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233話:レベル八十以上の実力

 海上砦で、クリムゾンヴァンパイアとの戦いが始まった。

 俺はまた湖上の城の地下にある水鏡で観戦している。


(イブが誘拐された時も、これで確認すれば良かったな。気が動転して自分で乗り込んで行くとか、よく考えたら危ないな)


 それというのも転移の気楽さがいけない。

 一息ついて落ち着く時間なんて、転移での移動ではないのだ。

 前回も石笛というアイテムを出されて慌ててイブを助けに行った。

 今回はそんな見るからに考えなしな行動を取らないようにしなければ。


 俺は映し出される戦闘をできる限り静かに観戦することにした。


「ふむ、相性がいいな」


 俺の呟きに、ヴェノスが頷く。


「えぇ、将軍としてというより戦士として戦っているのが良いのでしょう。文字どおり地に足のついた戦い。そこに不規則な魔法剣士が噛み合っています」


 檄を振るティダは撫で切るような動きを多用し、面をカバーする。

 長い柄で時には打撃も織り交ぜ、弾き飛ばし効果のアーツも繰り出していた。


 ほぼその場を動かない状態で、三十人いるクリムゾンヴァンパイアを一塊にならないよう散らす。


「飛ぶヴァンパイアにも斬撃を飛ばすアーツで対処しております。普段考えないだけで全体を見る将軍としての資質は確かなのでしょう」


 スタファはちょっと呆れぎみだ。

 ティダは数の不利を責められないように散らす方向で動いており、それは自分に向かってくる敵を捌くことはもちろん、飛ぶイブを狙う敵にも気を配っていた。


 当のイブは刺突武器を使い、レベル差による回避も反撃もない状態で本気の戦いを行っていた。


「今の海上砦って、暑いのかな? 寒いのかな?」

「暑くて寒いでいいのではないの? 片や凍てつく血、片や太陽神の信徒ですもの」


 首を傾げるグランディオンにチェルヴァが興味なさげに応じる。


 イブが血を撒けば、氷が張るほど周囲は凍てつく。

 クリムゾンヴァンパイアは状態異常に高い耐性を持っているため凍結はしないが、それでも気温の変化は感じるようだ。

 イブの冷気に対抗するように、火の魔法を連発している。


「今回は他の者を向かわせなくて正解か」


 前回はイブの下にオークプリンセスがいたが、氷と炎が渦巻く高レベル同士の戦いに耐えられないだろう。


「そう言えばオークプリンセスは?」


 俺が聞くとアルブムルナが答える。


「あ、それだったら帝国にいます。イブが誘拐された後強くなりたいって、湖上周辺の奴ら相手に力試しだとか修行だとかしてたんで。ルピア強くするならついでにあいつもさせるかと」

「そうか、しかし、あの顔どうするんだ? フードで隠しきれないだろう?」


 オークプリンセスは豚の顔をしている。

 特徴的な鼻がどうあっても飛び出す気がした。


「そこは神に倣って被り物にしました」


 装備品は顔かたち関係なく、装備条件さえクリアすれば身に着けられる。


 そのためアルブムルナは鉄仮面という装備アイテムをかぶせたそうだ。

 ゲームではアバターの顔を隠す装備は、最初なかった。

 ただ防具には全身鎧があり、面貌なしの状態。

 何度かアップデートした結果、どうやらクリエイトしたアバターでも顔を覆い隠す形の装備はユーザー的にありと判明し、以後は被り物も採用されるようになった。

 そのため、後からフルフェイスタイプの鉄仮面というアイテムを採用されている。


「…………珍妙な女性になりますね」


 ネフの一言に、かつての経緯を思い出していた俺も想像してしまう。


 もとからオークプリンセスは、体の出るとこ出て締まるとこ引き締まったモデル体形。

 そこに豚の顔が、縦ロールと一緒に乗っている姿だ。

 鉄仮面被るということは、豚顔を隠せても体形と特徴的な縦ロールは健在なわけで。


 微妙な姿を想像していると、スタファがネフを横目でにらんだ。


「ちゃんと女性用の鎧を着せたわ。魔法職でも着ることができる物を私は持っていたから」


 どうやらスタファも容認しての移動らしい。

 だったらもう俺が言うことはない。


「わかった。上手くいくよう調整と協力を続けるように」


 俺はそう言って、戦いに目を戻す。


 クリムゾンヴァンパイアはイブとティダの分断を回避しようと動き回っていた。

 狙いは数で押すことだが、そんな見え透いたこと、ティダがさせない。

 そしてイブは刺突武器で確実に痛手を負わせ、少しずつ数を削っていく。


「確実に痛手を負わせる刺突攻撃。しかし一撃で斃れる者はおりません。相応の強者であると見ていいかと」


 ヴェノスが分析を聞かせるが、比べてるのはライカンスロープか?


 イブの剣はクリティカルが出やすい武器であり、現実だとどうも急所に刺さる形を取るようだ。


 イブが飛ぶのに合わせて、攻撃するクリムゾンヴァンパイアも飛ぶ。

 狙いなど定まらなさそうだが、それでもイブの剣は頭を貫き、喉を貫き、みぞおちを貫きとクリティカルを決めていく。


「あ、ここの吸血鬼が何か飲みました。回復アイテムでしょうか?」


 グランディオンが尻尾を振って、嬉々として発見を報告した。


 それはティダの檄に吹き飛ばされたクリムゾンヴァンパイアで、人間ならちぎれ飛ぶ。

 だがクリムゾンヴァンパイアは原型があり、その上で動いてアイテムを使う余裕もあるらしい。


「これは、ライカンスロープと違って三回の復活はいらないかもしれないな」

「えぇ、また引き篭もられても困りますもの。それにイブの挑発にプライドが刺激されていた様子。であれば負けたと認めた時、次があればプライドをなげうち見苦しくも逃走を選択する可能性が高いでしょう。あの数でそれは追うのが厄介と言えます」


 スタファが言うとおり、この数がバラバラに逃げたとなると追うのは面倒だ。

 イブが誘拐された時に、逃走に全力を尽くす相手の厄介さは身に染みている。


「矮小な者ほど、命一つを振るってこそ必死にもなりましょう。また逃がさないよう、今回は空もしっかり押さえるのはいかが。船でも浮かべては?」


 チェルヴァが空飛ぶ船を持つアルブムルナに目を向けて提案する。

 イブの時に逃げられた経験のあるアルブムルナは考える様子を見せた。


「確かに空飛ぶ相手に、船に取り込んでの戦闘は無意味だ。一斉に飛んで逃げられると追いきれないし。砂浜であいさつした後は上でもいいか」


 アルブムルナは諦めたようにチェルヴァの提案を受け入れる。

 確かにクリムゾンヴァンパイアを相手に、ゲームどおり船に攫う形は望ましくない。

 だったら砲弾で遠距離攻撃を行い、浜辺を走らせて判断能力を鈍らせた後に上を押さえるほうが有益だろう。


 実際アルブムルナやスカイウォームドラゴンは、太陽神の加護で飛ぶというフィールド移動をする相手にぶつけるためのエネミーでもある。


「ふむ、ではアルブムルナは持ち場につけ。イブたちにはもうよいと伝えよう」


 俺はチャット代わりの機能で、こちらの決定を報せる。


 音は聞こえないが、イブとティダの動きが変わった。

 イブはあえて自らを切って血を散らす。

 同時に風の魔法を使い、冷風を激しく渦巻かせた。

 それによって聖堂内部に吹雪が吹き荒れる。


 ティダはアーツで接近している敵にのけぞり効果を与え、吹雪に合わせてイブの側へと退いた。


「これで襲ってきたらどうします?」


 ネフがまた不穏なことを言い出す。


 イブとティダは合流して武器を降ろしていた。

 クリムゾンヴァンパイアたちも攻勢が止んだとみて集まるが、構えは解かない。


「そこまで、愚かな者たちか?」


 俺は困って聞き返した。


 今回は謎解きもさせず、イブを倒すこともなく先に通す。

 そのためにイブの持ち場にあるダークドワーフの国に通じる地下の入り口は開けてあった。


 ダンジョン内部の謎を解いたまま、新たに探索者を招き入れられたのだ。

 だったらここも可能だろうと思いやってみたところ、開け放ったままにできている。

 以前王国の探索者が来た時に閉まっていたのは、イブが出入りの際ちゃんと開閉していたためらしい。


 イブに危険な真似させてまで、プレをする必要はない。

 大事なNPCを危険にさらすくらいなら、こういう安全策もありだと思っている。

 だから力を見たらそれで先に通すように言いつけてあった。


「襲う様子はないですけれど、進む勇気もない弱者のようですわね」


 チェルヴァが動かないクリムゾンヴァンパイアを嘲笑う。


 イブとティダから先に進むよう言われても、クリムゾンヴァンパイアは動かないようだ。

 というか、あからさまに出口見てる奴らもいれば、大きな窓を窺う者もいる。


「逃げるならば用はないでしょう。神のためにならぬというならば殲滅でいいのでは?」

「あ、だったら俺も行きたい」


 突然過激発言を漏らすヴェノスにアルブムルナも乗って手を上げる。

 抑えに回ることを了承したとはいえ、アルブムルナも強者とやり合うことはしたいらしい。

 いや、アルブムルナはティダを羨ましがってたし、活躍がしたいってところか。


 ただそのまま先に進まないと思ったのは杞憂だった。

 何故なら動かないクリムゾンヴァンパイアに怒ったイブとティダが動いたからだ。


 今度は散らすのとは逆に、クリムゾンヴァンパイアをひとまとめにすると、武器を持ち変え魔法も駆使して、クリムゾンヴァンパイアを地下に通じる通路へと押し込んでしまったのだった。


「やりました! 神の采配どおり目標を達成しました!」


 大聖堂の扉を閉めると、転移でやって来たティダが明るく報告する。


「あ、あたしはこれからダークドワーフたちの所に行きますね。イブは戻ってくる奴見張るために残るそうでぇす」


 さらに今後の動きを告げると、忙しなく、そして楽しげに、ティダはまた転移で姿を消す。


「あまりこの城の中で転移を連発しないでほしいのだけれど」


 そういう縛りのあるフィールドなのだが、俺が許可したためにスライムハウンドが我慢をしている。

 そうと知っている上司のスタファは、困った様子で溜め息を吐いたのだった。


隔日更新

次回:ピジオ

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