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310話:ぽんたぬ

他視点

「ねぇ、滅んだってそれ、まさかリアじゃないよね?」


 思わず漏れた自分の言葉に驚く。

 一体いつぶりに口にした言葉だろう?


 そうだ、私が『封印大陸』を始めたのは、当時の彼氏と友達の誘いだった。

 だからゲームの中でもリアルの話もすれば、ゲームでの人間関係の話もあった。


『え、彼氏? どっちの話?』

『リアだよ、リア彼! リア彼しかいないでしょ。もう! ドタキャンしたと思ったらインしてた! 信じらんない!』

『リア彼なのに、リアで振られてるとか、あははは』


 なんて、学校でリア友に聞かれて、話して、乗りでリア、リア言い合って。

 何しても笑えた頃の、仲間内での口癖。

 それがこんな、日本を離れて半世紀も経ってから口にするなんて思わなかった。


 もう日本には帰れないことなんて察していたし、だから思い出すようなことを避けてもいたのが、こんな歳になって考えないようにしてたのを実感する。


「リア…………? あぁ、リアルか。こんな短い言葉まで短縮しなくても」


 神がおじさんくさいことを呟く。

 宇宙っぽいテクスチャの顔じゃ、年齢なんてわからないけど。

 あったとしてもゲームで十年経つかどうかで、こっちですっかり老けた私のほうが年上だろう。


「神よ、リアルとはプレイヤーが来る世界のことでお間違いないでしょうか?」

「ん? うむ、あぁ、そうだ」


 白いドレスの司祭とかいう女に聞かれて、神が答えに迷うようだ。

 選んだのか濁したのかわからないけれど、知ったかぶりはさすがにないだろう。


「プレイヤーが来る?」


 ただ他のエネミーはリアルが何かわかっていないようで、紫色のスネークマンみたいなエネミーが呟いた。

 それに緑のドレスを着た少女、記憶が確かならあれは海上砦のボスイブが答える。


「スタファには聞かれたからプレイヤーについて知ってることを話したの。それで、たまに戦闘中消えるプレイヤーがいるのよ。他のプレイヤーたちの話から、プレイヤーは他の世界からやって来て神の遊戯に参加する者で、消えるのはリアルと呼ばれる元の世界で不具合があって、私たちの世界にいられなくなるからだそうよ」


 なるほど、そういう解釈ね。

 たぶん回線落ちか何かで突如ログアウトするんだろう。

 エネミー側から見ると別の世界へ消えるように見えていたわけだ。

 ゲーム内で日本や在住の都道府県を言うわけもなく、言葉にするなら確かにリアルという名称で統一されているように聞こえる気がする。

 それを聞きかじってイブが伝え、他のエネミーと認識をすり合わせるってことは、滅んだ世界は日本じゃない。


 私はもう会えないかつての家族や友人を思って胸を撫で下ろす。

 五十年も離れてどう変わってるかも想像がつかないけど、確かに私が生まれ育った場所、世界だ。

 滅んだかもしれないと思って動転してしまった。

 同じプレイヤーの二人は、リアルが滅んだなんて取り違えもしなかったのに、私一人焦って恥ずかしい。


「我が君のご推察では、まず世界からプレイヤーが排除されるわ。その後に世界が解体されるとか」


 横に張り出した立派な角を持つ美人が、誇るように語る。

 たぶん偉そうだし、そんな美人が呼ぶ我が君とやらは大地神だろう。

 その上でプレイヤーがログオフの上で、データ的にゲームが消去される過程ってこと?

 ゲームのキャラクターがそこまで理解してるもの?

 それともキャラクターだからこそ、そんな回りくどい考え方をしてるの?


「ふうん、つまり百年後に来るかもしれなかったプレイヤーはもういないわけだ」


 白い蛙のようなエネミーが悪意をもって笑う、嘲笑う。

 もはや逆転の目なんて永劫ないこちらを見下すように。


 そんな状況をわかってて大地神は来た。

 つまり…………。

 考えようとした時、私にしか聞こえない通知音が響く。

 それはプレイヤー間でのみ使えるチャットの通知音だ。


『気づかれないようにしろ』

『あいつらの目的なんだと思う?』


 端的に命令口調なのはフルートリス、思うまま疑問を投げかけ得るのがストック。


 私も長く生きた分取り繕うくらいはでき、そっと気づかれないようチャットをする。


「石碑とはいったいどんなものを置いたんだ?」

「ダンジョンの場所は? 王国方面か?」


 七徳の忍耐と謙譲が会話を長引かせようと試みている。

 そちらは任せて、私は混乱して黙っている風を装いチャットに専念した。


『プレイヤー来ないなんてことになったらこっちに勝ち目なんてないよ!』

『向こうがゲームどおり道作ってんなら、レベル上げて挑めばいいだけだ』

『急いでパワーレベリングしてもこっちの戦力が整わないの見透かされてる気はするな』


 確かに、乗り込むなんて侵略的行動はとってるけど、エネミーなのに攻撃はしてない。

 それに節制がルール違反をしたと言っていた。

 何したかよくわからないけど、怒って反撃したにしても、それはきっとゲームの範囲外のやり方だ。

 だから王国と帝国の国境は混乱し、節制以下二十一士や部下たちも全滅。

 もしかしたらその頃に起きた通知のバグも、大地神がゲームにない動きをしたせい?


 だったらゲームのルールをこっちが守ればあっちも、ゲームの時のようにおとなしくしてるってことかも知れない。


『ルール、どれくらい守ると思う?』

『聖蛇みたいに動かないってわけがないのは今目の前なんだからわかるだろ』

『しかも自分でルール作るみたいなこと言ってたしな。信用なんてできないだろ』


 二人は懐疑的だ。

 でも、本当に従う限り襲って来ないとしたら?

 そしたら、少なくとも私の家族は無事に生きていける。

 それどころか、ゲームのように街での生活は安全が保障されるまであるんじゃないの?


『レベル上げ手伝うってのはどういう考えだ?』

『巡礼がどうのいってたから、篩にかけるような感じかもしれないな。ゲームで言うところのレベル制限』

『ってなると、なんだかんだ言ってゲームの頃と同じでクリアさせるつもりあるのか?』

『そこはわからん。聖蛇なんかはゲームどおりダンジョンにいるが、まずそのダンジョン周辺を国にして、俺ら人間なんて近づけなくしてる』


 二人はどんどん話を進めて行く。

 こういう時、半端にしかゲームしてなかったから私は入りづらい。

 適当にやって、適当に遊んで、適当に騒いで、それだけで良かったのに何故かこんな異世界に来てしまっているだけだ。


『どうして私たちこの世界に送り込まれたのかな』


 私の質問にストックが反応する。


『神のせいか? ゲームのラスボスが自我に目覚めて異世界へ?』

『ファンタジーすぎる。それに、あいつは世界が終ってから来たらしい。だったらゲーム終了も知らなかった俺たちより後だ。あいつのせいで俺たちが来たってのは、ゲームの設定上無理がある。大地神は封印されてたんだからな』


 フルートリスは冷静に相手の発言から情報を得ているようだ。


『もしかしたら、この世界のほうに問題があるのかもな』

『どういうことだ?』

『異世界転移は神の力じゃない、こっちの人間のほうが詳しい。司祭がそう言って、枢機卿は否定しなかった』


 思えば預言者であることも言わずにいた相手だ。

 そしてその後継者を育てていることも言わず、今さら異世界転移が起こる理由を知っていても言わない気がする。


 そう、今さらだ。

 だってもう転移してくる先のゲームは終わった。

 どうして異世界転移したかなんて、今さら聞く必要もなかったのに。

 私は案外、冷静ではないようだ。


『やるなら今だ』


 フルートリスが贈ってきた文字に、私は本人を見ようとして思いとどまる。


 少なくともイブはプレイヤーと戦った記憶がある。

 私も戦ってる途中にチャットが入って、途中合流する仲間について話したことがあった。

 プレイヤーがチャット機能を持ってることを気づかれてると思ったほうがいい。


『無理だろ。戦力が足りなさすぎる。どう見てもボスレベルばっかりだ』

『今やらないとじり貧の上で、ボス部屋のギミックまで追加されるんだぞ』


 反対するストックにフルートリスがより悪い状況を上げる。

 そうしてチャットしてることを悟られないよう、表でも声を上げる器用さを見せた。


「節制がルール違反したそうだが、何したんだ?」

「我らが神が、娘と認める者を攫うなどという暴挙を」


 スタファという司祭が答える姿は、チャットに気づいた様子はない。

 そして節制は思いの外駄目なことをしていたようだ。


『七徳がただの誘拐なんてしないだろうし、神の娘って、生贄か何かか?』

『あぁ、認める者とか遠回しな言い方はそういう。イベントか何か失敗した感じか』

『やっぱりわからないこと多すぎる。今戦うのはやめたほうがいいよ』


 私の意見に、フルートリスは別のことを指摘した。


『七徳のほうもここに来たからには逃がす気がない。枢機卿がすでに指示出して周辺人払いして兵を集めてる』


 言われて騒いでいた人たちがいなくなっていることに気づいた。

 それと同時に少しずつ兵装に身を包んだ者たちが広間を囲む建物の陰に集まっている。


『でも未知のエネミーばかりで、何が効くかもわからないのに。攻略法のあるイブだってボスだから弱くはないんだよ?』

『けど、ここならまだアイテムもすぐ補充できる。逆にこれだけ内部に入られて、圧殺できないほうがもう勝ち目なんてなさすぎるだろ』


 ストックまで乗り気になってしまったようだ。

 ここで退くほうがまずいと。


『結局リポップするんだから。ここで消費するだけ無駄。相手に喋らせて情報得るだけのほうが対策練る余裕もできるんじゃないの?』

『情報? ダンジョン巡って攻略しろって? さっきから色々聞いちゃいるが、種族も言わなけりゃ、どうやって王国乗っ取ったとも言わないぜ』

『負けイベにしても、本人たちチュートリアルのつもりはあるみたいだし。少なくともこっちを殲滅しようって来てるわけじゃない』


 フルートリスはこれ以上会話に得るものはないと見限っていて、ストックも信じてない割りに相手がゲームに準じることを信じてる。


 何より、二人は戦いが嫌いじゃないんだ。

 だからこそ喧嘩を売られて退く気もない。

 けど私は違う。

 戦うことなんて好きじゃない。

 もし聖蛇のように引っ込んでいてくれるならそれがいい。

 ダンジョンクリアまで待つというならそれがいい。


『ま、アンナが言うことも一理ある。狙うべきは大地神だな』

『物理の系統と魔法の属性は何が効くか試すくらいはしたいな』


 止められない。

 私はこの状況で、自分と家族だけは助かる保身の方法を必死に考え始めた。


隔日更新

次回:レベルマの実力

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