)


 俺は目の前の光景に落胆を禁じ得ない。


 空は晴れているのに何故か全体的に灰色っぽい。

 賑やかな声などなく、嫌な静寂があるかと思えば、突然耳障りな怒鳴り声が聞こえることもある。

 ここもまた、荒んでいるのだ。

 かつての王都であったはずの場所は、陰鬱な空気を滲ませて広がっていた。


(元は立派な建物らしいのもあるにはあるけど)


 荒れた道は整備がされておらず、汚らしくゴミや汚れが放置されている。

 建物も扉や窓が歪んでいても直されず、まるで住む人々の荒みようが目に見えるようだ。


「なんでしょう、この汚らしさ」


 イテルは俺から視線を逸らすと、美人な顔を歪めて吐き捨てた。


「そうだな。目抜き通りであるはずの場所に開店してる店舗は見当たらず、浮浪者らしき者たちがいる…………いや、そうした家のない者以外姿が見えない」

「目障りであるならば排除をいたしますが?」

「やめろと言っているだろう。あるがままを見るからこそ得られる情報もある。イテルよ、まずは観察することを覚えろ。やる気は買うが、その程度では私の役には立たんぞ」

「は! 申し訳ございません」

「それもやめろといっただろう」


 俺が止めるとイテルは目に見えてしょげる。


 けれどやる気が酷いのだ。

 ここに来るまでも何度も人間を殺そうかと聞かれて止めた。

 いい加減ちょっと強く言ってもしょうがないと思う。


 ここから情報を集めなくてはいけないのに、全く悪るびれなく殺すという選択肢を振るなんてどうかしてる。

 イテルのせいで失敗したら残してきたNPCにどんな反応されるかわかったものではない。

 俺もイテルも。


「さて、ここからが本番だ。情報収集は必要だが、ここまでの情報の整理も行おう」


 なんとか開いていた宿屋を見つけて、俺はイテルにそう話を振った。

 個室だったけどベッド一つしか入らない狭い部屋だ。

 窓もないこれを個室とは言わないと思うが、廊下を歩いた限り扉の間隔は全て同じ。

 この形の部屋しかない宿屋らしい。


(カプセルホテルのほうがまだ綺麗だしテレビも見れる。けどそれはあっちの基準ってことか)


 ともかくイテルと二人、狭い部屋で話合いだ。


「まず革命が起こったのが六年前。確か、報告には女に溺れたせいとあったな」


 良くあるやつだ。

 為政者が女に傾倒すると、政治を省みなくなって国が乱れる。

 故事成語にもある傾城傾国。

 やはりこちらの人間もそういうものらしい。


「やはり」

「うん?」

「書斎でもその項目をご覧になられていたので」


 見てたのか。

 確かにイテルは俺に資料を持って来て、そのまま机の脇に控えてたけど机の上が見えてるとは思わなかった。

 身長的に。


「革命が起こるにしては動機が弱いことが気になっておられたのですね。ですから進まぬ情報収集にこうして御自らお出ましになられたと」


 イテルが惚れ惚れした様子で語る。


(うん? え? なんて? 動機が弱い? 歴史であるあるじゃないの?)


 他に革命起こされる理由なんて、暴政か天災による逼迫くらいしか思い当たらない。

 けどその辺りを上げずに女に溺れたと話が回ってるなら、政治を省みない国王に民衆が腹を立て人心を掌握できずってところだと思っていた。


 けれどそれではないとイテルは考えてるらしい。

 もしかして、『血塗れ団』みたいな悪の組織が暗躍?

 そんなゲームや漫画みたいな展開あるか?

 けど実際『血塗れ団』なんてあからさまな奴らいたしなぁ。


 俺がわからない内にイテルはさらに続けた。


「ここまでくる間も通って来た場所は領主が違っていたにもかかわらず等しく領主館と思われる場所が襲撃されたように荒れていました。あれは主義主張に関係なく農民たちが暴徒となったせいかと思われます」

「お、おう」

「つまり、国王の女癖の悪さではなくもっと農民の側に不利益を被る事態があり、そのフラストレーションが革命を後押ししたのでしょう」


 あれ?

 なんかイテルが頭良さげ?


(いや、確かジョブは魔法系だ。つまり、頭は悪くないはず)


 身体能力もそれなりのパラメータがあったから選んだ。

 そう、性格以外の能力値は決して低くないはずなんだ。


 もしかしてさっき考えろって言ったから考えてこれか?


「また、報告によれば国王が処刑されたのは二年前。革命を起こして四年の間、国王健在であるにも拘らず政権を取り戻せなかったことを考えますに、政務を担うべき知識層という者が革命に加担したのではないでしょうか」

「な、なるほど」

「これは翻って革命を起こした側にも言えます。一定数は王室存続を考える知識層がいたと」


 確かに四年を待たなければ国王を処刑できない何かがあったのだろう。


「そして農村部の者までが国王が愛妾に溺れたと知っていました。これはあえて流されたプロパガンダ。革命の後押しとなった農民の不満が今の政府に向くことを回避するためではないかと。そうなると共和国という国の危うさが浮き彫りになりました」


 おぉ、そうか。


「御自らが動かれるだけでこれほどの情報が。さすがでございます」


 なんでそこまで自分で考えたのに俺を賛美するの?

 同じ人間だったはずなのに、イテルの思考回路が少しも理解できん。


「う、うむ。思ったとおりだ。イテルよ、私の言葉を受けてきちんと考え答えに行きつけるではないか」

「全てはあなたさまのお導きあってこそ。あるがままを観察し、整理せよと仰ってくださらなければ目の前の答えさえ気づけぬ蒙昧さをお許しください」


 へー、それだけで? すごいね!

 なんかもう俺が頭悩ませる必要なくないか?


 俺はこの宿にいて、イテルに情報収集を丸投げしてもいい気がする。


(なんか元王都って響きで期待したのに荒れ放題だし、公国のような観光できなさそうだし)


 小汚い街みても面白くないせいもあって、俺は一気にやる気が減退していた。


「して、次はどのように動きましょう?」


 イテルが輝く目で見て来るが、ちょっと待ってほしい。

 なんでそこで俺に振るの?

 イテルが考えたほうが絶対上手くいくだろ。

 神って言っても万能じゃないんだよ。


 確かにゲームのシナリオや基本的な設定は俺が作ったさ。

 けど俺一人で作ったわけじゃないから!


(なんて言えないしなぁ…………)


 観光目的なら城を見るくらいするだろうけど、この街を余所者としてうろつくのは危険だしあまり惹かれない。

 ここはもう少しイテルの知恵に頼ってみよう。


「ここまでで、共和国政府について何か印象に残ったことはないか?」

「上手くいっていないのだろうと。この王都の様子を見ても治安維持もままならない状況。けれど周辺国から攻められてもいない。となると何か守りについて…………は! 失念しておりました。そう言えば革命に浮かれた義勇兵が大量にいたのでした」

「…………そうだな」


 そんな報告あったっけ?

 もっとちゃんと見てくれば良かった。


「どういたしましょう?」


 だからなんで俺に聞くの?

 いっそイテルに一人でお遣いがてら情報拾って来させるか?


 そう思った時外から何か音が聞こえた。

 壁越しなので、音というよりも震動に近い。


「今、声がしたか?」

「私には何も」

「ふむ、少し確かめてみよう」


 これは逃げるチャンス! じゃなくて、考える時間を稼ぐいい機会だ。


 俺はイテルの質問を先延ばしにするため、率先して狭い部屋を出ることにした。


毎日更新

次回:また少女が襲われている

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