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229話:素材と人助け

 相変わらずどういう星の下に生まれたのか、アンがレアエネミーを引き当てていた。


「本来、これらは森に出るはずなんだがな」


 俺は死体となって残ったエネミーを眺めて、こんな牧草地のようなところに現れた不思議を思う。

 あと、さすがに人間っぽいのを解体するのはなと、思っていたりもする。

 しかもこいつらのドロップ品って、肉体じゃなく、確か持ち物だ。


「うん? そうか、持ち物を探ればいいだけじゃないか」

「魔物が何持ってるの?」


 ベステアは疲れて座り込んでおり、座り良いようにバイコーンが身を寄せていた。


「お手を煩わせるわけにはまいりません。私にお命じを、賢者さま」


 ペストマスクのスケルトンが、胸に手を当てて恭しく進み出て来た。


「あー、うむ。では、えー…………」


 別に偽名だから、そう思うところはないんだが。

 ただ俺をトーマスと呼んでいたアンとベステアの前だと思うと躊躇われる。


「差別化を図るのでしたら、どうぞ、スケルトーマスともで」


 なんだその愉快な名前。

 ペストマスクとっても骸骨しかないから表情なんてないだろうに、いい笑顔してる気がする。


「あ、私たちはクペスさんと呼んでます」


 アンもユニコーンにもたれて、俺が何をためらっているかわかって言ってくる。

 どうやらこいつらも俺との差別化を図ったらしい。


「では、クペス。そっちの猫がランタンを持っていないか、調べてくれ」


 チェシャ猫のドロップ品は、青い光が点るランタンだ。

 確か霊魂を閉じ込めた火とかいうフレーバーテキストがあった。


 同時にそれはダークドワーフたちを刺激せず、地下で点せる明かりでもある。

 特定のエネミーを倒さなければ手に入らないが、ドロップ率は低くない。


「はて、ランタン?」


 クペスは気にせず、チェシャ猫の毛をわしゃわしゃ掻き分けて行く。


 エネミーだからチェシャ猫はでかい、象レベルだ。

 その毛に手を入れ探るクペスは、見る間に埋まって行く。


「おぉ、ありました」


 そうして毛の中から引きずり出すのは、やはりゲームでも見た青く光るランタン。


 自分で言っておいてなんだが、どうやって保持してたんだ、この猫?

 毛の中に四次元ポケットか何かを持ってるのか?


「あ、本当に物持ってるんだ。…………あれ、ってことは? 賢者、あっちは何持ってるか知ってる?」


 ベステアが何やら期待の目で聞いてくる。


「虜囚の公爵夫人は赤い蕾、赤子の人形、女王の招待状、レアでドレスだったか」


 赤い蕾は一定数集めて、冒険者ギルドで交換可能なアイテムだ。

 赤子の人形はヘイトを稼ぐためのアイテムで、所持していると敵から攻撃されやすくなる。

 女王の招待状は他のアイテムと合わせて集めることで称号が手に入った。

 レアのドレスは装備品で、中世のドレスを模した防具が手に入る。


「料理人のほうはフライパンと胡椒だな」

「胡椒! そう言えばすごく勿体ない使い方してました!」


 アンまで反応して立ち上がる。

 疲れていたはずのベステアと一緒になって、料理人の死体を探り始めた。


 フライパンは錬金術師ジョブや薬師ジョブで必要な道具だし、商人ジョブでは主要武器として持っていたプレイヤーがいたはず。


 胡椒は素材であり単体では意味がないんだが、ただこれはゲームの話だ。


(そうか、香辛料って量産と輸送路ができてないと高価なんだったな。って、幾つ出て来るんだよ!?)


 見ている間に、アンとベステアが料理人の服の中からペッパーミルを十個ほど見つけて取り出している。


「こ、これ、売らずに使ってもいいんじゃないですか?」

「あ、もういい香り。うん、絶対これいい胡椒だよ!」


 アンとベステアは、死体を漁って大喜びだ。

 存外たくましいな、この二人。


「賢者さま、赤い蕾が十二、赤子の人形が二十、招待状らしきものが二十六、ドレスは一つだけでした」


 クペスが俺に手に入ったドロップ品を報告する。

 しかもなんか一緒にいた男たちを使って、三メートルの巨体を調べたようだ。


 マップ化をしても表記はプレイヤーなので、たぶん現地人だろう。

 戦っていた者以外も、何やらぞろぞろ姿を現している。


「うわ、なんだこの人形。気持ち悪」

「見たことない魔物だし、何があるかわからないぞ?」

「お前らもあんまり触るなよ。毒や呪いがあるかもしれねぇ」


 声を掛け合ってまだ調べている。


 赤い蕾は大地神の大陸にある、ゲームの冒険者ギルドでたぶん交換可能だ。

 人形はアタッカーを守るために使われるが、俺は必要性を感じないし装備させるのも気が引ける。

 女王の招待状は、NPCに称号つけられるかの実験に使えるか。

 ドレスは…………着られそうな王女が一人いるな。


 俺はクペスに効果を説明し、その上で赤い蕾と招待状、ドレスを引き取る。


「え、ほとんどやっちまうんですか、クペスさま?」

「確かにあのお人が加わらなかったら危なかったしな」

「礼儀を弁えるクペスさまなら、それくらいするだろ?」

「そうさ、無欲で寛大なのが、俺らも惚れこんだクペスさまだ」


 なんか暑苦しいな、こいつら。

 男どもがクペスを囲んで声を上げ、賛同する者たちがまた声を上げて拳を振り上げる。


「おい、こいつ足にすごい量の鉄つけてるぞ!」

「良し! 外そうぜ。持ち物以外は俺らでさばいていいらしい」

「そりゃまた剛毅だ。さすがクペスさまと嬢ちゃんたちの知り合いだ!」


 何やら勝手に盛り上がり続けるので、俺は関わりを持つ気にもならず、アンとベステアのほうへ向かった。


「なんだ、あいつら?」

「え? あぁ、あの人たち? なんかあたしらを助けようって集まって来ちゃったんだよね」

「戦いに参加してくれた方以外にも、荷運びや怪我の手当てを担ってくれる方もいるんです」


 聞けば、いつもどおりアンが不運にも敵わない敵を引きつけた。

 それをレベルに物を言わせて、クペスとユニコーンやバイコーンが退治をする。


 俺が素材欲しがったんで、スライムハウンドも蔭で加勢し、今のところ危なげなく処理していたらしい。

 そうして対応していると、近くで巻き込まれる者が現われた。

 やることのないアンとベステアが、申し訳なさから救助を行うようになったという。


 それを繰り返すうちに、気づけば手を貸そうと有志が集まるようになったのだとか。


「それにしても多すぎやしないか?」


 改めて俺は騒ぐ男たちを見る。

 男たちは虜囚の公爵夫人とチェシャ猫に別れて解体作業に入るようだ。

 マップ化して調べれば、五十七人もいる。


「人助けのお手伝いをさせてほしいと言われて、私もちょっと困ってるんです」


 アンがこっそり心情を吐露した。

 本人も自覚のある不幸体質だ。

 それで地元では蛇蝎の如く嫌われてもいた。


 ところが慣れ親しんだ土地を離れれば、そんな実態知らない者ばかり。

 そうして見たこともない魔物を退治している姿に誤解が広まり、人助けをしているという噂になってしまったそうだ。


「今さら実はこっちのせいだって言うこともできないし、それにあの人たち、帝国の属国から流れて来てたりしててさ」


 ベステアが聞いた話では、あの男たちのほとんどが帝国との戦争で負けて属国になり下がった国の者だという。

 国家レベルで搾取される窮状にあり、それでも生活のために職を求めて故郷を離れたのだとか。


 だが帝国国内でも、後から帝国になった国の民には差別的な扱いがあり、勝者と敗者の線引きがあからさまだそうだ。


 そんな鬱憤が溜まっていたところに、見返りを求めず助ける者が現われた。

 …………実態は呼び寄せて対処してるだけだし、素材が欲しいからあえて戦うだけだが。

 それに人助けというよりも、アンの不幸体質による巻き込まれに対処した結果だ。


「それが英雄的な行動と受け取られたのです。彼らは目に見える正義に飢えていた。そして危険がある以上我々の行動は誰にも邪魔されない。寄り集まって武力を振るうことでさらに称賛される。さすがは神のお導き。誰に怪しまれることなく武装勢力を確立してしまわれるとは」


 勝手に話に入って来たクペスが、何やら壮大なことを言い出した。

 するとベステアがクペスを指してして言う。


「この調子で全部トーマスがすごいで済ますから、無欲とか、謙虚とか色々言われさ」

「私たちがユニコーンとバイコーンを連れてるの目立ってて、それでさらに噂が広がったみたいです」


 アン曰く、今では有志が自らアンたちを捜して加わってくるようになっていると。


「もちろん、良くしてもらってるんです。実はギルドから呼び出しがかかってるんですけど、それ無視してて、ギルドの人が来ると逃がしてくれるんです」

「ま、こっちもギルドの依頼受けたのに見捨てられたとか、その後に対処してもらえなかったとか色々言い訳した結果なんだけど」


 探索者ギルドから?

 心当たりもないし、二人が嫌がるってことは面倒ごとだろうな。

 俺も知らないふりしとこう。


「ま、探索者ギルドもこっちに無理は言えないんだけどね。なんせ、見たことない魔物倒してやってるんだから」

「それに、クペスさんのほうで確認していらないってなった素材は、ギルドに回してますから、感謝されてるんです」


 事務的に呼び出しはアナウンスするが、アンたちの行動を制限するようなことはしないらしい。


「この働きをもってレジスタンスへの参加お足掛かりには十分かと」


 クペスの言葉に、俺は何も考えてなかったので、それらしく頷くとさっさと別れて転移して逃げた。


 いや、レジスタンスのほうに確認を取りに走ったのだった。


隔日更新

次回:習い性の罠

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