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299話:迷宮の裏面

 地に足がついて、全員が俺から離れる。

 途中、空中にもかかわらずチェルヴァが必死に俺のもう片方の腕に移動して大変だった。


 マップ化で見る限り、すぐさまの敵はいない。

 近くに落ちている生き物だった者はもう用なしだ。


「制御エリアを制圧の後にこちらへ来るつもりだったが」


 呟くと、アンが俺のいるほうにきょろきょろと探す。

 この暗さは人間では見通せないようだが、俺はレイスなのであまり暗さは関係ない。


「も、もしかして、上のあの難問だとか強敵だとかは、トーマスさんとしては序の口だったんですか?」

「ま、まさか! え、でも、確かにフェアリーガーデンの時のほうがもっとこう、どっかんばっきんすごい魔法放ってたような」


 勢い否定したベステアは、自分が口にした考えに身を震わせる。

 暗い中で目が利くティダはうろうろ周囲の警戒をし始めた。

 その物音にアンは跳び上がって俺に抱きついてくる。


「ト、トト、トーマスさん! 何も見えないんです! お願いですから何か来てたら教えてくださーい!」

「え、何!? 今回はトーマスにくっついてるほうがいいの?だったらあたしも!」


 そしてベステアまで抱きついてきたので、二人を揃って引きはがした。


「案ずるな。暗いだけでここはセーフティポイントだ」


 その証拠に青白い炎が微かに点っているのが見える。


「ティダ、お前のエリアと同じだと思うが、どうだ?」

「はい、おっしゃるとおりです。明かりをつけるのは厳禁、壁際に小さな扉が七個あるので、禁則を破るとそこから敵が現われると思います」


 ティダは辺りを探った結果を告げるため、暗闇なのにわざわざ俺を振り返って応じた。


 他に暗闇でも動けるアルブムルナ、ネフは明かりがあるのと変わらず動いている。

 スタファも吹雪の中を動ける種族で、グランディオンとヴェノスは目以外の感覚器が使えるし、チェルヴァもかすかな光を受けて照り返す獣の目で辺りを見ていた。


「上は閉まっていたわ。ぶち抜けそうだけど?」


 自前の羽根で一度上に行ったイブが告げるので、俺は思わず上を見る。

 瞬間イブと目が合った。


「えっちぃ!?」

「す、すまん! わざとではない!」


 イブがスカートを押さえて叫ぶので、俺は反射的に両手を上げて叫んだ。

 古風なかぼちゃパンツと言われるものが実際見えたため、後ろめたさが沸き上がる。


(誰だよそんな凝った下着の設定考えた奴!? いや、別にセクシー下着が見たかったわけじゃないけど! けど! なんかラッキースケベで喜ぶよりも罪悪感酷いんだが!?)


 イブは叫んだ後、風切り音さえ発して暗い方向へと飛んでいく。

 吸血鬼っぽい見せかけの特性上、どうやら暗闇での行動にも問題はないようだ。


「神の頭上を飛ぶという不敬を気にしたほうがいいのでは?」


 ネフは飛び去って行くイブになんか言ってる。


「今の何があったんですか?」

「発言からしてたぶんスカートの中見ちゃったんじゃない?」

「え、そう言うこと気にするんですね。というか皆さん見えてるんですか?」

「あたし夜目利くほうだからうっすら動いてるのはわかるんだけど、動きからして全然平気なひとが三人くらいいる」

「あ、そう言えばお一人、目自体がないですもんね」

「うん、大きさからしてレジスタンスの将軍と軍師と、普段覆面してる黒い人かな」


 本当にベステアはうっすら背格好がわかっているらしい。

 と言うか思ったよりパンツ見てしまったことに反応ないな。

 もしや、プレイヤーの衣装できわどいものが多すぎて感化されたなんてないよな?


(考えてみたらプレイヤーはどの時点でこっちに来てるんだ? 年間通して水着衣装のプレイヤーとかいたし…………いや、考えないでおこう)


 ともかく俺は完全武装で良かった。

 ネタ衣装とか、ネタキャラで来てた人いたら可哀想だけど、なんか居た堪れないから想像するのはやめておく。


「さて、このままでは動きづらい。灯りをつける仕掛けを」

「あ、やっぱりあるんですね。ちょっと、もうちょっと…………あ! 光った!」


 暗い中を探っていたアルブムルナが、明かりをつけるための謎解きギミックを見つけた。


 まぁ、答えは管制塔のほうにあるからわからないはずだが。

 それでも頑張ってるのを眺めているとベステアに袖を引かれた。


「ねぇ、飛んで行った娘みたいだって言うひと、戻ってこないけどいいの?」

「あ…………! まずい、もし罠を作動させていたら戻ってこれないぞ。みな、悪いが先を急ぐ」


 俺はエリアボスたちをどけて謎解きの答えを入力する。

 絵の描かれた以外は、空白のマス目が並んだだけの物で、正しい順に空白のマスを押す必要があるんだが、これは絵にされた管制塔にある置物と、この裏面に通じる通路までの道順を知っていないと解けない初見殺し。

 絵は複数種類あるものの、意味と上にある置物の位置さえ把握していれば解ける。


「さすが神です。すぐに解いちゃった」


 グランディオンは尻尾を盛大に振って声を上げた。


 その間に青い光が一斉に点っていっそ白っぽく辺りを照らす。

 照らされるのは地下の迷宮。

 石のブロックで作られた変わり映えのしない通路が延々と続く本物の迷宮だ。


(あー、こういう風に見えるのか。そうだよな。結局は現実ってなるとこういう視点でしか見えないもんな)


 ここはダンジョンの裏面。

 そして他のダンジョンとの違いは、2D風操作画面になること。

 往年のドット絵、ゲームの元祖をオマージュしたはずのエリアだ。


 この裏面だけはアバター視点ではなく、アバターを俯瞰や側面から見る形で操作する。

 だが肉体から離れるなんてことはできないわけで、現実だと代わり映えのしない面白みのない景色でしかなかった。


「うん? 待てよ」


 俺は風の魔法で浮き上がる。

 ここは側面から見るエリアで、ジャンプして上階へ移動し敵を避けたり必要なアイテムを回収して抜けるのが本来の攻略法だ。


 つまり、壁を越えるとペナルティと言う表面のルールの適用はない。

 思ったとおり俺が飛んでもペナルティは発生しないし、そもそもイブもそうやって抜けたはずだ。

 さらに辺りを見ると、迷宮側面はまるでアリの巣を観察するキットのようにそそり立つ透明な壁があった。


「この壁は越えられはしないか。だが、これは思ったより面倒だ。こちらに来て仕様が変わっているらしい。ここでの注意を告げる」

「皆、傾注」


 俺の言葉にスタファが言うと、エリアボスは跪いてみせる。

 アンとベステアも慌てて倣うが、しなくていいんだぞ?


「待て、ここは敵地だ。それぞれ警戒の上で耳だけを傾ければいい」


 そんな前置きで俺は想像しうる状況を告げた。

 上下左右移動しかできず奥には行けない細い道で、行ける範囲も限られる。

 だというのに敵は上と左右から現れ、狭い通路をうろつき回るだろう。


 これはパターンがあるので避ければいいが、問題は当たり判定だ。

 攻撃不能で、触れるとやり直しが発生する。

 だが今は、その横スクロール画面の仕様がどう反映されているかは不明。


「敵性体は跳んで避ける、もしくは行く方向をよく注意して身を隠せ。すれ違いはできないのでこの区画をクリアするために少数で挑む必要がある」


 元から単純で難しいのに、全体像が見えないことでより難しくなっている。

 通路を横から全部見るなんてありえないとは言え、まさか現実になることでこんな落とし穴があるとは。


「回復薬を渡しておこう。もしかしたら一度入るとクリアするまで出られないこともある」


 ともかく先へ進んでイブと合流しなければならない。

 上下に階層が存在するため、マップ化には多重の改装が透けており、正直見にくい。

 進まないとイブの位置は特定できそうになかった。


 身軽さと小回りでティダとグランディオンを選んだ。

 やはり見通しの悪い狭い通路で奥行きなんてない。

 天井の穴から落ちて来る敵をジャンプで上階へ抜け、左右にしか行けない上にすれ違えない中、逃げ回るのがデフォな通路だった。


「一組がクリアすれば抜けられるか」


 俺たちは後から通路を通る。

 本性の状態だと狭いし、俺が入ると閉塞感が酷い。

 その上ふんわり落ちだから、下階に逃げるという手が俺は使えない。

 思ったより俺にとっては厄介な場所だった。


「さて、そろそろ本番だ」


 俺は暗い中、ずっとくっついていたアンとベステアをはがして前に出す。

 そこには今までとは違う扉が存在する階層だった。


 すでに狭い通路の仕掛けは六つをクリアして抜けてる。

 抜ける時点で選ぶ道を間違うと延々同じゲームさせられるが、次は別のエリアだ。


「この先は、上部は開いているが狭い通路で区切られており、完全に逃げ場がない。その中で走り回り爆弾を設置して壁を破壊して回る者を倒さねばならない。壁はおのれの命を守る盾ともなるが、すべての壁を破壊されると上から新たな壁が降ってくる。潰されないように気をつける必要がある」


 これもレトロゲームの金字塔のオマージュだ。

 一人しか入れず敵は三人おり、四隅に個別配置で生き残りを競う。

 元のゲームとの違いは敵が使うのは爆弾だが、こっちは自前の武器で壁を破壊するなり敵を攻撃するなりする必要があることだ。

 攻撃にばかり気を割くと、防御貫通効果の爆弾の餌食になる。

 防げるのは壁だけだが、アンを使って確実に難易度が高くなる向こうの敵は壁貫通の爆弾を使用してくるだろう。


「ここはまず私が手本を見せようか」


 元から遠距離攻撃のできる魔法使いが有利なエリアだ。

 ゲームの時には撃破した敵が落とすドロップアイテムを目当てに、サブキャラの魔法使いで周回する者もいた。

 そして現実となった今、俺は最悪壁の上へ逃げればいい。

 潰されるのだけ気をつければよく、後は敵三体で潰し合ってくれるはずだ。


 俺はアンに扉を開けさせ中へ入った。

 すると聞き知った声が壁の向こうから響く。


「あ! 父たる神よ!」


 低い壁よりも大きな俺の姿に、対角線上の隅にいたイブが手を振って来た。

 しかもすでに配置がなされており、位置関係上俺とイブは敵同士。


(マルチプレイ!? そんなの聞いてないんだが!?)


 心の中で叫ぶが、すでに入ってきた扉は閉まっている。

 俺は勝ち残り戦のルール自体を回避する方法を捻り出さなければいけなくなったのだった。


隔日更新

次回:敗者の手記

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