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197話:皇帝暗殺

 この世界に来た時、俺は絶望していた。

 好きで就いた職業にしがみついて、結局結果は一発屋。


 十年ももった『封印大陸』も俺の功績じゃないし、思い入れはあってもそれも時の流れで終わる成果でしかなかった。

 そんな現実を突きつけられて、何か爪痕を残したかったのかもしれない。


(大地神の大陸単独クリアは、無謀な賭けだったんだよな)


 ソロで突き進んで大陸最奥の宝石城まで走り抜け、時間がないから大地神の封印を解く手順は最低限。

 思えばこれも消化不良でしかなく、運営側としての知識があったからこそできたスキップだ。

 それでも封印は表面上解けるから、成功すれば神の復活が全プレイヤーにアナウンスされるはずだった。


(本来ならアナウンスされてから、レイド戦が始まる期間の周知があるんだよな。そこから参加者がどっと封印されてた大陸に流れ込んで…………)


 今となってはありえない光景だ。

 サービス終了の直前にそんなアナウンス流れるわけもない。


 それでも俺が本来ならと言って思い出すのは太陽神の時のレイド戦だ。

 最初に封印が解かれた海神の時にはゲーム開発から外されて腐っており不参加だった。

 その後にゲーム復帰してソロ活動をし、太陽神の時にはちょうどソロだけで一時パーティを組む募集があったため参加。


(正直、楽しかった)


 太陽神がレイドボスとして現れ、多くのプレイヤーたちと討伐に当たって、いつ倒れるかと固唾を飲んで見守った。

 兆を超すHPを持つレイドボスは『封印大陸』の名前の由来となった四大神だからこそ。

 それでも参加者の多さと熱心さで運営として想定していたよりも早い期間で倒されたのも嬉しい誤算だった。

 倒した後はわんこ形式の太陽神がダンジョンボスとして設置され、レアアイテム手に入れて、レア素材を使ってさらにアバターを強化してと楽しんだ。


 『封印大陸』が終わる時、寂しかったし悔しかったが、それは製作者としてもあるがプレイヤーとしても感じた気持ちだ。


(ここはゲームの世界じゃない。異世界だ。だが、ゲームの要素はあるし、NPCもいる。だったら、俺はまたゲームを楽しんでもいいのか?)


 知らない世界で、もう現実かも怪しい。

 体も人間ではなくなってどうすべきかわからないまま、目の前にいたNPCたちを言い訳に過ごしてきた。


 言い訳にするからには危険から遠ざけよう、ゲームの時のような不遇はないようにしようと思ったんだが。


「前の世界に不満はないのか? この地に縛りつけられ潰えたことへの無念は」


 スタファは顔を上げて困ったように微笑んだ。


「不満があるとすれば神をお待たせした己の不甲斐なさに。前の世界ではお役に立つこと叶わず、イブが言うように雪辱の機会をいただけるならば喜んで」


 そうか、雪辱か。

 日の目を見ずに終わったことは悔しいだろう。

 俺も同じ思いだからこそ安全と、エネミーとしての危険からの回避を考えていたんだが、雪辱となれば話は別だ。

 名誉を取り戻すためには恥を受けたのと同じ場で、やり直す必要がある。


「神が表に立たず人間を操って世界を動かす妙はわかるんですけど、あたしはそう言うの苦手で」

「人間如きの思い上がりを打ち砕くことも神の務めでは? わ、私が思うだけで父たる神にそうしろというわけではないけれど。ただ、海上砦ではやられてばかりで、もう一度本性でやれるなら私も今度こそ…………」


 ティダとイブはいっそ好戦的に言い合う。


「俺は裏からってのも面白いと思いますけど、大々的に暴れていいならムーントードとしては血が騒ぎますね」


 そう言えばアルブムルナも種族として好戦的だったな

 リザードマンや人狼もそうだし、もしかしたらこそこそしてるほうがストレスだったのか?


「わたくしは望んでこの地に参りました。そこに有象無象が踏み込むことは不快。ですが、我が君が選別された勇士が現われるのならば、神として迎えることはやぶさかでなく」


 チェルヴァは設定からして消極的なはずだが、それでも反対はしないようだ。


「闇の静謐も好ましいですが、やはり宣教師たる者、神の使いとして本来の使命を果たすには我々以外の者がいなければ成り立ちません」


 そう言えばネフが宣教するにもここにいるのはほぼ大地神の信徒しかいない。

 ネフとしてはここに引き篭もっていてもやることないのか。


(思えばゲームでも大地神の大陸に到達したプレイヤーは俺だけなんだよな)


 しかも作り込んだ要素もNPCも通り過ぎてしまった。

 それが本来の働きじゃないし、スタファなんてクリアに関係なかったからスルーしたし。


 今度こそ日の目を見せるとは思ったけれど、やり残したことがあるのだ。

 やり切ったとは言えない現状があるのだ。

 だったらそれを解消してこそ新たな日の目を目指せるんじゃないか?


「そうだな。ではやってみるか。となると今していることが…………」


 言いさしたら息を飲まれた。

 見ると大半のNPCが今まさに何か重大事に気づいたと言わんばかりだ。


 そんな中で、チェルヴァが薄い胸を押さえて声を漏らす。


「まぁ、我が君はこうしたことも織り込み済みで? いえ、猫を手なずける際に爪で引っかかれることも想定していたのであれば、国々に動乱をもたらし、共通の敵となることで人間を一つにまとめることももちろん思い描いていた一つの結果なのでしょう」


 なるほど、わからん。


「どういうこと?」


 いいぞ、ティダ。


「たまには自分で考えろよ。帝国で動いてたんだしさ」


 だめだぞ、アルブムルナ。

 そこは素直に教えてほしいので、俺は思ったことをなんとか言いつくろって説明を求めた。


「変更もあるだろう。直接かかわらない者のためにも説明を、スタファ」

「はい!」


 嬉しそうだ、良かった。


「神への信仰を広めるため各国の抱えた問題を噴出、表面化させて来たわ。それにより困窮した人間が神を求め祈ることを促進させることはわかっているでしょう?」


 うん? すまん、わからん。


「それはわかっているわ。苦しむ者ほど神に縋るのは道理。けれどそれでどうやって勇士を集めるというの?」


 混乱してるのは俺だけなのか、イブは当たり前のように聞く。

 するとネフが指を立ててみせた。


「つまりは今以上に動乱を深め、人間をそもそも減らす方向にもっていく。その中で才能ある者は腕を磨き、隠れていた勇士も現れる。人間は社会的な生き物なのでまず寄り集まると神はお考えになっているのだよ」

「そ、それ程うまくいくとも限らないだろう。今の状況では、たぶん」


 方向修正計りたく口を挟む。

 プレイヤーが隠れてるかもしれないし、人間減らすまではちょっと後が怖いんだが。


(いや、けどゲームの再現なら出てきてもらったほうがいいのか?)


 死ぬのは嫌だしNPCを無闇に苦しめるのも嫌だ。

 だがゲームとなれば俺は倒される側で、攻めてきてもらうほうが自然だ。


(演出だけしたい。イブはやる気だから最後のボスは任せるとして、蘇生はリポップ待つのがちょっと不安だな)


 イブは前回の誘拐があるし、神の復活に関してどうなってるかもわからない。

 海神は倒されたら二度と現れない予定を、運営が変更した。

 その際に他の神にも変更が加えられている可能性がある。


(いや、待てよ。そう言えばイブはボス戦の途中で連れ出された。だったら何か手を打てば倒される前にプレイヤーを戦線離脱させてこっちの安全確保できる抜け道あるんじゃないか?)


 雪辱のためにもゲームをしたいけれど、ゲームどおりじゃNPCの安全を守れない。

 だったら攻められるという防衛主体で安全を確保しつつ、確実に相手を削る手も考えるべきか。


「ね、神はいったいどんな懸念をしてるの?」

「そこまでわからないって、神のお考えは深いんだ」


 気軽に聞くティダにアルブムルナは口をへの字に曲げる。

 するとネフが両手を広げて言い放った。


「簡単なこと。上手くいくように今以上追い込みが必要だというだけですね、神よ」


 違う!

 けどNPCたち納得してしまった!?

 ネフに否定したいけど、否定してどうしよう?


「お待ちなさい」


 チェルヴァが即座に止めに入ってくれたことで、俺は一縷の期待を持つ。


「追いこみ方も一考の余地がありましてよ。国同士反目もあるけれど、人間同士で手を組むようにしなければいけないでしょう。いえ、この際亜人と呼ばれる者たちでも…………」

「そうね。バラバラなんて戦力の分散よ。だったら協力し合うような追い込みを考えなければ。それで言えば王国は彭娘が新秩序の構築をしているからいい踏み台…………」


 待てまて、スタファがさらに不穏なことを言い出したぞ。

 彭娘いつの間にそんなことになってるんだ?


「じゃあ、帝国はばらして弱めた上で追い込みだね。そうじゃないと強い奴が前に出てこないだろうし」

「そう考えると王国の孤児に共和国の王子と王女って象徴的だ。神は本当に先を考えて修正効くようにしてらっしゃるんだな」


 ティダもなんかあれだけど、アルブムルナが過大評価で怖い。

 実際は何も考えてないだけだなんて言えない雰囲気だ。


 俺のその場しのぎを現実にしようとして、本当にできる道を探してしまうNPC。

 優秀な部下たちだけど正直困る。


「ではこちらも宣教師たる者として共和国のほうで勇士が立つよう手伝いをしようか」

「あら、ネフがここを離れるの? ふぅん…………ちょっと後で話があるわ。神の本性に戻って見た情報をあげる」


 やる気のネフにイブが何やら含みのある声をかけている。


「では、帝国にはまず今回のことの責任も合わせて弱めることから始めましょう」


 スタファが仕切って方向性を提示すると、俺を除く皆が頷く。

 俺だけついて行けないが、ここで全能の神を否定するのもNPCに悪い気がする。


「そうか、では…………何から帝国に手を付ける?」


 知らないと思わせないように言葉を選ぶと、スタファは満面の笑みで答えた。


「皇帝を、暗殺します」


 俺は声が出そうになるのをなんとか堪えた。

 だが言わせてほしい。


(なんでそうなる!?)


 俺が帝国が敵って言ったせいか?

 けど今回皇帝関係ないよな? え、あるの?


 だったら暗殺くらい、いいか?


「ふむ、暗殺となれば技術が必要だが。良い手駒がいるのだろうな?」


 安全確認のために聞けば、またスタファは美しい顔で笑みを深めたのだった。


隔日更新

次回:ライアル・モンテスタス・ピエント

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