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243話:共和国の王政復古

 どうやら共和国は滅んだらしい。


「最大派閥にして共和国の独裁者とも言えるセナ・マギステルは死亡が確認されました」


 スタファが共和国の情報をまとめた紙を捲りながら報告する。

 俺は書斎で同じ報告書を、見るともなしに真似して捲った。


 最初に戻ったのは直接攻撃を受けたイテル。

 けれどそれ以外にも潜ませていた者は共和国にいた。

 それらが遅れて戻り報告を上げたそうだ。


 ただ、中には戻らない者もいるという。

 そちらはリポップ待ちで、NPCたちに見張らせている。

 リポップするようならば共和国で倒されたことが確定するだろう。

 そして、レベル最低限六十のエネミーを倒せる存在が確実にいることになる。


「そのマギステルとか言う者が、共和国の最高責任者か?」

「最大与党の党首でしたからそう言って過言ではないでしょう。攻めて行った側も確殺目標としていたようです」


 確殺って穏やかじゃないな。

 だがあの国情を作ったなら責任も重い、か。


 共和国に行ったことがあるものの俺とはかすりもしなかった人物だ。

 特にその死に思うことはないが、そのマギステルとかいう奴に対してかつて亡命して逃げた側がどう対処したかは知る必要がある。


「首都へ押し入り真っ直ぐ議会に向かったようです。そこにいた議員と関係者を全て殺害。その時に伯爵も殺されたと」

「無益な犠牲を出さない辺り、見境はあるようだな」


 破壊や略奪をせず、統制機関を最初に落とす。

 抵抗をする頭を最初に叩くことで、敵にも味方にも損害を広げないやり方は評価してもいい。


(そうか、攻めていく側からすれば奪還がメイン。だったら無駄な破壊や殺戮で済む場所荒らすわけがないか)


 真っ直ぐ敵の頭を叩けたのも、元住民だからだろう。


「その際、議会から逃げ果せたセナ・マギステルを追い、議員会館で立てこもる残存勢力と戦闘。しかし碌な武器もないまま、セナ・マギステル側が半日ももたなかったそうです。扉を破られた後は、セナ・マギステルが窓から吊るされその死が喧伝されたとか」


 聞けばそのままさらし者にされているらしい。

 そういうところは野蛮だなぁ。


 俺がそんな感想を思い浮かべた時、書斎にネフがやって来た。


「失礼、やはり共和国へは直接行かねばこれ以上の内情はわからないようです」


 ネフはグランディオンを助けて、魔女たちを使って共和国への侵入を試みていたはずだ。

 しかし結果は無理ということらしい。


 首都への出入りは議長国から現れた武装勢力によって厳しく取り締まりがされており、共和国の人間も首都の内部はわからない状態だという。

 今ある内部から逃げた者の情報が最新のまま止まっているということか。


「さらに即位の宣言が出されました」


 俺の拙速を否定するように、ネフが追加情報を出した。

 これは共和国にある村や町に公布されたことでわかったそうだ。


「ふむ、王政復古というわけか」


 議長国に亡命していた王族が、新たな国王を名乗り共和国以前の王国復活を宣言したという。

 同時に生死不明だった国王の息子の死も発表された。

 囚われているはずだった建物は倒壊、葬儀もされず、死体は不明。

 改めて死体を見つけて葬儀を行う旨も交付されているという。


 このことは共和国が悪であるという宣言と共に、自らが新たな国王として王室の催事を取り仕切るという示威行為でもあるらしい。

 つまりはプロパガンダに使われているそうだ。


 生きてるんだがなぁ、王子。


「そのことも知らせておくべきか? 今王女と王子は別々のはずだな?」

「それでしたら、すでにアルブムルナが手の者を使い報せを発しております」


 スタファが手を打った後だと教えてくれる。

 どうやら俺が気回しする必要はないようだ。

 だったら任せよう。


 俺はネフを見る。


「ネフ、ずっと共和国へ行きたいと言ってたが、この状況になってもまだ共和国に宣教をしたいか?」


 聞くと、顔の布をあげてたから驚いた表情は見えた。

 そしてゆっくり笑みを浮かべる。


「なるほど、今までそれがしを留めておかれたのはそう言うわけでしたか」


 何を納得したんだ? どういうわけ?

 俺はわからないのに、何故かスタファも遅れて頷く。


「確かにこの状況に陥ることを想定していらしたなら、どんな下準備をしてもひっくり返されるわね」

「えぇ、もはやこうなれば宣教よりも邪魔者の排除と正統な後継者の帰還こそがもっともよい手と言えるでしょう」


 ネフがいうのはつまり、レジスタンスの王子のことだよな?

 え、あんな子供に大丈夫か?


 伯爵という実務できそうな人間も殺されておいて…………いや、俺が考えるよりこいつらのほうがきっと物事を理解している。


「宣教よりも面倒かもしれないぞ。足りなかった状態からもはや足掛かりも亡くなってしまった。それでもなせることがあるというのならば、お前に任せよう、ネフ」


 注意はしたし、それでも受けるならやってくれ。


 俺の丸投げなど気づかない様子で、ネフは胸に手を当てて応じた。


「お任せを」


 よし、言質は取ったし、だったら心置きなく丸投げだ。


「つきましてはイブをお借りしたい。それがしだけでは邪魔者の排除が運任せになります」

「それもそうだな。いいだろう」


 ネフに攻撃能力はないと言っても過言ではない。

 相手が強ければその分カウンターも強力になるが、物理に強い耐性がある物理攻撃職だった場合泥仕合だ。


「失礼します、神よ。カトルどのにお尋ねして参りました」


 ネフに続いてヴェノスもやって来た。

 こっちはライカンスロープ帝国へ行っており、そこにいる議長国出身の商人カトルに共和国でのことを情報収集してもらっている。


「残念ながら今回の件はカトルどのも知らず、そのような勢力に心当たりもないと。元の出港予定から大分過ぎていることもあり、これを機に一度帰国をされるそうです。議長国内部で情報収集と神に従う準備を行うとのこと」


 …………なぜそうなる?


「そう言えば議長国はドワーフ賢王国と取引をしていたわね。こちらでもスライムハウンドを送って調べるけれど、地元の人間の目からドワーフの動きを聞けるなら情報の精度を上げることができるわ」


 スタファに言われてそう言えば程度だが思い出す。

 つまりはドワーフ賢王国のことでカトルに影響があるかも知れないのか。


「ヴェノス、王国に置いているリザードマンはもう引け。ドラゴニュートの正体もわかった。これ以上は必要あるまい」

「なるほど、今が引き際ということですか。わかりました」

「そしてカトルどのの側で守るように。共和国の影響で国が乱れることもあるだろう」

「はは」


 ヴェノスは嬉しそうに応じて退室しようと扉に手をかけた。

 ただ同時に飛び込んでくる人影がある。


「神はいずこに!? あ、痛い!」

「む、君は…………」


 とっさにヴェノスが捕まえて腕を捻り上げたのは共和国の王女だった。


「放してやれ、ヴェノス。お前はお前のやるべきことをすればいい」

「承知いたしました」


 敵にもならない王女を放して今度こそ退室する。

 王女のほうは痛みで勢い失くしたらしく、床に伏せるように頭を下げていた。


「ご無礼を、いたしました…………」

「許そう。用件も想像はつく。共和国のことだろう?」


 そう言ったら王女は弾かれたように顔を上げる。

 その目にはいつか見た暗い輝きが宿っていた。


「どうか! 王を僭称する不届き者をこの手で断罪する機会をお与えください!」

「お前は今、レジスタンスを離れ協調のためにアンとベステアの元にいるはずでは?」


 やることが別にあるだろ。

 だいたいイテルを追い込んだ相手がいるのに、この王女が行ったところで意味はない。


 俺の問いに王女は歯を食いしばる。


「だから、こうなるとわかっていたから、あの時に、私を指名して、お役目を与えたのですか?」


 悔しそうだけどなんのことだ? 役目って、アンとベステアのところ?

 あれは成り行きなんだがな。


「弁えなさい。神がおっしゃらないなら私が言ってあげてよ。あなたは力不足です」

「今のままでは足手まといにしかなりませんね。それは神の名を穢すに等しい行いですよ」


 スタファとネフが容赦なく事実を突きつける。

 何か言おうとした王女だが、エリアボス二人を見上げて唇を噛む。

 レベル差酷いし、言って怒らせたら死ぬだけだしな。


 だがその打ちひしがれた弱者の姿に俺は同情してしまう。

 言い返したくても言い返せない、その悔しさは想像ができる。

 能力が足りないことはわかっていてもやりたい、やれるはず、自分がやらなければと焦る気持ちも、よくわかる。


(たとえ俺が追い出されてこそ、十周年を迎えた成功だとしても。それでも、納得なんかできるか)


 かつて手掛けたゲームの成果であるNPCたちの背中を見ながら、俺は王女に少しの可能性を提示したいと思った。


 頑張って、願って、夢見た成果が、誰かに横からさらわれるなんて腹立たしい。

 たとえそれが結果的に良かったとしても、置いてきぼりにされた感情の行き場がないことは苦しいと知っている。


「己の役目を果たし、その後、そうだな小王国のほうから共和国へ至る道を自ら切り開けるなら、直接共和国へ向かっても構わない」

「なるほど、それまでにそれがしが邪魔者を排除しておけば、裏切った小王国を倒し、僭称する王を退けての華々しい凱旋とできるわけですか」

「まぁ、神は慈悲深くいらっしゃるのだから。あなたも信徒としてよくよく心得ておきなさい。神のお知恵を計れもしないのだから、浅慮を起こして神を煩わせることのないように」


 ネフが頷き、スタファは王女を叱りながら、何故か笑顔だ。

 王女は一度顔を上げて俺を見ると、突然涙を溢れさせる。


「か、うぅ…………必ずや!」

「う、む」


 俺は状況について行けず、そう答えるのがやっとだった。


隔日更新

次回:帝国の新帝

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