211話:プレ失敗
ライカンスロープ帝国で丈夫な人員ゲットし、グランディオンに帝位とか言うのもうやむやにして帰った。
なんかカトルがすごく協力的だったし、ゴールデンレトリーバーのライカンスロープもこっちに負担がないようにすると言ったから大丈夫だよな。
俺は捕まえた『砥ぎ爪』の奴らを連れて大地神の大陸でテスト運行をすることにした。
高くてもレベル五十くらいで、あまり自分のレベルを知ってる者もおらず大して期待はしてなかったんだが。
「三回復活、防具供与、ドロップ品の譲渡、エリアクリアごとの褒賞で戦意は高かったはずなんだがな?」
俺は端に蹲って動かなくなった『砥ぎ爪』を眺めて困る。
暗い地下で一緒にいるのは、スタファとヴェノス、アルブムルナだ。
状況確認に行くと言ったらついて来た。
「やっぱり強さ、人間とそんなに変わらないんじゃないですか? この地下を抜けられないなんて」
アルブムルナが白く浮き上がるように見える。
地下の闇だがここは青白い灯りが設置されたスタート地点だ。
さすがにゲームだったから、新ステージしょっぱな真っ暗なんてしない。
映像機器の故障疑われるしな。
他にも火を使ってはいけないという縛りのあるダンジョンがあり、そうしたダンジョンの定型がこの青白い暗がりだ。
(プレイヤーならこの状況に放り込まれてすぐわかるんだけどな)
ライカンスロープたちは即座に灯りを求めた。
青白い灯りを取ろうとするならまだいい。
これは地下でも許された灯りで、ゲームでも特定のエネミーを倒して素材を手に入れ作ることができる。
だがライカンスロープたちは赤い火を求めたのだ。
もちろん赤い火を持ち込むことは禁忌なので即座にティダが走り込んで抹殺。
すぐに三回の復活を使い切り、地下から抜け出すこともなく現在に至る。
「勝てない、勝てるわけがない…………無理だ、ここはただの処刑場だったんだ」
なんか言ってるし。
全員が灯りを持って進もうとしたため殺されている。
さすがにそれだけやれば灯りが駄目だと気づく者もおり、耳や鼻を使って闇の底を進もうとしたライカンスロープもいた。
それならダークドワーフは襲って来ないが、冥界の神の配下と設定されたエネミーは襲ってくる。
最低レベルは六十前半。
ここにいるライカンスロープたちはそいつらにも瞬殺された。
「推定平均レベルは三十か?」
「さて、自己申告で盛っていたとしても四十に届いている者もいたとは思われますが、すでに立つ気力さえない様子。まだ古式決闘で自裁なさったライカンスロープのほうがましですね」
ヴェノスは尻尾をぴしぴし打ち付けながら推測する。
たぶんライオンのライカンスロープとやり合ったというハイエナかな?
命か全財産かって話だったし、そうか、死んで命差し出せば財産は守れるのか。
血もなければたぶんすでに死んでる俺はどうすれば?
皿、貰った意味なさそうだな。
「逃げ隠れすることすらままならないとは。そもそも基本を押さえていないことが問題かと。神がおっしゃるように選んで育てるような手を打たなければこの地下を抜けられる者は現れないでしょう。それで言えばレジスタンスはよいモデルケースですね」
溜め息を吐くスタファにアルブムルナは手を打った。
「そうか、レベル二十なかった奴らが今は四十に育ってるし。装備品もレベルに応じて扱うことができるし。あの帝国の女探索者たちも強敵を相手にすることでレベルは着実に上がることも報告されてるな」
なんか育成ゲームみたいだな。
アンとベステアも育ってるのか。
だがボスクラスに遭遇して倒せてるのか? あ、ペストマスクしたスケルトンか。
あいつのレベルって六十五だっけ、初期のボスなら行けるか。
(いわゆるパワーレベリングか。そう言えばファナたちもここで鍛えたならパワーレベリング状態だったな)
変わらずライカンスロープたちはガタガタ震えるばかり。
三回の復活が終わったら、こうしてスタート地点から動かなくなったのだ。
水も食糧もないから死ぬしかないが、ここは冥界の入り口に近いという設定。
何故か五日たっても餓死者が出ない。
だから様子を見に来たらこれだ。
「そう言えばこちらの者は謎解きを知らないのだったな。となると、そもそも海上砦を越えられる者がいない可能性もあるのか」
ゲームでも解かれずに終わった海上砦だが、あれは思考の硬直もあったと思う。
「最初から海上砦はイブさえ倒せればいいとするか?」
「それは、イブがまた荒れるかと。ましてや神の試練の最初を越えられぬ者が、以後もここで生き残れる道理もないのではないでしょう」
スタファの意見は確かにそのとおりだ。
けどヒントもなしできることじゃないのはゲームの時にわかっている。
「海上砦は他のダンジョンや町の史跡で情報を集めて解くかたちだった。この世界では無理だろう? まず集める情報が存在しないのだ」
「だったら海上砦内部に情報を置いては?」
ヴェノスにアルブムルナが指を鳴らす。
「あ、育てるためにダンジョン巡りさせたらどうです? ノーライフファクトリーとか、フェアリーガーデンとか。石碑でも置けばそう簡単に壊されないでしょうし」
良さそうだが、そのためにはまずダンジョン内部がリセットされるかどうかを確かめないといけない。
宝箱は一度開くとなくなるが、内部に置いた物はどうだ?
ゲームなら設定にないものは消える。
だがそれと同時に復活するはずの宝箱そのままだ。
以前行ったノーライフファクトリーではイスキスたち『水魚』の死体もそのままあった。
石碑を設置しても残る可能性は高いが確かめる必要はあるだろう。
(ゲームでもダンジョン巡ってレベル上げて、高位のダンジョンに行ってたんだよな。ゲームっぽくていいんじゃないか? ただそうなるとちゃんと最初から情報置いてあるダンジョン通過してほしいな)
ノーライフファクトリーもその一種で、ノーライフ系には小さくも大地神の大陸に関する情報が必ずある。
もちろん重要度はさまざまだ。
中でもあると確定しているのがノーライフキャッスル。
あそこには太陽神と大地神の情報に合わせて大陸のことも記されている。
ゲームではその情報を読み間違えて、北の沈んだ大地がそうだったとまことしやかに言われてしまった。
「ふむ…………クリムゾンヴァンパイアならばもう少し粘るだろうか?」
「捕まえて放り込みますか? そうですね、この獣人たちもその際に活用しましょう」
笑顔でスタファが何やら計画を組み立て始める。
すぐさま配下のスライムハウンドたちを呼び出して細々と指示を出し動き出した。
俺は何もしなくて良さげ?
やった。
「やはり優秀な部下はどんな宝にも勝るな」
「ま、まぁ、過大な評価にお応えする所存ではありますが、機を見て的確に指示をくださる神がいるからこそでございます」
スタファも暗闇の中白く浮かぶ姿をしているので、恥ずかしがるように両手で頬を押さえているのがわかる。
ヴェノスは何故か息を吐いた。
「えぇ、離れてこそその辣腕ぶりが良くわかるものです。私は失敗してしまいましたが、その後のご活躍はまさに全てが神の手の上」
妙な褒め言葉はいつものことだが、ちょっと落ち込んでる?
そんなヴェノスをみてアルブムルナが俺に顔を向けた。
「あの、神よ。今回上手くいかなかった要因、ティダにもあると思うんですよ」
「ほう、聞かせてみよ」
普通にゲームどおりだったと思ったけど?
「あいつ失敗続きで神に怒られてばかりです。俺たちもフォローしたけどそれが余計に将軍としてのあいつのプライド揺さぶってるようなんですよ」
そう言えば、この世界に来てすぐに低率ポップのレアだろう巨人を殺してしまった。
最近では皇帝暗殺に際して良く情報を得ずに殺させている。
「拙速ではあるが、そこは将軍としてありではないか?」
「確かに兵を操る者としては責められるほどの失態ではないでしょう。ですが、神の信徒としては神の意志を汲めない失態は忸怩たる思いがあることはよくわかります」
ヴェノスはどうもティダに同調するらしい。
さらに指示を終えたスタファも話に入ってくる。
「確かに今回、ティダは前に出すぎるきらいがありました。試行でやらせるならば、それこそ数人抜けさせて他の具合を見るくらいの余裕があるべきかと。ところが失敗を挽回しようと力が入りすぎて全員くまなく殺してこのようになったとも言えるでしょう」
言われてみれば、禁忌を犯せば一番に駆けつけていたティダが誰一人逃さず殺していた。
怯えるライカンスロープたちは容赦ないティダに恐れをなした部分もあるのだろう。
(そう言えばティダはどうしても敵対するエリアボスって設定でもないのに殺意高かったな)
灯りのせいだと思っていたが、エリアボスたちはティダがやる気すぎるせいだという。
侵入者を初手で殲滅するのは防衛の観点から悪い話ではない。
ただ確かに今後もこうしてプレイヤーとして入った者をここで全滅させては面白くない。
そして力みすぎるのは失敗のせいだという。
「つまり、ティダには成功体験が必要か」
「うわ、お優しい」
「さすがは慈悲ぶかき神」
「そのような方だから我々も力を入れてしまいますのに」
苦笑するアルブムルナと頷くヴェノス。
スタファは何故かうっとりしてる。
俺からすれば、優しいだとかはぽっとでの俺に設定だからって従ってくれるお前たちなんだよな。
まぁ、言えないけど。
「ただ私には何をすればティダが自信を取り戻せるか思いつかない。意見はあるか?」
「レジスタンス任せたり、暗殺任せたり色々したのに失敗しましたもんね、あいつ」
アルブムルナが容赦ない。
「私も任されたところを失敗し、神に後の始末をさせてしまいました。これ以上任せても神の希望に添えぬとより悪化することもありえましょう」
ヴェノスの意見を聞いてスタファは残念そうに頷く。
「いたし方ありません。神とドワーフ賢王国に同行をさせましょう。神のお側で学ぶ機会以上に有用なことはありませんもの。本当は私がお伴したいくらいですが、優秀とお褒めいただいたからには確かに務めを果たします」
…………なんでそうなる?
経緯はわからないが、俺はティダとドワーフの国に行くことになったようだった。
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