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214話:誘拐現場

(ダンジョンあるし、太陽神信仰してるし、やっぱりゲームのドワーフか? それにしては生活代わりすぎだろ。異世界に行くとこんなに変わるもんなのか? それとも誰かが変えたのか?)


 王政がまかり通ってるこの世界で、共産主義思想はプレイヤーの影響を感じる。


 そして最もゲームとの繋がりを感じさせるのがマップ化で得られる情報だ。

 プレイヤーとエネミーを判別できるこのスキルは、人間は全てプレイヤー表記で表され、この中にライカンスロープが含まれる。

 大地神の大陸にいるNPCはエネミー表記で、俺が知っていると名前が付随した。


 そんな中、ドワーフはなんとNPC表記だ。

 つまり攻撃判定外で戦闘ステータスもない扱い。


(本来大地神の大陸にいるNPCも街ならこの表記のはず。なのに全員がエネミー表記だったのは、戦闘能力があるせいだと思ってたんだが)


 ドワーフたちはNPC表記のまま、マップ化に表記されている。

 ゲームなら、こういうマップ化に似た能力を持つプレイヤーが敵対行動をすると一気にエネミー表記に代わる仕様だった。


 だからこの状態は不思議ではない。

 言ってしまえば大地神の大陸にいるNPCたちの殺意が高すぎて、いつでも戦える状態に維持しすぎているとも考えられる。


「クペスさま、何か不都合でも?」


 大聖堂を前に黙って考え込み、動かない俺にツェーリオが問いかけた。


「うむ、ずいぶん趣が違うのでいったいどんな名工かと思いをはせていたのだ」


 適当に答えると、ツェーリオは気を取り直した様子で解説を始める。


「この大聖堂はドワーフ賢王国の中でも一番古い建造物だそうで、一切の改修も破壊も受け付けない神の加護が厚い建物でもあるんです」

「ほう?」


 街は完全に手が入れられている。

 その中で宗教的な建造物は昔のまま残されたのは変だと思ったが、壊せないかららしい。


(あ、あー。あったなこんな世界遺産。あれだ、まんまドイツのケルン大聖堂だ)


 もちろん少しずつ違うが、大まかなシルエットが同じに作ってある。

 イブの海上砦がモンサンミシェル風なのと一緒だ。


「確定だな」

「やりますか?」

「待て」


 俺の呟きに即応しようとするティダを止めつつ、俺はゲームでの記憶を呼び覚ます。


 これ何処にあった施設だ?

 確か地下がダンジョンだったな。

 街中にあるってことはすでに拠点化されてそうだ。


(拠点化するとエネミーの湧き方の調整や、所属したプレイヤーへのフレンドリーファイアとか設定できたはずだが今はどうなっている?)


 プレイヤー同士戦うイベントもあったために、こういうダンジョンの拠点化が行えた。


(そうだ、確かここ拠点化するには太陽神の加護がないといけないんだ。で、地下には火と光属性に弱い虫系や獣系が出るダンジョンだったはず)


 別にドワーフが住んでるような設定はなかった。

 ただダンジョン周辺にはアイテムの売買や倉庫の役割を果たす町がセットになっている。


 この大聖堂の周辺にも古いがゲームのアイテムショップの看板が見られたのはそのためだろう。

 となるとドワーフが拠点化した? できるのか?

 いや、プレイヤーがしてNPCのドワーフを招いたと考えたほうが自然か。


(そう言えば拠点化はどうなってるんだ? こっちの世界の奴でもできるのか? だがノーライフファクトリーはそんな風には使われていなかったし)


 拠点化条件の最低限はダンジョンのクリアだ。

 それ以外にこの大聖堂のように太陽神の加護を得ていることや、特定のエネミーを必要数討伐、神官系ジョブ習得した者の同行などがある。


「それで、クペスさま。大聖堂を見学されますか?」

「いや、宗教における礼儀もわからないままでは問題もあろう。今回はやめておく」

「慎み深いですね。いやぁ、人間の生活圏は救世教一強。そういうことを慮れる方は珍しい」


 ツェーリオのみならず護衛も頷いている。

 言葉に籠る実感から、どうやら一度やらかした経験があるらしいことが窺えた。


「興味はあるがな」

「えー?」


 俺の言葉にティダが心底嫌そうな声を上げるので、補足を入れた。


「建築にな」

「あぁ、そうですね。スタファとかチェルヴァ辺り拘りますもんね」


 城住まいの二人を上げて、ティダは納得するようだ。

 ティダも地下の街の屋敷を持っている。

 けれど暗闇で色なんかほぼないし、形も建物に見える洞窟が並んでるようなものだ。


(ダークドワーフの街も確か世界遺産を元にして、ベロベロとかいう…………あー…………アルベロベッロだ)


 石積みのとんがり屋根に真っ白な街並みの世界遺産の名だ。

 地下にそれらしい建物を並べた結果、いい感じにダークドワーフが住みそうなファンタジー感と不気味さが生まれた。


「おや、建築に興味がおありで? では見たい建物などはありますか? おすすめはここが一番ですが」


 ツェーリオのサービス精神に、俺は渡りに船と乗る。


「そうだな。それではこの都市で大聖堂以外に最も古い建築がある場所へ」


 もしダンジョンと一緒に付随する町なら少しは見覚えがあるだろう。


 ツェーリオは護衛と話し合って古い建物の情報を出し合い案内に立つ。

 どうやら細い道を進んだ先にあるという。

 あまり人も通らないような建物同士の間を俺たちは一列になって進む。


 すれ違うのがやっとな幅の道が音を遮るのか、周囲は静寂に包まれていた。


「クペスさま、個人的な興味で質問があるんですが」

「そう下手に出る必要はない。私に答えられることなら聞いてくれて構わないとも」

「では、この国のあり方は我々の常識とは違う。それをどう思われますか? 将来性など、あなたから見てどうでしょう?」


 どうと言われても一般的なことしかわからないんだが。

 あれか、どうも手紙でカトルが俺のことを持ち上げてくれていたらしいから、それで俺はすごい奴だと思ってるのか。

 しかし商人の部下がなんだってそんなこと気にするんだ、いや、待てよ。

 もしかして共産主義や社会主義の国々と同じ問題がすでに出てるのか?


「決まった生活、決まった仕事、決まった制度。これでは社会としての成長がない。成長がなければ老いるだけ。そうして慣れが生じれば対応力はなくなっていく。そこを指導しなければいけない上が変わらないままなら、若い芽は出ず枯葉が落ちることもなくただ腐れていくしかないだろうな。そこに商機を見出すのはいささか難しいと言わざるを得ない」

「そ、そこまで的確にわかるものですか。感服します。ただ、大きな声では」

「わかっている。ふむ、カトルどのには世話になった。その恩に報いるために忠告をしておこう。管理して上手くいっていると思う限りは、管理の幅を広げることで不安を払拭しようとするだろう。その内私財の保有禁止を他国民にも言い出すかもしれない。この国で生まれたものは、富も知識もすべて国のものだと言ってな」


 俺の言葉にツェーリオは目を見開き護衛も考え込む。

 どうやら兆候はすでにあるようだ。


「今の教皇猊下が立たなければありえたかもしれませんね。あの方が立たなければ長老派が権力をほしいままにしてそんな強硬策もあり得たかもしれません」

「ほう?」


 聞けばこの国の教皇は、それ以前の長老支配とも言える体制を覆した時の人だとか。

 国王周辺を何十年も同じ顔ぶれの長老連中が独占していたという中、自らも長老派の家に生まれながら現体制の腐敗を憂えて立った高潔の人。

 太陽神を信仰する教会勢力の中でも長老支配が起きており、教皇は長老以外を味方につけて権力を覆したそうだ。


 その動きを受けて国王周辺にも改革の声が上がっているという。

 今も長老派は居座ってはいるが、以前ほど強権的ではなく、下から覆されて手酷く追い出されることを嫌って軟化姿勢らしい。


「ただ長老派はまだまだ勢力としては堅固だ。それ故に教皇には反発もある。不用意な発言は慎むべきだな」

「けど教皇猊下は人気で、大聖堂に詣でるような時にはあの大聖堂前の広場に人が溢れてすごいんですよ」


 護衛が警告するようにいうのを気にせず、ツェーリオが観光案内の乗りで話す。


「そうなると、勢いづいた教皇派とも言える者たちが熱に浮かされて暴走もあり得るか」

「そうですね、教会側の長老勢力は徹底的に追い出されて、さすがにやりすぎの声も…………え?」


 俺はツェーリオに手を上げて言葉を止める。

 マップ化に異常があった。

 ドワーフたちNPC表記しかいないはずが、エネミー表記が現われている。


 俺たちが行く先の道を横切るように移動しており、すぐに見える場所を走り抜けようとした。

 ドワーフ五人ほどだ。

 そして二人がかりで暴れる女ドワーフを抱えている。


「ゆ、誘拐!?」


 ツェーリオが声を上げ、俺たちに気づいたドワーフが一斉に動きを止めた。


 その目には敵意が浮かび、こちらの戦力となる護衛が後ろに並んでいると見た途端、足を向けて攻撃態勢を取った。

 そして攫われるらしい女ドワーフはさるぐつわを噛まされたまま、言葉にならない声を出し殴られる。


 その姿が、全く似てはいないが、イブの姿とダブる。


「誘拐とはけしからん。正々堂々と立ち向かう勇気もない卑劣漢め。ティダ、やってしまいなさい。あ、ただし殺すのはいけない」

「えー? むぅ、わかりました」


 釘を刺さないとやる気だったようで、不満を漏らす。

 それでも滾っていたティダは、放たれた矢のように駆け出した。


 ティダの将軍称号は単騎だと意味はない。

 ジョブも戦士系だから武器がないと攻撃力にボーナスなしの状態だ。


「え、強!?」

「なんだあの嬢ちゃん!?」


 だがツェーリオと護衛が言う間に、ドワーフたちが狭い路地で吹き飛ぶ。

 アッパーをすればドワーフは二階の窓まで飛び、足を掬うように蹴ればドワーフは横一回転する。

 冗談のような動きでドワーフを征圧した上で、顔を隠したティダはマントが取れないよう巧みな体捌きで一糸乱れず立っていた。


「見事だ」

「えへへ、はい」


 嬉しげに笑って戻るティダだが、捕まってた女ドワーフ放置で、放置されたほうも茫然とする。


「え!? 教皇猊下」


 そんな女ドワーフと目が合ったツェーリオがまた声を上げたのだった。


隔日更新

次回:女教皇の招き

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