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212話:几帳面な国

 と言うわけでやって来たドワーフ賢王国。

 旅の情緒? ないない。

 いつの間にかスライムハウンドが行ってて俺はそれ目がけて転移するだけ。


(なんか知らない内にスライムハウンドによる転移網できてるっぽいんだよな)


 スタファに聞いたら警戒して近づかないよう言った神聖連邦内部以外はどの国でも転移可能にしてあるそうだ。

 きっかけはイブ誘拐前のタイムアタック云々。

 あれで公平を期すため、首都と主要な交通路に面した都市に転移できるようスライムハウンドを派遣したらしい。


 優秀な部下っていいなと思うと同時に、俺の目の届かないところで何やってるんだろうと不安にもなる。

 ワンマンでやって来たシナリオライターだから、部下とか上司とかないし。

 企画のリーダーなんかはいたけど、命令してくるような関係でもないし。


 なんて、こんな神らしくない小市民な考えがNPCたちにばれないようにしないといけない。


「島なんですね、かみ、じゃなかった。トーマスさま」


 一緒に転移したティダがフードの縁を上げて、睨むように目の前の光景を見ている。

 念のため武装を解かせたせいか手持ち無沙汰な様子で、空いた利き手を開閉していた。


 俺たちが転移したのは湖のほとり。

 行ったことないけど琵琶湖ってこんなかな? ってくらい広い。


 その湖の真ん中に島がある。

 いや、島というには広大な土地に見えるが、これがドワーフ賢王国の首都らしい。


「内部はさらに川が円を描いて張り巡らされており、水による二重防壁を成しています」


 転移の目印にしたスライムハウンドがきびきびとした声で説明をする。


「へぇ? 防壁って言うくらいだからそう簡単に越えられない幅を用意してるんだろうね?」


 ティダが興味を示すと、スライムハウンドが一度消えて口に何かを咥えて戻って来た。


「失礼。こちらがスカイウォームドラゴンを使い作成した俯瞰地図となります」


 そんな物まで作ってたのか。

 聞いてないぞ。


「そんなのあるならさっさと攻め込めば早いのに」


 よし、ティダに秘匿してたことは評価しよう。


 そう思いながら見ると、そこにはダイヤル式の金庫の錠を思い出す円の連なりと区切りのような真っ直ぐな道が描かれていた。


「几帳面か」


 思わず声に出してしまった。

 だってほぼ円形だし、道や建物が作図したように同心円状だし。


 町作ったり家作ったりできるゲームやったことあるけど、作るなら四角が簡単だ。

 円って大きなものほど左右対称に形整えるの結構面倒なんだよな。

 ひとマスずれただけで全部やり直しになるし。


(うん、何度か投げたな。ゲームでもそうなのに、これ実際作ったのかドワーフたちは)


 改めて目の前の湖の大半を占める島を見る。

 外見的特徴は報告を聞いた限りゲームのドワーフが住んでいる。

 古ぼけて経年劣化しているが、どうやらゲーム時のアイテムショップやギルドの看板も確認できた。

 ただこんな形の都市はゲームには存在しない。


「ティダ、慢心があるならば改めよ。慎重に状況を調べ、展開を読みつくしてから動くように」

「ですが、ドワーフなんて速攻で殺しつくしたほうがのちの憂いはなく、こちらの損耗も今なら軽微で済みます」

「ドワーフが我々の知るものかどうかまだ断定はできない。人間のほうで調べた限り歴史上古くからドワーフという種族はいた。国を作ってこうして安定して暮らすのは二百年ほど前かららしい。知っているな?」

「はい。スタファに言い聞かせられました。ダンジョンを拠点化して住んでるクリムゾンヴァンパイアの例もあるけど、人間たちもダンジョンを活用して街を作っているし、ここのドワーフが我らの神に反すると決まったわけじゃないんだから、活用できるならしろって」


 言い方ぁ。

 けどまぁ、そうだな。

 ドワーフにもゲームの設定があるならたぶん敵だ。


 だって設定に大地神を邪教扱いって書いちゃったもん、俺が。

 逆にダークドワーフのティダたちは太陽神を敵視するって設定つけたしな。

 理由は信仰する大地神を攻撃したからだから、まぁこの過剰反応は俺のためとも言える。


 ゲーム上に作った設定では大地神と太陽神の争いがあり、そこに風神が付け込んで二神を大陸ごと封印したことになっている。

 つまりティダからすると俺の仇の一端を担った太陽神を崇めるドワーフのほうが邪教だということなんだろう。


(けど俺自身にとっては太陽神とかその信者とかどうでもいいんだよな。だって設定は設定で俺に害はなかったし。ただ俺の書いた設定でそういう感情になってるティダを否定するのも申し訳ない)


 どうしたものか。

 一応ティダには顔隠すためマントを着せて、帝国と同じようにしている。

 傍から見たら顔を隠した子供だろう。


 俺も帝国でペストマスク付けさせてたスケルトンのことを思い出して、今は違う格好だ。


(着ぐるみ型装備で、忍者があって良かったな。次に忍者ジョブ伸ばそうとか思って取っておいて良かった)


 ゲームには忍者というジョブがあり、専用装備だが俺のアバターがアイテムボックスに入れっぱなしにしていた装備だ。

 盗賊スキルを持つ羊獣人を使ってちまちまアイテムボックスの中身を取り出していたが、これがちょうど最近取り出された。


 黒づくめの頭巾と覆面に和装という典型的な忍者姿の上に、甲冑を思わせる装備が部分的に付随している。

 俺はさらにその上からライカンスロープ帝国で手に入れた日除けのローブを纏い、キャラバンのような格好になっていた。


「何者かが近づいております」

「ようやくお迎えか」


 スライムハウンドが接近者に反応して声を上げる。

 俺もマップ化に近づく者がいることを確認した。


「トーマスさまを待たせるなんてなってないですね」

「ティダ、相手は友好関係を築いた人間の部下だ。敵ではないし、場合によっては守ってやる必要もある。そこを忘れるな」

「はーい」


 やる気の感じられないティダを心配する間に、スライムハウンドは挨拶して消える。


「控えておりますので、ご用命あらばいつでも」


 ほどなく、人間の一団が現れた。

 護衛らしい武装した人間が三人、その後ろに守られるように商人風の男が一人。


「トーマス・クペスさまでしょうか?」

「あぁ。カトルどのの紹介でドワーフ賢王国を案内してくれる者にはこれを渡すよう言われているが。君がツェーリオで間違いないかな?」


 糸目の商人カトルが紹介してくれたのはドングリ眼の青年だった。

 頷かれたので紹介状だという手紙を渡したが、首を傾げられる。


「あの、自分も聞いたのは今朝のことで、これが書かれているのも昨日の日付で…………どうやってこちらまで?」


 転移です、なんて言えない。


(しまったな。連絡だけなら一日で可能にしても、移動は普通に時間かかるよな。どれくらいだろう? 船にしても早くて半月、普通は一カ月。陸路だと山越えで…………)


 どう考えても早すぎて怪しまれてるなこれ。


「…………秘匿する手段を聞きだすならば、相応の覚悟はできているのだろうな?」

「え、いえ、そんな」


 ちょっと圧をかけたらツェーリオ青年は退くが、護衛らしい歳のいった男が食い下がる。


「いや、あんた顔も出さないで怪しい自覚はないのか? こっちも任されたからには下手な対応はできん。だからこそ確認をしているんだ」


 ぐう、正論。


「じゃあ、あんたたちいらない。行きましょう、トーマスさま」

「こら、ティダ。それは紹介してくれたカトルどのの顔を潰す行為だ」


 すでにヴェノスとグランディオンのことで迷惑をかけているし、せっかくなんかこっちのために動いてくれるって言うのに無碍にするのも違う気がする。

 協力者であることをヴェノスもティダには言い聞かせているのを見ていたんだが。


 たぶんこれ向こうの善意だし、こっちが考えずに怪しい行動しただけだしな。


「ふむ、そちらは連絡手段があるのだろう? だったら気が済むまでやり取りをして私がトーマス・クペスであると納得してくれてからで構わない」


 協力が必須なのはドワーフ賢王国への入国には紹介が必要なためだ。

 それができる相手をカトルにはお願いしたのだが、ティダは忍び込めばいいと思っているんだろう。

 けど目をつけられる面倒臭さを俺は共和国で体験している。


(それに普通に観光したい)


 そう観光だ。

 ティダは失敗続きで焦っているらしいのだから、ちょっと気分転換したらいいと思う。

 そして簡単なお使いでもさせて成功体験を作ろうというのが俺の考えだ。


 しょっぱなから問題を起こすわけにはいかないと思ってたら、ツェーリオの目が俺の手元に釘づけになっている。

 そこにはスカイウォームドラゴンを使って作った俯瞰図があった。


「そ、その精巧な地図を、何処で? そんなのドワーフたちの重要機密…………」

「ふむ、見なかったことにしてくれ。ただ言っておくが決して不正な手段で手に入れた物ではない。我々は一度これで去る。三日ほど経ってからまたここにくるとしよう」


 俺は地図を隠して足を引いた。

 すると青年が手を上げて止める。


「トーマス・クペスさま! どうかご寛恕を! カトルさまから言われたとおり、我々の常識では計れない方だったとは。自分が未熟なため、どうかお待ちを!」


 いきなり身を低くして止める姿に、護衛がツェーリオに身を寄せた。


「いいのか? 顔も見せない相手に」

「顔はカトルさまも知らないと書いてあるんだ。ただ、その知啓と計り知れない懐の深さ、また個人が持つには大きすぎる財と有能な部下を多数抱えているともある」

「あの地図、そうして手に入れたと? だがドワーフ賢王国に入れないんだろ?」

「つまり、表以外から入れるくらいには無茶が利く財を持ってるんだ」


 なんか秒で誤解が発生してるんだが?

 いや、誤解でもないか? 無限にメノウ取れるなら財産としてはありか?


 俺は考えつつ、口挟もうとするティダを押さえてるので見守るしかない。

 悪いほうに行かないならいいか? いや、これどうなんだ? 悪いのか?


 俺じゃわからん。ティダに聞いてもたぶんわからん。

 だったら向こうが折れてくれるならそれに乗ろう。


「できれば、この国の歴史や、あの街の創設に関して詳しい話が聞ければ嬉しいのだが」

「はい、このツェーリオにお任せを」


 どうやら観光ガイドしてくれるらしいので、俺はゆっくりと頷いて見せたのだった。


隔日更新

次回:共産主義疑惑

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