44話:縞瑪瑙の街
『ちょ、エルフが酷い。気位高いだけでもヘイト集めそうなのに、これは酷い』
『顔が良くて性格悪いとか、美人になんか怨みでもあるんですか? 美人局にあったとか』
『いや、エルフって言ってもこのゲーム独自の設定があってね。わかりやすくエルフってしたけど実はエルフじゃなくて』
『表優しげで裏でって、何か私怨感じるし使い勝手悪いよ。寄せるならお約束ってもんを守らないと意味ないでしょ』
『私怨なんて…………そんなの勘繰りだよ』
『えー、そうじゃなかったらただわかりにくいだけの設定だってことになりますけど? 奇をてらうだけ無駄な拘りですよ』
『俺、いいと思うっすよ』
『そう? エルフって言ったら味方側と思うじゃん。これはがっかり設定だって』
『いや、神を前面に出すなら使い勝手いい種族になるって。まだ大陸一つなのに探索詰まってるんだし、ここでエルフ関係のイベント起こしてさ』
なんか今さら思い出したなぁ。
リリースまでは和気あいあいしてたのに、振るわないとなると文句が噴出したんだよ。
そこで唯一理解を示した若手が、俺の後釜に座ったんだから笑えるけど。
「これは大神! このような場所までご足労いただき、汗顔の至りです」
俺の目の前には非難のほうが多かった、そのエルフがいる。
ここはエルフと呼ばれる神の末裔が住む街アカテイア。
なんかもう話について行けず、俺が湖上の城から逃げ出して向かった所だ。
正直用はないが、好奇心的にはすごく見てみたい場所だった。
(話し込んでた年長者は置いてこれたけど、話について行ってないこいつらはなぁ)
俺の前には意気揚々と武器を片手に先導するティダとアルブムルナがいた。
横にはすまし顔で俺に近寄ろうかどうしようか不審な動きをするイブ。
そして上機嫌に尻尾を振り歩くグランディオンがいる。
アカテイアは大地神の大陸中央部に近い高原の端にある。
この辺りは起伏が激しく風が強いため乾燥ぎみだ。
そんな乾いた岩でできた谷を抜けて辿り着くと、岩壁を彫り込んだ壮麗な入り口にエルフが列を作って待ってた。
「どうぞ中へ。ささやかながら歓待のご用意をいたしております」
岩を掘って作られた広い階段をのぼって、削り出した円柱の間を抜ける。
暗い通路の奥へと真っ直ぐ進むと光が差し、暗闇から出たせいでなおのこと眼前の光景が光り輝いて見えた。
広がるのは赤い縞瑪瑙で作られた街並み。
(宝石の城の城下と同じようなものだったと記憶していたが、こうして見ると案外違うな。チェルヴァのほうは西洋。こっちは中東っぽい)
あっちも縞瑪瑙を建材として使っている。
というのもここが建材に使われる縞瑪瑙の産地という設定だからだ。
始祖である神々への貢物としてせっせと採掘しているのはゲームと同じらしい。
(裏表が激しく悪辣で気位が高いエルフは、神の末裔であるというプライドがある。そしてそのプライドがあるからこそ、エルフは神への貢物を渋ることがない。なんて、設定だったけど…………)
できれば資産として採掘を止めようかなとか考えて来たものの、よく考えれば今以上に建物を増やす計画がないのだから、その必要はなさそうだ
「うわ、上から見るより広い。この谷の中こんな風になってたのか」
「地下よりかは狭いし、あんまり防衛的な街並みじゃないね。一階に窓がない程度じゃいくらでも攻め込めるよ」
ガレー船からでも見たのかアルブムルナが声を上げると、ティダがたまには将軍らしい観点で語る。
(そう言えばティダがエリアボスとして一番広いエリアを受け持つんだったな)
地下は大地神の大陸の南の地全域に広がる広大なエリアだ。
街も複数存在し、人外の種族が暮らしている。
「赤くてきれいです。僕、ここには初めてきました」
「こんなにあるなら私の持ち場の砦飾る分回してくれても良くない?」
「イブ、あの砦はあれで赴きがあるのだ。私はあの雰囲気にこそ味があると思うぞ」
俺はついそんなことを言ってしまう。
けど、モンサンミシェル風の砦に瑪瑙は合わない気がするし、教会建築を飾るなら宝石よりも金属だろう。
(あそこは屍霊系と悪魔が出て来るエリアだし。きらきらしい宝石は似合わないよな。それに全体的に暗いトーンだからこそ、イブが陣取る聖堂のステンドグラスの色味が映えるんだし)
今となってはこれも無駄な拘りなのかもしれない。
それでもCG作成においては手間がかかる以外の文句は出なかった。
いや、その一点での文句は随分出て、突き上げ食らったこともあるんだけどさ。
俺が世知辛い気持ちになっていると、イブがその場で跳ねあがる。
「べ、べ別に、父たる神の采配に文句とか、え、あそこ好きだったりする? 父たる神、宝石城よりスタファの城選んだし、もしかして、華美はお嫌い? だったら誘えば砦にいらっしゃる?」
なんかすごい早口で呟き始めた。
そこにアルブムルナが槍のような杖をイブの頭に落とす。
「駄々漏れだし、大神の言葉を遮るな」
「痛くはないけど! 言葉で言えばわかるわよ!」
また血を飛ばして攻撃するイブを、アルブムルナがあしらう。
どうやら魔法職であるアルブムルナの殴打など、イブには攻撃無効の範囲らしい。
最低限の攻撃力も発揮できない辺り、アルブムルナの非力さが際立つ。
ただ、その喧嘩はじゃれ合い程度でも高レベル同士だ。
エルフたちが巻き込まれないよう必死に距離を取ろうとしている。
「やめなさい。周りに迷惑だ」
つい子供を叱るように言うと、全員が背筋を伸ばす。
「「「「はい!」」」」
何故加わってなかったティダとグランディオンまで?
まぁ、いいか。
「今日は採掘場を見に来た。歓待などは不要だ。日頃働く者たちの振る舞いとせよ。案内さえ用意してくれればお前たちは好きにして良い。咎め立てはしない」
ずっと俺たちに頭下げた中腰状態でついて来てたエルフにそう命じる。
その状態で必死に逃げようとしていたんだから憐れを催すほかない。
「おぉ、神のお慈悲に感謝を。元より大神がお任せになった一大戦力である方々が守りについておられるのですから、我々の出番はありませんな」
なんかその後も長々と美辞麗句が並ぶ。
俺は聞き流してたけど、エリアボスの四人は熱心に頷いてた。
そして採掘場に案内されるに至っては、歩くって言ったのになんか輿に乗せようとしてくる始末。
確かに俺は大地神の体だ。
神だ。
神だけど…………。
(祭の神輿でもあるまいに! 恥ずかしいわ!)
俺は案内以外のエルフを神輿と一緒に置き去りにして先を急いだ。
一度アカテイアの街を出て、岩の谷間を縫って採掘場へ向かう。
ゲームでもこの周辺は迷路状の谷間で、岩壁は道具があれば登れるものの、場所によっては岩が崩れて落下しダメージを追うというトラップもあった。
そんなゲーム時代のことを思い出しつつ辿り着いたのは、岩質ががらりと変わる谷だ。
「うわ! すっごい、全部宝石でできてる!? 宝石の谷より宝石の谷じゃん!」
ティダが言うのは、地下から行ける罠のことだろう。
ウォームドラゴンが潜む谷の下に、宝石が幾つも転がっていてプレイヤーを誘うのだ。
ウォームドラゴンに見つかると、巨大エネミー相手に鬼ごっこかかくれんぼを楽しまなければならなくなる。
(そう言えばあの宝石も本物になってるのか?)
いや、今は目の前の問題、この美しい景色についてだ。
以下にこの景観を…………、じゃなかった。
この縞瑪瑙が有限であるかどうかであって、ここの保全とか考えたらいけない。
(けどここもアメリカのモニュメントバレー元にしたデザインだったんだよなぁ。あっちは赤い岩だけど、こっちはガチの宝石って設定で。本物はこんな風になるのかぁ)
触ると硬くやはり本物の宝石なのだろう。
「採掘は何処で行っているのだ?」
「はい、では実演をば」
案内したエルフがそう答えると、何処からかつるはしを出す。
(そう言えば商人専用装備でそんな武器あったな。取り出しはアイテムボックスか? NPCにもついてるのか?)
疑問を覚えていたら、突然すぐ側の美しい曲線を描く縞瑪瑙の岩壁につるはしを打ち付けた。
(何しとんじゃこらー!?)
俺はあまりのことに纏っていた雷雲だとかオーロラだとかを広げる。
突然のことにつるはしを振ったエルフは尻もちをついて倒れた。
そして何故かティダたちは大喜びする。
さらには突然軽快な音が谷に鳴り響いた。
(今、ティロンっていった?)
何かが空中から転がり落ちる。
見ればそれはキューブ状の瑪瑙の塊だ。
「は…………?」
「申し訳ございません! 大神のお近くでつるはしなどという下賤の道具を! お目汚し如何ともお詫びします!」
尻もちををついてたエルフが伏して謝罪を叫んだ。
「いや、これの説明をせよ」
本当なんだこれ?
「は? お望みの縞瑪瑙で…………あ! もっと大きなものをご用命でしたか! 失礼いたしました! 大神の大いなるを失念するとは痛恨の極み! 誰か! 手を貸せ!」
エルフが大声をあげると、隠れて見ていたらしい他のつるはしを持ったエルフが現われる。
何をするかと思ったら四人で一斉に曲線を描く谷を叩いた。
するともっと大きな瑪瑙の塊がティロンと転がり落ちる。
(なのに縞瑪瑙の岸壁には傷一つない。それにさっきから鳴るこの効果音。これは…………)
ゲームの仕様だ。
ここでは縞瑪瑙を採掘でき、商人ジョブが売却して金にする金策場所。
まさかこんなあからさまに残ってるとは思わなかった。
俺は改めて壁を触る。
「面白いものを見た。良い、かしこまるな。だが、私の側で武器とも思える物を振るうのは良い行いではない。迎撃が発動して死にたくはないだろう?」
「ははー!」
さっき怒ってしまったのをそう誤魔化して、俺は大小二つのキューブを手に取る。
(これはいい! この資源が枯渇しないことがわかった!)
これはこの大陸の強みだ。
次はこの縞瑪瑙がこの世界でどれくらいの価値になるかだな。
俺は嬉しい発見に落ち込んでいた気分が上昇するのを確かに感じた。
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