209話:プレ
なんなんだ?
突然カトルに船と命の話をされた。
日本では定期的に避難や災害対応の情報番組やってたからそれで見たまま答えただけで何やら覚悟の顔になっている。
(傘下って手下になるでいいのか? ファナみたいな?)
俺が考えている内にヴェノスが大きく頷いていた。
「賢い方と知っていましたが、機を逃さない決断力も素晴らしい」
何やら手放しで褒めるようなことらしい。
グランディオンも笑顔で頷いている。
どうやらNPCのまとめ役であるエリアボス二人は前向きにカトルの傘下入りを歓迎しているようだ。
だったらいいのか?
けど何させたらいいんだ?
さすがに戦闘参加は無理だろう。
ゲームでも商人ジョブあったけど戦いではアイテム消費型だったんだよな。
まず前提がゲームアイテム持ってることだし。
「…………あ、カトルどの。宝石、メノウなどを売る販路は持っているだろうか?」
俺は思い出して聞いてみる。
大地神の大陸じゃ売り買いしても富が移動するだけで増えることはない。
だから外に売ること考えたんだが、俺にはそんな伝手ないし、ゲームでは最終的に余る毒消し程度で探索者ギルドでは特別扱いだった。
絶対これでメノウとか無限に出すと目立つし目をつけられるだろうから自重してる。
だが今はゲームの再現をすることに決めた。
そうなるとプレイヤーに旨味を提供しなければいけない。
ただどうも宝箱は消費型で、だったら無限に出て来るメノウで誤魔化せないかと、あと宝石で釣れないかと思ったんだ。
「いや、消えもののほうがいいか? 消費アイテムなら値崩れも…………まずは選別が…………ふむ」
「なんや早速お役立てます? 行商続けて得た情報って言ってもトーマスさんのほうが手広いみたいですし。商売やったら本領ですわ」
やる気あるならこの調子でいい感じにメノウと商人使って大地神の大陸に挑む人間誘えないかな。
あ、そう言えばそんな感じの罠あったな。
宝石の谷だ。
谷の下にはウォームドラゴンが巨体で襲いかかり、谷を登ってもグールが襲ってくる。
あそこの宝石でもいいのか。
そう考えるとやっぱり宝石出し過ぎてインフレ起こしてもな。
「拙速かもしれない。一度持ち帰ろう。あぁ、だが後で実物は渡すから検討はしてくれ。いい使い方が思いつくようであれば意見を聞かせてほしい」
「物によりますけどトーマスさんなら下の品なんてことあらしませんから。冶金工房の紹介でも、売りつけるお偉いさんの紹介でも、もしくは名を売る競売開くでもやってやりましょ。いくらか考えときますわ」
本当にやる気があるな。
しかしメノウの目的をなんて説明しよう?
目立たないように目立ちたいとかわがまますぎるし。
俺が考えているとマップ化に反応があったが、なんかここにきてからデジャヴばかりだな。
「カトルどの、来客のようだ」
「そんな予定ありませんし、誰かが応対に出た様子も…………ま、まさか侵入者!?」
「ライカンスロープがバラバラに入って来てます」
グランディオンが鼻を動かして告げると、ヴェノスが剣に手をかける。
「守備を思えば、屋敷内の人間はこちらに集めるべきでしょうが」
「すでに相手に先手を取られているからな。ただ、こちらも動きは捉えている。どうやら気づかない者たちには近づかないようだ。こちらに向かっている」
宮殿でも襲われたって言うのに、今度はなんだ?
あのゴールデンレトリーバーとは別口に、グランディオンが気に食わないと襲ってくる奴がいるのか?
そう思ったら新たな反応が現われる。
しかも今度は玄関のほうで盛大な足音と声が聞こえた。
「ふむ、帝孫と呼ばれていた者が兵を連れて来たな?」
マップ化に名前が出るし、その騒ぎに侵入者のほうの動きが早くなる。
「ヴェノス、カトルどのたちを守るように。狙いはグランディオ…………うん?」
マップ化でこの部屋に一組が来たのはわかった。
同時に攻撃が俺を狙う。
ただ襲撃者のレベルが足りず、俺は自動回避が発動した。
次の瞬間さらに新手が俺を狙う。
なんでだよ。
「また別勢力か? 待て、グランディオン」
「え、あ! 殴っちゃいました」
俺を攻撃した奴を爪で引き裂こうとするのを止めたが、爪を納めただけで殴り飛ばす。
そして一人を殴って吹き飛ばしたことで、近くの侵入者が巻き込み事故。
計三人が壁際の調度を巻き込んで倒れた。
しかもそこにゴールデンレトリーバーが駆け込んで来る。
「遅かったか! だが我ら帝室の名誉にかけて『砥ぎ爪』の勝手は許さん!」
なんか止めた甲斐もなく戦いが部屋で始まってしまった。
結局汚れないよう考えた家具に血が散っている。
「すまん、カトルどの。これはもう被害を抑えられん」
「いやぁ、あからさまに命狙われて最初にそこですか?」
「あの程度では攻撃に当たることさえ難しいからな」
勝手に回避なんだけど、カトルたちは壁際でヴェノスに守られながら感心したような声を上げた。
ほどなくゴールデンレトリーバーが勝利し、戦闘は終わる。
ゴールデンレトリーバー側が数が多かったこともあり征圧ができたようだ。
ただまだ潜んでいたのを逃がしそうになったので、グランディオンには取ってこいをさせた。
ガトーの時と違ってちゃんと生きたまま連れ帰って来たのは進歩と言っていいだろう。
「説明を願えるかな? 『砥ぎ爪』と聞こえたが、確かライカンスロープ帝国に巣食う悪事を働く者たちだったはずだ」
「うむ、まことに汗顔の至りだが、我が国に根を張る悪の組織だ」
ゴールデンレトリーバー曰く、こいつらは『砥ぎ爪』の暗殺者。
なんで俺狙いかというと、宮殿に『砥ぎ爪』の間諜がいてグランディオンは俺に頭が上がらないと報告したから。
だから俺を押さえればグランディオンもヴェノスも言うことを聞かせられるはずだと画策した。
得物には毒が塗ってあり、致死性だったが即死じゃない上に解毒剤も持ってたそうだ。
どうやら俺を毒で弱らせて命を盾に交渉事をするつもりだったと。
それをゴールデンレトリーバー側の間諜が察知し、大慌てで駆けつけたらしい。
「いや、広間でも『砥ぎ爪』襲ってきましたし、トーマスさん、めちゃめちゃ強いですやん」
カトルが『砥ぎ爪』の無謀を指摘する。
「それが、私が騒がせたために実行部隊は残ったが間諜はすぐさま逃げて、クペスさまのお力を見ずに報告を持ち込んだようだ」
「なるほど、ただの人間と侮った訳ですね。数が分散していたのも、私とグランディオン以外碌な戦力がいないと見た結果ですか」
ゴールデンレトリーバーの説明にヴェノスが苦笑した。
「ぐるる、じゅるり」
「ひぃ! ひぃ! ひぃ!」
狼男と化したグランディオンが、攻撃衝動を耐えながら涎を啜ると、縛りあげられた暗殺者たちは身も世もなく声を裏返らせる。
そんな暗殺者を横目に一人を選び出して、ゴールデンレトリーバーの部下がその場で尋問というか、叫ぶ内容を書き留め精査、整理を行った。
「そ、そもそも『砥ぎ爪』は五十年前に人間の、に、人間、国の、神聖連邦の支援を受けて! お、俺らの考え、じゃな、なく、くてな!」
グランディオンの牙の前に置かれたくない一心で『砥ぎ爪』の内情を暴露する。
ゴールデンレトリーバーたちも知らない事実などがあり驚く様子だった。
「…………トーマスさん」
「どうした、カトルどの?」
「今さらですけど、ガトーやったの、グランちゃんです? もしかして、やりすぎてトーマスさんに怒られました?」
「あれはほぼ自滅だと思うが、まぁ、私とヴェノスは迎えに行っただけで終わったな」
カトルが今さら確認するのは帝国での一件。
グランディオンが落ち込んでいたのをガトーに捕まった恐怖と思い込んでいたが、実際は失態を叱られたことだと気づいたらしい。
カトルはどうやら俺たちの関係と力を見直して正しく物事を判断できた。
「ガトーと言えば、『砥ぎ爪』でも最強の一角の?」
「あの程度でですか? 最後は部下を置いて一人逃げ出したというのに」
驚くゴールデンレトリーバーにヴェノスがいっそ不快げに顔を顰める。
途端にライカンスロープたちが敵味方関係なく黙った。
「そう言えば、帝国でも血に酔ったグランディオン相手に果敢に挑みかかっていたな。ライカンスロープは存外戦闘意欲が高いのか?」
狂乱してたのもあるが人間より強いのは確かだろう。
「帝孫どの、この者たちはどうするかお聞きしても?」
「クペスさまにおかれましては我々にお気遣いは不要。お望みとあらばお好きに罪状と刑罰をお決めください」
なんかゴールデンレトリーバーがすごい腰低いんだが、凍らせたのそんなに嫌だったか。
「では、『砥ぎ爪』全てを引きとろう」
「は?」
ゴールデンレトリーバーが言葉を詰まらせ、カトルも目を見開く。
ヴェノスは『砥ぎ爪』たちを見回して首を傾げた。
「どう活用なさるおつもりで?」
「本拠の防犯を確かめるためにはある程度腕が必要だ。また、人間相手以上に動けるのならば、こちらの予想を超える手をする場合もあるだろう。三人一組、いや、五人一組にしてどれだけ内に入れるかを見ようかと思ってな」
「あぁ、なるほど。以前試した際は試しにもならない程度でしたから」
つまりは来るプレイヤーとそれに準じる人間たちを相手にするためにライカンスロープで大地神の大陸の難易度を計ろうというのだ。
そう、エリアとしてのプレオープン的に使ってやろう。
(考えてみたら俺もサービス中の後半離れてたし、大地神の大陸に手を入れられてる可能性もあるしな。今度はすぐ死なないようボスは大人しくさせておこう)
ゲームサービスでもいきなり本番は危ないのだ。
予想外のトラブルもあれば、バグの発生もあり得る。
『砥ぎ爪』全部を捕まえれば、組みをわけてトライアンドエラーで問題を洗い出せるだろう。
ただこの世界の人間は死にやすいし、死にゲー要素が大地神の大陸にはあるので三回くらいは蘇生させてやろう。
インベントリに無限に入っているからこそできる措置だ。
うん、ちょっと楽しくなってきたぞ。
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