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46話:ファナの待遇

「え!? 虐げられるなんて、全然! だってこんないい暮らしさせていただいてるのに!」


 ファナに事情聴取すると、なんだか異世界の悲しい現実がわかった。


「日の出の後に起きても殴られることないですし、井戸の水は使いたい放題、食事なんて一日に三回も食べていいって言ってくださるし!」

「そ、そうか? …………ちなみに食事内容はどうだ?」

「はい、酸っぱくないパン一つと具の入ったスープ、たまにチーズかお肉をつけてくださいます!」

「つまり、お前の国では一日三度の食事も満足に取れず、酸っぱいパンを一つ以下、具のないスープがあればいいほうで、チーズや肉をたまにも食べられないと」

「はい! ですからお役に立ちたいとお願いしたら、弱すぎて無理だと言われて。実際訓練していただくと全然敵わないし、お恥ずかしい」

「あー、その、服の汚れや髪の乱れは何があった?」

「あ、そうでした! お見苦しい姿を! ここでは自分専用の櫛をいただけたし、服の替えもいただいて。神の前に出るに相応しいようにと、身だしなみを心がけるようにも言われたんです! すぐに着替えて!」

「いい、気にするな。座れ」


 駆けだそうとするファナを、俺は手を上げて止めた。

 そのファナが、酷く落ち着かない様子で尻をもぞもぞと動かしている。

 そしてちらちらと俺の星柄の手を見ていた。


 連れ帰った時にはもうこの姿を見せていたが、それも深い霧の中。

 ファナが俺の姿をこうして明るい中で見るのは初めてだった。


(それにしても色々酷いな。いや、元の世界の中世なんかも実は酷いって聞くけど)


 あとたぶん訓練は甚振ってるだけだし、綺麗にしろって言うのも綺麗にしたのを汚して手間かけさせる嫌がらせじゃないか?

 これ、俺の性格が悪い見方か?


「あの、わ、私、神をご不快にさせるようなことをしましたか?」

「いや、なんでもない。現状に甘んじず腕を磨く姿勢はいい。精進するように」

「はい! 必ずやこの手で憎き帝国兵を血の海に沈めてみせます!」


 怖!

 いい暮らししても復讐諦めてなかったのか!


 っていうか、だったらここにいたらきっとその目標は達成されない。

 だって俺に帝国と争う気ないのだから。


「なるほど、そういうお考えでこの人間を手元に置いたんですね!」

「アルブムルナ?」


 え、何言い出すんだ?


「も、もしかして、情報収集に抑えろってお命じになったのも、駒はあるからですか?」

「え、グランディオンどういうこと?」

「少しは自分で考えなさいよ、ティダ。父たる神が無駄なことをするわけないでしょう」


 イブまで俺にはわからないことを言い出した。


(これってまずい流れだよな!?)


 ファナは完全に成り行きで連れて来ただけだ。

 考えなんてない無駄な手間とさえ思った相手。


(なのにどうしたら情報収集に繋がる? 駒ってなんのことだ? まずいぞ。ここで下手なこと言ったら神じゃないとばれて襲われることも)


 俺の内心を知らず、ファナは期待の目を俺に向けて来る。

 よく見たら十代半ばの少女。


 三十後半のおっさんにその視線はきつい!

 純粋すぎていっそ視線が痛い!

 そしてそんな期待を裏切るようなこと、大人のプライド的に言えない!


「…………お前は、英雄ヴァン・クールに憧れているのだったな? 目的は帝国への復讐。だが、その復讐は何処まで行けば達成されるというのだ? ヴァン・クールのように戦功を上げて讃えられるまでか? それとも自らの村を焼いた兵をその手で殺してからか?」

「それは…………」


 俺は少しでも遠回りするために問いかけ、ファナは答えを迷って考え込む。

 時間稼ぎに成功したと思ったが、そこにティダが足を踏み鳴らした。


「大神の質問にはすぐ答えなよ」

「はい! すみません!」


 重い音で威圧し急かすティダを、俺は宇宙模様の手で止める。


「ティダ、即断即決は悪いことではない。だが、時には熟慮熟考が必要になる時もある」

「そうよ、あなた地下で未確認の巨人なぶり殺したのもう忘れたの?」

「まーた怒られてる。少しは学習しろよな、将軍さまよ」


 イブとアルブムルナが呆れてティダを諌めにかかった。


 ファナが考え込むことに戻ったので、俺はそのまま時間稼ぎをする。

 けど俺も、エリアボスたちの考えに対する答えは出てこない。


 駒ってことは手駒だろうけど、ファナをどう使えばいい?

 情報収集ってことは、王国での話か? それともこの世界全体のことか?


「…………帝国は、悪です」


 ファナが掠れた声で呟いた。

 俺はノープランのため聞きの姿勢をとる。


「神聖連邦がどうして帝国の悪逆を許してるのか不思議でした。神の使徒を自認するのならば、悪魔の如き帝国を打ち倒せと世界に呼びかけるべきだと。けど、偽神を奉ってるなら納得です。そう知れた、真実神に出会えた私は幸福な人間だと言えます」

「はい、そのとおりです!」


 グランディオンが尻尾を振って無邪気に肯定する。

 同意を得られたことでファナは大きく頷くと、はっきりと喋り始めた。


「村が焼かれたのは私だけじゃない。けどみんな気力が萎えて復讐することも諦めています。私は母を失った怒りで動けた。けど、神にも見出されず打ちひしがれる人々は多いです。これを見過ごす神聖連邦の神なんて、神であるわけがない」

「いや、そこで折れちゃうのが駄目なんじゃん」


 また考えなしに口を挟むティダ。

 けど今度はイブやアルブムルナも同意して頷く。


「ま、そこが人間の弱さよね。神に見出だされるのを待つだけなんて怠惰。そして怠惰は罪よ」

「弱者に生まれた分を知ってるってことかも知れないけど、屈辱を受け入れるようなプライドのない者が神に近づけるなんて思っちゃいけない」


 上からだけど、エリアボスの言葉を受けてファナの目には何か危うい光が輝いた。


「はい! だから私強くなりたいんです! 人間は弱くて汚くて卑劣で残虐で…………!」

「お、落ち着け!」


 ファナが早口で人間という種をディスり始める。

 なんかもう帝国への怨みだけじゃなく、人間に対してのヘイトが溜まりすぎてないか?


「私は一度死んだんです! しかも仲間だと思ってた同国民の手で! もう人間という種の劣等を痛感しました! そしてここでの生活! 人間なんて神を知らない無知の徒! なのに偉ぶって人間同士で争って馬鹿みたい!」


 なんかぶち上げ始めたぞ。


「そうそう。私の所にも無駄に攻め込んで来てたわ。徒党を組まないと勝てないくせにいつも偉そうに」


 プレイヤーと戦闘経験があるイブが、ボスとして多対一での卑劣さを語る。


「神を恐れないところあるよな。それって神がどんなに素晴らしいか知らないせいってことなのか」


 改めて頷くアルブムルナに、グランディオンが狼の耳を下げた。


「それはちょっとかわいそうかも。け、けど、こうして大神の下にいることを許された僕らって、すごく、すごいって思う」

「わかるー。神の下にいる限り同族で争いなんて無意味だしやらないし。なのに人間は、あ、そうか!」


 ティダが突然飛び上がった。


「あたしわかりました! つまり、こういう人間たちを集めて神の名の下に力をつけさせるんですね!」


 何言ってんの?

 そんな輝く笑顔で、何を言ってくれやがってんの?


(おいおいおい! アルブムルナとイブ!? なんでなるほどみたいに今手を打った!?)


 グランディオンはわからないようだが、ファナは何か期待するような熱気を放つ目をしてる。


「わざわざ保護したのになんでこんな最下層の町って思ったら! 確かに外に出すこと考えたらここが一番だ」

「つまり帝国に村を滅ぼされたっていう身の上聞いた時にそんな遠大なことを想定して? く…………、父たる神にはまだまだ及ばないのね」


 なんかすごい勢いで妄想が垂れ流されてないか?

 これ、止めないと、いけないよな?


(いや、止めて別の理由をこじつけられるか? …………できるわけない。未だに何言ってるかわからないのに。下手なこと言うと悪化するんじゃないか?)


 だって最初からノープランなんだ。


 それに考えてみれば外に出す前提のアルブムルナの考えに乗ったほうがいいかもしれない。

 未だにファナはちょっと怖いし。

 俺はそんな復讐とか打倒帝国とか大掛かりなことは考えてないし。

 今までどおりここで、ここで…………。


(ヴァン・クールとネフとか、巨人とスタファとか、今までもそんなに呑気ではいられなかったけども…………)


 けど、まずはここの保全が第一だ。

 敵作るなんてもっての外。


 けどエリアボスがやる気だし、自主性は重んじたいけどどうしたらいいんだ。

 日の目を見せるためには品行方正で、敵じゃなく味方として見られたいわけで。

 けど俺一人じゃどうしようもないからNPCには自主的にいいことしてほしくて…………あれ?


(…………今までどおり、俺はどうもしなくていいんじゃないか?)


 俺はこっちを見るファナを始め四人のエリアボスを見る。


 皆黙って俺を見てる。

 輝く瞳でこっちの意見待ちだ。


「なるほど、お前たちにも理解できたか」

「「「はい!」」」

「うぅ、僕、わかりません」

「申し訳ございません。私も、知恵が足りず」


 恐縮するグランディオンとファナに、俺は鷹揚に頷いて見せた。


「よい。誰にでも失敗はある。一度目は知らぬこともあるため許す、二度目は経験が足りぬこともあるため許す、三度目は時の運もあるため許す。だが、四度目は怠慢として罰する。これを覚えておけ。そして、無闇に殺すことを私が良しとしていないことを理解せよ」

「「「「「はい!」」」」」


 よし! なんとなく喋ったら今後の釘刺しできた!

 こいつらは素直でいいな。

 これならこの後の話もうまく切り抜けられそうだ。


毎日更新

次回:革命の旗揚げ

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