52話:選んだのは魔女でした
スタファ、チェルヴァ、ヴェノスが俺に許しを請う。
けど俺は何も怒ってはいない。
(なのにどうしてこんな死刑宣告待つみたいな沈痛な空気に?)
室内に控えてる他のNPCたちも居心地悪そうだ。
俺は共和国について聞いただけで、どうして謝られることになったのだろう。
それもスタファとチェルヴァの喧嘩を止めるための発言でしかない。
仕事の話を振れば、知性の高いNPCは切り替えてくれると思ったのに。
「…………共和国についての資料をここに」
「こちらでございます」
早いな!?
俺は時間稼ぎを考えての要求が秒速で満たされたことに驚き、差し出す相手を見る。
黒髪に碧眼を持つ人間、つまりこの大地神の大陸にいるNPCの魔女だ。
スタファやチェルヴァに劣らない美女だが、まだ少女らしい雰囲気が残っている。
書類整理のためにスタファが各所から人員を募って来たNPCの一人だろう。
スタファが選び抜いたためそれなりに優秀なはず。
「ふむ…………」
俺はそれっぽく呟いて資料を捲る。
一回見たはずなのに内容覚えてない。
そもそもよくわからなかったんだ。
お硬い文章すぎて読む気なくなるし、メモ魔だから一回手で書かないと思い出せないんだよな。
俺が把握してる共和国については、大まかに三点。
革命が起きて王国から共和国になった国であること。
情勢不安のため周辺国からは嫌われ孤立していること。
国土は王国よりも広く、南のほうは海であること。
(うん、ほぼ知らない。だが、こうして資料作れるくらいには探れてるはずで、揃って失敗って言うからには何か原因があるはずだ)
それはもしかしたら、達成目標が高すぎるということもあるかもしれない。
「お前たちが揃っての失敗。これは何か根本的な齟齬があるものと思われる」
「根本、ですか?」
スタファが恐れるように聞き返してきた。
(そんなにびくつかないでいいって。ただの時間稼ぎの言い訳だし)
ただ、六回やって失敗って普通に考えておかしいという疑問は本当だ。
不可視化や転移を駆使する配下を送り込んでいるのに失敗するとはどういうことか。
何か根本的に見落としていることがなければ、これだけ失敗はしないだろう。
もしかしたら最終的に正体がばれてしまったことを失敗と見なして成果を見ていないのかもしれない。
だったら一つの失敗くらいなんてことないとわかってもらう必要がある。
「チェルヴァ、エルフはその正体が露見したことでどうした?」
「はい、すぐに騒ぐ人間たちを撒いて帰還いたしました。なので、共和国首都に至ることもできず」
「スタファ、誰を送り込んでどう失敗した?」
「エルフを借りて二度、その時も正体が露見いたしました。四度はスライムハウンドとスカイウォームドラゴンで。どうやら近づくと家畜などが顕著に反応して人間たちの警戒が強まるようです」
「なるほどな」
思った以上に異質な者に対して敏感だったようだ。
そして首都到達という明確な目標を達成できていないからこそ、失敗の印象が強いらしい。
「ヴェノスはこのことを知っていたか?」
「いえ、初めて知りました。私は内の守りを任されましたので」
「ふむ、ではスタファとチェルヴァ。お前たちが知る限りの共和国の情報を、順序立ててヴェノスに説明してみよ。他人に理解させるために思考を少し変えるだけで今まで見落としていたものが見えることもある」
それらしく言って、俺は椅子にもたれこれ以上発言しないことをポーズで伝える。
実のところは俺への説明要求だ。
文章を読むのは苦じゃない。
けどわからないまま読むのは苦痛でしかない。
何か理解のとっかかりが欲しい。
そしたら小難しい論文でも齧りついて読んだりできるのは、前世でもあったことだ。
「共和国の情報、ですか」
「一体何から話すべきでございましょう」
「では、共和国が建った経緯についてなどはどうかな?」
困るスタファとチェルヴァにヴェノスが水を向けた。
紳士な言動がいい働きをする。
「確か革命とか言ってはいなかった? わたくし人間の行動はよくわからないの」
「えぇ、それが六年前よ。人間の行動というか、下の者が不遜にも上を廃すなんて恐れ多い大逆だけれど、共和国の人間たちは暴力でそれを行ったわ」
チェルヴァが投げたことでスタファが話し出す。
「王国側で把握していたのはそれ以前に国王が愛妾に溺れて国庫を逼迫させていたことよ。いえ、逼迫自体には他にも要因があったけれど、彭娘が集めた限りでの革命に至る主要な原因として挙げられていたのが愛妾の問題ね」
「あぁ、それはわたくしも聞いているわ。それと地方貴族の不満の高まりによって、中央への反感が膨れ上がっていたとか?」
チェルヴァも来たことを思い出しながら口にする。
どうやらこの辺りの共和国についての情報源は王国かららしい。
たぶん城に侵入してるチャイナからだ。
「それだけでいきなり革命ということもないでしょう。武力蜂起というのは勢いが必要です。不満が爆発するようなきっかけがあったのでは?」
ヴェノスがいい感じに進める。
「えぇ、いきなり国王を襲うようなことはなかった、確か発端は暴動だと聞いたわね。それで議会を襲って機能不全にしたそうよ。その上で貴族が主流を占めていた議会を乗っ取って、地方の知識層が大幅に流入したとか。その者たちが革命思想だったそうよ」
「まぁ、地方にいた者がいきなり中央に出たからと言って成功するはずもなくてよ。議会は再開されても混乱に続く混乱で国全体が機能不全になったのが今の共和国だそうなの」
「一度の成功体験と、その後の不満の高まりにより現状が作られたと。しかしそれでよく六年も持ってますね」
俺も同意見だ。
いい感じに進んでるので口は挟まないけど。
俺は適当に手元の資料を読んでるふりで捲る。
もちろん内容は見ていない。
「三年ほど前まではまだ中央に貴族が残っていて軍も機能していたらしいの。議会は荒れに荒れたけれど周辺国も様子見だったそうね。そして二年前に一気に貴族も逃げ出し、王国にも亡命貴族がいると報告があったわ」
「国王の処刑を強行したのだとか。愚かとしか言えませんわね。軍を担う貴族も逃げ、議会以外に国政を賄っていた貴族も逃げ。国王というかすがいを失って、国民たちも逃げようと国境を越えているのでしょう?」
「となるとこの二年存続できた理由はなんだろう? 他国にとってはいい猟場となると思うのだけれど?」
「逆よ、ヴェノス。旨味がないほどに荒れたそうよ。貴族というだけで平民に襲われ、革命を叫ぶ暴徒が農村部に跋扈するのだとか」
「不満を鎮めるために中央では粛清の嵐。ほほ、国王という最高権力者を処刑したせいで、議会の誰も自らを守る根拠を失ったのでしょう。本当、人間なんてわたくしには理解ができないわ」
俺はチェルヴァの言葉が気にかかった。
「理解、できないか?」
「えぇ、我が君。人間の煩雑さもさることながら、神の教えを蔑ろにする狭量と不道徳には嫌悪以外の情が湧きませんの」
そんな発言にスタファとヴェノスも頷いている。
どうやらNPCとしてはチェルヴァの考えが普通なようだ。
だが、人間の俺はなんとなくわかる。
破壊するより作るほうが難しく時間がかかるのはなんでも一緒だ。
国も政治もそうで、共和国も壊した後の立て直しが遅れているんだろう。
(もしかして正体ばれたり警戒されるのって、こいつらの根本的な考え方が透けて見えるからじゃないか?)
だとしたらNPCをどれだけ送っても変わらない。
かといって、誰も送らず情報がまた聞きというのもまずいだろう。
そう考えた時、俺は傍らの存在を思い出した。
「同じ人間として、どうだ? …………イテル」
こっそりコンソールからNPC情報を開いて、俺は傍らに呼びかけた。
資料を持ってきた魔女の名前はイテル。
なかなかに良さげなステータスもしてる。
「…………どうした?」
返事がないのでもう一度声をかけると、ブルブル震えている。
「な、まえ…………」
「うん? 違ったか?」
「い、いいえ! はい! イテルです!」
何この子、びっくりした。
けど驚いてるの俺だけで、なんでかエリアボスたちは微笑ましそうにこっち見てる。
(もういいや、なんか使えそうだしここは俺が動こう)
頭の中で幾つかプランを上げる。
前提は人間以外のNPCだと共和国での活動に失敗する。
王国でチャイナが上手くできたのは騙しが通じたからだ。
最初から猜疑心一杯の相手ではたぶんチャイナも失敗する。
「共和国については私が様子を探ってこよう。人間であるイテルも伴をせよ」
「わた、わたし…………は、はい!」
資料を渡した時はできる女っぽかったのに、さっきから噛んでばっかだな。
「そんな神よ!」
「我が君わたくしを!」
「もっと強き者を!」
「人間相手に私が後手に回るとでも?」
ちょっと強引に言ってみると、エリアボスたちは口ごもる。
「それに考えはある。共和国が使えるかどうかを試すまでだ」
共和国は混乱続けているのなら、付け入る隙もあるはずだ。
そこでいいことをすれば日の目に向けての一歩にもなる。
いっそ何もないほうが新たに作りやすいってこともあるしな。
「考え…………? もしやアルブムルナが言っていたレジスタンス?」
「まぁ、確かにそれなら共和国でくすぶっている者も…………ありですわね」
「ですが私たちではそうした者たちを導けるかどうか。もしやそこに神の威光を?」
それぞれ言い合うと、三人は頷き合う。
「さすが大神でござます!」
「我が君に惚れ直します!」
「及ばぬ身を恥じるばかり!」
「お、おう」
すごい掌返したけど、どうした?
「ま、まぁ、なので留守は任せたぞ?」
「「「ははぁ!」」」
一抹の不安があるけど俺より賢いし、きっと大丈夫…………だよな?
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