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247話:最速攻略

 俺はエルフの国へ行っていたチェルヴァを出迎えるために、宝石城へ赴いた。

 湖上の城とはネフの教会がある台地を挟んで東西にある。

 それでも宝石城は大地神の大陸というフィールドの最奥に位置するので、転移以外だとずいぶんと時間がかかる距離だ。


 もちろん俺は転移を選んで、宝石城へと向かった。

 すでにチェルヴァが待ってるかと思ったら、宝石城への凱旋を俺に出迎えてほしいんだとか。


「すでに大地神の領域に戻っているのならば、神を呼びつけるのではなく自分で、私の、城へと足を運べばいいものを」


 同行を求めたスタファが、待っていた小神に段取りを説明されて不満を吐いていた。

 ともかく俺はスタファと一緒に、宝石城の正面玄関前で、凱旋するというチェルヴァを待つため立っている状態だ。


 まぁ、俺は足元浮いてるから立ち尽くしても疲れなんてないんだけどな。


 高く長い宝石城に至る階段の上から見下ろせば、すでにチェルヴァを迎えるため、宝石城の城下に住む小神は沿道に出て待っていた。

 どうやら小神の末裔であるエルフも呼ばれているらしく、以前見た時よりも人数が多い。


「ふむ、これほどに数を揃えての出迎えか。少しワクワクしてくるな」


 まるで祭前のような賑わいだ。

 それを特等席で見れるのは何やら得した気分になる。


 俺とは対照的に、スタファは疑うような顔で正面の道を睨んでいた。


「こうして神をお呼びたてするならば、確かに企み合ってのことでしょうが、いったい何をするつもりでしょう? 神としての品位を貶める行いでなければいいのですが」

「決して邪悪な企みでないことはお約束いたしましょう」


 宝石城にいる小神が、スタファの言葉を受けて答えながらも、一切そちらを見ず俺に対してのみ訴える。

 うん、人間は嫌いで他の神でない種族はどうでもいいって設定した気がする。


 するけど、あからさますぎてちょっと反応に困るんだが?


「う、む、わかっているとも。何を見せてくれるのか楽しみだ」


 そんな話をしていると、城前の真っ直ぐな道の向こうに軽やかに踊る人影が現われた。

 薄衣しか纏わない男女だ。

 裸足で踊りながらゆっくり近づいてくる。


 まだ距離があるから良く見えないが、相当薄くないか、その服?

 近くで見たら色々透けてるんじゃなかろうか?


「しかし、あの踊り子はエルフか?」

「そのように見受けられますが、我らの知る者ではないようです」


 小神も詳細は知らないらしく、見慣れないエルフの姿に首を傾げた。


 エルフもプライド高い設定をゲームではしてある。

 あんなふうに見世物らしく踊るような設定はなかったはずだ。

 ライカンスロープ帝国で情報集めた結果、ゲームと同じだろうと結論付けた。

 そのため、チェルヴァ一人で対処可能と思い派遣したのだが、違ったのだろうか。


(いや、待てよ。もう一つ設定していたな)


 俺はエルフに対して特記した事項を思い出して頷く。


「ふむ、予想どおりだったか」


 ゲーム設定では小神から生まれた種族がエルフだ。

 そして人間嫌いは共通であり、また親種族である小神から生まれたことを誇り、小神には服従するという設定があった。

 きっとそこも、この大地神の大陸にいるエルフと同じで、だからこそチェルヴァのために見世物のようなことも引き受けているのだろう。


 ここのエルフとの違いは、沿道のエルフと見比べればわかる。

 色味だ。


(ゲームでレベル帯をわかりやすくするために、毛先の色違うんだよな)


 踊る姿をよく見ると、全体は金髪なのに、毛先は緑色をしているようだ。

 メノウの街でも見たが、ここのエルフはオレンジ色をしている。

 一番レベル高いエルフは確か白に設定していたはずだ。


 それで言えば緑の毛先はレベル四十台のエネミーだった。

 つまりは雑魚だ。


「奥にあるのは籠? 輿?」


 スタファはエルフの踊りになど興味はなく、さらに奥に続く列を見極めようとする。

 踊り子の奥には宝箱のような者を持った列がある。

 さらに奥を見れば美女の列が華やかだ。


 そして直線の道にようやく姿を現したのは、長身なエルフの男たちが担ぐ神輿のような大きな物。

 周囲には香の煙や花びらを振りまく少女姿のエルフもいる。


 神輿自体はつやのある布で飾られ極彩色の装飾がされていた。

 そんな布の隙間からは、見慣れた大角が覗いている。


「角が大きすぎて収まっていないじゃないの」

「わかりやすくていいのではないか?」

「大神はさすがでございます」


 文句を言うスタファに答えたら、小神が笑顔だ。

 いや、何がさすがなんだよ?


 だいぶ先頭が近づいてくると、踊りながら楽器を操る者がいることもわかり、軽快な音楽が俺にも聞こえる。


(なんだっけな。こんなパレードの絵画があった気がする…………あ、クレオパトラだ)


 ローマに富と贅を見せつけるために、クレオパトラが派手派手にした船でのパレード。

 自身を女神として演出し、アントニウスを惚れさせたという…………。

 

(そんなことしなくても女神だったな、チェルヴァ。うん、まさか俺を惚れさせるための演出なわけないよな)


 まずこんな派手なことされて惚れるような感覚、庶民の俺にはない。

 だがよく見れば、何やらレア素材らしいものも蓋を開けた箱の中から見えている。

 宝石類はあるから、あえて素材にしたんだろうか。

 これはちょっと惹かれるかもしれない。


 そうしたものを眺めて、ようやく神輿がやって来た。

 チェルヴァが勿体ぶって降りた上で、跪くのを待って声かけるよう小神から指示を受ける。


「良く戻った、チェルヴァ」

「大神御自らの出迎えなど、身に余る光栄」


 うん、要請されたからなんだがな。


「ち、演出しておいて」

「スタファ、弁えろ」

「は、申し訳ございません」

「ふふん」


 すでに険悪なんだが。

 勝ち誇ったチェルヴァと歯噛みするスタファを、俺はどうすればいいんだ?


「と、ともかく中へ。硬い石の上にチェルヴァを留めるのは気が引ける」

「あぁん、優しいお言葉。さすが我が君、慈愛のお方」


 うん、仰々しく戻ったがどうやらいつもどおりだな。


 俺は小神に案内されて玉座の間に向かうことにした。

 最初に召喚された場所だ。

 そして、大地神の大陸最奥のボス部屋でもある。


「早速だが報告を聞かせてもらおうか」

「もちろんでございます」


 なんか広間に人揃えるだけで小一時間かかったんだが。


 チェルヴァを先頭にパレードにいたエルフや見なかったエルフが並んでいる。

 そして宝石城に住む小神たちも広間に整列しているようだ。


「ライカンスロープ帝国が用意した船に乗り、海路にてエルフの国へと至りました」


 陸路もあったが、大地神の大陸から行くとクリムゾンヴァンパイアの住処を通らなければならない。

 ライカンスロープ帝国からだと、山越えが必要になる。

 海路が一番正確で安全だと言われてそっちを選んだ。

 ただし問題は、エルフは他国と交流を持たないこと。


 港に入れても下船を拒否される可能性については言われてあった。


「下船の問題はどうだった?」

「ほほほ、面白いことがありましたの」


 チェルヴァが笑うと、後ろのエルフたちが揃って顔を下げる。

 どうやら恥ずかしがってるようだ。


「わたくしが何かわからない蒙昧ばかりであるのに、この者のことはきちんと伝承しておりまして」


 チェルヴァが手を揺らめかせると、そこにダークエルフが現われる。


「ダークエルフを同族とでも思い違ったか?」

「まさか。そのような恐れ多い。そこまでの愚物であるならば、わたくしが全て平らげて戻っております」


 チェルヴァ曰く、ダークエルフは真なる神の守りであるとエルフのほうでは伝承されていたという。

 つまり、小神という先祖の神ならダークエルフを連れているというゲーム設定を知っていた。


 チェルヴァの姿とライカンスロープ帝国の船ということで、最初はハーフを疑われたそうだが、ダークエルフが現われたことで神であることにようやく気づいたという。


「半端な混じり者とは言え、神の系譜の末席。長命故に伝わる伝承はあったようですわ」


 聞く限り、チェルヴァとダークエルフが下船したところ即落ちだったようだ。


 時間がかかるようなら俺も転移してエルフの国で合流予定だった。

 こんなに早く戻るとは、本当に速攻だ。


「我が君、どうか憐れな末裔にお声かけを」


 チェルヴァがいきなり振って来た。

 何も思いつかないぞ。

 そう思っている内にダークエルフがエルフたちのほうを向く。


「このお方こそ、我らダークエルフを生み出し、清らで可憐な小神を守るべく立った大神である」


 小神も応じて宣言する。


「我らが麗しき神の司の庇護者にして、大地を司る大神であらせられる。謹んで傾注するように」


 その場の全員の意識が俺に向かった。

 だからこういうの嫌なんだって!


 けど言わないといけない。

 しかも神っぽく、偉そうに?

 いや、それってどうすればいいんだ!?


「…………従えとは言わない。だが、私はチェルヴァを信頼している。そのチェルヴァを失望させるな。お前たちはそれだけに腐心せよ」


 正直低レベルで使いどころもないやつらだ。

 この大地神の大陸に迎え入れるにも多すぎるし、面倒しか想像できない。

 なのでチェルヴァに丸投げする。


 そんな思惑での台詞だったんだが、何故か誰も返事をしない。

 短すぎた? 駄目?

 じっと誰も動かないのが怖い!


「あぁ、神よ! 我が君、大いなる神たるお方。わたくしをそこまで思ってくださるなんて!」

「小神が思い上がらないで。神はお優しいからって調子に乗っているなら、この大地神の司祭である私が、頼りにならない小神なんて必要もなく対処をします」


 何故かスタファがやる気満々で言い返す。

 今日のチェルヴァはそれでも余裕があった。


「ふふん、我が君。一つお聞かせくださいませ」

「どうした?」

「この世界にある国々を従えるにあたって、最もことをスマートに、迅速に、より良い形で成した配下は誰でしょう?」


 スマートはよくわからんし、より良いもわからん。

 だが一つ確かなことがある。


「うむ、最速は間違いなくチェルヴァだ。よくやった」

「ふふーん!」

「ぐぬぅー!?」


 高い声でささやかな胸を張るチェルヴァと、低い声で胸と言わず体中を震わせるスタファ。


 どうやらタイムアタックの勝者は決まったようだった。


隔日更新

次回:猫の頭

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