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297話:金級探索者『ディオスクリ』

 中ボスを倒し、俺は無駄に高い身長を持て余しながら屈む。

 レジスタンスの賢人姿の今、フード被って服着て人間くらいの大きさに身を縮めてるような感じだから動きにくい。


「うーむ採取の人手がここでは調達できないのが難点だな」

「もっと他にあるでしょ!?」

「ひぃ、い、生きてますぅ…………」


 ベステアとアンがいつも通り騒がしい。

 すでに周辺にはミノタウロスを模した石像の残骸しかない。

 残骸の中にミノス像というアイテムや、たまにアリアドネの糸が落ちてるので拾ってる。

 たぶん暗殺者のアイテムの出どころはここだろう。


 特別欲しいのがないのは、俺とアイテムを必要とするジョブが違いすぎるせいだ。

 ただジョブは数いて困らないので、斥候系ジョブに必要なミノス像も集めている。


「一種結界のようなものだろうな。外から部下を呼べない。荷物は持てるか?」

「それくらいはします。けど、ユニコーンさんたちも呼べないなんて、困りました」


 アンは俺からミノス像と糸が入った袋を受け取る。

 たぶんダンジョンのフィールド設定で、屋外なら呼べるが、この迷宮は屋内判定なんだ。

 連れて入ってたらよかったんだろう。


「もう、あたしは出口の方向もわかんないよ。誰とも合流できてないけど進んでいいの?」


 ベステアは中ボス部屋で開いた奥への扉からこわごわと通路を覗く。


「難易度は違うがルートはおよそ三つ。私たちはほぼ真っ直ぐ進んでいる。後を追ってくるならすぐに合流できるはずだ」

「やっぱりここ下調べ済みで来てたんだ。本当、慎重っていうか抜け目ないっていうか」

「探索者からするとすごいと思いますけど、私たちじゃ絶対真似できないですよね」


 何処か怒ったようなベステアに、アンは逆に胸を撫で下ろした。

 単にゲームでクリアして、さらにルートを見るために攻略サイトを確かめただけだが。


「確かに真似などはできないだろうな」

「さっきから知ってるみたいにさっさと謎解きしていますもんね」

「無理無理。もう何が問題かも、こっちはわかんないって」


 迷宮には定期的になぞかけや罠があるが、もちろん俺は既知なので全て最短で解ける。


 残念なのは宝箱で、全てからだ。

 拠点化されてるから予想はしていたし、だから最短を選びもしたが、残念は残念。

 ダンジョン攻略の楽しみが一つ奪われたような気分だ。


「さて、ここが迷宮最奥になる」

「はや…………」


 ベステアは順調に進んだ結果に何処か呆れたように呟く。

 アンは目の前の塔を見上げて口を開けていた。

 ここは迷宮の奥にある建造物の正面で、建造物自体はファンタジーな感じだが、外観のコンセプトは言ってしまえば管制塔だ。


 そしてここを落とせばゲームは終わり。

 だからこそ壁を越えられない縛りのある迷宮で仕掛けて来ないなら、直接来るのはここだと予測はしていた。


「私に目くらましは効かんぞ。ふむ、今度は魔法か。だが、それこそ私の得意分野だ」


 すでにマップ化で位置は特定済みだ。

 アイテムでの潜伏をやめて魔法を使っているんだが、結局マップ化には映るし、解除方法が魔法になっただけでなんら問題はない。

 すぐさま姿を露呈させ、四人の暗殺者が現われた。

 顔は同じ者が二人ずつ、たぶん二組の双子だろう。


「うん? 二組の双子? あ! もしかしてあんたたち『ディオスクリ』!?」

「知っているのか? ベステア」

「『ディオスクリ』と言えば王国の金級探索者じゃないですか?」


 ベステアに聞いたらアンが答えた。

 そう言えば王国には三組の金級探索者がいると聞いたが、最後の一組か。


「まさか『闇の彷徨』の暗殺者が金級探索者だったなんて思いませんでした」

「うわぁ、金級相手とか本当はもっと危機感覚えないといけないんだろうけど」


 アンが震え上がる横で、ベステアが何故か俺を見る。


「全部わかってて正面から殴り込んでる奴いると、いくら金級探索者でも、喧嘩売る相手間違えたとしか言えないなぁ」

「そ、そうですよね。王さまとか殺しに来なければ、こんな最大戦力で襲われることなんてなかったのに…………」


 ベステアの言葉に、何故かアンが深く頷いて、いっそ同情的な声を出す。

 双子たちは突然の憐れみに苛立たしげな表情を浮かべるが、すぐに表情を消すと構えを取った。


「上手いな。後ろだ」

「「え?」」


 俺は地魔法で壁を背後に生成。

 同時に壁の上から風の刃を降らせた。

 すると壁は攻撃を受けて壊れ、同時に左右へと風を避けた双子の暗殺者が飛びのく。


「あれ、あっちに四人いるのに!?」

「デコイだ。表情を消した瞬間偽物と入れ替わった。双子だからこそ作り物でも目くらましになるようだな」


 ベステアに種明かしできるのは、全てマップ化に映っていたから。

 そしてデコイはゲームでは一度だけ狙いを逸らす、ターゲットの強制ロック技能だ。

 攻撃を受けると解除されるため、連撃されていると意味がない微妙な性能。

 もちろんこんな偽物が現われるなんて、ゲームの容量を食うことはしない。

 だが現実になるとそのまま術者と見間違うほどの身代わりとして実現するらしい。


 ゲームではできなかった戦法。

 ゲームの上では考えもつかない運用。


「道筋のわかり切った迷路よりもずっと面白そうだ」

「でも私たち囲まれてますぅ!」

「こっちは非力なんだからね!」


 アンとベステアが早くも泣き言を騒ぐ。

 双子四人は等間隔に俺たちを囲む形を取り、数も劣り、形勢は不利と言えた。

 しょうがないからまずは二人に防御魔法を重ねよう。


 そう思った瞬間、直上から攻撃が降って来た。

 俺をピンポイントで狙った光線は、マップ化にも反応はなし。

 同時に俺もダメージはなく、相手のレベルが警戒するほどでもないことが知れる。

 見上げれば、いつの間にか精霊と言うゲームでの補助アイテムが浮いていた。


「そう言えば共和国にいた奴も持っていたな。あぁ、あれは確かにここでのイベントドロップだ。だが…………」


 前に見た精霊はスチームパンク風のイベント仕様で、それはこの迷宮での特殊ドロップだった。


 だが上の精霊は違う。

 あれはカスタム式の精霊で、使う素材でステータスをいじれて外観も少し変えられる。

 運営からプレイヤーに一つ配布されるものだ。


「所詮は補助程度の性能だが、外観に使われているブラックスキンとオウルアイは同一スロットルで課金をしなければ併用はできない。あれは、いったい誰の精霊だ?」


 俺の問いに双子たちは全く同じタイミングで仕掛けて来た。

 だが精霊の攻撃は俺に不通。

 そこから考えれられる持ち主のレベル帯は高くなく、いっても六十強だろう。

 だったら、ここでアンとベステアを失って後から楽しめなくなるほうが不都合だ。

 この迷宮には裏面があり、そここそがアンとベステアを連れて行って楽しむ場所なのだから。


 俺は自分の防御よりもアンとベステアを庇うため動いた。

 双子たちも効かなかったことをわかっていて俺を見据える目には怯えがある。


「蛮勇というにも考えなしだな」


 武器は高確率での状態異常付与で、攻撃力はさしてないのも見てわかるゲームの装備。

 だがそれこそ俺には全く通じないとは思っていないところが哀れささえ覚える。

 攻撃は受けるがその後に反撃、いや、アンとベステアのためにもまずは回避か?

 考えた瞬間、爆発が起き星のエフェクトが爆炎と共に舞う。

 双子は四方に弾かれたように吹き飛んだ。


「今度はなんですかぁ!?」

「こ、攻撃された、誰に!?」


 アンの叫びと同時に、ベステアは一番近くに落ちた双子を見て叫ぶ。

 一人は矢が刺さり、もう一人は焼け焦げている。

 他二人を見れば、一人は槍が貫き、もう一人は帯電して音を立てていた。


 そしてマップ化に反応があることに俺は気づく。


「神に仇なす愚か者が、不遜にも私の目の前でよくもやってくれるわ」

「劣等種の分際で大神に挑もうだなんて、なんという愚物かしら」


 弓を持ったスタファと、錬金術で作る爆裂水の入った瓶を持つチェルヴァがやって来た。


「神よ、遅参平にご容赦を。まずは不届き者の始末をいたします」

「くっそ、側にいられれば神がこんな弱者の相手なんてする必要もないってのに」


 武器を持たないヴェノスと、杖に紫電を宿らせたアルブムルナが俺の前に立った。

 アンとベステアは形勢逆転を悟って息を大きく吐く。


 他の者たちの所在を聞こうとした時、マップ化で一つおかしな反応が起きた。

 振り返れば双子の一人にチェルヴァが近寄っている。


「チェルヴァ、何をしている?」

「我が君に噛みつくしつけの悪い獣をあるべき姿にしております」


 大きく張り出したヘラジカの角を振って振り返るチェルヴァは、笑みを浮かべている。

 けれどその足元では、人間の子供にしか見えなかった暗殺者が、骨を軋ませ醜く姿を変えていた。


 確かゲームではマッドサイエンティストならぬマッドアルケミストが起こすゾンビイベントで出て来たゾンビ系エネミーだ。

 毛皮があるが所々剥げていて、その下に見えるのは人間の皮膚という、来歴が想像できるようにデザインされた姿だ。


「いや、いやぁあぁああああ!?」


 同じ顔の暗殺者が、槍に貫かれたまま喉が裂けそうなほどの悲鳴を上げた。

 手を伸ばすが槍で地面に縫い付けられており動けず、血を吐きながらまだ動こうと無駄な努力を続ける。


 アルブムルナの魔法で雷にやられたほうはどうやら即死のようだ。

 スタファの矢に射抜かれたほうは、肺に穴でも開いたか呼吸音がおかしい。


「この者でいいか」


 俺は矢を抜いて回復魔法で治療を施す。

 次の瞬間、アルブムルナが手足を凍らせ逃げられないようにした。


 ゾンビ系エネミーとなって咆哮を上げるかつての仲間と、同じ顔だった者の絶叫が重なる。

 その声を聞き、暗殺者のどうやら少女らしい者は画面蒼白になって震えた。


「…………殺して、殺して…………化け物になんて、なりたくない!」


 叫んだ瞬間、スタファが弓を使って暗殺者の少女の頬を殴る。


「愚者が神の許しなく鳴き騒ぐことは許されません」

「いい、スタファ。手早く済ませよう。…………知っていることを吐け。従順であるならば、望みどおり一思いに殺してやろう」


 俺の宣告に、もはや動かない同じ顔を見つめていた暗殺者は、一つ力なく頷いて見せたのだった。


隔日更新

次回:プレイヤーの手記

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