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30話:異世界の地図

 俺は騒動を起こしてしまったことで、ともかく大地神の大陸へ転移を行う。

 その時何故か仕留めた獲物よろしくスタファが赤毛の巨人を掴んでいたが、驚いたことに一緒に転移してしまった。


(ゲームではこんな機能なかったな。いや、そもそも死体なんて一定時間経つと消えるんだよ。となると、ゲーム関係ないこっちの世界の奴は死体でも持ち運べる?)


 いや、なんにしても指定した場所が高原で良かった。


(あとはスタファのステータスと一方的な攻勢、それに合わせて一撃必殺とはいかなかった相手の耐久を考えると、赤毛の巨人のレベル帯は六十以上確定の、七十くらいか。弱くはないが強くもないな)


 スタファが火の精と勘違いした火の球は、レベル八十以下という程度しかわからない。

 ただLv.8の魔法をぶつければ赤毛の巨人も一撃で倒せたかもしれないとは思う。


 ゲームのイベントエネミー、神使のような特殊攻撃もなかったが、それでもレイスよりは強いし、スタファにダメージを微量ながらも通す攻撃力は雑魚よりましだ。

 そう言えば魔法も特に使っている様子はなかったし、完全物理職だったんだろうか?


「では神を侮辱した不届き者ですが、死をもって罪を贖ったということで、現地民の貴重なサンプルケースとして山脈に氷室を掘り遺体を保存いたします」


 いつもの白ドレスに戻ったスタファが、湖の城の広間で俺に報告した。

 広間の片側は全部窓。木よりも高い位置の広間なので、外光に照らされて血の一滴もついてないスタファの姿も白く輝いてる。


 その窓からも見える山脈はスタファの一族である白い単眼巨人の縄張りだ。

 大きさもあって赤毛の巨人の扱いはスタファに任せた。


「この世界に神の威光を知らしめたのか。素晴らしい働きだね、スタファ」


 騎士姿のヴェノスが朗らかに笑うと、両腕を広げて称賛する。

 俺、巨人の大暴れを話したはずなんだけど、気にしてないな。


(観光のつもりだったのに。あのレトロで美しい街並みに被害がないことを祈ろう。あ、俺祈られる側だ)


 …………頑張れ公国民。南無。


「もっと美しい勝ち方はなかったのかしら? 高原から血腥い風が吹いてきそうで、おぉ、嫌だ」

「えー? 神を罵ったならあれでも足りないよ。臓物引き摺りだして首絞めるとかさ」

「そうだよな。尻に木でもさして無様に走り回らせるくらいしてもいいと思う」


 殴られてぐちゃぐちゃの死体に文句をつけるチェルヴァはまぁいい。

 なんでそこでティダはグロに走るの?

 さらにアルブムルナが猟奇をブッ込むの?


(そう言えばアルブムルナ、魔法職で非力だけど海賊設定で言動は過激だって設定があったような? けど俺こんな言動設定した覚えないぞ? 誰だ、こんな猟奇発言を設定した奴!)


 これ、日の目見たらいかんのでは?

 スタファも目立ちすぎだし、しかも蛸殴りだからあまり印象良くないよな。


 それにいきなり本性出したらあの山の民のように恐れることもわかった。

 第一印象としてそれは駄目だ。

 もっと演出考えてから日の目を見ないと、NPCがヘイト集めるエネミーのままになる。

 そうなったら俺も討伐対象待ったなしだ。


「お前たち、言動もそうだが行動もしばし控えよ」

「何故です、父たる神よ」


 イブが極自然に聞いてきた。

 ネフといい、なんで素直な時は素直なのになぁ。


 今のままじゃ人前に出せませんなんて言えないし。


「…………最初から恐怖で押してどうする」

「神の威光を示すのはよろしいのでは?」


 だから、ネフー!


「あの、あの」

「どうしたのかな、グランディオン?」


 もじもじするグランディオンをヴェノスが紳士的に促す。


 そうそう、こういうのが欲しいんだよ。

 気づかいっていうんだけどネフにこれって、搭載されてなかったりするのか?


「あの、僕、わかります。最初はか弱いふりで、いいんですよね。それで、深みに連れて行って、戻れないところでどっちが本当の強者かを教えるって!」


 凄い純粋な笑顔で何言ってんの!?


「あぁ、グランディオンの森での嵌め方か。なるほどね」


 ティダにそう言われてみれば、確かにグランディオンの森での基本姿勢だ。

 けどそうじゃない…………そうじゃないんだけど、いや、そういうことなのか?


 熱入れて作った設定だし、別にNPCに根本から変わってほしいわけじゃない。

 作った設定が生きてるのが嬉しいのであって、それを拒絶されて悪しざまに言われるのは嫌なんだ。

 だから対応をマイルドにして受け入れてもらえるようにと思ったんだけど。


「…………うむ、グランディオンは賢いな」

「え、へへ」


 俺が肯定すると、尻尾ブンブンしながら赤いフードを掴んで照れる。

 それを見てアルブムルナが槍のような杖を頭の後ろに回して口を尖らせた。


「俺の流儀じゃないけど、大神が望まれるならしょうがない」

「アルブムルナは似たようなもんでしょ。船員に紛れて魔法撃って来るんだから。あたしどうしよ?」

「あら、ちょうどいいじゃない、ティダ。あなた少しは将軍としての品位というものを身につけるべきよ」


 淑女姿のスタファに、ボーイッシュなティダは嫌そうな顔を向けた。


 気づくとヴェノス、ネフ、チェルヴァが何やら顔を寄せ合って話し込んでる。


「最初から恐怖で押すなというのは、もしやそういうことかな?」

「深みにというのもそれを示唆していると思われますが」

「大神は智謀に優れていらっしゃいますもの。想像の範囲内だったのでしょう」


 え、なんの話?


「なんの話かしら?」


 スタファが俺を代弁するように聞く。


「あーら、大神のお側にあってわからないのかしら?」

「チェルヴァ、やめよ」


 止めたらなんかみんなの視線が俺に集まった。


「なんの話なのです?」


 イブがまた俺に聞く。


(え、俺が話すことになるの? なんの話か知らないぞ!?)


 これはまずい。

 何か逃げ道はないか!?


 は、話を変えるとか、なんか、なんか!


「…………その前にアルブムルナ、公国へ行く前に言いつけておいた仕事はどうなった?」

「あ! はい! 上空からの地図、できてます!」

「確かに地図があったほうがわかりやすいでしょう。アルブムルナ、すぐに持って来なさい」


 ヴェノスが当たり前のように頷いて指示を出す。


(え、なんで? 何がわかりやすいの!?)


 混乱する俺をよそに、アルブムルナは意気揚々と戻って来た。

 配下の白い怪物、ムーントードも連れて来てる。


「大きいですね。机を用意させましょう」


 相変わらず執事のようにできるスライムハウンドが大きな机を用意させた。

 それ一杯に、わら半紙のような厚手で色がついた紙をムーントードが広げる。


 ムーントードは白くて目のない蛙に似たエネミーなんだが、地図の大きさや机の高さも全て把握しているように動く。

 知性は高くつるっとした皮膚の防御力も高いので、連携して槍で襲ってくる強敵だ。

 海岸線でめちゃくちゃ大砲撃って来るけど、魔法職が一発やり返すと船の上で行動不能になる設定だった。


 ゲームの枠が微妙に外れたここでは、船上以外でもこうして行動できるらしい。


「どうもここは大陸からはみ出た巨大な半島状の陸地でした。東にはまだ大陸が続いてます。そして南に内海を隔てて別の大陸があることも確認しました」


 アルブムルナの説明とともに俺は地図を見下ろす。


 東西に長い半島の真ん中に山脈が走り、そこに大地神の大陸はあるそうだ。

 東西に走る山脈を東に進み、そこから平地を横断した先の南北に跨る山脈沿いに公国はあった。


「公国まで距離はありましたが、元の世界よりも土地が広いのですね、この世界は」


 スタファが改めて言ったとおり、確かに広い。


 ゲームだった時は、大陸といっても今いる大地神の大陸の五、六倍程度の世界だ。

 目の前の地図はまるで元の、日本の存在した世界にある大陸の規模に見える。

 ゲームの大陸すべてを入れても中央の山脈の範囲程度という差があった。


「アルブムルナ、この北にあるのは島か?」

「はい! 夜に微かに火が見えたので住む者もいます!」


 俺が声をかけるだけでアルブムルナは元気に報告する。


 この世界にたぶん電気はない。

 だからこそ夜に空からでも観測できる強い火は文明の証だろう。


「アルブムルナ、私も聞きたいな。他にも灯りを視認できた場所は何処かあるかい?」

「ヴェノス、まずはこの辺り、公国と呼ばれる地に灯りを視認できたかで国力を計るほうが良いのではないかしら」

「あら、スタファ。公国なんて田舎といっていたのに、夜に火がついていたの?」


 ヴェノス、スタファ、チェルヴァが喋りつつアルブムルナに答えを求める。

 当のアルブムルナは、ムーントードたちに指示を出して灯りが確認できた場所を確認していた。

 その間にスライムハウンドが気を利かせてチェスのコマを印代わりに提供する。


 うん、楽でいいな。

 こう、できる部下がきっちり抑えて話を進めてくれる感じ。


「さて、コマの置かれた場所を見るに、大まかな都市の位置は確認できるというところでしょうか」


 ネフが灯りの位置としてチェスのコマが置かれた様子を眺めて言った。

 それにティダが机に半分乗り上がって感想を言う。


「何処の勢力圏かわかればもっといいんだけどね」

「さすがに国境は目に見えないでしょ」


 イブがだらしないティダを引きずりおろす横で、グランディオンが続けた。


「えっと、山と、か、川は、国境になる、と思う」


 俺はNPCたちの話を流し聞きながら、地図に書かれた絵の全体を眺める。


「…………まるで猫だな」


 閃いたまま俺は思わず呟いていた。

 俺には地図として描かれた海岸線が、頭を下げた猫に見えたのだ。


毎日更新

次回:愛玩の世界

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