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3話:神を装う

 突然のテンションがん上がりで好意を口にするチェルヴァに圧されていると、咳払いが一つ上がる。


「チェルヴァどの、発言を求められたのですから大神をお待たせするべきではないでしょう」


 そうチェルヴァに声をかけるのは紫の髪の騎士。

 紫色の鱗が生えた尻尾持ってて、騎士で、リザードマンで、やっぱり人間に対して腹に一物あるから正体ばれるわけにはいかないキャラ。


(そんな設定は覚えてるけど、覚えてるけど、名前!)


 思い出す時間が欲しくて、俺は適当に返す。


「そう急かしてやるな。我が騎士、と言ってはリザードマンの始祖神に怨まれてしまうか?」


 た、たぶん、こう言っても平気なはず。

 リザードマンは人間に住処追われて、確かリザードマンの始祖神が復讐したっていう設定で…………。


(って、いきなり膝から崩れ落ちたー!? え!? 何!? 怖い!)


 俺の感情の乱れに反応したのか、たぶん耳があるだろう辺りで雷鳴が弾けて余計に内心竦み上がる。


「人間などという劣等種に追われ、始祖神さまの宿願成就さえ見届けられなかった私などを、わ、我が騎士と…………! 不肖、ヴェノス・ヴィオーラス! 始祖神さまに劣らぬ信仰を大いなる神に奉りますことここに改めて宣言いたします! 大神復活万歳!」

「「「「「大神復活万歳!」」」」」


 うわ、熱量怖い。

 いや、そうだ。

 このヴェノス、設定上すごいしつこいっていうか、絶対復讐するマンな種族だった。

 だからリザードマンと戦うと、担当エリア越えて追って来るというデス鬼ごっこが始まるはずだったんだよ。


(まぁ、その仕様も結局日の目を見ることはなかったんだけど)


 ヴェノスと一緒に万歳してるリザードマンたちも騎士風の恰好をしてる。

 たぶん部下だろう。


「我が君、先のお言葉の真意をお聞かせ願いたいのです」


 ヴェノスに目を奪われている内に、いつの間にか俺の目の前に進み出てたチェルヴァが憂い顔で訴えた。

 スレンダー美女ってなんかエキゾチック?

 マイナス印象になりそうな表情なのに、逆に美しさが引き立つってすごいな。


「失敗とは、どのような…………?」


 あ、しまった。サービス終了に間に合わなかったと思って言ったんだ。

 けどそんなの知らないこのNPCたちにとっては…………とっては?

 あれ? 知らないのか?


「お前たちは外で何があったか…………うん? ひとり、いや、二人足りないな。イブはどうした?」


 エリアボスが揃ってると思ったけど不在の者が二人いる。

 中でも短くて名前が覚えやすいイブは、砦にいたツインテのボスキャラだ。


 ここで神が出て来るには大陸で行われてる召喚の儀式を成功させることが必要だ。

 もちろん初見ではプレイヤーは阻止に走る。

 阻止した場合に神の代わりに現れるラスボスが、実はイブだった。


 イブも三段変形で最後には神として立ちはだかる。

 設定でイブは大地神の分身であり、設定を上げた時は全く別人格、別神格なので娘に相当するのではと言われた。

 それを受けてレーターもイブを少女として描き、今の形になったのを覚えてる。


「恐れながら、大神が砦を離れるなとお命じになったので。この大事な日ではありますが、守りの要なのでそのまま砦に留めてございます」

「まぁ、そのお役目も果たせず侵入者を出していますけれど」


 申し訳なさそうなスタファと嘲笑うチェルヴァ。


「構わん、呼べ。いや、私が呼ぶか」


 これは思いつきの検証だ。

 ゲームにおいて大地神が分身を呼ぶなんてギミックはない。

 ラスボスがラスボス呼ぶってなんだよって話だ。


 けどゲームどおりに神を召喚するNPCだけど、持ち場を離れるなんて言うゲーム規定にないことをしてる。

 つまりゲームではなしだけど、設定の上ではありなのだ。

 スタファは確かに大地神を奉る司祭で、集まった者たちは大地神の信奉者。

 その括りに入らないのはイブのような分身たちでここにはいない。


(俺が作った設定が生きているのなら、本体である大地神はイブを呼べるはず)


 分身でありながら別神格を与えたイブに信者はいない、奉られぬ神だ。

 そのイブの神格を知り、召喚の儀式を調えられるのは大地神のみと設定していた。


「時空と見通しの女神イブ、ここへ」


 そ、それっぽいこと言ってみたけどどうだ!?

 俺、さすがに召喚のための呪文とかは設定してなかったはずだし。


 心臓も肺もないのに緊張で息が詰まる。

 駄目かと思った時、エリアボスたちの中に光の柱が生じた。


 そこに目をつぶって光に包まれたイブが現れる。


「あはは! こんな大事な日に倒されちゃった役立たずが来たね!」

「ティダ、侵入者通したのは俺たちも一緒だろ。ま、召喚に立ち会えたかどうかは大きいけど」


 ティダと呼ばれた黒い肌に黒い髪、宝石のような碧眼を持つ少女が笑い声を上げる。

 種族はダークドワーフで、紺色のショートパンツ型のサロペットを着てるが、将軍称号を持つエリアボスだ。


 ティダと一緒に笑う白髪をマッシュルームカットにして顔の半分を髪で覆っているのは…………また名前が。


(だが種族はムーントードという蛙系のエネミーが擬態した姿ってのは覚えてる!)


 こいつは二段変形で、海岸線で砲撃して来た海賊の頭であるエリアボスだった。


「…………うっるさい! アルブムルナ、黙れ!」

「俺だけかよ!?」

「ひゃぁ」


 叫んで自らに爪を立てたイブは、血に濡れた爪をマッシュルームなアルブムルナに向かって振る。

 アルブムルナは持っていた槍のような杖で防御壁を築いて血の刃を防ぎ、その後に発生する凍結の追加効果をも遮断した。


 そしてアルブムルナの側に立ってた獣耳の赤ずきんのエリアボスが、可愛らしい悲鳴を上げる。


 そちらに目が行っていた次の瞬間、イブは猛然と蝙蝠の羽根を広げて跳んだ。


(向かう先は俺!?)


 反射的に腕が上がり、瞬間、纏っていた黒雲と紫電が周囲に広がる。

 そして標的設定されたイブに迎撃モーションが発動した。


 フレンドリーファイア効いてない!?


「ぎゃ…………!?」


 イブの上に現れた魔法陣から紫電が雨のように打ち付ける。

 レベルマプレイヤーを想定した威力の上、仰け反り効果か弾き飛ばし効果が発生する攻撃だ。

 イブは白い煙を出しながら、紫電によって俺から離れるよう床を転がることになった。


 広間はしんと静まり返る。


(やっちまったー!)


 俺の内心の叫びなど響かない広間で一つ硬質なヒールの音が立った。


「まぁ、神と言えど大神の御前ではしゃいだ罰ね」


 スタファはイブを虫でも見るようにしながら言い放つ。

 そこにヴェノスが騎士らしい機敏な動きでマントを翻した。


 いや、騎士らしいっていうか騎士ってどんなか知らないけどさ。


「神よ、どうかイブをお許しください。御前での無礼とは言え大神を害する意図がなかったことは明白。どうかお慈悲を」


 うん? え? イブが攻撃しようとしてたの俺じゃないの?


(けど今、迎撃発動したなら、俺が攻撃対象としてロックされたんじゃないのか?)


 周りの反応を見ると、ヴェノスに同意っぽい。

 え、これは、俺の早とちり?


「イブ、申し開きくらいしたら?」


 一連の騒動に驚きもないティダの軽口に、煙を上げながらイブは立ち上がって胸を張った。


「ふん! 別に私は父たる神を恐れはしないもの! けど私に剣を向けたそこの人間が憎らしいだけよ! べ、別に言いつけ守れなかったり、せっかくの復活を見られなかったりした腹いせなんかじゃないんだからね!」


 うーわー…………。


(んえー? えー? イブってこういうキャラだったか?)


 ツンデレって奴なのだろうか?

 なんか思ったより子供っぽいし、娘設定のせいか父たる神とか言ってるし。


「ん? 剣を向けた人間?」

「あ、そう言えば。その生贄いつまでも大神の前に出しとくのも不敬じゃないか?」

「そ、それなら僕の森に、捨てる?」


 あ、思い出した。

 アルブムルナに答えた獣耳赤ずきん、グランディオンだ。

 本性は狼男で初期設定は俺だけど、色んな人の意見を入れた末に何故か男の娘になってたキャラだ。


(いや、それより生贄ってなんだ?)


 俺はエリアボスたちの視線を追う。

 たぶん三メートルくらいある俺の足元に視線が集まっていた。


「召喚の際に使用しました生贄にございます。ようやく手に入れた、封印に関係しないという条件を満たす生贄でしたので、不敬を承知で大神の領地に土足で踏み込んだ不埒者を使ってしまいました」


 スタファが言う間に見ると、俺が今立ってるのがそれっぽい魔法陣の上だった。

 で、そこに横たわってる男が見える。


 年齢は二十代より若く少年っぽい顔つきで、癖の強い茶髪を短く切り、恰好は剣士らしく軽鎧に剣帯、籠手をしてた。

 本来青い瞳が見えるはずの目は瞼が固く閉じている。


「…………え?」


 こんな人物は知らないが、この顔なら知ってる。っていうかつい最近見た。

 ログイン画面に出て来るアバターの立ち姿で…………


(これ、俺の操ってたプレイヤーじゃねぇか!?)


 俺の足元には、ゲームのプレイキャラが死んだように横たわっていた。


一日二回更新

次回:世界の終わりも知らず

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[良い点] 今日から読み始めました。ペロッこれは良作の味っ!?
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