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25話:スキル検証

 俺はスタファと東に向かって山の中を歩いていた。


「神よ、スライムハウンドが周囲の索敵を終えました。スカイウォームドラゴンも上空よりの監視編成を終え、知性体の発見には至らずとのことです」


 俺は報告を聞いて足を止める。

 恰好は人間に見られてもいいように偽装してあったが念を入れた。


(けど今からするのはこの異世界にあるかどうかもわからないスキルや魔法の確認だ。あまり手の内を知られるのもゲーマーとしては避けたいしな)


 と言うかスタファ、配下も含めて有能だな。

 能力的にも大陸の守りを担うにふさわしい。

 エリアが城一つとその周辺地理ってことで直接率いる部下の数は多くない。

 ただ敵に知られず監視できるとなれば、本拠に残してきたほうが良かったかもしれない。


 これは俺がNPCの能力を把握しきれてないせいだ。


「まずはスタファ、お前のスキルが使えるかどうかを試してくれ」

「かしこまりました。それではまず的を呼びましょう」


 スタファの言葉に応じてスライムハウンドが周囲に散る。

 ほどなく耳のような突起のある巨大な蛇が追われて出て来た。


 見たことのないエネミーだが、明らかに人間と同じくらいの太さがある。


「では参ります。ジョブ巫女におけるスキル『白羽矢』!」


 何処からともなく長弓を取り出すと、何も持っていない手で弦を引き絞る。

 途端にスタファの手には輝く白い矢が現われた。


 スタファは余分な力みもなく、過たずスライムハウンドを射抜く。

 すると巨大蛇は射抜かれたスライムハウンドに引き寄せられるように攻撃を行った。


「ふむ、味方にヘイトを集めるスキルか。どうやら機能しているようだ」

「はい。手応えにも問題はございません。では次に『鳴弦』!」


 スタファが弓の弦を鳴らすと、巨大蛇は嫌がるように距離を取る。

 けれど逃げずに白羽の矢が立ったスライムハウンドを睨み続けた。


(妙だな。『鳴弦』はフィールドでエネミーとの遭遇率を下げるスキルだ。戦闘中には意味のないスキルのはずが、効いてるのか?)


 ゲームとは違う世界に来たことで、こういう違いもあるものか。


 そう思っている間に、攻撃をされて苛立ったスライムハウンドに蛇は返り討ちにされていた。


「弱…………ん、ごほん。見掛け倒しか」

「神よ、今のスキルで周辺のエネミーらしきものは逃げ散りました」


 戦っていなかったスライムハウンドが現われ報告をする。


「そうか。ならば逃げ散った範囲を調べよ。スタファは他の巫女スキルは試すにしてももっと相手を選ぶべきだろう」

「はい、アンデット特攻の『祓え』や、カウンターの『丑の刻参り』ですね」

「スキルを使って感じたことは?」

「特には。いえ、まるで初めて使ったような、かつて使ったこともあったような、不思議な感覚を覚えました。私が長く戦いから離れていたせいでしょう。使うこと自体に問題はございません」


 なるほど、ゲームとしては初めてだが、ゲームだからこそテスト版がある。

 つまりスタファのいう初めてなのに初めての気がしないと言う感覚は間違っていない。


(ゲーム中のこと何処まで覚えているかも時間がある時に確かめないとな)


 スライムハウンドが戻り、どうやら遠くて五百メートルほどが『鳴弦』の範囲らしい。

 物陰に残っていた者もいるそうで、逃げた者の聴覚に依存するようだ。


「一応装備についても検証しておくか。スタファ、この剣を取れ」


 俺は騎士として腰に下げてるだけの剣を渡す。

 実際は俺もポルターガイストで投げつける以外には使えない装備品だ。


「失礼いたします。…………持つこと、鞘から抜くことは可能です。ですが、振ろうとすると腕が動きません」


 本来巨人であるスタファが重くて動かせないなんてことはない。

 つまりこれはジョブによる装備制限が動けないという現象になっているようだ。


(スタファのジョブ巫女は、弓士系と魔法系の複合ジョブだったはず。装備可能な刃物はナイフ程度だろうな)


 そもそも『封印大陸』のジョブはメインジョブとサブジョブがある。

 巫女の場合はメインが弓士、サブが魔法使い。

 そしてその二つの熟練度を上げると巫女という上位ジョブが生える。

 実はこの上位ジョブ、本人以外に見えない。


 というのも、どの神の加護を受けているかでプレイヤー同士が敵味方に分かれるイベントが発生する。

 その際、弓とナイフを使っていると該当上位ジョブは巫女のみならず狩人やその他弓士系の上位ジョブを連想できた。

 物理で押しておいて、実は魔法も使えますと巫女ジョブを発揮すると相手を騙し討ちできるのだ。


「司祭称号は神官系のジョブを極めていくつかの要件をクリアだったか。そちらは攻撃スキルを試そう」


 俺が剣を受け取ると、スタファは長弓の代わりに杖を取り出した。


 スタファのエネミーとしての特性は姿形でジョブが変わること。

 そしてボスエネミーは基本的に二つの上位ジョブを設定している。


 プレイヤーは時間と金さえかければ幾つもの上位ジョブを獲得できる。

 十年の歴史の中で全上位ジョブ制覇した者もいた。


「では、ジョブ治癒師における『安静』スキルを使います。エネミーを用立てるため少々ご移動を」

「いや、その必要はない。スライムハウンド、殺さない程度に適当なものを捕まえて来い。スタファはそれを使って『施療院』スキルの範囲に敵個体も入るかどうかの検証をせよ」


 治癒師は名前のとおり回復特化であり、『施療院』は範囲回復スキルだ。

 他のジョブでも回復方法はあるものの、範囲回復が可能なジョブは他に二つしかない。

 大規模なクエストがあると治癒師ジョブ持ちの勧誘が大々的に行われた。


 そしてここでは、治癒範囲にはやはり敵も入ってしまった。


(フレンドリーファイアが解禁で区別なくなっているのだから当たり前か)


 回復役で一つしかない攻撃スキルがカウンターである『安静』は、マーシャルアーツのようなちょっと乱暴な動きで相手をダウン状態にさせる。

 スライムハウンドがまた巨大蛇を捕まえて来た時にはどうしようかと思ったが、どういうわけか『安静』は効いて、蛇はダウン状態で起き上がるのに苦労していた。


 いや、レベル差のせいか威力は微々たるもののはずのカウンターで瀕死になっていたからかもしれない。


「次は私がやってみよう。皆動くな。…………『マップ化』」


 俺が唱えたのは見たことのないスキル。

 名前から想像できていたとおりの効果が現われる。


「ふむ、知らない場所なのに3Dモデリングされたように周囲のデザインがわかるな」

「スリー、ディ、ですか?」


 スタファが俺の言葉に困惑を交えて返した。


「周囲の地形は私のスキルで問題なく把握できることがわかっただけだ」


 問題があるなら、なぜこんなスキルが大地神に設定されているかだな。

 名前のそのままさからしてプレイヤー向けではなく、制作側が必要に駆られてスキルとして実装させたものだ。


 そうなるとプレイヤーとしての既存スキル以外に答えがありそうだけど。

 攻撃系が軒並みボス仕様のさらに上を行く神仕様なんだよなぁ。


「やってみるか」


 俺は手近な木に向かって火球を飛ばす。


 例えばプレイヤーがLv.1の火系魔法エアスト・ファイアバルを使えば、同じように直線状に火球を飛ばすことになる。

 熟練度が設定されており、十まで達成すると火球は最初の四倍ほどの大きさになって当たり判定も大きくなる仕様だ。


 これが神仕様になるとまず最初から熟練度はマックスで、飛ばす火球の周囲に五つの別の火球が展開し、当たり判定はプレイヤーの比ではない。


(うわ!? その上三回連続攻撃になってるぞ!)


 俺のLv.1の魔法を受けた木は瞬く間に炎上倒壊。

 さらにその左右と後ろにあった木にまで火球が至り、あっという間に燃え広がった。


「まずい! ツヴァイト・インベル!」


 Lv.2の水系魔法で前方小範囲に雨状の弱攻撃を放つ。


(ヒット数稼ぎやチェインの切れ間にやる程度…………なんて思ったけど、俺神だった)


 どういう原理か小範囲に雨状の攻撃までは同じなのに、その威力が半端なく、枝は折れて土は抉れるというゲリラ豪雨になってた。


「…………火は消えたな」


 これ、Lv.10まで魔法使えるけど、使いどころなくないか?


「木が延焼するだなんて、グランディオンがいなくてようございました。忌々しい存在を思い出して理性を失くしてしまいますわ。この木も大神自らが実験台にしてくださったというのに、早々に燃え尽きてしまうなんて」


 スタファが理不尽に怒るのも気になるけど、グランディオン?


「…………あぁ、太陽神に森を燃やされたからか」


 確かそういう設定で大地神の信奉者であり、太陽神の加護を受けてると問答無用で襲ってくる。


(そう言えば『封印大陸』で太陽神を復活させての討伐に参加した時、太陽神の範囲攻撃を軽減させられないかと水系魔法を乱打していたプレイヤーがいたな。あれは結界のようなものを張ってその範囲に不可避の大火炎を放つ攻撃への対処だったが)


 レベルマでもHPが低いと不可避なせいで即死する攻撃だ。

 あそこは太陽神一人を倒しても次に別の太陽神が現われる。

 そして一巡すると最初に倒した太陽神がまた復活するという場所で、何度も回避方法や対抗手段が模索された。

 もしかしたらあの広範囲結界を張るのにマップ化を使うのか?


「…………神よ、もし行く先で太陽神と出会った場合は滅ぼしますか?」

「うむ、うん!? いや、待て。早計はいかん。太陽神の名を冠する者は常にその座を競っていた。こちらでもそうかもしれん。えっと、そうだ。火の精! あれがいれば我らの敵だ。火の精の有無を確かめよ!」

「確かに神数体を敵に回すのは悪手。さすが大神でございます!」

「う、うむ。まぁ、いい。頃合いだ。一度転移でこの距離から戻れるかを試そう」

「はいぃ!」


 大喜びでスタファが俺に抱きつくけど、手が触れてるくらいでいいのにな。

 俺が何か言う前にスタファはスライムハウンドに向き直った。


「大神がお戻りになるまで周囲の警戒を怠るな」

「は!」


 スライムハウンドはやっぱり優秀だなぁ。


 そんな感想を持って、俺は転移で湖の城まで戻ることにした。


毎日更新

次回:テオロ・メソフィア

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