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193話:敵は帝国にあり

「こっちは十人」

「こっちも十人までは追ったよ」

「二人で終わったけれど?」


 俺は今大地神の大陸に戻っていた。

 人数を上げているのはアルブムルナ、ティダ、イブの三人で、逃走者を追った末に新たに増えた敵の数だ。


 ちなみに俺は六人までは追ったが、その後おかしなことが起こって追跡をやめさせた。


「七人目を追おうとした際、突然私の感知から人間が消えた。エネミーの反応があったので襲われたかと思ったが、そうした形跡もない」


 マップ化にあった反応が、途中で置き換わるようにエネミーになった。

 様子を見に行っても死体もなければ襲われて負傷した形跡もなし。


 念のためスライムハウンドに聞いてみたが、その辺りで活動した仲間はおらず、調べてみたが俺の配下ではないスライムハウンドがいたわけでもないそうだ。


「神の目から逃れる者がいると? それに国境付近で手分けして別れた者たちに、想定以上の仲間ですか…………。教会勢力と帝国が結んでいることも視野に入れるべきでしょう」


 スタファが真剣に考えて、俺たちが思うよりも敵が大規模だった場合を想定する。

 するとチェルヴァが困ったように俺を見た。


「神よ、もしや魔物の皮を使って錬金術で作るアイテム、アラライラオを使われたのでは?」


 ジョブが錬金術系最高峰の大賢者であるチェルヴァはすぐさま合致するアイテムに思い至ったようだ。

 俺はと言えば、そんなアイテムがあったことを今思い出した程度。


 アラライラオのテキストとしては、千匹のエネミーの皮を継ぎ合わせたマントとなっている。

 だが別にそこまでの数は必要とせずに、錬金術ジョブで作れる装備アイテムだ。

 効果は索敵の無効と攻撃行動さえとらなければエネミーに襲われないという程度。


 知らないというアルブムルナたちにチェルヴァが説明をしている内容も俺の理解と同じ。

 身に着ければエネミーの姿になれるというフレーバーテキストを追加で語ったくらいか。


「あー! だったらいた! 他にエネミーいないのに、なんでか一匹逃げる奴がいた!」

「クソ、騙された! 足音してたから追ってけど、臭い違うから本物のエネミーだと思ったのに!」


 ティダが声を上げると、目がないアルブムルナでも騙されていたことを嘆く。

 俺のマップ化もそれで騙された可能性があるわけだ。


(だがゲーム的に言えばさして強力なわけでもないアイテムだ。それがこれだけの効果を及ぼしたとなると…………プレイヤー表記をエネミー表記にするだけの処理だったのかも知れないな。だからどの能力も一律書き換えで、見た目だろうが臭いだろうがエネミーとしてしか知覚できない)


 ゲームの仕様がそのまま現実になったために起こった想定外の効果といったところだろう。


 それなりに手間のかかるアイテムだが珍しいほどでもない。

 なのにレベルで劣る者たちにやすやすと騙され逃げられたとなれば、これはゲームでの評価を改めるべきだろう。


「これは由々しき問題だな」


 正面から戦うなら負けないし、ましてや遠くから範囲攻撃を放てば殲滅も簡単だった。

 いくらでも勝ちようはあったはずが、持ち帰れたのはほとんどが毒を呷った死体ばかり。


 ただひたすら逃げるとなると相手に分があることはよくわかった。

 それこそゲームのアイテムの使い方は、この世界に来た俺たちよりも熟知していると考えたほうがいいんだろう。


「こちらの情報は持ち帰られたと見るべきでしょうが、今後はその情報が何処に届けられるかに焦点を当てるべきかと」


 ネフは全く拘る様子を見せずに先のことを懸案事項に上げた。

 スタファは一つ頷いて話題を進める。


「神の計らいで表向きはレイスが溢れたように見せかけているわ。その裏で本命としてスライムハウンドを使って人間たちの動きを探っているの。そして上空からスカイウォームドラゴンも即座に援護に動ける態勢を敷いているわ」


 言いながらスタファが目配せをすると、視線を受けたスライムハウンドが転移で消える。

 エネミーに化けてるという情報を伝達するんだろう。


(イブの誘拐からこっち後手に回るな。ばれるならいっそ、周辺イブに焼き払わせても良かったか? いや、結局は全滅させられたか確認のしようもないし、短気を起こしてはいけないな)


 俺は改めて会議室を見回し、円卓を囲むNPCを眺める。


 逃がしたと悔しがるアルブムルナとティダ、そして誘拐された失態に改めて気落ちしているイブ。

 スタファとチェルヴァは難しい顔で意見交換をし、顔に布をかけたネフは表情が読めないまま黙っている。


(この雰囲気、ゲーム制作の会議を思い出すな)


 リリースしてから振るわず、沈痛と苛立ちが蔓延する会議は、苦痛でしかなかった。

 どうしてという思いに答えはなく、煮詰まって、言えなくて、破裂してしまいそうだった頃。

 俺がストレスで爆発する前に、結局は追い出しを食らった。


 追い出しなんてする気はないし、NPCたちに俺のようなストレスをかけたいわけでもない。

 俺はない喉を振るって咳払いをしてみた。


「皆、深刻に受け止めずとも良い」


 言ってから思い出す、由々しいっていったの俺だ。


「あー、そのだな、今回ばれたとしても、大局に影響はない、はずだ」


 適当に言いつくろってみたが、実際問題として弱いんじゃなかろうか?

 最終手段で焦土にできるイブの本性も問題なく可変であることがわかった。

 だったらここで落ち込んで嫌な気分になることもない。


(そう、俺はここが無事ならそれでいいんだ)


 一番の気がかりだったイブを取り返せた。

 それを今は喜んでいいはずだ。


 そう思ってイブを見ると目が合う。

 途端に顔を真っ赤にして顔を背けられた。


 しまった、誘拐されたほうからすれば一連のことは深刻な問題だよな。

 エネミーってPTSDとかなるか? 神なら大丈夫ってことないかな?


「も、もちろん、イブが攫われたことを軽視するつもりはない」

「それは! 私が…………敵を、甘く見たために犯した失態です。もちろん、処罰はなんとでも、お受けいたします…………」


 何故そんなに沈痛なんだ? あれ、処罰ってつまり?

 あ、そうか。


「そうだな、厳罰を持って当たらなければな」

「か、覚悟の上です」

「奴らは倒したがそれを指示した者がまだいるようだし」

「え?」

「え?」


 俺は突然の疑問符にイブと見つめ合う。

 途端にイブはまた真っ赤になってしまった。


「どうした? イブ」

「ぷ…………」


 俺が聞き返すとネフが笑い、イブは真っ赤なまま同じ大地神の分身を睨み据える。


 ただつられるようにスタファ、チェルヴァが笑い出し、アルブムルナも横を向いて肩を震わせていた。

 そんな周囲を見ていたティダが手を打つ。


「あ! イブ自分が処罰されるって思ってたんだ!」

「うるさい! あんな失態犯して父たる神の手を煩わせて済むわけないでしょ!?」


 イブの怒りがティダに向かうと、ネフは気軽に煽り出した。


「普段からそれくらい殊勝なことが言えれば、神もこのような悪戯をなさらないでしょうに」

「え、あ、うむ。少しは空気は変わったようだな」


 俺は流れがよくわからず誤魔化す。

 途端にNPCたちが羨望のまなざしを突きつけて来るんだ、やめてくれ。

 穴を掘って埋まりたくなるから、本当に勘弁してほしい。

 期待が重いし、なんかたぶん俺が思ってたのと違うから。


「ともかく! 敵は帝国にいることが確定した。思うところある者は意見をあげよ」


 無理矢理話題を転換して偉そうに命じると、真面目なNPCたちは表情を引き締める。

 そしてスタファがまず口火を切った。


「こちらは第三王子を使っての作戦を王国にて進行中。そこに介入した者があり、相手は教会と思われましたが、追跡の結果帝国に本拠のある者のように思われます」

「欺瞞ということはない? 帝国に逃げるように見せかけて王国の内に留まるようなさ」


 ティダの指摘にアルブムルナが反論する。


「あれだけ大慌ててでするか? やり合った手応えからして、どんどん弱くなってた。つまり奴らの本命はあのトライホーンの奴だ。それがやられた後だぞ?」

「父たる神が帝国で確定と言ったのだから疑う必要はないでしょうに」

「あ、そうだった! すみません!」


 イブの言葉でティダが前言を撤回してしまう。


「いや、議論は尽くすべきだ。お前たちの考えも聞かせてくれ。ここはそのために作った部屋でもある。ここでは私の意向など気にせず意見を交わすように」


 本当、俺の考えなんてなんのあてにもならない。

 北に向かったし国境も越えたからこれ、帝国確定だなって思っただけなんだ。


 言われてみればあれだけ真っ直ぐ隠しもせずに逃げたって欺瞞工作の可能性が確かにある。

 教会としては帝国のほうと確か繋がり深いんだっけ。

 それに国境の兵とは別の動きだったんだから帝国無関係ってこともあるか?


(今さらだけど、近くにいてレイスに襲わせた兵らしき者たちがどっちの国か確かめとくんだったな)


 不手際が多い。

 俺に忠実であるなら、言ったとおり俺のことは気にせずお前たちの優秀な頭脳でよろしく頼みたいところだ。


「こちらは待機したまま報告を聞くばかり。となれば君たちの意見が最も事実に即しているはずだが」


 ネフに促され、ティダとイブが顔を見合わせると、揃ってアルブムルナを見る。


「お前ら…………。ティダ、エネミーが走り去った方角わかるか? 俺は北東側だ」

「あたしのほうは真北だね。死に際に叫んでた符丁は番号だったから、暗号表ないと解読は無理だろうし。走った方角が帝国だからって何かわかる?」

「ちょっと待て。スタファ、スライムハウンドが向かってる先は? あと、レイスに変化とか報告ない?」

「スライムハウンド曰く、レイスを相手にしているのは国境の兵で帝国の者。それらを無視して走る…………あら」


 スライムハウンドが一体現れたことでスタファは一度口を閉じた。


「御免。レイスを無視して帝国内に走る兵以外の者を発見。身ごなしから常人ではないとみなし追跡を敢行。独自にスカイウォームドラゴンを動かしております。相手は僧形の女。帝国内部を東へと逃走中。如何されようか」

「なんだ、神が仕掛けた網にかかるのが早かったな」


 そう言って俺に笑いかけるアルブムルナ。

 俺はただ全て知っていたかのように頷くしかなかった。


隔日更新

次回:二十一士寛容

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