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57話:共和国入国

「報いを受けさせるなどと吠えていたが、本当に追い駆けて来るとはな」

「神も知らない人間如きが…………不遜にもほどがある…………」


 俺は街道から離れた小高い丘の林の中で遠ざかる騎影を眺めていた。

 イテルは六騎の背中を睨んでいる。


「走って山を下りたが、撒けなかったか?」


 山で探索者に襲われた時、元のステータスに物を言わせて俺たちは走った。

 あの場で戦うメリット何もなかったし、見失えば諦めると思ったのだが。


 こちらにはあの探索者たちを倒すデメリットも微妙だったから取った行動だ。

 どうやら俺が思うよりも『血塗れ団』を追うという行動にはそうするだけのメリットがあるようだ。


(探索者は依頼を受けて動くものらしい。となると、あんな山の中にいたのは依頼中。しかもそれなりの人数だし、戻らないとなると問題になるよな?)


 追って来ないと思った理由も仕事を放りだすわけがないという前提だった。

 追ってきた数が少ないということは、他は依頼を続行させるために人数を別けたか。


(殺していなくなった探索者を捜索するために、周辺に新手が現われたら大地神の大陸が見つかる恐れもある。だからあの場で殺すというのが悪手だとは思ったんだけど)


 『血塗れ団』のように目撃者もいないように全員殺すべきだっただろうか?


「あの後、トリーダックは馬を調達して、今は私たちを追い抜いて行ったということだな」


 馬に乗っているのはトリーダックとメーソンと、槍で襲いかかって来た探索者と、基本的に俺を目の敵にして攻めてきた奴らだ。


 マップ化で気づかなければ、道の真ん中で戦闘となっていたかもしれない。

 そうなると山の中よりも死体や戦闘の隠し方に困る。

 だから街道から逸れてここに隠れることにしたんだが、今にもイテルが魔法を放って後ろから襲いそうだ。


「人数は減っていたが目的はやはり私たちだと思うか、イテル?」


 ともかく意識を逸らすため、俺は聞いてみた。


 俺たちは村や町の様子は見て歩いた。

 それにイテルは魔女であり人間なので、食事が必要なため進行速度は早くない。

 けれどトリーダックたちがもう追いついて来ていることを考えれば、山で別れてすぐに追跡という判断を下して行動したことになる。


 依頼についてはいない者たちが賄ったとして、それほどに何か『血塗れ団』に因縁のある探索者パーティなのか。


「神の慈悲を無為にした愚昧で生きる価値もない者たちです。やはり殺しましょう」

「待て待て」


 イテルはクールなのは見た目だけで攻撃的なのか?

 やっぱり人格考慮して次は選ぼう。


(イテルには人間とのやりとり任せたかったんだが。とは言え、この仮面どうしたものか)


 俺は周囲に人がいないことを確認して、目の部分だけを隠す白い仮面を外した。


 ゲームにこんなアイテムがあった覚えはない。

 仮面型のアイテムはただの装飾品としてもゲームにあったが、俺もコンプリートしていないのでわからない。

 つまりこれはこの世界特有のアイテムである可能性もあった。


「イテル、この状態で顔を隠した場合、私は人間に見えるか?」

「いいえ、神よ。やはり仮面がある場合は目鼻立ちといった顔の印象がなくなります」


 この仮面の有用なところは全体として人間の顔に見えることだ。

 そのありがたさはやはり他に変えがたい。


「…………よし、一度戻るぞ」

「はい!」


 俺の判断にイテルはあからさまに喜ぶ。


「そんなに辛いなら、別の者を…………」

「い、いいえ! 不潔で埃っぽい小屋でしかない民家も、虫が浮いてても泥のついた手で摘まみ取るような食事でも、神のお側にいられるなら私は耐えてみせます!」


 うん、つまり結構我慢してるよね?


 この世界の生活水準の低さは予想していた。

 けれど予想を下回っているとは思わなかったのだ。

 そして俺は肉体がない。


 もろにその生活水準の低さのあおりを受けたのが、食事と睡眠が必要なイテル。

 服も汚れれば体も汚れるが、この世界では入浴など金持ちの嗜みらしい。


「あまり身ぎれいにし過ぎてても悪目立ちをするのはわかっているだろう」

「…………はい」


 そんなあからさまにしょげるな。

 俺も日本人として風呂に入れない苦痛はわかるから。


「薄汚れた偽装を考えろ。それができるならば戻れる時には我が領地へと戻る」

「は、はい! 感謝いたします! 神よ!」


 何度言ってもイテルは俺を神として崇めることをやめられない。


 第三者がいる時に言わないだけまし、と俺は思考を切り替え、地面にLv.1の魔法を使った。

 それは岩が現われるだけの魔法。

 敵に向ければもちろん攻撃として機能するし、神仕様なのでだいぶ大きい岩が現われた。

 俺はそれだけをして転移を使う。


 俺が変化を与えた場所がビーコンとなり転移地点になるのだ。


「三時間は与えよう。共和国に戻る時には連絡を入れる。良く体を休めよ」

「はは!」


 イテルは頭下げたまま動かない。

 ここは湖の城の正面の橋の前で、俺が先に動くべきらしい。


 一人城の入り口へと向かうと、出迎えるように内側から城門が開く。

 そこには白いドレスを身にまとった淑女が微笑んでいた。

 スタファがスライムハウンドを従えて出迎えてくれたらしい。


「お帰りなさいませ、神よ。…………うふ、まるで、うふふ」

「う、うむ。しばし戻ったチェルヴァはいるか?」


 上機嫌に笑うスタファにそう聞いた途端、表情を消して目を見開く。

 そこには何故か殺気がある。

 俺が硬直している間にスタファは笑顔を取り繕った。


「…………獣の小神になんの御用が? 言伝がございますればお伝えいたしましょう」

「あぁ、この仮面を錬金術で少々変えられないかと思ってな」

「なるほど、街の商売人のまねごとをさせるのですね。かしこまりました。呼ばせますので、大神はどうぞお召し変えを。そのような粗末な服、相応しくございません」

「いや、まぁ、うむ。そうだな」


 俺はスタファの言葉に大人しく頷いておいた。


 確かに装備品の色変えみたいなことができないかとチェルヴァに相談するつもりで所在を聞いた。

 そしてゲームでは錬金術の店でそういうことができたのだ。


(チェルヴァは錬金術師の最高峰ジョブ賢者だからできるとは思うんだが)


 あと服は別になんとも思っていないが、信者のスタファから見て神としての及第点に及ばないのなら従おう。


 どうやらレイスに肌感覚がほぼない。

 意識したらわかるけど意識しないといけない程度だ。


 そう考えると迎撃スキルがあって良かった。

 そうじゃないと無防備すぎて剣を突きさされてもきっと気づかない。


(確かにレイスってエネミーは反応が鈍い設定だったが、あれって狩人とかの潜伏スキルの成功判定のための仕様だったはずなのに)


 まさか自分がそのレイスの鈍さを引き継いでいるとは思わなかった。


 とは言え、イテルのように荒い服の繊維に悩まされることもないから今のところ困りはしない。


「お戻り嬉しく思います、我が君」


 着替えて広間に行くとこれまた上機嫌なチェルヴァが来た。

 俺は早速用件と共に仮面を差し出す。


「ふがいない小神をお許しください。これはどうもわたくしの力を受け付けません。無理に変質させては神の望む人間の顔という括りを壊しかねず」


 これがゲームアイテムだとしても、イベント限定だと錬金術ジョブでも手を加えられない例は存在した。

 この世界独自の物か、ゲームアイテムかはチェルヴァにも判断がつかないらしい。


「ふむ、そうか。思ったよりもあの人間の知名度が高かった。この仮面以外で考えねばならないだろうが、代用となると難しいな」

「デコってしまっては?」


 羽根を使って広間に飛んでやって来たのはイブだ。

 どうやら砦にはあまり戻らずこの城の周辺にいるらしい。

 スタファに強請ってこの城に部屋を得たことも聞いている。


 エリアボスとは言え、一人離しておくのも危ないし俺が口添えしたんだけどな。


「表面に飾りをつけるくらいなら仮面自体の性能は関係ないんじゃないかしら?」


 イブがチェルヴァにそう提案した。


 その考えはゲームに拘らないからこそのもの。

 確かに現実になった今だからこそできることだろう。


「目の所に色ガラスを入れて、金縁で飾ってはどう?」


 いいなと思った途端とんでもないデコレーション案をイブが口にする。


「あら、いいわね。では、顔料を使って美しく文様も描きましょう」


 どうしてそこでスタファまで乗るんだ?


「待て待て待て。あの質素な服のことも考えよ」

「では表面にデコレーション用の着脱可能カバーを作り、用途に応じて付け替えできるしようにいたします」


 なんかチェルヴァも乗り気だった。

 しかもなんかそれ、スマホケースみたいなイメージになるな。


「それならいっそ黒や目立たない肌に近い色にするでもいいんじゃないか?」

「父たる神がつけるのに! そんななんの面白みもない仮面などつけてどうするのです! べ、別に威厳あるほうが好ましいとか、思ってはいませんけど、けど、やっぱりつけるなら…………その…………」

「神よ、お任せください。あなたさまの司祭、このスタファが必ずや神にご満足いただける至高の品をデザインしてみせます」

「いいえ、ここは同じく神格を持つこのわたくしが、我が君に相応しい逸品を献上いたしますわ」


 競って前に出るスタファとチェルヴァに圧され、俺は大前提の目立たないという部分を言えなくなる。

 そこに執事風スライムハウンドが意見を上げた。


「付け替えでしたら作らせるだけ作らせて、黒も必ず作るようお申し付けになったほうが早いかと」

「うむ、そうだな。ではまず単色を作れ。その後に思うような仮面のデザインをするように」


 俺はすぐさま執事系スライムハウンドの助言を採用する。


 もう、何処でも連れて行くのはこいつがいい気がしてきた。


毎日更新

次回:七徳の謙譲

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