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21話:良い勘違い

 ヴァン・クールはファナの墓への案内を願った。

 部下にも言い含めて墓を暴かないという約束で。


 そして半分の部下を男三人の死体の持ち帰りに割いて今はいない。


「もっと早く…………いや、俺では何の説得力もないか」


 一度掘り返し、邪魔な衣服を埋めてもう一度土を戻して石を乗せただけの墓にヴァン・クールが語りかける。

 手を合わせる姿は真摯さが滲み出ている。


(ファナから聞く限り知り合いではないということだったが。他人にここまで真剣になれるなら、相当義理堅い男ということか)


 墓にはいつの間にか巾着らしきものが置かれていた。

 中身を見たところ、人二人分の髪の毛であるらしい。


「親しいものの遺髪か」

「足に剣を刺されていた死体の手には髪の束が握られていたので、これにその髪を加えれば遺品として適しているでしょう」


 ネフが何やら恐ろしいことを言っている。

 そんな物握っていたか?

 というか遺品としてと言うなら、その髪はファナの物であると言う前提だ。


(抵抗した時に千切られた、と思うのが妥当だろうが、なんだかな。ボロボロだったから髪型とか見てないし。まぁ、本人がいいならいいか)


 血の染みた巾着を置いたのはファナ本人だろう。

 ヴァン・クールが遺品について言及したことに対して行動した結果のようだ。


 近くの血だまりを見て他の兵士たちも神妙な顔になってた。


 これで死んでいるということは印象付けられたか?

 隠蔽が間に合わなかっただけだが血の跡が残っていたのは嬉しい誤算だな。


「ダイチどの、ネフどの、我儘を聞いていただき感謝する」

「死者を悼む思いがあるなら、応えるのは吝かではありませんでしたので」


 宗教の人っぽく言ってみる。


 そんな俺の横でネフが首をかしげていた。


「その手を合わせるのは何をしているのですか?」


 は?

 何って祈ってるんだろ?


「あぁ、あなた方のやり方ではないだろう。これは救世教の祈りの姿だ。そちらはどうするのかな?」

「こう胸に手を当てて俯きますね」


 ネフがやってみせるのはどことなく西洋風。

 そう考えると救世教は仏壇に手を合わせるようにするというのは違和感があった。


(…………救世って、そう言えば救世主に字面が似てるな)


 一神教とかまさか、キリスト教だ。

 なのにやってることは日本風って。

 まさか救世教は俺以前にやって来たプレイヤーが作ったなんてあり得るか?


「今回のことは、何処まで報告されますか?」


 たぶんこのヴァン・クールは現地民だ。

 俺をプレイヤーとして報告することはないだろう。


(だが未確認の魔物の特徴を伝えたら?)


 それがゲームにしかいないスライムハウンドだとプレイヤーならわかる。

 そして同じ場所にプレイヤーがいる可能性にも気づくだろう。


 よく考えたらこの世界にプレイヤーがいるのはまずい。

 基本的にNPCは敵キャラなのだから、世に危険性を訴えられて日の目を見る邪魔をされるわけにはいかない。


 俺の緊張が伝わったのかヴァン・クールも真面目な顔で応じた。


「救世教を国教にするこの王国で、山の奥に潜んでいた事情は考慮します」

「そんなことを言って良いのですか?」

「はは、あなた方はこの憐れな少女を朽ちるに任せることも、魔物の出現に動転する我々を見捨てることもできた。それをしなかった善意を踏みにじることはできない」


 誤魔化しや様子見のためだったが、どうやらいい方向に勘違いしてくれたようだ。


「ただ、あなた方の信仰を罪に問うようなことはしないが、巨人が動き出したことは報告しなければならない。こうして巨人の動き一つで今までにない魔物が現われ、霧が立ち込めてしまったのだから、国防として対策を立てなければいけないのです」

「なるほど、道理ですね」


 全然意味わかんないけど、良いように誤解してくれてるなら訂正しなくてもいいだろう。


(それに思ったより宗教に寛容っぽいじゃないか。もし救世教を日本人が作ったならその辺りの縛りは緩いのかな?)


 そこも確かめないといけないだろうな。

 そう言えばちょうど良く、こちらの人間が悪感情があるかもしれない存在を目撃されてる。

 あれなら少数誤魔化しのために差しだしても惜しくはない。


「では、獣人についてはなんと報告なさるおつもりですか?」

「あの者はお知り合いですか?」

「名はわかりませんが、私たちと志を同じくするものとだけ」

「ふむ…………」


 異種族にはやっぱり厳しいか?


 考え込むヴァン・クールの横から、その部下が懸念を伝えた。


「いつから、いや、もうなんかあなたにはすべて筒抜けていそうなんではっきり聞きますが、あの獣人は共和国から逃げて来たんじゃないですか?」

「そう言えば、亜人の隠れ里があると噂があるんだったか」


 ヴァン・クールが部下の声に思い出したように言う。


(そんなものあったのか)


 つまりこいつらの中では共和国が立ったせいで獣人の隠れ里もヤバくなった。

 けど獣人が正面から難民になるのは無理だから、山に隠れてた俺たち異教徒を頼ったんじゃないかと。


「いえ、まさか。元より同じ神を信奉する者ですよ」


 また勝手にネフが答えるけど、ヴァン・クールたちは納得したようだ。


「亜人にも巨人信仰はあったのか」


 あれ?

 なんか巨人を信仰してるって勘違いしてないか?


(山の神って話じゃ…………ま、なんでもいいか)


 本当に信仰してるわけじゃないんだから誤魔化せればいい。


「できれば今後のためにもどのような種族がいるかを教えて欲しい」

「お断りします」


 俺がヴァン・クールにきっぱり答えると、部下にまた疑いの目を向けられることになった。


「私にも守りたいものがあるのです」


 こっちの戦力明かすわけにはいかない。

 何より人間以外排斥っぽいとなればなおさらだ。


 ヴァン・クールがじっと見つめて来る。


(これはやることになるか? 戦闘ってことは、先手打つべきか?)


 俺が現状打てる手を考えていると、ヴァン・クールのほうが力を抜いた。


「不躾なことを聞いてしまった。忘れてくれると嬉しい」

「あなたの警戒心はわかります。だからこそ忠告をしましょう。関わりのないことに深入りすべきではない。あなたにとってこちらは寄り道でしょう」


 さっさと北に帰れ! を婉曲に言ってみた。

 するとヴァン・クールは一瞬驚いた表情の後に破顔した。


「なるほど、俺はあなたを知らないが、あなたは俺を良く知っているようだ」


 なんだかその拘りのなさそうなところがいっそ見事に思える。

 ファナは復讐のためと言っていたが、同じ経験をしてここまで爽やかに振る舞えるのはきっと人間ができてるからなんだろう。


(俺と同じ年くらいのはずなんだがなぁ。何食ったらこうも違う大人になるんだ?)


 負けた気はするが、なんとなくこの英雄だったら悔しくはない。

 やっぱり人間の出来が違うって思ってしまったからだろうか。

 なんかメジャーリーガーとか、才能があるうえで努力も重ねて憧れの舞台に登り上がった、みたいな雰囲気を感じる。


「ダイチどのほどの方がいらっしゃるなら、巨人信仰と言えば公国だと思っていたが、そちらが総本山なのだろうか?」

「いいえ、そちらのことは知りませんよ」


 またネフが勝手に答えたけど、嘘ではないしな。


 というか巨人信仰の総本山なんてあったのかよ。

 あれ、これって否定するとまずいんじゃないか?


「ヴァンさん、巨人信仰に総本山ってないはずですよ。巨人は複数いるんで」

「む、そうなのか? 聞きかじりですまない」


 部下に指摘されてヴァン・クールが謝る。

 ネフは笑顔で謝罪を受け入れた。


「お気になさらず。聞きかじりで構いませんので、あなたの知る巨人信仰について教えていただければ助かります。こちらも長く外界と離れていたので」

「外界というほどの奥地、か」

「不便はなかったのですよ。食べるに足りる食糧、寝るに足りる家、生活に足りる衣服はありましたから」


 ネフの答えを受けて、ヴァン・クールは俺たちの姿を見る。


 俺はずっと縮こまってローブの中、ネフは黒い修道服だ。


「もしや後援者がいるのか?」

「さて、それは言わぬが花でしょう」


 え、この恰好いい服に見えるのか?

 いや、そう言えばヴァン・クールたちの服装は大きく縫い目が目立つし洗いざらしだ。


 比べて俺たちはゲームの時と同じ。

 埃一つついてない服に、皺さえ見つからない。


「公国は違うか。あそこは食糧を外国に頼るほどだ。そのため財政が圧迫されているとも聞く」

「風光明媚な所とは聞きますけどね」


 ヴァン・クールが首を捻る横で部下が豆知識を伝えた。

 俺としてはそっちのほうが気になるな。


「風光明媚とはどのように?」

「古い町並みをそのまま今に伝えてるんですよ。五十年前の大戦の被害もなかったから。言ってしまえば山際に古い建築様式の家がずらっと」

「お前詳しいな」


 見たように語る部下に、ヴァン・クールも驚いていた。


「実は奉公先が商家で。小王国経由で公国には一度だけ行ったことがあるんです」

「そうか。それで、公国の巨人は? 見れたのか?」

「いませんって。俺も聞いてみたんですけど山に籠ってるから出てこないし、山に入ると山の民って呼ばれる信者が聖地を荒らすなと襲ってくるそうです」

「それはまた、乱暴な。口で言えばわかることでしょう」


 俺の言葉にヴァン・クールと部下たちが笑う。


「いや、本当に。この出会いには感謝しかない。どうか今後も巨人を鎮めていてほしい」

「それは、人間が無闇に騒ぎ立てなければという前提になります」

「なるほど、その忠告確かに受け取った」


 俺の対応はあまりいい感じはしないだろうに、ヴァン・クールはやっぱり爽やかだ。

 本当なんで元の俺とこんなに違うんだ?


 本物ってのはこういう奴なのかな。


毎日更新

次回:ヴァン・クール

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― 新着の感想 ―
[一言] 何か考えるたびに“自分を下げて相手を上げる”じゃん 読む気が失せるとまでは言わないけど、卑下言葉が出る度にテンションが下がる どうか、これが初めのうちだけですみますように、っと。
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