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37話:トカゲ騎士の案内

 ヴェノスが出迎えに行くのを、俺は水盆で見ていた。

 必至に森を抜け出した『血塗れ団』は、湖の上の壮麗な城に目を疑い茫然と立ち尽くしている。


『何故、こんな…………い、いつの間に? こんな城、いったい誰が?』


 信じられない様子で仮面の男が呟く。

 山脈の合間にこんな巨大建造物があるとは思わなかったのだろう。


(ゲームで作ったCGだったわけだし、本来なら重要な建材の調達って考える必要のない建物だ。豊臣秀吉のやった一夜城みた敵は、こんな反応だったのかな?)


 まぁ、地形変わってるしいつの間にというかなんというか。

 けど悪くない反応だ。


『なんて、幻想的な光景だ…………。こんな麗容みたことがない』


 邪教徒の一人が称賛を込めて呟く。

 白亜の峰を背景に、周囲には青々とした森が広がり、湖は城の姿を鏡映しにするほど澄んでいた。


 ただ近づけばわかるが、巨人が入れるくらい大きいので麗容というより威容だ。


「ふふん、あの者は良い感性をしているじゃない」


 城を治めるスタファもまんざらではないらしい。

 景観にはちょっと趣味を押した手前気に入ってくれてるなら嬉しい限りだ。


(元にした世界遺産の城なんて名前だっけ? シンデレラ城の元になったとかいう…………ヴァン、タイン? ドイツ語って長ったらしいんだよな。思い出せん)


 まぁ、元ネタ思い出してもそこからCGクリエイターが手を加えてるし。

 ネットで見た観光写真とはだいぶ違うし。


 それより自分の頭の老いが酷い。

 いい加減十年前のこと思い出せばいいのに、NPCの話聞いてそう言えばってことが多い。


(肉体ないせいか、忘れっぽいところとかおじさん臭い感じ俺のままなんだよな。神を名乗るならもうちょっと庶民臭なくさないと)


 そんなことを考えている間に、ヴェノス率いる騎士団の一部が到達した。

 そこまで近づいて、ようやく仮面の男は徒歩でやって来た集団に気づく。


 ヴェノス以外は全員が蜥蜴顔で、フルプレートの鎧からは尻尾が飛び出していた。

 槍や旗を掲げて整然と行進してくる姿は勇壮で、城を背にしている当たりとても絵になる。


 ただ、ヴェノスたちの姿に仮面の男は目を瞠った。


『その尻尾! ドラゴニュート!?』


 聞いたことのない種族でヴェノスも困惑している。

 片手を上げて騎士団を止めると、一応部下に聞いたことがあるかを確認してから答えた。


『いえ、私はリザードマン。この姿は神々を模したものですが、元来の顔はトカゲです』

『そ、そんな種族聞いたこともないが、亜人、か?』


 既知の種族に似ていたせいか、ティダやアルブムルナと相対していた時ほど攻撃的な様子は見せないようだ。


「ドラゴニュート、竜人か? そんな種族いた記憶がないな」


 俺の言葉にスタファたちも互いに知らないと言い合う。

 どうやら俺が忘れた設定ではなく、この異世界特有の種族のようだ。


(ゲームにいた似た種族は、スネークマンだよな。どう見ても戦闘に関してはリザードマンの下位互換の。蛇だからスネークマンのほうはつるっとしてる見た目で)


 逆にリザードマンはごつごつした感じキャラデザだ。

 ドラゴニュートという亜人とやらもごつごつしているんだろう。


 そう言えばライカンスロープというゲームにいない種族がいるらしい。

 グランディオンの狼男に似た生き物らしいから、もしかしたら他にもゲームに似た種族ががいるかも知れない。


『亜人、人に似ているつもりはありませんが、あなた方からすればそういうのでしょう。それで、ドラゴニュートとはドラゴンを始祖神とする種族なのですか?』

『…………ここは、なんだ?』


 仮面の男はヴェノスの疑問に答えず別の問いを投げかけた。


 ドラゴニュートではないという答えが、警戒心を呼んだようだ。


『言ったはずですよ。封印された神の地であると』

『やはりあの獣の仲間か!?』


 途端に攻撃態勢になるが、ヴェノスは気にせず、後ろに控えてる騎士たちも動かない。


『あまりにか弱いあなた方の姿に、神は憐れみを垂れ神のおわす城へと招かれました。案内するよう仰せつかっておりますので、どうぞこちらへ』


 仮面の男は警戒を強めるけれど、ヴェノスは一撃で殺せると言った自信からか余裕だ。

 これでいきなり『血塗れ団』に倒されてドロップ品になるなんて姿は想像できない。


(そう言えば、槍士系のジョブを持つヴェノスは何故かドロップに槍はないという不思議仕様だったな。そこは俺の設定じゃないからなんでかわからないけど)


 ただ槍の上位ジョブなので力量は確かだ。

 そして槍のアーツには薙ぎ払いアクションの範囲攻撃がある。

 熟練度を上げればなかなかの広範囲で、レベル差があれば一撃で死ぬ。


 それだけのレベル差があると、ヴェノスは確信してるのかもしれない。


『信奉する神が違うためにお招きに従うことこそ非礼となり得るが?』


 仮面の男が何故か宗教的なことを気にし始める。


『では神に従わぬ無礼者として、この場で処分するだけですが?』


 ヴェノスはイケメンフェイスでとんでもないことを言い出した。

 気色ばむ部下を仮面の男は片手を上げて制する。


(ヴェノスもしてたけど、今の動作ちょっとかっこいいな。従えてるって感じで)


 仮面の男は黙考するが、それも長くはなくまた問いを投げかけた。


『せめて、参る前に神の名をお教え願えるだろうか』

『名は何故つくかわかりますか? それは大いなる神を見た者が、神に通じた不思議を言語化しようとして呼ぶにすぎません。我々の神は千の姿を持ち、千の呼びかけに答えます。あなた方がかの御方をどのような名で呼ぶのかを私は知りません』


 なんか俺だったら馬鹿にされたかなって思ってしまう返答だ。

 仮面の男は大人なのか気にした様子はない。


『我々の作法では貴人と会う前にその方のなしたる業績、持ちうる権能、好まれる物事などを知った上で赴く。何も知らぬままではとても参れません』


 あ、これはわかるぞ。

 一度持ち帰ってっていう社会人の断り文句だ!


 実際使ったことないけど。


『あなた方では理解しえないと思いますが、神を前に作法を気にするのは良い心がけです』


 うん。ヴェノスには通じてないな、これ。


『ですが、あなた方の非礼も全て見た上で憐れまれた我らの大神の招きであればただ従えばいいのです』


 あ、通じてないんじゃない。

 もうこれぐだぐだ言わずについて来いだ。


「まぁ、無駄なことを。仮面の男がハンドサインで指示を出したわね」

「応じて一人が抜けようとしたのをリザードマンが止めましたね」


 スタファとネフが水盆を眺めて失笑する。


(え、何処何処? わかんなかった)


 脅しが効いたのか、酷くゆっくりとした足取りで『血塗れ団』はヴェノスに続いていた。


『今も神はあなた方の行動すべてを見ておられる。何をしてもいいですが、あまり見苦しい真似はしないように』


 ヴェノスに仮面の男が辺りを見回す。


『馬鹿な…………何も引っかからないぞ』

『探知か索敵の魔法でも? 無駄なことです。人間の範疇で計れる存在ではない』

『わ、私の魔法範囲外からだと!? ありえん! 私の魔法範囲は今代一で!』

『これは、知らぬにしても神に不敬がありそうですね。いいですか、己一人で全てを賄い、何者の助けも求めず、全てが原初の混沌の眠りを守る永き時の手慰みでしかありません。故に孤高、故に気紛れ、故に偏狭な定命の者の考えなど凌駕するのです』


 なんかヴェノスが訳わからないことを言い出したら、スタファが頷いてる。


「大神は無関心であるが故に慈悲深く、惜しげもない。興味本位であるが故に情けもなく、容赦もないのですからね」


 ネフまでなんか言い出した。


(ね、じゃねぇよ! そんな風に思ってたのか!? 行動原理が謎すぎる! 俺、神としてどうすれば正解なんだよ…………?)


 あと、そんななのに信仰してるってどういうこと?

 ここってもしかしてドMの集まりなの?


 え、本当俺はどうすれば正解なわけ?

 神さまやってく自信なくなったんだけど?


『おっと』


 城の正面でヴェノスが声を上げた。

 城門に続く端の前で、湖から現れるレイクサーペントが飛び出してきたのだ。


(そう言えばいたなこんなエネミー! 確率で飛び出すけど今かよ!?)


 それをヴェノスは槍で一閃する。

 目の前にある城に続く橋と同じくらいの巨体が一撃で湖に叩き返された。


 騎士のジョブスキルでアーツ最強の一撃を一発目から出せる技だ。

 ただし効果は高いが連撃の加算がつかない一撃だけの技でもある。


 その一撃だけでレイクサーペントは湖の深みへと帰って行ったようだ。


『おや、どうしました? あぁ、水で足を滑らせましたか?』


 ヴェノスは背後で座り込んでいる『血塗れ団』にそう声をかけた。


『い、一撃…………?』

『いえ、仕留め損ねました。さすがに大きいと刃の入りが甘くなるので』

『あ、あなたはここの英雄か?』


 変なことを聞く。

 ヴェノスも同じらしく困った様子で仮面の男に答えた。


『いいえ? 私は神領であるこの地を守ることを任じられた騎士です。英雄と呼ばれるほど秀でたものはありません』


 ステータス的には確かに。

 攻撃力なら実は赤ずきん姿のままのグランディオンのほうが高いし防御力や魔法もネフやアルブムルナに劣る。


 では何が高いと言えば、ジョブと称号のかけ合わせで得られる能力の上昇だ。

 騎士という槍士の上位ジョブを持ち、騎士団長の称号を持つだけでも、槍を使った攻撃に常に上昇効果がつき、熟練度にも恩恵がある。


(高レアの武器ほど熟練には相応の時間がかかるんだよな)


 つまりヴェノスはどんな高レアも使いこなす熟練者だ。

 しかも騎士団引き連れてフィールドを巡回する。


 フィールドには盗賊というエネミーが存在するが、大地神の大陸には盗賊がいない代わりにこのヴェノス率いる騎士団がプレイヤーにランダムで襲いかかってくるのだ。

 つまりヴェノスを倒そうと思うと常に集団戦を強制される。


(大地神の大陸固有の盗賊エネミーのはずなのに、なんでこいつが一番理性的なんだろう?)


 俺は自分の設定に首をかしげるしかなかった。


(不定形の今首ないけどね)


 うん、たぶんグランドレイスに肩こりはない。


毎日更新

次回:名もなきグール

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