36話:神の上位判定
暴れるグランディオンは黄金の狼となって動く物を捕まえては噛み千切る。
状態異常、狂化で攻撃行動のみしか行えない。
回避行動すらとらないものの、周りに戦意のある者はすでにいなくなっていた。
(従ってたエネミーまで逃げたな。これもフレンドリーファイアが効かないせいか。ステータスやスキルは…………これか。畏怖の咆哮)
恐怖で逃亡を選択するしかないというバッドステータスだ。
オープンワールドのゲームでは一定範囲まで離れないと解除されず、その間攻撃行動がとれなくなる。
『血塗れ団』にもこれが適用されたと思っていいのだろうか?
(けどグランディオンには種族スキルで獣型エネミーをその場でのみテイムできる能力がある。そっちよりもデバフのほうが優先なのか?)
フレンドリーファイアが可能になったせいで、効果範囲があやふやだ。
これは要検証だな。
そう思ってると水盆の映像に紺色の髪が映る。
森まで移動したチェルヴァだ。
『まぁ、お行儀の悪い。それに犬のくせに獲物を主人のために追うこともせず貪るだなんて躾がなっていなくてよ』
叱るけど狂化してるグランディオンには通じてない。
そして仲間でもフレンドリーファイアができるから、戦闘能力のないチェルヴァは危機的状況…………とも言えないからこうして派遣している。
無駄にグランディオンが破壊行為をしないようにというブレーキ役だ。
とは言え、実際に見てみると心配はある。
ゲーム上だとプログラムされた攻撃パターンでしかないが、今では予測できない動きでグランディオンは獲物を襲っていた。
『おっと。神に手を出すとは身の程を知らない』
グランディオンが適当に攻撃した大木がチェルヴァに向かう。
けれど湧くように現れたダークエルフが片腕で掴んで横に投げた。
ダークエルフは大地神の分身で神格は従属神的な小さなものがある。
ただ『封印大陸』で神格を持つと持たざるとでは優位に差が出る。
何故なら、スキルやアーツ系統で拮抗した場合、神格持ちのほうが優先判定が出るのだ。
本来ならパリィできるところでも神格を持つエネミーのほうが攻撃は通る。
『大神に比べるべくもないこの身なれど。獣の王如きに遅れは取らなくてよ』
チェルヴァが種族スキルを発動した。
同時に錬金術師の上位ジョブ賢者としての能力で、範囲での状態異常回復を行うという念の入れよう。
獣の神であるチェルヴァは、下位の獣系エネミーのバフデバフを一斉解除できるスキルを持つ。
同時に一定時間攻撃不可に陥らせるのだ。
そして接触することで獣系エネミーの体力を最大半分まで吸い取れるという、条件さえはまればなかなかに効果的な能力を持つ。
(そう言えばチェルヴァのこれ、テイマー職のプレイヤーを狙い撃ちにする能力だったなぁ)
それと同時に、常に一緒にいるダークエルフは本性を隠した神格だ。
プレイヤーがチェルヴァと接敵してしまえば、問答無用で本性に戻り攻撃してくる仕様だった。
もちろんゲームだから、知っていれば回避可能な戦闘でもある。
ただゲームの枠がなくなった今、人間はチェルヴァには会うべきではないだろう。
『ぐ…………がぁ…………あ、あぁ、ぼ、僕…………』
か細い声が聞こえたと同時に、太く逞しかった狼の化け物は縮んで少女と見まごう赤ずきんに戻る。
途端に泣き始めた。
『うぇ、ご、ごめんなさい。う、上手く、できませんでしたぁ』
『あら、どうしましょう? わたくし泣く子は苦手なのよ。楽しく笑うほうがいいじゃない』
『君たち小神は笑みを絶やさないものね。けれど大神がご覧の今、何もしないでは恰好がつかないだろう』
困るチェルヴァにダークエルフが諭すように助言をする。
『どうしましょう、神よ』
そしてチェルヴァは俺に振って来た。
なんでだよ?
「城へ連れ戻せ。そして十分な間引きとなったことを言い聞かせておくように」
これでいいか?
実際また十人位殺したせいでだいぶ人間たちは目減りしている。
チェルヴァもグランディオンの下へ行く途中で、遭遇した逃げる途中の『血塗れ団』を十人ほど殺していたし。
「残りは…………ふむ、あの逃げから合流するか。ほう、二十人ほどが生き残っているな」
「神よ、この者たちはあまりに弱すぎる。もはや私が出る必要もなく、これ以上減らしてはただの消化試合であり大神がご覧になるべきこともないかと」
そう言うヴェノスは、この後城の前で迎え撃つ予定だった。
さらに後には城内でネフ、イブと待ち受けていたのだが。
(確かに最後生き残ったのは一人でしたとかになるとイブがむくれるか)
今すでに着実に少なくなってる敵に、水盆に取りついてそわそわしているほどだ。
そんなイブを横目にネフが意見を上げた。
「ここまでで考えられる対抗手段は、屋内戦におけるなにがしかの奥の手。であれば、もうイブの元まで案内して様子を見るだけでもよろしいのでは?」
「お前たちはそれでいいのか?」
「張り合いのある戦士もいるようには見えませんので。この先通りたくば、我が一撃を見切れと城の前で呼びかけたところで、全員の首が落ちる姿しか想像できません」
ヴェノスは真面目に振るい落としを考えていたようだが、その必要性は確かにない。
ネフも頷いて予定していた行動の無意味を語る。
「攻撃をあえて受けることで様子を見ようかと思っておりましたが、姿を偽るために魔法の威力が落ちているアルブムルナ相手にも攻めきれないとなると、某に傷をつけることも敵わないかと」
どっちも敵ではないどころか時間の無駄と言い切った。
「そうなると、イブもこれらの相手は嫌がるか? だとすればここはもう私が」
「いいえ! やります! やらせてください!」
勢いありすぎてびっくりした。
イブは真っ直ぐに片手を上げて主張してる。
もしかして弱い相手を一方的に甚振りたいのか?
「あらあら、ここで勝ちを拾ったところでただ一人遊んで貰ったのに大神の気配に気づきもしなかったことの挽回にはならないわよ」
「う、うるさいわね! そんなんじゃないわ! だいたい私がどうして父たる神に挽回しないといけないの! そ、そんな必要、ないわ!」
スタファに噛みつくイブだけど、その勢いが語るに落ちるだ。
ただやりがいがないのは思っていることらしい。
「ではイブ、あの者たちから情報を奪ってみるか? 邪教徒の考えなど碌なものではないだろうが。そうだな、ここを探っていた理由を聞きだしてみよ」
たぶんヴァン・クールと同じだろうけど、あえて難易度上げるようなことを言ってみる。
まぁ、ただ倒すだけじゃないクリア条件つけるようなものだ。
「それは少々簡単すぎではございませんか?」
「とは言え、大神以外を崇めるなどという愚昧な言葉を聞くのも苦ではあるだろう」
「イブくらいならそれで十分ではないでしょうか?」
「ネフは馬鹿にしてる!?」
イブがネフに地団駄を踏む。
神格があるからイブのほうが攻撃面では有利なはずだが、性格や見た目からの優位性はどう見てもネフだ。
(性格、性格かぁ)
正直エリアボスは軒並み狂信者であり、俺は崇められる神だ。
どうやらその上下関係を、現実となったエリアボスたちは変える気がないらしい。
俺の性格とか勘定にない。
始めがベータ版の記憶だとしても大地神との交流なんてイベントはなかった。
エリアボスが倒されてから神との戦いだ。
設定で大地神に叛意がある奴なんて記憶にない。
今もすぐ生贄寄越そうとしたり、人間見下したりになってるのはそういう設定だから。
(ってことは、俺が率先してこっちの人間と友好関係結べば、NPCも倣うんじゃないか?)
日の目を見せたいし、どうせなら愛される形で受け入れてほしい。
最悪、化け物だ、危険だと責められて罵倒されるようなことがないように手を打ちたい。
「ふむ、スタファは上手くやれそうだったが、イブ」
「私にもできます! 父たる神よ!」
ちょっと意地悪なフラグ立てを呟くと、イブが狙いどおりに乗った。
スタファが頬を染めて誇らしげなのは想定外だ。
「人間の国を探ることは上手くいったのかい? 最後に戦闘があったようだけれど」
「えぇ、物量でここ神の地はすでに一国に匹敵するわ。その後の戦いで駆けつけるような戦力もなし。魔法が飛んでくることもないままだったのよ」
「実質いたのは一日なのにそれらを調べ上げるならなるほど、イブにできるかどうか」
ヴェノスに答えるスタファの答えも俺の想定外です。
それにネフが頷いて意味ありげにイブを見るのはやりすぎだ。
「で、き、る、わ、よ!」
意地になってるイブが下手なことしないといいな。
「気を張りすぎることはない。これはただのレクリエーション。本番ではないのだ。…………それとも、あの『血塗れ団』とやらを今後の動きに組み込むべく引き入れたいか?」
俺にはわからん。
もしそうだったらまずい。
だから保険で聞いたんだけど全員答えはノーだった。
「神を知らぬ憐れはあれど」
「あの程度で組み込んでも」
ネフとヴェノスは言い合って頷く。
「大神以外を奉じるなど死んで当然」
「死体をレイスにするくらいしか価値もない」
スタファとイブは過激だ。
「…………やはりヴェノスに対処させたほうが問題はないか?」
「そんな!」
あからさまにショックを受けるイブは、蝙蝠の羽根を煩いほどに羽ばたかせる。
俺はさすがに可哀想になり、イブにそのまま相手をするように言ったのだった。
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