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280話:王国の降伏

 元第一王子ルージスが即位したことで、王国は復興を宣言し、大公の街を暫定首都にすると同時に大公は隠居した。

 自らが情けないと周囲を憚らず漏らし、子息たちも揃って第一王子に権限を全て譲って臣下に収まっている。


(停電で真っ暗になってパニクった、って感じの取り乱しようだったしなぁ)


 ドワーフの所でもやった魔法で大公の街覆ったら、街の人間も盛大に悲鳴を上げていた。

 スポットライトを綺麗に見せる程度の意味だったんだが、大公は口を開けて空に気を取られてこっちを見ていなかったし。

 その後気づいた第一王子に引っ張られたところ、躓いたのか盛大に倒れ込んで動かなくなったのだ。


 震えてたし、大勢が見ている前で相当恥ずかしかったんだろう。

 俺も独り暮らしで停電に遭い、慣れた家の中でもパニクって物に躓いて一人転んだことがある。

 あれを思い出す転びっぷりで、あまりの情けなさに同情心が湧いた。


「王国暫定首都への食糧の輸送は、神が森を押さえたことにより問題なく確保されております。木材に関しては一定の森の範囲を指定して切り出しをさせることにいたしました」


 俺は大地神の大陸で、スタファの報告を聞いていた。

 そこにチェルヴァが並ぶように進み出る。


「切り開いた森は一日あればわたくしの、神としての力をもって、再生可能ですわ」

「うむ、実質無限湧きに近い状況だと聞いている。チェルヴァがいてくれて良かった」

「はぁい、我が君」


 獣の母神的な神格と位置づけと同時に、森を守る権能という設定がチェルヴァにはある。

 それが生きていて、実際の森に作用するとわかったのは新たな発見だ。


 そこで前に出ようとするチェルヴァをスタファが掴み止めた。


「なぁにが神の力かしら? ただの錬金術で成長促進させているだけじゃない」

「それをそこらの人間とは隔絶した速度で再生させるほどの効果に引き上げているのがわからなくて?」


 早口で言い合う二人は結局喧嘩になるようだ。


(錬金術の薬はゲームにもあったから、そこが神云々じゃないのはわかってるんだけどな)


 ゲームでは、装備やアイテム作成で木々の伐採が必要になる。

 ただこれはそのままだと規定数を手に入れるまでに、次の伐採時期まで一週間待つことになるのだ。

 そのため時間があるうちに溜めておくことを推奨される消費アイテムが各種木材で、商人ジョブのプレイヤー以外もよく市場で売っていた。


(そう言えば好んで武器代わりに振り回してる妙なパーティがいたな。丸太が最強とかなんとか)


 何かのネタプレイだったと思うが、オンラインだと変な遊びはよくある。

 同時にオンラインだと別のプレイヤーも伐採してるため、薬で成長促進させて三日に短縮することもよくあったプレイスタイルだ。

 ついでにマーキングにもなっていて、薬を使ったプレイヤーかプレイヤーとパーティを組んでる者しか伐採できなくなる仕様。


 そのマーキングを使って木材を占有していたプレイヤー集団をBANしたこともあったが、今は現実でそこまでの効果はない。

 薬を使ったチェルヴァが目印代わりに斧で傷をつけると、誰でも伐採できるようになる。


(まぁ、興味で木の生長を見張ってた奴が、チェルヴァに遭遇して殺されるなんてこともあったし、復興が落ち着いたら普通に三日で育つ錬金術アイテムを王国に売るか)


 俺がそんなことを考えていると、喧嘩するスタファとチェルヴァの後ろからティダが進み出た。


「なんか終わらないみたいなんで、帝国軍のほうの動きご報告しますね」

「うむ、王国内にいる帝国軍だな?」


 そこはスライムハウンドから事前に聞いている。

 新帝率いる帝国軍は王都を落とし、アジュール国王の死体を見つけられないでいる内に、新たな国王が即位を宣言したのだ。

 暫定首都の宣言までしたことで、帝国が戦争を終わらせる勝利宣言をしても効果は微妙なことになってしまっている。


「今までが神のお導きでの快進撃。それを失くした今、足並みに乱れが出てます。元からあの新帝は軍を動かす才覚なしなんで、これ以上の進撃はないものと」


 あっても邪魔すると言わんばかりのティダ。


「うむ、皆よくやった。私はこの結果に満足している」


 それらしいことを言うが、実際はなんか落ち着くところに落ち着いたという感覚だ。


 それをやったのはNPCで、俺は見てただけなのだから。

 うん、ここは褒める方向に行こう。


「それぞれが考え、努力し、行動した結果が何よりも嬉しく思う」

「そんな、神のお導きあってこそですよ」


 まだ褒め出したばかりなのに、アルブムルナが謙遜する。

 海賊キャラはどうした。


「最初に王統を戻すとおっしゃった故の結果ですから、神の先見こそ重要であったのです」

「帝国のほうもそうでしたよね。新帝、すごく思うとおりに動かされてて。神がやっぱりすごいんですよね」


 直接は関わっていないヴェノスとグランディオンも俺を褒め始めた。


「ふん、私の失態まで組み込むなんて。すごいと言えなくもないけれど、それはそれとして失態の挽回があると思ったのに…………」


 イブが不満を漏らすと、ネフはわざとらしくゆっくり両腕を広げてみせる。


「おや、共和国に潜む者を相手にしただけでは足りないとは、欲の深いことで。それがしなど、神のお言葉のみでこの身を満たされるような心地だというのに」


 そうして口々に俺をほめそやし、気づけば喧嘩していたはずのスタファとチェルヴァも混じっていた。


(俺が褒めるはずが!? やめてくれ、さりげなくハードルを上げるのをやめてくれ!)


 これからどうするかなんて、考え俺にはない。

 何が進んでるか聞くだけでもこれだけ悩んでるのに。


 ただやはりNPCをがっかりはさせたくないし、何より安全第一だ。

 ゲームらしくするにもしても、NPCが再起不能になるようなことはさせられない。

 そのためにも神らしく聞かないといけないという、これはもう俺の命題か?


「私が最も懸念することは一つ。イブのように不正に攫われる者が現われないことだ。もちろん他の誰が脅かされたとしても、私はお前たちを見捨てはしない。だが一番なのは、そのような屈辱を受けないことだ。そうだろう、イブ」

「え、そ、それは、もちろん! でもそんな…………いきなり、私を思ってるみたいな、こと、言われても…………」


 何故かモジモジし始められたんだが、俺は反発覚悟だったのに。

 というかそれで少し話を広げてな?

 まさか方向性が違う反応って、やっぱり娘って難しい。


「全く、そんなことしか意識が行かないなんて。神としてまだまだ未熟でしてよ」


 何故かチェルヴァが窘めると、スタファも大いに頷く。


「神の懸念、そのための手立て、すでに示されているのだから、これからはそこを強固にするための策を上げよという言外のお達しでしょうに」


 なんの話? いや、何処に飛び火したんだ?


「なるほど、そのために帝国、王国、共和国ですか。最初にライカンスロープ帝国を落としたのも今の状況を作るためと」


 今度はヴェノスがなんだかわかった様子で頷いてるんだが?

 ティダも真剣に検討するようで、顎に指を当てる。


「今神に服してる国だね? 後は議長国を今ヴェノスがどうにかしてて、エルフのほうはチェルヴァが落としたんだよね」

「あ、そう言うことか。敵と味方が交互になってる。この状態だと下手に動けないんだ」


 アルブムルナが指を鳴らしてなんか言い出した。


 だが言われてみれば、今この地は西の端にライカンスロープ帝国、東の端に神聖連邦や公国がある。

 そして大陸中央に王国と南北に共和国と帝国が並んでるわけだ。

 王国から西、ライカンスロープ帝国の間は、北からエルフの国、ドワーフの国、議長国。

 エルフとドワーフの国の東にノーライフキャッスルというダンジョンを根城にするクリムゾンヴァンパイアがいる。


(で、ライカンスロープ帝国とエルフの国の海の向こうには、竜人多頭国とかいう国か。確かに敵と味方が交互になってる。手を結んでもすぐには加担できない状況だ)


 俺が考えている間にイブが納得の声を上げた。


「あぁ、今までみたいにこちらに気づかれず動くことは難しく敵と味方を配置したのね。確かに必ずこちらに味方する場所を通らなければいけないとなれば、私をさらったような真似はもうできないわ」


 なるほど? そう、なのか?

 いや、うん、そうだといいな。


 前は敵が王国だと思ったら帝国へ逃げられ、さらに追ったら神聖連邦だったという混乱があった。

 あの動きはもうできないと思っていいだろう。


「さ、さすが神です! つまり敵が動きにくいように国々を色分けしたんですね!」


 グランディオンが言うとおり、現状国々は敵と味方に色分けできるので否定はしない。


(うん…………全部行き当たりばったりですけど!?)


 何も考えてなかったことがすごいことのように言われるこの状況はなんだ?

 俺に汗腺があったら今、滝のように脂汗を浮かべていただろうほど、NPCたちはまた俺を褒めて騒ぎ始める。


「…………騒ぐな」


 つい声を出すとNPCはすぐさま膝を突いて俺の言葉を待つ姿勢を取った。


 それはそれで困るんだよ!


「…………まだ、ことは済んでいない。ましてや途上だ」

「おっしゃるとおりでございます」


 スタファがすぐさま応じる。


「これより、王国、共和国の復興を行うと同時に帝国を分割、縮小。それにより国力を落として三カ国対等の和平、軍事の同盟を結ぶ次のステージに移行いたします」


 つらつらと語るスタファに、俺は出そうになる制止の言葉を飲み込んだ。


(もう、うん、ここは任せよう!)


 自分が愚者なのはわかってるし、神どころか王や代表者なんて柄でもない庶民だ。

 俺を慕うNPCがいて、みんな優秀だということは今までのことでわかっている。

 今はこれを喜ぼう。

 俺が作った設定、捨てたもんじゃないだろって。


 十年前、設定を練る段階はそれ以上前のことになる。

 俺だって大仕事に勢い込んで作り込んだんだ。

 それがこうして実際に動いて、設定どおり優秀でいてくれる。

 惜しむらくは、俺はこいつらを生み出したという点では神と呼ばれてしかるべき存在だが、こんな優秀なNPCたちに傅かれるほど頭のできが良くないところだ。


「…………つきましては大地神を讃え奉る大神殿の建造を」

「ちょっと待て!」


 今! 絶賛! 俺そこまでじゃないって思ってたんだよ!?

 いきなり奉らないでほしいんだよなぁ!?


 俺は飲み込んだはずの言葉を盛大に吐き出すこととなった。


隔日更新

次回:ライアル・モンテスタス・ピエント

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