表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/326

230話:習い性の罠

 面倒ごとを避けたはずなのに、結局余計なことをしてレジスタンスの所へ来ることになった。


 知らないとは言えないし、あそこは合わせといていいとは思うんだけど。


(俺、神のはずなんだが。なんからしくないな)


 もちろん本物じゃないから当たり前だ。

 ただ、しっかりレジスタンスたちを相手に指示を出してるファナを見ると落ち込む。


 転移した先では、ファナが以前とは比べものにならない意欲に満ちた表情で働いている。

 立ち姿や喋り方から、レジスタンスのリーダーとしての自信や積極性のようなものが感じられるほどだ。


 それに比べて、俺って成長ないなぁ。


(そう言えば、成長ってしないか? しない、だろうな。グランドって言ってもレイスだし、幽霊が成長ってなんだよ)


 成長のなさが内面にどう影響するか、それは未知数だ。

 正直、グランドレイスの体は精神に影響してる。

 人間に限らず死に対して思うことが何もないし、感想もないのはさすがに以前の俺からすればおかしい。

 けど日本にいた頃の人間性も保持している、と、思いたい…………。

 となると、ここから変化はあるのか?

 例えば人間性の消失なんてどうだ?


 考えてみるが、実感はない。

 挫折した気持ちのまま、俺はこの異世界にやって来た。

 もしこの劣等感がそのままなら、俺はきっといつまでもグズグズした駄目な大人のままだろう。

 それは駄目だな。

 せめて人間性がレイスの体に引っ張られるなら、この感情は消す、いや、気分を変える?

 そう変える必要がある。

 あるんだが、俺はどうやって紛らわせればいいんだ?


「まぁ、賢者さま! お出迎えもせず申し訳ございません」


 立ち尽くす俺に気づいて、共和国の王女が駆け寄って来た。

 用があったしちょうどいい。


「いや、様子を見に来ただけだ。私が現われて邪魔をするのもな」


 仕事をしてるファナを差して、俺は騒がないよう言いつける。


「はい、日に日にリーダーとしての自覚と役割を理解し、成長を見せております。さすが神が見込んだ者です。平民とは言え大変な努力と熱意ですわ」


 王女は手放しにファナを称賛する。


 何をしているかそれとなく聞くと、レジスタンス活動は、基本的には物資と人の移動。

 それと同時に他の反抗勢力の取り込み。

 そして悪い噂の絶えない権力者の所に殴り込みだ。


「思い上がった愚か者を打ち据えるこの快感…………うふふふ」


 なんか妙なことを言い出したが、まぁ、やる気はあるのはいいことだ。

 そう思って突っ込まないでおく。


 レジスタンスは着実に知名度を上げている。

 帝国内部で動き続けて、それで…………。


(えーと、この動きがどう繋がるんだっけ? 帝国が王国襲うって形にするなら…………あれ? 襲ってていいのか? レジスタンスの対処に兵力を分散したら、敵国倒すなんて大きな動きしなくなるんじゃないか?)


 やりすぎたらいけなくないか?

 それになんか帝国の姫って不確定要素も発生してるし。


 ここは他と足並みをそろえるためにも、レジスタンスの目を暴れる以外に向けさせたほうがいいだろう。

 上手くいっている時ほど足元を見ずに転ぶというものだ。

 俺は共和国の王女への用事を利用することにした。


「勢いづく坂道ほど、転んだ際の怪我は大きくなる。そういう時ほど、足元を確認するためにも止まるべきだ」


 それらしく俺が切り出すと、新手の声がかかった。


「確かに、おっしゃるとおりです。最近前のめりすぎるかなと俺も思ってました」


 見ればアルブムルナがフードを目深にかぶった姿で立っていた。


 いたのか。

 いや、いて悪いわけじゃないが、もっと早く出てきてほしかったな。

 妙な気を使おうとしたじゃないか。

 いるならこのままでいいかを確認もできたのに。


 まぁ、言ったからには最後まで言うか。


「アルブムルナ、少し底上げをしようと思う」

「これ以上人間を増やしますか? となると拠点づくり? 確かにそろそろ時期ではありますね」

「そうではない。もっと個人での話になる。たとえば、これだ」


 俺は虜囚の公爵夫人からドロップ…………というには語弊があるが。

 ともかく手に入れたドレスを見せた。


「これを着ることができるよう自らを高めてみてはどうだ?」


 俺は王女に差し出していう。


「こ、このようなものを、私に?」


 王女は頬を紅潮させて、震える手でドレスを恭しく受け取った。


 渡したドレスはドレスアーマーのようなデザイン。

 そこはかとない中世感が、膨らんだ肩や大きく広がった襟のデザインに見受けられる。


「効果をお聞きしても?」


 アルブムルナはデザインより性能重視で聞いてくる。


「装備条件はレベル五十以上の女性であること。防御力よりも魔法技能の補正が強い。特筆する点としては、刺突武器への攻撃力に補正がつくこと、速度にはマイナスだが後衛ならば問題がない程度だ。あとは、確か攻撃力強化のバフに二パーセントくらい上乗せがあったかな?」


 来るまでに思い出してたから答えられた。


「レベル五十ですか。今三十二なんで、ちょっときついですね」


 アルブムルナがいうと、共和国の王女もがっかりした様子でドレスを見下ろす。


 ただそこも俺は考えているのだ。


「アンとベステアのことは聞いているか?」

「あぁ、すごい勢いで勢力拡大してるらしいですね。神が手ずから指示されるだけであれだけ成果を上げるとは。やっぱり俺なんて、いや、まだ…………」


 何故か意気消沈してしまうが、アルブムルナのほうがすごいぞ。

 言えないけどな。


「アルブムルナも良くやっている。もちろん、レジスタンスを作ったお前たちも。ティダも良く働いてくれた結果、私は満足しているとも」

「ありがたいお言葉です。あ、そうそうティダと言えば。神に新たな指示をいただいたって浮かれてましたよ。ドワーフの所でずいぶん暴れたそうで。…………いいなぁ」


 アルブムルナがから元気というか、うらやむ様子だ。

 こっちも何かしてやるべきか?

 けど今、俺はいっぱいいっぱいなんだよ。


「いずれアンとベステアは合流する。そうなればレベルを上げられる機会も増える。場合によってはレベル上げのために今から向こうと合流してもいいと思うのだが、どうだ?」

「あぁ、なるほど。ルピアだけ派遣して、今から合流のための打ち合わせと連携。それに伴ってレベル上げですか。で、そのドレスはわかりやすい目標のためと」


 アルブムルナがそれらしい理由を見つけてくれる。

 本当にお前のほうが優秀なんだけどな。


「うむ、もちろんここはお前たちに任せている。考えがあるようならそちらを優先して構わない」

「ぜひ! やらせてくださいませ!」


 共和国の王女はドレスを腕に抱いて声を上げる。

 アルブムルナも文句はないらしく頷いた。


「この安定と変動を間近に控えた時期にそうおっしゃるなら意義があるんでしょう」


 ないです! 思いつきです!


「いや、支障があるようならいいのだ」

「いえ、言われて見れば確かにルピアいなくなっても即座には困らない時です。また、あっちとの連携を思えば、レジスタンス側の上の者が赴くのも意義がある」

「えぇ、あちらも勇名を馳せ、それ故に有志が集まり反抗の機運を高くしておりますもの。後々のことを思えば今から動くことになんの問題もございません」


 アルブムルナと王女が揃って肯定してくる。

 これはこれで俺、また何か余計なことしてるんじゃないかと不安になるんだよな。


 ただ余ったドレス持ってきただけなのに。


「そうか、そこまでわかっているのならばこれ以上私が口を出す必要もあるまい。期待しているぞ」

「「はは!」」


 アルブムルナと王女は揃って返事をすると地面に膝を突く。

 俺はいたたまれずまた転移を行った。


 向かった先は大地神の大陸の台地。

 草原では遠目に、ドラゴンホースを飼育する羊獣人の姿が見えた。

 牧歌的な光景に息を吐く…………ことはできないが、まぁそういう気分だ。


 ぐるりと見まわせば、湖上の城の高い尖塔が白く輝くようにそびえていた。


「こうなったら、スタファにも確認したほうがいいんだろうな」


 やらかしたかどうか、フォローを頼めないかを聞きに行かなければ。

 あと王国をどうするのかをそれとなく聞きだせないか?

 なんか弟の第三王子を即位とかって話になってたけど、あれもついて行けずにいるんだよな。


 俺が覚悟を決めて城の前に転移すると、すぐさまスライムハウンドが現われた。

 蝶ネクタイしてるから、あの気の利くスライムハウンドだ。


「お帰りなさいませ、我らが神よ」

「うむ、スタファはいるか?」

「これは…………お知らせするまでもありませんでしたか」


 どういうこと?


「スタファの所に行くまでに話せる内容ならば聞こうではないか」


 手短にわかりやすくお願いします。


 俺の願い通じたのか、スライムハウンドは案内に立ったって話し始めた。


「は、先日の不埒な誘拐騒ぎに関しまして、偵察が発されました」

「ほう? 何処から何が来た?」


 イブが本性で派手に暴れた一件は、王国が色々動き回って調べてたことを報告されているが、帝国は王国側だからと動きが鈍かったそうだ。


「西の山脈を越えて、クリムゾンヴァンパイアが三十」


 あまりに予想外の言葉に俺は固まる。

 足まで止まってしまい、スライムハウンドが振り返った。


 これは何か言わないと、誤魔化さないと。


「…………やはりか」

「おぉ! さすがは大神。予見済みでしたか」


 スライムハウンドが一片の疑いもなく称賛する。

 ここに来るまでにしったかし続けて、俺はまた余計なことを言ってしまったのだった。


隔日更新

次回:再プレ計画

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ