19話:ランダム召喚の雑魚
砦から英雄が来ちゃったよ。
ファナは復讐のためなら死ねるというので死んだことにして、そこからどうするかは考えてないから、スタファと一緒に見つからないよう離れさせた。
俺はネフと二人であえて姿を見せたんだが、感知できない距離でグランディオンとスライムハウンド、そして不可視のスカイウォームドラゴンが控えてる。
「違う神を奉るとは言え、死者に対する埋葬は必要では?」
難しい顔をして考え込みだした英雄に、ネフが放置された三つの死体を差した。
犯罪者の死体なんてどうでもいいが、ここで無視しとくのも人間として不自然か?
「いや、この者たちは砦へ連れ帰る。そこでしかるべく埋葬を行いたい」
英雄ヴァン・クールは、赤い髪に引き締まった体、生気に満ちた目をしていた。
(本当にこれでアラフォーか? 俺と同じ年くらいのはずなのに全然若々しいんだが?)
あれか、イケメンなら年とっても劣化しないのか?
それともこっちの人間の特性か?
そんなことを思ってると、ヴァン・クールの部下が疑いの目で聞いて来た。
「念のため、埋葬したという少女の遺体もこちらで収容を。場所は?」
「お答えしかねる」
それはまずい。
ぼろぼろの服を脱がせて埋めただけだから、遺体はないと知れれば嘘がばれる。
「それはこちらの要請に対する叛意か?」
ヴァン・クールの部下が敵意を露わにすると同時にネフが首を横に振った。
「やれやれ。まさかこの状況を見て何があったかわかっていないので? わかっていてなお蛮行を成すというのならば、倫理的に止めますが?」
おい、やめろ。
その言い訳はいい。ただやる気になるな。
相手の強さわからないんだぞ。
(あー、ゲームみたいにレベル見えたらいいのにな。俺が見えるのはNPCだけだし)
せめてHPゲージが見えればそこからレベル帯を把握できるのに。
「隠し立てすると身のためにならないぞ?」
「宗教者として埋葬者を優先することの何処に疑義があるのか判じかねますね」
部下一人以外もこちらに疑いの目を向けだしてるし、どうしたものか。
俺が困った末にヴァン・クールに目を向けると、申し訳なさそうに目を伏せた。
「やめろ。我がほうに女子の所属はない。その少女は被害者であり、これ以上の辱めはネフどのの言うとおり倫理にもとる」
「しかし…………」
「いいんだ。すまない。葬ってもらった上に。だが、できれば何か遺品となる物は回収できないだろうか?」
「…………肉親のあてが?」
ファナが言うには天涯孤独だったはずだが。
何故かヴァン・クールは困ったような理解したような顔で笑った。
「正直ない。ただ、故郷のあてはつく。そこに遺品だけでも返してやりたい」
これは、もしかしてファナの身元知ってるのか?
(どういうことだ。ファナが嘘を吐いたのか?)
俺が出方を考えている間に、ネフがヴァン・クールに疑問を投げた。
「おや、北にお戻りになられる? いえ、そもそもなぜこちらにいらっしゃるのです?」
ネフのきわどい質問は、ファナの生存ほのめかすことにならないか?
「ヴァンさん、本当にいいんですか? 怪しいってなもんじゃないですよ?」
部下がヴァン・クールにご注進してるの、聞こえてるぞ。
「別に見回りをやめるとは言ってない。あの魔物の正体は知っておかねば。そうだ、ダイチどの」
「なんでしょう?」
いきなり何?
というかこっちの質問には答えないか。
預言があったとして言わないだろうが、表向きは視察だし、すでに北に帰る予定はあるってことで。
(つまりどういうこと?)
全くわからん上について行けない。
「未確認の強力な魔物について知っていることがあればお聞かせ願いたい。こちらに住んでいるのなら今まで見たことは?」
スライムハウンドのことか?
それを強力?
一体だけならレベルマプレイヤーが一ターンで殺せる程度のはずだが。
(いや、まずはなんと答えるべきかが問題だ。知ってるというわけにはいかないし、ここで知らないとなると見回りと言って奥に行かれる)
そうなると山が増えてることがわかって、さらなる調査の言い訳になるからまずい。
「地形が変わって今まで出てこなかった魔物が出てきているのでしょう」
「ち、地形? いや、それより魔物はどのような?」
「さて、この霧ですからしかとは」
我ながら苦しい言い逃れだ。
(さっきまで勝手に喋ってたのになんで喋らなくなるんだネフ!)
そう思った時、視界の端にポップアップする情報。
それはゲームでもあった表示で、仲間が魔法などを近辺で使うと来るお知らせ。
「は?」
情報内容は、ネフが召喚を行ったと。
(何してんだぁ!?)
ネフを見ると気づいたことに嬉しそうな顔をしやがる。
(そうじゃない! 何してんだって!? お前あれか? 実は全部わかってて俺の対応力でも計ってんのか!?)
感情が荒ぶるせいで、不定形の体が波打ち、ローブが内側から揺れた。
「いかがされた?」
「いや、お気づきでない?」
気づいてないならそのままでいのに、俺も何言ってんだよ!
あれ? そう言えばネフの側に出るはずの魔物の姿がないな。
ネフの持つ指輪が召喚を行うアイテムだ。
どんな魔物でもランダムに出現させるはずだが、周囲にそれらしい姿はない。
「うわぁ!? レイスだ!」
「死体からレイスが湧いたぞ!」
俺が首をかしげてる間に、ヴァン・クールの後方で声が上がった。
見れば股間を潰された死体からローブを纏った幽鬼のような魔物が立ち上がっている。
どうやらゲームのレイスと同じ見た目のようだ。
「…………外れですね」
「全くだ」
あれがネフの召喚した魔物だろう。
レイスは大地神の大陸でポップする一番弱い魔物だ。
平均レベル帯が七十~八十の中で、レイスはレベル五十。
ドロップも経験値もしょっぱいからプレイヤーは大抵避ける敵だった。
「なんだあの猛々しい存在感は!? 聖水を持って来た者は?」
「いません! 付近でのアンデット報告はなかったので!」
ヴァン・クールが部下に声をかけるが、帰るのは悲鳴染みた応答だ。
(猛々しい? それにこれはもしやゲームとは違うのか?)
ゲームにあった聖水は呪いを解除する回復アイテムで、魔物への攻撃に使うなんて用途はなかった。
あえて言うなら商人系のジョブでアイテムを適当に投げつけるってスキルはあったが、効果は物理攻撃でしかない。
「いかがしましょう?」
召喚した本人のネフが俺に聞く。
(お前本当に…………自分で呼び出しておいて…………!)
だいたい人間の能力見るにも雑魚すぎるだろ。
あと特殊すぎる。
どうも物理攻撃主体らしくヴァン・クールたちはじりじりと後退し始めた。
魔法使いがいたはずだが補助系統のみなのだろうか?
「取りつかれるな! 遺体はこの際諦める。まず魔法で牽制だ!」
対抗手段がないのかと思ったら、ヴァン・クールの指示待ちだったようだ。
指示なんか求めず勝手にレイス呼び出すネフにも見習ってほしい。
そのネフが笑顔でまた俺に無茶ぶりをしてきた。
「ここはあなたさまのお力をお見せしてはいかがでしょう? どうかお鎮めください」
「何を言う。レイスに命じろと? 鎮まれ、なんて…………へ?」
俺が言った途端レイスが掻き消えた。
その様子にヴァン・クールたちも俺を見る。
その瞬間、またポップアップ情報が現われた。
(グランドレイスの固有スキルってなんだ? 誰だよそんな設定したの?)
いや、今はこの状況を動かさないと。
「弱、すぎる、な…………?」
「そうですね。貧弱な人間に依った影響でしょうか?」
言い訳を絞り出す俺に対して、ネフは当たり前のようにディスる。
本当なんなんだよ、こいつはもう!
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