222話:商人の大砲
六日目の試練は昼から始めて、巨人が一時間おきに現れていた。
巨人は倒されてドワーフはレベルアップしているが、死傷者も多く、傷を回復しても立ち向かえない者も出て来ている。
(ライカンスロープが打たれ弱いわけじゃないんだな)
ティダの守る地下から出ることができず、スタート地点に引き篭もった『砥ぎ爪』と同じだ。
恐ろしくてもう立ち向かえないと、泣きごとを言う者が出ているという。
女教皇は下がる士気を鼓舞するため、七日の辛抱とまた演説を行っていた。
そしてその耐えることを説いた女教皇の浅慮を印象付けるように、夕方になると地下の巨人たちの弱体は目に見えて軽減。
そんな中、王城の前に巨人が現われた。
「七日目まで持たないかと思ったが、面白いものが見れたな。まさか商人ジョブの最大攻撃が来るとは…………」
「あの大砲はなかなか。某でもスキルを使わなければその場にとどまることは難しいでしょう」
ネフも頷くが、巨人は一撃で腕が吹き飛んだ。
防御極振りのネフならあれ耐えるのか…………。
きっとゲームでネフと戦うことがあったなら、商人ジョブのプレイヤーは泣いていただろう。
あの攻撃は確か、魔力や体力と共に、金も消費して使える最終奥義的な攻撃だったはずだ。
(生産ジョブだけど戦闘でも見せ場を作らないといけないって話で作ったんだよな)
もう商人と言えば金、金と言えば戦争、よし、攻城兵器だ!
なんて乗りだった。
改めて思うと自分でも謎理論だし、当時受けて採用されたのも悪乗りだとしか思ない。
俺が降ろされる前には、商人ジョブの大砲もパワーバランスおかしいと非難の的になっていた。
…………やめよう。
気が滅入る。
「さて、ティダはどうしている?」
「すでに準備に入っております」
俺はネフの言葉に応じてテントの外へ向かった。
今日は新月の夜。
まだ夕方だがすでに暗い。
一時間前に設置した巨人は、大砲の一撃で大きく力を削がれすでに倒されている。
「よっと、ただいま!」
ティダが転移で現れると、遅れて首都のほうから巨人の咆哮が上がった。
「ティダ、どうだった?」
「これは失礼しました。はい、やはり夕方には終わると気を抜いていたようです」
ティダは好戦的な笑みで報告をした。
今日の試練は昼から始めて夜まで続く。
そのためにまた配下の巨人を将軍スキルで呼び出しに行っていたのだ。
今まで俺は夕方にやめており、試練も一日に一回と明言している。
ただし時間の指定はしていないので、今日のティダのやり方はなんら問題ない。
「あちらはまだ、今日の試練の正体を知らずいる。そんなことすら知らないまま気を抜くとは」
「そう言えばそうか。そうなると何か勘違いをして、またいいように吹聴するかもしれないな」
ネフの言葉に俺が懸念を呟けば、ティダがこともなげに応じた。
「ではことをなしたら女教皇にでもネタ晴らししてきます」
「…………気づけばダークドワーフの軍に囲まれていたなど面白そうですね」
「あ、いいね」
ネフの案をティダが採用してしまうが、任せたんだし俺は何も言うまい。
そして今や首都は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
気を抜いていたためにすでに相当な被害が広がっているとスライムハウンドが報せる。
どうやら昼から始まった時には、太陽のことがあったため気を張っていたそうだ。
日暮れを待って完全に武装を解いていたドワーフも多く、防衛線を築くことさえままならないという。
そしてまた一時間おきに巨人の対処となり、今度は日中とは別方向から城に向かわせた。
「そっちにも大砲が展開できるか見ものだね」
「強力な一撃でしたが、連射できない様子。そこに隙があるのでしょう」
「あぁ、ネフは商人ジョブだが知らないか」
「おぉ、ごぞんじで?」
「え、あれ商人ジョブに関係あるんですか?」
俺が口を挟むとネフとティダが食いつく。
「あれは商人をサブとメインどちらにも据えた状態で、条件取得により得られるスキルだ」
話し出したらいつの間にかすぐ側にツェーリオがいた。
すごい目を見開いてる、いや、血走ってるぞ?
「その、大丈夫か?」
「どうか聞かせてください!」
「う、うむ」
護衛は俺たちを怖がって近づかないので、もうツェーリオを止めない。
「取得したからと言ってすぐには使えないぞ? 専用の道具がいる上に、体力、魔力、金を消費して撃つのだ」
「おぉ、まさに商人に相応しい技能ではないですか! まさかそんな素晴らしい技能が失伝していたとは、いえ…………失伝したスキルすら把握するその知性に感服します!」
なんかツェーリオが大袈裟だが、散々けなされたの思い出した後だから、ちょっと耳に心地いい。
「問題点ももちろんある。消費した分の体力や魔力は薬で回復できる。だが、金はそう簡単に補充はできない」
「なるほど、商人としての格が必要と言うわけですね」
金な?
いや、資金ってことは商人的には格なのか?
「では私は無理ですね」
「お前は宣教師だからな」
神官メインのサブ商人ジョブがネフだ。
特殊技能としては聖水を売れるとか、聖印を売れるとか。
攻撃で言うと、違う信仰の相手に受けたダメージ分上乗せというカウンターを入れられる。
防御極振りのネフの最大攻撃手段だ。
「それにしても、ドワーフに商人ジョブを極めた者がいたのか」
「あ、もしかして。大砲って攻撃後に消えます?」
ティダが何かに気づいた様子で確認してきた。
「それはもちろん。ジョブスキルでの攻撃だからな」
「だったらあれは模造品かもしれません。大砲は残ってました」
「何? だがあの威力は…………。ふむ、スキルを技術で再現? できるのか?」
俺が考えているとティダも意見を上げる。
「あそこまで迫ってようやく出したんです。そうそう使える物じゃないと思います」
「プレイヤーでも大きな代償で使えたのであれば、再現だとしても相応のリスクが伴っても不思議はないかと」
ネフも意見を上げると、ティダが俺に向かって敬礼した。
「ご所望でしたら、いるだけ巨人呼んで運んできますが?」
乱暴だけど、それはそれで引かれるな。
「いや、私が出向こう。それもまたドワーフの力として残してやったほうがレベルアップには使えるだろう。連射できないのならばさしたる脅威でもない」
そして夜を待っていたティダは、将軍称号のスキルを発動し、光の円を作る。
円の中、武装し隊列を組んだダークドワーフたちが突如として現れた。
「音を殺せ、息を殺せ、気配を殺し、任務を遂行せよ。闇の中こそ我らが故郷。闇の神こそ我らの守り。神は全てをご覧になっている。決して落胆させるな」
ティダが静かに、けれど威圧を込めて告げる。
片手を上げると、応じてダークドワーフたちも静かに腕を上げた。
そして無言のまま散開。
「さて、私も少々見に行くか」
「お供をいたします」
転移して首都内部へ入ると、ネフがついてくる。
同時に警報の鐘が打ち鳴らされた。
今日最後の巨人が王城の前に現れたのだ。
俺たちはそれを見物し、大砲を撃つのを見ようと思ったが撃たずに泥仕合が始まる。
しょうがないので城へ転移し、昼に撃たれた大砲の所へ行ってみた。
すると砲台は固定で動かせないまま置かれているのを見つける。
「やはり固定もされているということはスキルではないか。だが全く同じデザインというのは…………うん?」
マップ化で砲台の下に反応があった、アンデッドだ。
「もしや、このスキルを使える者をアンデッド化し埋めて術式で縛ることで稼働しているのですか?」
俺がアンデッドのことを教えると、ネフが恐ろしいこと言い出した。
けど他に説明もつかないし、やはり目の前にあるのはゲームと同じゴテゴテした装飾性の高い大砲だ。
「まさかこんな使い方があるとはな。これがドワーフだけかどうか、調べなければパワーバランスが変わることになる」
「神の想像を超えるとは、蒙昧な太陽神の信徒にしては知恵を使ったものです」
しまった、これは神としてまずいか?
焦りながらも気づかれないよう横目でネフを窺ってみれば、何故か上機嫌だった。
「ですが結果的に慎重な行いと安全策によって、こちらは無傷でこれを知ることができております。さすがは我らの知啓深き大神であらせられる」
おう、セーフっぽい。
…………よし、もういいや。
(まさかプレイヤーっぽい奴がアンデッド化されてるとか、それでスキル使わせるとか、新発見だけどこれは放置だ)
完全に砲台は建屋と一体だし、ここから動かせるようには見えない。
プレイヤーが移動して攻城兵器をぶっ放すという優位を放棄した形なのだから、見つけたら迂回くらいで対処はできるはずだ。
もし神聖連邦に同じようなのあったら、逆に日本の常識を持ってるプレイヤーからすれば死体を弄ぶ行為。
離間工作に使えるかもしれない。
「戻るぞ」
「では、翌日を待ちましょう」
ネフに頷きつつ、俺たちは転移して湖畔に戻った。
そして翌朝、ドワーフの首都内部で暗殺が発覚し、また蜂の巣をつついたような騒ぎが起きる。
気づけば国王の子供たちが全員死んでいたのだ。
もちろんティダの仕業だった。
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