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315話:三カ国同盟

 神聖連邦から帰ってひと月。

 王国、帝国、元共和国による三カ国同盟の調印式が行われることになった。


 皇帝や国王が出席しての式典で、三カ国の真ん中である王国で行われる。

 そのため王国では大急ぎで場所を整え、調印式後のパーティの設定など色々忙しい。


(そりゃ、俺が思いつきで神聖連邦行くとか言ったら、一回待ってほしいってスタファも言うよな。…………報告書、適当に受領印押すのやめよう)


 守り抜かれたために傷の少ない大公の街で、俺は反省しつつお祭り騒ぎを眺めていた。

 大地神の大陸で育てた作物を流して食を確保し、人を呼ぶ。

 そして街をきれいに整え直すと同時に、帝国と元共和国の代表がやってくる道沿いも整備したんだとか。

 国として戦後処理も同時並行し、NPCたちも裏でずいぶん忙しくしていた。


 人手があっても、資材を調達しても、ともかく人間だけでは時間が足りない。

 そのせいで、夜には人間たちを魔法で睡眠状態にし、その間にスケルトンやレイス、その他エネミーを動員して夜勤シフトを組み対応した。


「なんとかなったな」

「おや、我々の不手際を危惧されておりましたか?」


 俺の隣のネフが何もしてない俺の呟きを拾って問い返す。

 ネフは元共和国側の代表の一人としていた。

 俺は王国に加担するレジスタンスの賢人で、何故か参加させられている。


 さすがに怪しいフード姿じゃ式典の端にも並べない。

 そのためフードはグレードアップした派手なものになっていた。

 ただ派手に思うのは俺だけなようで、式典参加者は誰も着飾っていて気にしていない。


「私がお前たちの行動を阻害したかもしれないと思っていた」

「いえいえ、ルービクも神聖連邦も一日程度の早業。全く問題なく、いっそ、司祭どのなど神にお時間を請うたことが恥ずかしいと零されていたほどで」


 ネフ曰く、時間を求めたのは神である俺の対処能力も疑うも同じだとか。

 それで落ち込んだスタファは、チェルヴァにそのことで嫌みを言われても反論しなかったというのだから相当だろう。


「落ち込みすぎだろう。これだけ整えるのに一日の遅れは痛い。やはり私が軽く考えすぎていた」

「はは、ご謙遜を」


 いや、謙遜じゃねぇから。

 こいつ俺を敬ってるようで、ちょいちょい否定してくるんだよなぁ。


 そんな話をしていると歓呼の声が響く。

 見れば、大公の街の広場に作られた壇上で、国王ルージス、皇帝ライアル、国王ルークが同盟を結ぶと署名した紙を掲げて揃って立っていた。


(なんか意見聞かれて、前世での調印式とか、宣言の署名とかを参考に答えたが。なんであんなに喜んだんだろうな、スタファ)


 壇上にはレッドカーペットが敷かれ、横長いテーブルに一列で国家元首が並ぶ。

 周囲は花やリボンで飾られた手すりに囲まれた壇上で、階段は一つだけ。

 壇上には調印式を手伝う事務方がおり、下には警護が並ぶ。

 警護が仕切るように観衆が取り巻くだけで、何も特別なことはない。


 ただ、元共和国の国王になった元王子ルークは、斬新な会場だとか言っていた。

 公平で透明性があるとかなんとか、まぁ、この世界じゃ珍しいってことなんだろう。


「あ、こちらにいらはりましたか。トーマ…………賢人さん?」

「これはカトルどの」


 調印式が終わったも同然だがまだ歓呼が続く。

 その中で移動して来たカトルが俺を見つけて声をかけて来た。

 後ろには以前議長国で見た将軍と市長がいる。

 後々同盟に参加内定しているため、少数ながら議長国からも人間を呼んであった。


 なんか席を用意する名目で、密かに帝国で援助と後から実績作ったとか。

 だからあくまで席は、レジスタンスに合流したスケルトーマスの知人であるカトルの名義だという。

 議長国の上の奴が来てるけど、名目上はまだ議長国は公に参加してない言い訳だそうだ。


「大変な戦争だったと聞いとりましたがこんなににぎわってはるとは。いやぁ、とんでもないことですねぇ」

「なに、皆の頑張りがあってこそ。協力すればこその復興だ」

「相変わらず謙虚ですね。…………ところで、この後何か催しでも?」


 何やら含みがあるんだが、この後はパレードとかだったはずだ。


「いえ、実はですね。賢人さんにいつご挨拶行きましょ? と話してるところで、今すぐ行くべきだとこちらがおっしゃるもんで」


 どうやら二択を間違えないギフト持ちの市長が、今しかないと言い出したらしい。

 パレード云々だけなら今より後がいいが、ギフトが今しかないと訴えかけた。

 だから表向き以外に何かあるのかとカトルが確認にやって来たのだ。


(俺に聞かれても知らないぞ?)


 俺はネフを見る。

 相変わらず黄色い布を顔面に垂らした不審者姿だが、横から見える目元がにっこり笑うのがわかった。


 どういう意味だ?


(言わなくても伝わるなんてないんだぞ? 人間は必要だからコミュニケーション能力として会話があるんだ。何かあるなら言葉で言え。その神ならご存じのはずって言う根拠のない確信そろそろ疑え)


 心の中で文句を並べても通じない。

 いや、いっそ何かあると俺も警戒すべきか?


 そう思って辺りを見回した時、観衆の中から飛び出す者が現われた。


「死ねぇぇええ!」


 わかりやすく叫んで壇上へ向かおうとする者は一人ではない。

 二人がさらに飛び出し、八人が続き、さらに十五人が跳び出して増えて行く。

 元首のいる壇上を目指す暴漢は、見る間に数を増し、守っていた警備も手が回らない。

 阻む警備をすり抜けて、五人が壇上への階段に迫った。


 しかし、国王や皇帝は一歩も動かず。

 どころか迫る暴漢たちをひどく冷静な顔で見下ろしている。


「この! わかってるのか!?」


 あまりの反応のなさに、いっそ暴漢の一人が叫んだ。


「わかってないのはそちらですよ?」

「あぁ、悲しいことにな」

「蛮勇でしかない」


 ルークに続いて国王と皇帝も、首を横に振りつつ、いっそ憐れむように答える。

 次の瞬間、階段に足をかけた一人が横に吹っ飛んだ。

 続いて勢いで止まれない後続も揃って吹き飛ぶ。


 いつの間にか階段を左右に挟んで、ファナと元共和国の王女が剣と槍を持ち立っていた。

 吹き飛んだ五人中、四人は血を流して動かない。

 一人だけ王女の槍で殴打されて転がった暴漢は、一撃の威力に戦いて動けなくなっていた。


「あの人数で何ができると思ったんだ?」


 俺は言いつつマップ化し、壇上を目指す暴漢たちが四十六名いることを確認する。

 観衆に紛れるにはいい人数だろうが、二人を突破するには足りない。


「えぇ、神が気づかないふりをなさっている間に断念するだけの理性があれば良いものを。角獣の乙女に増援を潰されていることに気づける知性でもあればまだ良かったでしょう」


 ネフが言うには、どうやらもっといる予定がアンとベステアにすでに潰された後。

 帝国で属国の切り取りをしているからいないと思ってたんだが、別の所で仕事してたようだ。


「はぁ、本当にすごいですわ。賢人さんを策で出し抜こういうのがまず間違いと」


 カトルは次々に倒されていく暴漢を見ながら、目には哀れみが浮かんでいる。


「気づかないふりということは、ことを起こさなければ見逃すつもりあったんですか?」


 何やら将軍に耳うちされてカトルが聞く。

 俺が神と知ってるからだろうけど、そんな持って回ったことしなくてもいいのに。


「どう使うかは、任せた部下次第だが」


 何も知らない俺はそう濁してネフに振る。

 するとどういう対処をするか知っていたようで答えた。


「上手く元共和国や帝国に残る反抗勢力を集めることに成功しております。どちらもすでに潰す算段はありましたが、あれだけ見晴らしのいい壇上、そしてこれだけの観衆を集めた中とは。神の考えられた愚か者をつり出す餌としては極上。その上で同盟の堅固さを知らしめるよいイベントとなりました」


 何やら熱く語るが別にそんなんじゃないぞ?

 式典は確かにイベントだろうが、こんな騒ぎ俺は想定外だ。


「あぁ、なるほど。これは、市長のギフトが当たりですね」


 何やらカトルが市長を振り返って言う。

 ネフも訳知り顔をしているようで頷く。

 そして俺は置いてきぼりだ。


「まさに神算鬼謀。目の当たりにできる幸運に身が震えます。道を誤らないために慈悲を残しつつ、敵の慢心を見逃さない。それで言えば、神が自ら忠告をしたというのに、救世教は悔い改めることをせず残念なことです」

「なんです? これ仕掛けたの教会ですか?」


 何を言ってるのかよくわからないところで、カトルが聞いてくれた良かった。


「えぇ、こうして入り込める隙を教会にだけ開けていたのです。どのような形式でやるか、どのようにやるかをそれとなく」


 つまりこっちの計画をあえて流す。

 そしてネフが言ったとおり国王や皇帝を餌に、反抗勢力が動きたいと思える場を用意した、と。


 うん、もちろん俺は知らないぞ。


「これで教会は大手を振って排除可能。王国に続いて帝国、元共和国での改宗の大義名分も作れました」


 共和国ですでに教会は排除の傾向だったが、王室復活から教会も復活を求める声があったがそれをはねつける理由にするそうだ。

 帝国は元から教会が強い国だが、重用していた皇帝が暗殺され、その後を継いだ皇太子は隣国で虐殺。

 そして次に立った皇帝を公衆の面前で暗殺となれば、もはや求心力は低下の一途。


「元より同盟としての意義も強いのに、ついでのようにおっしゃる」

「同盟だけでも一大事だというに、いったい幾つの策を施したというのだ?」

「なんや、トーマスさん見込んだ自分にもギフトがあるんやないか思ってしまいますねぇ」


 真剣な将軍や市長に、カトルが冗談半分。

 俺は適当に話し合わせながら血を見ないようにしておく。

 別に怖いとかはないけど、弱い者いじめも殺人現場を見たいとも思わないからな。


 後はなんか思ったより色々NPCたちが考えてたので、ちょっと思考が逃避する。

 うん、そう言えば巨人やドラゴンというこの世界特有の奴らは強かったな。

 だったらもう一種、特有の生物いるがあいつらはどれくらい強くなる者だろうか?


「カトルどの、ライカンスロープ帝国について話を聞きたいのだが。南の大陸のほうが、強大な帝国だと言っていたと記憶している」


 俺の問いに、議長国の人間たちはもちろん、ネフまで虚を突かれたような様子で息を呑んだのだった。


隔日更新

次回:ヴァン・クール

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