表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/326

251話:ネフ

他視点

 さて、面倒なことになりましたね。


 傾ける者、赤髪などと呼ばれる赤い分身は戦闘態勢、というかイブがすでに攻撃してしまった。

 補助役とはなんだったのか?


「イブ、先ほどの攻撃はあなたでは耐えられません。こちらに戻ってください」

「う、しょうがないわね」


 イブの一撃で木のゴーレムが燃え上がり、行動不能となった。

 けれど赤髪本体にダメージはなく、そして今もゴーレムが次々に生み出されている。

 攻守の役割が別れているそれがしたちの力を見て、数に頼ることに決めたようだ。


 これは完全に、こちらのバランスの悪さを見抜かれたとみていい。

 そしてゴーレム相手ではそれがしのカウンター攻撃が赤髪本体に及ばない。

 ゴーレム自身が瓦解したらそれで終わりとなるので、カウンターすら放つ意味がなかった。


「イブ、あなたはそれがしよりも戦闘経験豊富なはずですね?」

「そうよ?」


 素早く戻ってきたイブが、わからない顔で返事をする。

 どうやら経験はあっても戦いにおける駆け引きには縁がなかったようだ。


 それがしからすれば、先ほどはそれがしの防御力でしのいでもう一度同じ攻撃を誘発すべきだった。

 攻撃の質を見極めてから、イブが確実に仕留められるところで動くべきだ。

 ゴーレムを生成した時点でネクロマンサーというジョブはわかったのだから、守りに当てているゴーレムがいることも予想できたはず。


「これは持久戦ですかね」

「どうしてよ?」


 襲いかかって来たゴーレムを切り捨ててイブが不満そうな声を上げた。

 すでに数に任せて我々を分断しようと動かれているのに。

 対処するイブは、力任せに圧殺して留めているだけ。

 それがしはイブにゴーレムの攻撃が行かないよう自ら受けるということをしていた。


「ゴーレムは安価に増やせて物量で押せます」

「まさか。ゴーレムなんてやわで盾にもならない、あら?」


 これは、何やら大きな齟齬があるようですね。

 実際こちらを殴りつける土のゴーレムは、自壊も恐れず力任せに襲ってそれがしの防御にも関わらずごく微量ながらダメージを与える力がある。

 これだけで、大地神の大陸にいるエネミー並みの強さは確実だ。


 イブもさすがに相手にしているゴーレムの硬さを理解して首を傾げる。

 今はまだ余裕だけれど盾にもならないは過小評価がすぎた。


「そう、そっちの黒い分身は本当に封印されたまま、以前の世界を知らないのね」


 赤髪がゴーレムの向こうからそんな確信めいた言葉を漏らす。


「そして、お嬢さんはプレイヤーしか知らない。…………何処かのボスね」


 今の会話で何か判断材料があったようだ。

 つまり、プレイヤー以外のネクロマンサーはそれがしが知る能力。

 けれどプレイヤーはイブが言うような格落ちの能力という可能性か。


 ただ今はその齟齬の理由を求める必要はない。

 ボスと知られたことが問題だ。


「ボスならボス部屋やダンジョンで与えられる権能が削がれているはず。神性を持つ基礎能力の高さがあっても、その魔法剣を振る以外に手はなさそうね」


 赤髪はどうやら頭の回るタイプ、しかも独自に国を荒らすセンスと能力を与えられている。


 こちらも物量で対応できればいいが、この場では無理なこと。

 それがしが持つ召喚はランダムであり、雑魚を増やしても混乱と被弾が増えるだけ。

 イブはダンジョン内でなければ悪魔を呼べなかった。


「替えが利く分身だったとは言え、放っておいた神は早い段階であなたを切り捨てたようですね」

「どういうことよ、ネフ?」


 相手の動揺を誘おうと赤髪に向けたのにイブが反応した。

 ただ赤髪も聞き捨てならなかったようだ。


「替えが利くですって? 私はあなたたちと違ってかつての世界でも散々使い倒されたのよ。替えが利くならもっと早く逃れられたわ」

「ですがこちらで呼ばれることはなかった」

「それは私が応じなかっただけよ」

「本当にそうでしょうか? 神自身があなたを呼ぶ気もなかった状況を考えるに、それは自己評価が高すぎると言わざるを得ませんね」


 それがしの言葉に剣呑な目が返る。

 頭は回る、こちらの弱みも見抜いた。

 けれどこの我の強さが、弱みになる。


 イブはひたすら迫るゴーレムを潰すことに専念してもらう。

 今少し時間を稼ぐだけなら、赤髪が増やす勢いと拮抗を保っていられる。

 この状況を打開するなら、赤髪は一度退いて今度こそ最初の一撃をイブに入れるべきだ。

 そしてそれがしだけを相手に持久戦に持ち込めばいい。


 それをせずに応じてる時点で、まだ隙がある。


「王国の王城に、赤い服を着た美女を一人、神は派遣なさったのを知っていますか?」

「…………はぁ?」


 あからさまな反応だ。

 自身と共通項があるため、聞き捨てならない。

 それだけ我が強く己の行いを特別視し、プライドを持っていたということ。


「もちろん、させたのはあなたがしてきたようなことですよ。神の指示の下、ただ美女に化けて人を食らうだけのエネミーが、今や王国を割る大計の中心にいる」


 言いながらあえて被弾しつつ前へ出た。

 不安になって肩越しに見れば、イブはちゃんとそれがしを盾について来ている。


 ダークドワーフの将軍と組んで距離と役割の分担はきちんとしていた。

 腹を探ることはできなくてもその辺りのバランスはとれるようだ。


「すでにこの世界には、同じ役割を持って生まれた分身がいたにもかかわらず」


 それがしはさらに前進する。

 眦を釣り上げた赤髪は退かない。

 それどころか力任せに攻撃を指示し始めた。


 勢いは増すものの今ある戦力を増やしたところでそれがしは止められない。


 もう少しか?


「なるほど、自らの下にいる顔かたちの美しい信徒であれば誰でも代用可能。神はそれとわかっていてあなたを呼び寄せる必要を感じなかった」

「ただの信徒が、私以上であるはずがないでしょう!?」

「ですが実際、王国の現状をどう見ます?」


 まだ言い返そうとするのを無視して、それがしは続けた。


「帝国の侵攻があり、共和国が立ち、そんな中で特別悪政も行っていない国を傾けられるとでも?」

「ぐ!?」


 自分で語った特性だ。

 この赤髪が国を傾けるには悪政のある国でなければいけない。

 それで言えば王国は目立った悪政などなかった。


 その上脅威にさらされており現状は明らかな愚行。

 それを唆し、選ばせ、なさしめた。

 それこそ神の御業だ。


「あなたの代わりなど、神ご本人がいればどうとでもなるのですよ」

「うるさい!」


 赤髪がようやく最初の攻撃を今一度それがしに叩き込んだ。

 これだけ時間をかけなければ発動できないならば、次の同じ攻撃は警戒しなくていい。


 ただ向こうもそれがしが耐えることは想定内であったようで、別の能力を発動するようだ。

 自らにゴーレムを纏って鎧のようにする。

 そのまま大きく腕を振りかぶって正拳突きをこちらに向けた。

 途端に腕にまとっていたゴーレムが矢のように飛んで来る。


 周囲のゴーレムと同じ素材とみて避けずにいると、額に当たって爆散した。

 周囲のゴーレムにも被害が出るが、赤髪は気にせずもう片方の腕のゴーレムも飛ばす。

 体感としてはゴーレム単体で殴られるよりも少し攻撃力が上がった程度。


 残りは三分の一だがまだ耐えられる。

 それがしは前進を選んだ。


「おや、でしたらお聞かせください。いったいあなたの何処が神に勝ると? 自由を得たとおっしゃったが本当に? それは不要と見限られただけ…………」

「負け惜しみじゃない」


 それがしの言葉を奪うようにイブが鼻で笑った。


「求められてこその分身。作られた意味をなさなければ存在するだけ無駄よ」

「知ったような口を!」

「知ってるわ。かつての世界で神の命令においてただ一人防人を務めたのは私よ。自分だけが神に従っていたなんて思い上がらないことね」

「無為に殺される思いなどわからないくせに!」

「知ってるって言ってるでしょ」


 イブの馬鹿にした雰囲気に激高する赤髪は、そのせいで攻撃が短調になっていた。

 ゴーレムの動きも読みやすくなっており、それがしも避けられる攻撃は避ける余裕が生まれる。


 そんな隙を突いてイブは剣を持ち変えた。

 それは光属性のある魔法剣で、ネクロマンサーが操るゴーレムにとっては弱点となりえる。


「ついには世界が終わっても私を倒して神の謎を解き明かす者も出ないなんて死に損だったけどね」

「え?」


 赤髪は耳を疑い、今までにない大きな隙ができた。

 一撃を受ける覚悟で出ようとしていたこちらにとっては好機でしかない。


 それがしは赤髪の正面に立つと、大ぶりな突きを掴み止めて、もう片方の腕も掴む。


「おやおや、ずいぶん驚いた様子だ。それではあなたは、世界が滅んだことを知らずにいたわけですか」

「そ、そんな! 嘘よ!」

「いえいえ、嘘など、我が神に誓って。大地神が仰せになったのです。プレイヤーたちが世界の終わりを祝っていたと。世界の終わりは封じられた大地神を除いた神々が決めたことだったと」

「だ、誰も、そんなこと…………聞いてない!」

「誰を想定してのことですか? 聞くとは五十年前とやらの存在ですか? 我々はこの世界に至って、一年経つかどうかですよ?」

「は、はは、まさか、それでこの状況を? 馬鹿げてる…………う!?」


 それがしは赤髪に正対しており、豊満な胸から剣先が飛び出るのを見た。

 赤髪の背後からイブが魔法剣で貫いている。

 もちろん力任せだからこそ、確実に命を狙った一撃であり、近いそれがしにも剣は届いた。


 けれどスキルで一切の攻撃を一時的に無効にしている。

 それによって赤髪はこちらの拘束を振りほどけず、イブの渾身の一撃にも傷一つなく。

 イブが赤い髪の向こうで不服そうにそれがしを睨んだ。


「さて、これでこの国に邪魔者はいなくなりました。あとは正統な後継者が凱旋を行い、神へと捧げれば全て治まります」

「せい、とう? あ、まさか…………死体、ない、王子?」


 赤髪は答えを得て憎々しげに歯噛みする。

 全て神の手の上、逃げ出して自由など無視された分身の夢想でしかない。


「神に必要とされてこその分身。許される中で踊り遊ぶほうがずっと自由ですよ」


 最後に同じ神から生まれた赤髪に聞かせると、それでも我の強さを感じさせる瞳で睨みつけたまま、力尽きて行った。


隔日更新

次回:傾国の美女

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ