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244話:帝国の新帝

 ネフとイブが、王政復古で乱れた共和国へと発った。

 転移はすでに逃亡したイテルから掴まれてる可能性があるため、慎重を期して徒歩での入国を目指す。


(ネフは成人男性の見た目だから大丈夫だろうが、イブは大変だろうと思ったんだが。休み休み行けと言ったら、最終的に顔を真っ赤にして怒られたし)


 エリアボスを任されたイブとしては侮辱と取ったのかもしれない。

 ただ、心配されても嬉しくなんかないんだからね! なんてテンプレ入れられると、本当に怒ってるかどうか判断がつかない。

 俺はどうやらツンデレには萌えないようだ。


 実際心配なんて感情を横において、性能面だけを見ればやはり侮辱的だっただろう。

 イテルを不意打ちで殺しきれなかった相手は脅威かもしれないが、ネフなら余裕で耐えきることは想像に難くない。

 イブも通常エネミーを倍する体力を持つエリアボスだ。

 イテルでも生き残れたんだから イブがやられる道理はない。


 ないんだが、胸に湧く心配とはまた別問題なんだろう。

 やっぱり一度、この世界の人間にしてやられて、誘拐されてしまったというのが俺の不安を掻き立てる。

 そしてそれを心配していること自体が、イブにとっては屈辱なんじゃないかとも思う。


「むぅ」

「如何されましたか?」


 今日も書斎にいる俺に、スタファが声をかける。

 そして俺の手元に適当に広げた資料を見て、合点した様子で頷いた。


「帝国の新帝のことですね。確かにあの時は色々重なって報告が後になってしまいましたし。ちょうどアルブムルナが戻ってきていると聞いておりますのでお呼びいたしましょう」

「そ、そうだな」


 違うけど言えないから話を合わせておく。


 アルブムルナが呼ばれて書斎にやってくるまでに、資料に何が書いてあるか目を通さないと。

 この城内は転移禁止だ。

 みんなわざわざ歩いてくるから時間はある。

 その分NPCは時間を取られてるわけだが、今度俺のほうから行くべきか?

 うん、時間稼ぎにもなるし、何か言われた時はそう言って逃げよう。


「神のご指示による策を実行しました。それによって問題なく新帝が即位しています」


 うん、この時点でアルブムルナが何を言ってるかわからん。

 俺が何指示したってんだ。

 頼むからそこから教えてくれ。


 いや、そう言えばクリムゾンヴァンパイアが来るってバタバタしてた時に何か言った気がするな。

 だがそれって、明確な指示してなくないか?


「ティダと、私が協調を指示した者はどう動いた?」


 これくらいなら聞いても大丈夫だろう。

 神として、なんでか全部掌握してると思われてるから困る。

 何処までだったら神っぽいんだか。


「神の懸念は最もですがうまく行きました」

「神が手ずからお教えになったのですから当たり前でしょう」


 スタファもなんでか、わかってる前提で喋ってる。


「劣ることは司祭として恥。けれど神に手ずからは羨ましいわ。でも手を抜くなんて不敬もできないし…………」


 さらには何やらぶつぶつと言い出した。

 俺にも聞こえたってことはすぐ側にいるアルブムルナにも聞こえているわけで。

 目のない顔でスタファを見た。


「キャラ違うし、やってもティダみたいに世話焼かれるような展開にならないだろ」

「う、そう、そうよね。やはりここはできる神のしもべとして誇り高き司祭の役を全うしてこそ愛顧も増すというものね」


 またもぶつぶついうスタファから、アルブムルナが今度は俺に顔を向けた。


「気にしてもしょうがないみたいなんで、報告しても?」

「うむ、お前のその冷徹さは評価しよう。頼もしい限りだ、アルブムルナ」


 俺なんて、スタファの奇行にフォローもできず黙るだけだ。

 それに比べればフォローした上で駄目だったら速攻見限って自分の仕事に戻る。

 アルブムルナって本当できる奴だよな。


 正面から戦うと弱いなんて設定つけたのが悪い気さえするのに、そんな俺が褒めたら照れるようだ。

 その上でまた切り替えて報告を続けてくれた。


 そして聞いた結果。


(俺、そんな策謀指示した覚えがないんだけどなぁ)


 第四王子使って他の王子のつり出しとか、それによって皇太子を確実に皇帝へとか、全くもって覚えがない。


 同時に内通者にしていた王子を、新帝に接近させているそうだ。

 また、放り込んだアラクネと姫も同じく動き、新帝の信頼を掴んだとか。

 これ、俺以外が優秀だから成功してるよな。


「第四王子が突っ込んできたあの不測の事態の時に、ここまでの青写真を瞬時に描いて実行なさるお知恵に、正直震えました」


 アルブムルナは口元に引き裂くような笑みを浮かべて頭を下げる。

 うん、お前はすごいよ。

 なのになんで俺が全部計画の上だと思った?

 全部成り行きだし、なんだったらそれを俺がやろうとしてるなんて思い違ってやっちまった、アルブムルナのほうがすごいのに気づかないかなぁ?


「全ては実際にこなした者の功績である。もちろん、指揮を取ったお前たちのな」


 だから俺を必要以上に持ち上げるんじゃない。

 神らしさもよくわかってないのに、ハードルばっかりが上がってる気がする。


「それでスタファ、王国のほうの動きも聞きたいのだが?」


 俺は無視する形になっていたスタファに逃げると、ようやく正気づいて応答した。


「失礼いたしました。シミュレーションに夢中で、いえ、こほん」


 うん、今さらだから突っ込まないぞ。


「王国には帝国でのことは悟らせないよう情報統制をしております。弱腰の皇帝と侮るまま、王国に備えをさせない算段です」

「新帝のほうには王国への侵攻に踏み切らせるために周囲のほうから手を回しています」


 アルブムルナも応じることから、この辺り手を組んで協力するようだ。


(えーと、つまり? 新帝に王国乗っ取らせるのか? なんか違う話だったような?)


 記憶を探ろうと思ったが、今この二人がいるなら俺が考えなくてもいいか。


「ことの進行に問題はあるか?」

「神のお膳立てあってしくじるはずもありませんよ」

「王国も恙なく神の手の内に収まっております。」


 どちらも自信に満ちた笑みで応じるので大丈夫そうだ。


「お前たちの献身を私は知っている。そして信頼している。励むように」

「「はは!」」


 これでそれっぽいかな?


「ですが、神よ」


 突然スタファが言うので、俺はない汗をかきそうになる。


「共和国の王女を小王国へ向かうことを、アルブムルナにお伝えにならないのですか?」

「む、うむ、そうか。言っていなかったか?」


 そう言えばそんなことも決めたな。

 あぁ、びっくりした。


「王女は今、神が目をつけた探索者と一緒に行動してるはずだけど?」

「そう、その後のことだ。アルブムルナ」


 共和国での政変は、全員いる場でのことだったから聞いてる。

 その後の対応は、アルブムルナが帝国に行ってたから聞いてないんだな。


「王女には、修業が終わってから小王国へ南下し共和国を目指すことを許可した」

「今は共和国の未確認の敵に対応するためネフとイブが赴いているわ」


 俺に続いてスタファが言うと、アルブムルナは大きく頷く。


「レベルあがってちゃんとあの装備着れるなら、確かにその動きもありだとおもい…………。あ、なるほど。時期的に王国侵攻の頃。つまりそれに合わせてレジスタンスも動かせばいいんですね」


 手を打って何やら納得の様子だけど、俺は何も納得できない。

 どういうことだ?


 王国への侵攻って言ってるし、ここはスタファに振ろう。


「スタファ、王国のほうはどうだ? アルブムルナのいうとおりに行けるか?」

「神のご命令とあらば」


 いや、アルブムルナのことな。

 俺は何もない、考えすらない。

 青写真どころか真っ白なジグソーパズル状態なんだよ。


「今なら協調のために意見を交換することもできると思ったのだが…………」

「はは、司祭が神のお気遣いを無碍にしてる」


 嘲笑うアルブムルナをスタファは殺気の籠った目で睨む。


 どっちも白いという外見の特徴が被る分、性質の逆さがよくわかる。


 そんな全く関係ないことを考える俺の目の前で、話し合いが始まった。

 聞いてるとどうやら王国は、この期に潰すようだ。

 帝国は上手く誘導して手ひどく王国を攻撃させる算段らしい。


(なんか継承争いどうこう言ってたはず。それどうなるんだ?)


 わからん。

 そんな俺が口を挟んで邪魔するのも気が引ける。


「王子が西と東、そして王都だ。取りこぼしがあったら厄介だけど、そこも考えて小王国側からって話か?」

「そうでしょうね。帝国軍には王都を征圧してもらわないと。西は?」

「わかってるって。そのために育てたんだし、帝国内部の情勢も大きく変えた。そっちこそ王都の動きは?」

「えぇ、少し急がせるわ。新帝周囲に集めるふりで、いらない者は侵攻で廃棄してしまいましょう。使えそうなら帝都に留めて使えばいいもの」


 不穏な会話だ。


 だが王都に帝国軍を送り込むことはわかった。

 そう言えばリザードマン以外もそっちにNPCがいたな。


「スタファ、彭娘にも時期を見て退くように伝えよ。こういうことは早めに動くべきだろう」

「まぁ、神のお言葉、確かに伝えさせていただきます」


 スタファは俺が気遣ったと思ったらしく嬉しげだ。

 俺は集中してる時に横やり入れられるの嫌なんだが、スタファは違うのか?


 なんにしても、どうやら王国はもうだめらしいし他に忘れてることはないかな。


(あぁ、ヴァン・クール。いい手本になってくれそうだったんが、もっとよく見ておけばよかったな)


 人間だった俺と同じくらいの年齢で、実力で地位を勝ち取り部下を率いていた。

 成り行きで神となってNPCたちを率いるようになった今、その統率のやり方を学ぶべきだったと痛感する。


(他に手本にできそうなのは…………ファナ辺りがなってくれるかもしれないな)


 消える国を思い、俺が思いつくのはそれくらいだった。


隔日更新

次回:ルージス・シュクセサール・ソバーリス

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