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33話:死の一本道

 俺は湖の城におり、この城にのみ仕掛けられたギミックを起動させた。


 暗い地下の石の水盆に湛えたられた水を覗くと、大地神の大陸の好きな場所がリアルタイムで覗けるのだ。


 これはスタファを倒して城を占領し、ここを拠点地に定めたプレイヤーが使うギミックなので、NPCは使わない仕様の機能だった。

 なのに今は俺と一緒に他のNPCが水盤を覗き込んでる。


「転移にかかった人数はどうだ、ティダ?」


 神のスキルの中に、配下のNPCにコマンドコードを直接入力で戦わせるためのものがあった。

 それを起動してみると音声認識で入力可能であったため、プレイヤーのチャット機能的に使って離れた場所にいるティダに状況を問う。


(もしかしたら大地神の大陸で行うイベントのために仕込んだ機能かも知れないな)


 どう考えても運営が大地神を操ってリアルタイムでプレイヤー狙うスキルだ。

 もし実際に使うことがあったなら、きっと今までとは違ったイベントを企図していたことになる。


 使われることがなかったことを思うと、酷く残念に思えた。


『六十人強が来てます! 大神の教えどおりお上品な人間は通しますけど、礼儀のなってない奴らは適当に間引いて散らします』


 ティダはゲームに忠実に動くつもりのようだ。

 ゲームでも敵対行動を取らないと襲ってはこないし、設定としてはこの大陸を狙う冥神と戦っているからプレイヤーを追いかける余裕がない。


「さて、冥神の姿は確認されていないが、幽世に封印されたのだから、一緒に来てしまっていてもおかしくないが」

「冥神が現われたら私が行きましょうか? べ、別に大神の手を煩わせるまでもないですし? いい所見せたいとか、そんな幼稚なことは考えていませんけど、えぇ」


 俺の呟きにイブがやる気を見せる。


「いや、考えすぎだ。その心配はない。冥神は、いない」

「しかし、冥神配下のエネミーは未だに健在でございましょう?」


 チェルヴァが心配してるけどそれはゲームの仕様だ。

 そしてゲームの仕様上、冥神本人が出て来る設定はないんだ。


 ゲームの容量的に無理となって冥神はお蔵入りが早々に決まった。

 だから設定もふわっとしてるし冥界から出て来るようなこともない。

 さらに言えば大地神の大陸自体が封印されたままだったのだから、新たに冥神という存在を設定する必要性も運営にはなかっただろう。


「チェルヴァ、あなたは天の系譜である大神よりも、同じ地の系譜であるのですから冥神について感じるものはないのですか?」


 ネフが俺以外にも無茶ぶりをし始めた。


(っていうか、そういう設定あったな。こいつ実は俺より設定に詳しいんじゃないか?)


 実は神には惑星の進化の内から生まれた地の系譜と、宇宙人的超越存在として飛来した天の系譜がある。

 大地神とか地母神とか言っておいて、実は天の系譜だったりする。

 そしてチェルヴァは大地ができてからそこに生まれた神という設定だから地の系譜。

 冥神も地上に生き物が生まれて死の概念が生じてできた神だから地の系譜なっている。


(そう言えば地を這う者とか言われる蛇の神を何故か天の系譜に入れたなぁ。宇宙を泳ぐ蛇いいじゃん! みたいなノリだった気がする)


 何か逆張りしたい気分だったんだろうな。


『あ、今配下が数えてきました。送られてきたのは六十八人です。暗闇に灯りともしてさっそく無礼を働いたんで処理しますね』


 ティダから元気な殺戮宣言が来た。


「待て待て待て! まずは小手調べだ。お前が最初に行っては半数以下にまでなる!」

『え、はぁい。更地にするくらいのほうが楽ですけど、頑張って間引きに専念します』


 不服がありありと窺える上に、更地って、それ全滅するだろ。


「…………アルブムルナは大丈夫だろうな?」

「神よ、全能なる御身と比べては何者も児戯に専心する愚昧の徒。とは言え、ティダは将軍、アルブムルナも海賊船長の称号を持つ指揮官。ご心配には及びません」


 騎士団長の称号を持つヴェノスが紫の尻尾を余裕ありげに揺らしてそう言った。


 水盆の写す映像は移り変わって灯りをともした侵入者を写す。

 周囲で窺っていたダークドワーフたちが一斉に光の範囲から姿を隠した。


『今何かいたぞ!? 目が光っていた!』

『何処だここは? いったい何があった?』

『騒ぐな。周囲を確認し、各班は人数の確認と報告をせよ』


 どうやら指導的立場の者がいる。

 全員が多様なローブ姿で怪しいが、指示を出した者は目元を隠す白い仮面をつけ、口元も布を垂らして人相がわからないようにしていた。


『敵影! あれは…………あ、悪魔?』

『ナイトデビルだ! 噛まれたり引っかかれたりすると操られるぞ! 捕まるな!』


 どうやらナイトデビルは知っているらしい。


 捻じれた角に、凶悪な皮膜の羽根、長大な手指から伸びる鋭い爪が灯りに揺れる影だけでも悪魔の名にふさわしい。

 そして長い尾の先は矢じりのように尖り、人に似た四肢ながら決して人ではありえない目鼻のない顔をしていた。

 ただ溶けたゴムのように顔の一部が流動すると、エイリアンを思わせる多重の牙が並ぶおぞましい口が開く。


「思ったより善戦するではないの。魔法の使い手は光属性を使っているのね」


 イブが完全に観戦気分で水盤の縁に肘を突く。

 冥神の手先であるナイトデビルだが、そのナイトデビルを神スキルによって従わせることができるイブからすれば敵愾心はないようだ。


 悪魔の名称がついてるが実は神に従うエネミーという、イブの神格をほのめかす存在。

 まぁ、そんな情報が得られるのは大地神の大陸でだけだったから死にネタだ。


 俺が一人寂しくなってる間にティダは将軍らしく指示を出していた。


『こっちから手は出すな。適度に逃げ道を作ってやれ。力を見るだけだからまずはナイトデビル一体だよ。他こっちに来るのは五人一組で確実に迅速にやれ』


 人間六十八人がナイトデビル一体に時間を消費してるのを確認しながら、ティダがさらに指示を飛ばす。


『よし、あれは確実に倒せるね。じゃあ、次だ。一体を先行させて突っ込ませて。接敵と同時に次のナイトデビルを。こいつらの本領は群れだけど、今の様子だと群れ放り込んでも全滅だし。だったら神にお楽しみいただけるようにじわじわ行こう』


 なんでいきなり俺への風評被害!?


 そんなことを思っている内に、ティダの指示どおりナイトデビルが順次増やされ対応を見ることになった。


『また現われました! 三体目です!』

『倒した二体と合わせて五体。これで終わるわけがない。退避だ! 無駄な消耗は避けよ!』


 意外とわかっている仮面の男だが、行く先にいるのはティダたちダークドワーフの本隊だ。


『あれは…………小鬼? 数が、多い…………!』

『挨拶もなく人の縄張り不躾に照らしておいて小鬼呼ばわりなんて、行儀が悪い!』


 ティダは武装したダークドワーフの先頭で身の丈を越える戦斧を大きく横に振った。

 瞬間、攻撃スキルが発動する。


 物理攻撃のスキルはジョブスキルなどと使い分けるためにアーツと呼ばれる。

 アーツは武器の形状によって変わり、高レア武器には専用アーツが設定されていた。

 連続攻撃によって出せるアーツが変わるので、効果とモーションを上手く繋ぐ技量が必要になるのだが。


 今ティダが出したのは単発アーツだ。

 攻撃力は弱いが仰け反り効果で敵の守りを強制解除したり、魔法を中断させたりできる。

 同時に武器の専用アーツであり特殊モーションが起こっていた。

 ティダは巨大な斧をブーメランのように飛ばし、軌道上の人間を引き千切ったのだ。


『え、脆…………』


 思ったけど、思ったけど! 言ってやるなティダ!

 運悪く刃が当たって即死三人!

 そうでなくても腕持ってかれてるのもいるし!

 柄の部分が当たってても吹っ飛んでるから!


 俺は改めてゲームではない現実を実感して内心で叫ぶ。


(そりゃ、あんな凶器が当たれば人間の体なんてひとたまりもないよな! それで言えばプレイヤーがおかしな強度だよな!)


 そんな惨劇を眺めてイブが唇を尖らせる。


「あら、何よティダ。張り切りすぎたの? 今の攻撃で即死だなんて。防具がないにしても弱すぎだわ」


 この中で唯一プレイヤーと戦っていたのだから、その感想は正しくはある。


 するとヴェノスも首を捻っていた。


「私もかつて人間と戦った記憶があります。けれどもう少しましな耐久力だったかと」


 ヴェノスにもか。

 もしかして、試験運転のベータ版の記憶は全員にあるのか?


『えー、こんなの大神の目に触れるのもおこがましい。けどここで全滅させると他がうるさいだろうし』

『だったらさっさとこっち回せー!』


 水盆からいないはずの者の声が聞こえた。

 ティダの周囲を広く写すと、いつの間にか広大な地下空間に真っ黒なガレー船が侵入している。


『アルブムルナ!? なんてことしてるの!』

『ティダのことだから気分が乗ったら全滅してたなんてことありえるし! 自分の獲物は自分で確保! これぞ海賊! 野郎ども! やれー!』


 アルブムルナの号令一過、ガレー船から巨大な投網が投げおろされた。

 すると魚群さながらに人間たちが網に巻き込まれて船の上へと引き上げられる。


 それは大半の人間で、残るのは網の縁から零れ落ちた数人のみ。


『こらー! 順番は守れー!』

『そんなお行儀良くて海賊やってられるか! これくらいしないと神を楽しませる前振りにもならないだろ!』

『ひ、否定できないぃ』


 否定して!?


 ティダが言い負かされている内にガレー船は暗い地下の世界を浮遊して逃げ去る。


『もう! お前たちが弱すぎるから! あたしの戦斧が血を求めない内に、さっさと次に行け! 追い立てろー!』


 ティダの理不尽な怒りを受け、地下に残された『血塗れ団』は悲鳴を上げて走り出していた。


毎日更新

次回:ガレー船決死行

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