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6話:木々の海

『このネフって耐久型で戦うとなると面倒この上ないですよね』

『けど攻撃手段がランダムでエネミー召喚って美味しいじゃないですか』

『え、なんでなんで?』

『あ、やっぱり気づきます? ランダムだから運が良ければレア素材エネミーが出て来るんですよ』

『まさかのガチャ要素!? え、そこの大陸だけじゃないの?』

『全部っすよ、全部。他の神の所の固定種でもぜーんぶ』

『発想の元はなんかの動画で見た人形蛸殴りにして壊したらお菓子が出て来るっていう』

『あー、子供のやるあれね。ピニャータとかいう南米の祭』

『猟奇!? え、それで壊される人形側って、ネフどMでは?』

『な、ん、だ、そ、の、発想! 嘘だろ? まさかのどM認定とか』

『え、せっかく覆面の中イケメンにしたのになんでそんな残念属性つけようとするんだよ?』

『イケメンなの? なんで?』

『だって、面倒だけど倒した時すっきりするかなって』

『ただの私怨!』


 なんて話したなぁ。

 そしてそのネフが目の前にいる。


 …………こいつ、あの会話の何処までが反映されてるんだろう。


「どうしましたか?」

「あー、ネフ。その覆面取ってみろ」

「これは御身を前に失礼」


 気になって行ってみると、ネフはなんの抵抗もなく顔の前に垂れた黄色い布を捲り上げた。

 うん、イケメン。理知的っぽい感じの色黒イケメン。

 攻撃手段ほぼなしでひたすら殴られる耐久型にこの顔って。


(おっと、いけない。かつての仕事仲間の人間性を疑いそうになるな)


 問題は部位破壊以外で出てこないはずの顔を晒すというゲームの仕様にはない動きだ。


「この霧はいつからかわかるか?」

「さて、大神の復活の気配に外へと出て見ればすでに」


 気配? なにそれ?


「それで、霧を晴らしていただけませんか? それがしはあなたに作られた通り魔法もとんと」

「ネフ、たとえあなたでも大神への不敬は許しませんよ」


 声に出したのはスタファだけだけど、ヴェノスはすでに剣の柄を握ってるし、アルブムルナな槍のような杖を使えるように持ってる。

 グランディオンは俺と目が合った途端構えを取った。


「無駄なことをするな。お前たちではネフに有効打はないだろう」

「じゃ、あたしの出番ですか?」


 少女のような見た目だがゴリゴリの物理戦闘職のティダが拳を鳴らす。

 確かにこの中で本性出さずに行けるのはティダだけだが、違うそうじゃない。


(ティダもこんなだっけ? ちょっと考えなさすぎじゃないか?)


 ネフは本来戦闘には関わらず、この教会でのみ活動する。

 活動内容は異教徒の改宗であり、『封印大陸』の世界で唯一大地神の加護を受けられる場所がこの教会だった。


「これも仕事は果たしたのだ。私もこの霧は邪魔だ。晴らしてやろう」

「おや、送り込んだ生贄はお気に召しましたか?」

「あら、あなたも気づいていないのね。良かったわね、イブ。兄弟が同じ過ちを犯していて」

「チェルヴァ! こんな節操なしが兄とかやめて!」


 ネフはプレイヤーの誰でも改宗させる。

 死にゲー設定の大陸の中では友好的なNPCといってもいい。

 ただそれは表面だけで、実際は生贄を送り込むつもりで改宗させてるにすぎない。


(宝石の街には改宗しないと入れないんだよな。無理に侵入すると大型エネミーに止められるし)


 まず改宗すると神の加護で、プレイヤーのフィールドアクションが変わり対応する属性に倍化の恩恵がある。


 風神なら風属性と雷属性のグラインド。

 海神なら水属性と氷属性で水中、水上歩行。

 太陽神なら火属性と光属性で飛行が可能となる。


 そして大地神の加護を受けると地属性と闇属性が倍加し、フィールドアクションとして転移が使えるようになる。

 結局最後まで誰もそのアクションは使えなかったけど。

 お蔭で魔法職の間でも地属性と闇属性は雑魚扱いだった。


「さて、どの魔法を使うか…………」


 種族がレイス系だから、この大地神は魔法職だったはずだ。

 物理攻撃しようにも、物理的な体がない。


 それに天候を操る魔法なんて設定してなかったはずだ。

 だが神がエネミーとして現われた際、その魔法効果はプレイヤーの比ではない設定はある。

 プレイヤーとしてできなかったからって、この大地神もできないなんて縛りはないだろう。


(ただ魔法最上位Lv.10は神の部分召喚という設定だ。何が出て来るんだ?)


 これは怖いからやめておこう。


「霧を晴らすだけなら風でいいか」


 魔法を覚えるのはプレイヤーだけど、属性変更は装備品で決定するのがゲームの仕様だ。


(だがエネミーには装備品という項目はない。つまり、俺が考えた設定がそのまま適用されるんじゃないか?)


 エネミーの中でも神は特別で、神にしか使えない魔法がある。

 もちろん使ったことないからいきなりそんな危険なことはしない。


 今回は、属性変更が装備に依存するプレイヤーとの違いについてだ。

 プレイヤーではないエネミーの俺は、俺自身が覚えてる魔法を属性関係なく使えるのではないかと思った。


「試す価値はあるか…………。皆、私から離れるな」


 ゲームならスルーでも、今は仲間も巻き込む可能性があるから注意喚起をしておく。

 瞬間グランディオンが俺のすぐ側に身を寄せた。

 それを見たティダとアルブムルナが続き、イブは俺に抱きつくのを迷う。


「あぁん、我が君」

「何をしているのかしら、チェルヴァ?」

「おほほ、わたくしあなたと違って重量級ではないので風に飛ばされないように、ね?」

「あん? 貧相なその体の大部分が重い筋肉のくせして何をおっしゃっているのかしら?」


 俺を間に挟んで何言ってんだスタファとチェルヴァ。

 というかどっちも俺の腕掴む手が力強すぎる。

 これ、その内ダメージ判定通るんじゃないか? 大丈夫か?


「…………重量の存在しない大神が一番飛ばされるのでは?」

「はは、某あなたのその空気の読まなさ好きですよ、騎士どの」


 もういいや。

 さっさとやろう。


第九魔法狂風四苦ノインテス・テンペスタス


 ゲームでは自身の周囲に四つの竜巻を発生させる。

 それが勝手に前進して敵を巻き込み攻撃するLv.9の風魔法。


(自分の周りから自走してくだけで隙間はあるけどまぁまぁの範囲をカバーできる魔、法…………あれ?)


 迎撃が発動したからできると思ったけど、目の前の情景は予想外だった。


「おぉ! さすが神の御業!」

「うっわ、やっぱり大神には敵わないや」


 魔法職のスタファとアルブムルナが揃って声を上げた。


 現われたのは極大の竜巻。


(おいおい、本来プレイヤー一人分くらいの幅しかない竜巻だろ? もしかして今の俺の体の大きさを基準にしてるのか? それにしては天を突くような高さあるぞ?)


 それに前進と共にほどけて広がり消えるだけの魔法のはずだ。

 ところが最初の大きさのせいで少し進んだくらいでは消えないし衰えない。

 ぐんぐん見える範囲を風が蹂躙していく。


 それなりの威力がある魔法ではある。

 ただ目の前の光景は甚大な威力を発揮して霧を千切り飛ばす大魔法だ。


 唖然としている内に霧の向こうから見えたのは、なお霧深い山々だった。


「…………山!?」

「はて? ここから見えるのは南の海だったはずですが」


 余裕たっぷりだったネフもさすがに困惑ぎみになる。


 俺だけの思い違いじゃないなら、本来の地形は北は山脈で大陸と分断され、南に断崖の砂浜があり、西は断崖が続き、東は港町がある状態だ。


(資料で見た大陸復活時のマップ表示は、北の山脈の向こう北東にイブのいた海上砦が陸地になって存在するような形だったけど)


 そうして見ている間にも外界の山から霧が流れてきている。


「そうだ、外界だ。明らかに元の大陸との境がある」

「これはいったいどのような神のお力でしょう?」


 チェルヴァ的には不思議は全て神のせいらしい。

 本人も神格なんだが設定上は信者の絶えた小神で、別の神に信者を取られた敗者。

 つまり神である俺に影響を与えるなら相手も神だと言いたいのだろう。


「大陸を封印はできるが、その場から移す? いや、冥界への封印も一種大陸の移動と言えなくも?」

「あぁ! 俺の船座礁してるんじゃ!?」


 俺が考え込んでいるとアルブムルナが叫んだ。


 状況への説明はつかない。

 だがこれで確定だ。


(ここはゲームじゃない!)


 そうとわかれば現実かは保留で、今は別にすべきことがある。


「全員持ち場を改めろ! 外界からの侵入を許すな! ここは違う世界だ!」


 全員が驚くけれどそれ以上に問題があることを理解した。


「ってことは冥界どうなった!? あたしの軍は!? 街は!?」


 地下に住まい、冥界からの侵入者と地下で戦ってる設定のティダが慌て出す。

 それに対してグランディオンは高原から南東を眺めて尻尾を激しく振った。


「ぼ、僕は森見てきますぅ…………!」

「海上砦は、あったはずだけど…………」


 イブは山脈向こうを眺めて、俺が呼び出す前の状況を考え込んでいるようだ。


「イブは配下を使って確認に留めろ。アルブムルナは船が無事だった場合上空から異変がないかをチェックだ。ヴェノスは騎士団を連れて西から南を回れ。チェルヴァは採掘の町を、スタファは北の山脈、ネフは高原を中心に回れ」


 ここまで変わっていてはもうちまちま探っている場合ではなかった。


一日二回更新

次回:大地神の姿

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