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191話:逃走者の追跡

 アルブムルナが首を切られた一つの死体のほうへ向かう。

 そいつは突然叫んで逃げようとした奴だ。


 戦う前に死んで、しかも位置的に離れてたから少年の視界の外に倒れていた。


「こいつの…………ここか? お、あったあった。ほら、ティダ」


 死体の懐を探るアルブムルナは取り出した小瓶を見えるように掲げる。

 少年たちが自害のために使ったものと同じ物だ。


「あー! そいつなら妙な毒も調べられて、ネクロマンサーの技も通じるじゃん!」


 答えのわかったティダが指を出して声を上げた。

 安心半分らしく、言った後には悔しそう口をとがらせる。


 気づかなかったせいなんだろうけど、俺もなんだよなぁ。

 そこまで気にされるとこっちもいたたまれないんだが。


「よい、ティダ。そこのリーダー格だった少年さえ自らの部下の存在を失念したのだ。お前に落ち度はない」


 俺も気づいてなかったから許してくれ。


「へー、人間と同じで失念したんだなぁ」

「うがー! すみませんー!」


 得意げにせせら笑うアルブムルナ。

 目にもとまらぬ動きでティダが締め上げながら、俺に謝る。

 物理的な攻撃力の高いティダに手を出され、物理的な防御力に劣るアルブムルナはもがくが拘束から抜け出せないようだ。


 敵に自害で逃げられるというあっけない幕切れの苛立ちもあるのだろう。

 ティダはさらにアルブムルナを揺すぶり始める。


 いや、本当にいいんだぞ?

 アルブムルナはちょっと煽りすぎだが、ティダがそこまで気にすることでもない。


「ともかくネクロマンサーを呼ぼう。誰かいるか?」


 主にスライムハウンド向けに呼びかけてみる。

 すると予想とは違う者が現われた。


「お呼びでしょうか、神よ」

「イテル…………。そうだな、この毒を調べられる薬師ジョブは魔女にいるか?」

「はは! 我ら魔女、総力を上げて調べ上げてみせます!」


 箒でついて来てたイテルが上空から滑るように現れ、すぐさま飛び降りると両手を差し出す。

 困ってアルブムルナを見るとすぐさま小瓶を渡されたので、そのままスルーパス。

 イテルは恭しく毒を受け取ると転移して消えた。


 うん、箒乗ってるほうがぽいけど、移動となると転移でパッと消えるほうが早いよな。


「くぅううううあぁぁああああむぅぅうういぃいぃいぃいいよぉぉおおお」


 上からする間延びした声は低く聞き取りづらい。

 そしてどうやら声を出すとその分息が突風となって俺たちに上から叩きつけられる。


「イブ! その大きさじゃわかんないって! あと風が一言ごとに強い!」

「文字で送ってこい! てか、こっちも通じないか」


 吹き下ろす強風の中ティダが叫ぶのにつられてアルブムルナも声を上げるが冷静になる。

 大きさが違いすぎることに気づいて、プログラムの機能で指示を送るようだ。


 するとイブから返事が来た。

 俺は軽く飛ばされた場所から転移で元の位置に戻って確かめる。


『遠ざかる馬影五、うち二人は海上砦の侵入者』


 どうやら敵の生存者に関する情報を報せてくれたようだ。

 足元にいる俺たちの様子もしっかり見えていたようだし、ここの距離で喋って通じないのは俺たちのほうだけなんだろう。


「ふむ、さすがは監視の神だな」

「あの大きさで人間の顔まで見分けるって、大神はどんな神性をお与えになったんです?」


 顎を上げたくらいじゃ全貌は見えない身長のティダが、興味本位で聞いてくる。

 俺も見上げつつ、設定した内容を思い出そうと時間を稼ぐ。


 大きさ山くらいって指定した気はするけど、近くに山脈があるせいか今のところ山より低い感じになっている。

 ただ確実に本性に戻った巨人のスタファより大きい。

 あとタカアシガニっぽい感じという外見のオーダーが、イブの神性に悪影響を及ぼしていないことを祈るばかりだ。


「監視の神そのままだな。イブ自身のこの姿が監視塔だ。備えた千里眼は異次元さえ見通し、転移も何処から何処へ行くかも見える」


 拡げた羽の内側は悪魔のいる異次元に通じてるとかなんとか、確かそんな設定をした。


「守り一辺倒のネフとずいぶん違いますね」

「アルブムルナ、あれはあれで全ての魔物を使役下における。そう悪い力じゃない」


 いっそエネミーガチャとして人気になると思ってたんだけどな。

 サービス中にそのガチャを回すプレイヤー自体が出なかったのは悲劇だ。


「けどこんなデカ物になってたら、強くなっても逃げる奴追うこともできないし。イブって本当変なとこ不器用だよね」


 ティダが笑うと聞こえていたらしいイブが頭上高くで吠える。

 次の瞬間、空気を擦る音と共に上空で光が明滅した。


 一瞬星が弾けるような閃光が煌めく。

 そして一直線に真っ白な光線が飛んだ。


「まさか!?」


 俺はイブの顔近くまで転移した。

 するとイブには第三の目が現われており、そこから発射された光線が大地に着弾したのが同時。


 イブの頭の動きに応じて光が走って消える。

 一瞬の静寂の後には赤い爆炎が着弾地点周辺を火の海に変えた。

 遅れて爆風が木々を拉がせながらこちらへと到達してくる。


(うわ、本当に巨神兵みたいなことになってる。ゲームだと顔近くでビームだったから見えなかったけど、こういうところは採用されてるんだな)


 そう言えばイブは、監視塔兼砲台でもあるとした設定を思い出した。

 顔の動きで射程が上下左右動くので、テストプレイ時には盾で防御したプレイヤーの頭が射程に入ってダメージを負い文句が出た。

 すぐには攻略されないと見てサービス開始してから修正したが、まさかサービス中一度もその修正が適用されることがないなんて。


 俺は感慨にふけりながら天に上る火の粉の群れを見た。

 画面という制限がなくなったために、着弾した先の森が大炎上しているさまがよく見えた。


「…………いや、見惚れている場合ではないな。イブ、無益な破壊はやめるように。逃走者には当てたのか?」

「申し訳、ありません。怒りに定まらず。存命です」


 俺はそれを聞いて一回下へ戻った。


 するとネクロマンサーのスケルトンがやってきており早速霊を呼び出している。


「教会の者で間違いございません。ただこの者は下っ端。その少年を頭とする機構の一部。節制と呼ばれるグループのような? ここで帝国へ向かうための馬の準備をしていたそうです」


 表はともかく裏で何を目的にトライホーンの少年が動いていたかまでは知らないらしい。


「馬で逃げた者、海上砦に不遜にも踏み込んだ者が頭の直属だそうです」

「ほう、つまりあの二人か」


 スケルトンからの情報に、俺はマップ化へと意識を向ける。

 あとで倒そうと思って印つけておいてよかった。


 マップ外だがどちらの方角にいるかはわかる。

 それで言えばすでに捕捉してるイブはこのマップ化よりも高性能の追尾機能だ。


『私に追わせてください』


 イブからそう連絡が来た。


「待て、イブ。怪我をしただろう。あ、いや、治ってるのか」

「ちょっと、ここまでやったんだから一度帰りなよ」


 俺が可否を言う前にティダが文句を言うように告げる。


「そうだそうだ。だいたいその図体でどう動くんだよ。さっきの大炎上させるのはなしな。敵と一緒に手がかりも消し炭になる」


 指を突きつけるアルブムルナに返った答えは転移。

 確かにそれなら捕捉できるイブだからこそ確実に転移して相手の行く先に現れるだろう。

 とは言え、容認はできない。


「さすがにその巨体で動くのは破壊が大きすぎる。森の再生には年月がかかるものだというし。それにイブが本性になるべきはここではなかった」


 思わず言って自分でも驚く。

 だが納得していた。


(イブは大地神の大陸のもう一人のボスなんだ。それをこんなレベル六十程度の雑魚が一匹いるところでなんて、もったいない)


 この展開に納得がいかないのだ。

 その思いがあることが苛立ちを静かに凝らせている。わだかまっている。


「こんなはずでは…………」


 なんてことない俺のぼやきにNPCたちが反応した。


「な、何か至らぬ点がございましたでしょうか?」


 スケルトンは骨で表情なんてないのに、冷や汗をかいて慌ててる様子が目に浮かぶような反応だ。


「いや、何。私の個人的なこだわりだ」


 そう言ったらイブからまた返事が来た。

 どうやらこの距離でも監視の神の姿なら些細な声まで聞こえているようだ。


『お聞かせください』


 文面だとイブは素直なのか?

 うーん、イブがらみだし聞きたいのならいいか。

 こだわってる俺以外には大した話じゃないだろうし。


「イブが神として現れる時には私に代わる神として遣わすつもりだったのだ。そのつもりだったが、こんな形で姿を現すことになるとは思っていなくてな。相応しい場がもっとあったはずだ。そう思うと惜しい。そんな私の益体もないこだわりだ」


 ゲームの演出を思えばもっと熱い戦いになるはずだった。

 敵も辿り着けるだけの実力者なら、こんなつまらない終わりにはならなかっただろう。


(けど今確認できてるプレイヤーは三人しかいないんだったか。しかも老人ばかり)


 脅威ではないがゲームのような華々しい強者としての演出なんて無理だろう。


 安全に日の目を見せるには好都合なことだ。

 そう思っていたが、これは違うという感じが拭えない。


「ともかくイブは元の姿に戻り向こうへ帰れ。追跡は私が…………」

「今度こそ! 今度こそあたしちゃんとしますから連れて行ってください!」

「ティダだけだと心配なんで俺もサポートで同行させていただきます」


 ティダとアルブムルナがやる気を見せる。

 そうなるとやはりイブも退かない。


『私も! ですが、どうやって戻ればいいでしょう?』


 戻り方知らないのか?

 いや、こっちからプログラムで変身させたし、だったら戻すのもこっちからなのか?


 俺はコンソールを開くと、イブリーン・ティ・シィツーの部分をイブに変えてみた。

 するとイブの姿は光となり小さくなる。

 イブを中心に気流ができていたようで、小さくなるのに引っ張られる様子で雲や霧が光を反射して渦巻いた。

 そうして光る卵になったと思ったら、中から見慣れたイブが現われる。


「良かった! ドレス無事!」

「そこ!?」

「のんきか!?」

「血が染みて酷い状態だったのよ!?」


 戻った途端に言い合いが始まる。

 うん、元気ならいいんだ、元気なら。


 戻ってもイブのダメージはなかったことになっているらしく、体力値は満タン。

 これなら痛打を受けても助けに行くまでに持つだろう。


「さて、それでは追跡を始めようか」


隔日更新

次回:繋ぐ声

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