231話:再プレ計画
湖上の城にある、円卓が意味を失くした会議室。
俺が見下ろす円卓には、エリアボスのほとんどが揃ってる。
いない一人はティダ。
ライカンスロープ帝国にいると思っていたんだが、俺の連絡を受けて帝国へ移動したという。
そのため帝国にいたアルブムルナには、ティダを回収して戻るように言いつけた。
二人はまだ来ていない。
「揃っていない者もいるけれど、概要を説明しておくわ」
またスタファが進行役として立って話し始める。
今回はスタファの部下が発見したから順当な役回りだ。
チェルヴァも妙な動きはしていない。
そもそもクリムゾンヴァンパイアがやって来たのは、この大地神の大陸の西に続く、山脈を越える道。
以前スケルトン使って探り、途中でこの世界独自のドラゴンと出会った所だ。
その後スケルトンたちは探索を進め、クリムゾンヴァンパイアの根城であるノーライフキャッスルを確認している。
侵入は難しかったため、スタファの配下であるサイクロプスが監視についていた。
「巨人なんて大きな者たち、ヴァンパイアは気づかずにいるの?」
クリムゾンヴァンパイア侵入の概要を聞いたイブが疑いの声を上げる。
「もちろん姿をさらしていたわけではないもの。我々は雪山に住む巨人。白い姿は巨大でも見落とされやすいし、潜むとなれば雪の中に埋まるの。何者かが近づけば感知できるわ」
スタファが言うのはゲームでの設定だ。
元が大地神の大陸の北にある白い山脈に住むエネミー。
その中でエリアボスをして、人の姿になっているスタファのほうが設定としては特殊個体だ。
大地神の大陸北にある山脈は、天候が常に吹雪で侵入を阻害する。
さらにサイクロプスが雪の中からゴバッと現われて襲ってくる仕様の進入禁止エリアだ。
「補足をするならば、ヴァンパイア系のエネミーはプレイヤーを感知するスキルがある。それはいうなれば、餌となる人間を見つける能力。餌と認識できない巨人相手では、そうした力も無意味だったのだろう」
俺はゲームでの設定を挙げて説明をした。
ヴァンパイア系は勇んでプレイヤーを襲ってくるエネミーであり、その理由付けが人間を見つける能力と設定してある。
そのため、狩人ジョブなどで習得できる隠密行動系統のスキルは意味を成さない。
ただここはゲームのようで現実であり、仕様も若干変わっている。
エネミーに反応するような設定はなく、同時に人間には反応するという設定は確かに書いた。
結果、マップ化で言えばプレイヤー表記なら反応し、エネミー表記なら無視してしまうといった能力になっているのではないだろうか。
「わぁ、神は自らの配下ではない者についてもお詳しいんですね」
グランディオンが赤いずきんを両手で握り締めて感心してくれる。
ただそれを聞いたチェルヴァは、逆だという。
「そうでございましょう、我が君? かつてあれらは大地神を信奉した者。太陽神に鞍替えする前は故あればこそ語れるというもの」
途端に他が殺気立つが、信仰を失った女神としてチェルヴァはそういうものだと興味は薄そうな言い方だった。
けれどほかのエリアボスは裏切り扱いで殺気を放っている。
この空気どうにかしてほしいんだが?
「遅れましたー、ってどうしたの?」
「なんか妙に殺気立ってるな?」
遅れてやって来たティダとアルブムルナの登場で、空気が弛緩したように感じた。
ただ説明をすれば、やっぱり怒る。
この二人は種族的にも信奉者なのだ。
「そんな奴ら覚えておられる必要もありません! 血祭に上げて忘れましょう!」
「神の祝福の地に足を踏み入れることなく息の根止めましょう」
「落ち着け。まずは席につくがいい。そしてお前たちも報告をせよ」
結局俺が二人を宥めることになる。
ただスタファも気になることがあるようだ。
「クリムゾンヴァンパイアが動いたのは帝国の指示である可能性が高いわ。国境は王国の目があるから帝国の調べも進んではいない。だからこそクリムゾンヴァンパイア側からの侵入と偵察でしょう」
なるほど、そういう見方もあるか。
俺は単純に最近関わったしドワーフの所からかと思ったな。
「それさ、命令するとしたら帝国の誰? あたしたちが繋ぎ持ってる王子はそんなこと何も言ってなかったよ」
「まぁ、あの王子は重要度低いし。そういう国の動きには関われないんだろ」
なんだ、あんまり重要じゃない相手なのか。
だったら帝国の姫一人勧誘したのは実は良かった?
いや、けどまだ十代半ばになったかどうかの見た目だったし、あっちも国のことには関われないだろうな。
そんなこと考えてたら、ティダが声を弾ませた。
「あ、でも! 神に命じられた手回しは上手くできましたよ。ご安心ください!」
アルブムルナも頷いてみせる。
「クリムゾンヴァンパイアが動くのもう少し後なら、その情報も拾える立場に押し上げられてたんですけど」
なんのことだ?
いや、今はこっちに来てる敵のほうが重要だし、重要度低いならいいか。
「ふむ、上手くやれるというのならば引き続き任せよう。どうだ?」
「はい! もちろんです!」
「王国のほうばっかり上手くいってるわけじゃないですからね」
やる気があるんだったら丸投げでいいか。
けど釘を刺すくらいはしておかないと、小市民の俺は不安だ。
「あぁ、先に関わり足掛かりを掴んだ者の意見もきちんと聞いて取り入れるように。レジスタンスのように、ただ捕まらないよう動き回ればいいというものでもない」
「わかり、ました」
ティダが不安そうに返事をすると、アルブムルナは手を打つ。
「あぁ、だからレジスタンスの動きを緩めるようなご指示を。承知しました。両立を考えてみます」
うん、やっぱりお前は優秀だよ、アルブムルナ。
俺には何が何やら。
「う、む…………では、スタファ。続きを」
「かしこまりました」
スタファが俺に応じて話を再開した。
「噂になる程度にはクリムゾンヴァンパイアが使っていた道なのだから、そこに我ら大地神のお住まいが現われたことは気づかれるでしょう」
そう言えばそうか。
山に囲まれて気づかれにくいとはいえ、山脈一つ増えてるんだ。
元を知ってる奴なら見間違えようもない。
「つまり、帝国から国境で何があったかを調べるよう命じられて来た。すると土地が大きく変化している。調べないわけがないというわけだね? 懸念すべきは侵入ルートか…………」
ヴェノスが戦闘を想定して考えているが、俺はだからこそ他に気になることがあった。
「スタファ、クリムゾンヴァンパイアにマントや冠をつけた者は?」
「おりません。もしや、上位の者はそのような?」
「そうだ。他にも腰から膨らんだ形のドレスを纏った者は?」
「女性体のクリムゾンヴァンパイアは確認しておりますが、体に纏いつくような服装だと聞いております」
イブニングドレスみたいなのなら、クリムゾンヴァンパイアの雑魚だな。
と言ってもレベルマプレイヤーを相手取るダンジョンの雑魚だ。
弱いわけがない。
ドワーフ賢王国でも二人のクリムゾンヴァンパイアがいた。
恰好からしてこちらも雑魚。
ただ虫型エネミーのユッグに叩き落とされた以外は、大した怪我もしていない。
あれは単純に数の差で押し返せなかっただけだ。
それが今回は、クリムゾンヴァンパイアが三十体の団体で来ている。
「数としてもちょうどいいか」
「神よ、何かお考えが? スライムハウンドが申しておりましたが、この事態を想定していたとか」
ネフが余計なこと言ったせいで、一気に俺に期待の目が集まった。
荷が重いんだって!
だが言うことはある。
だから言葉を選ぶための間もたせに、ゆっくり夜空柄の指を組むポーズを取った。
「ライカンスロープでは弱すぎて試しにもならなかったからな。であるならば、クリムゾンヴァンパイアで適性かと、ドワーフ賢王国で思ったのだ」
「なるほど、防衛を試すために使うのですね」
「えー、裏切り者なんて入れるのはなぁ」
拘らない様子のヴェノスに、アルブムルナは不満顔だ。
ティダも渋い顔で呟く。
「ヴァンパイアなら、暗くても灯り点さないし、抜けさせないと…………」
どうやら嫌らしい。
「また私のところは飛ばされるのでしょう。それに比べればいいじゃない、ティダ」
さらにはイブが唇を尖らせて不満げだ。
イブのその発言で思い出すが、そもそも国境付近での騒ぎはイブが攫われたからだ。
誘拐犯が向かった先が帝国で、その帝国からクリムゾンヴァンパイアが依頼を受けて、山脈越えをしてやってきている。
そうなると、クリムゾンヴァンパイアの目的地は国境か? それとも…………。
「相手の動き次第だな」
「なるほど。誘拐犯とのことを合わせて考えれば、敵が向かうのは海上砦ですわね。目標が決まっているなら地形の変化を無闇に探るのではなく、まず目的地に向かうでしょう」
チェルヴァが一言だけで気づく。
すごいな。
俺なんてしっかり考え直さないとわからなかったぞ。
「えっと、海上砦にいったら、でも、そこで足止めじゃないです?」
グランディオンが不安そうに意見を言う。
確かにイブにはゲーム時代、俺以外誰一人として通さなかった実績があった。
「その辺りも話し合いが必要だろう」
エリアボスは逃がす気がない。
だったらここは有効利用しない手はないだろう。
それなりに強さを持つ相手だったら、ゲームとの変更点の試しにはもってこいだ。
敵を育てるにもいきなり本番は不安だったから、俺も逃す手はないと思っている。
(これで今度こそプレができるかもしれないな。NPCのために変更したり、仕かけ増やしたりしたし。上手くいくか試したかったんだ)
俺は密かに机の下で拳を握り、後は頭のいいNPCたちが計画してくれるのを眺めることになった。
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