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184話:発見

 手近な補給できる場所は外れだったため、俺は教会施設狙いに変更した。

 ティダとアルブムルナに先んじて移動しようとしていたら、スキルに異常を検知する。


「む…………これは、レイスが倒されている?」


 天網恢恢のスキルで俺の支配下にあるレイスの数が微減していた。

 今も八百体に追加で召喚が続いているので増えるはずが、数を減らしたのだ。


 今感じたのは、どうやら複数同時に倒され数が減ったため、違和感を覚えたといったところ。

 注目するように意識を集中すれば、また断続的にレイスがやられているのがわかる。

 そして等間隔を命じたために倒された穴を埋めようと、レイスたちがそちらに集団で移動を始めていた。


「当たりか?」


 俺はレイスがやられたと思われる大まかな場所に転移してみる。

 周囲は森の中で、折り重なる手入れのされていない木々が広がっていた。

 見通しは悪く転移で帰れるという気楽さがなければ、入り込むことをためらうような場所だ。


「人が入った気配はない。遠かったか? …………いや、近いな」


 俺は木々の中から目標地点を定めてまた転移を行う。

 すると辺りは木がへし折れ、大地が掘り返されたように荒れた場所となっていた。


 これは戦闘の痕跡だ。

 その上、俺の横をレイスたちが荒れた大地を進んでいく。

 そうして進んだ先でレイスが消えるのがスキルを通した感覚でわかる。

 意識を集中すれば、戦闘を行う場所は北へと移動し続けていた。


「何処へ向かっているんだ? 北にめぼしい町などはないはずだが、ん?」


 マップ化の3Dにすごいスピードで迫る存在が現われる。

 しかもピンがついているので俺が知っている者のはずだ。


「俺が使役するエネミーか。だがレイスじゃないな」


 血の痕跡をおっていたスライムハウンドが近くまで来ているのだろうか。

 マップ化に表示された形は獣のようだ。

 ともかく敵でないなら気にする必要もない。

 今は安否の知れないイブが先決だ。


(こっちに来るようティダやアルブムルナに連絡を入れるべきか? いや、それよりもこのまま俺が確認したほうが早いな)


 無視して進もうとした瞬間、猛然と迫っていたエネミーがすぐ側を走り抜けていく。

 低い姿勢はまるで獣。

 だがそれは見覚えがある人の姿をしていた。


「ゾンビ? あ、フォーラゾンビか!」


 俺は思わず方角を確かめる。

 転移でここまで来たが、どうやらフォーラゾンビは海上砦からここまで四足の猛進でやってきたようだ。


「何、ほぼ一直線だと? …………最初からあいつ放ってれば早かったのか」


 フォーラゾンビは海上砦からここまで真っ直ぐ来ていた。

 そんな相手と転移で一瞬の俺がほぼ同時に到着するとは。

 無駄なことをした気がする。


「いや、それどころじゃないな」


 俺は気を取り直して荒れた森を目印に進む。

 するとようやくマップ化に人間の表記が現われた。


「一、二、三、四…………十四人もいるのか」


 だがレイスと戦っていると言えるのは三人だけのようだ。

 そいつらがレイスを消し飛ばしているので、きっとイブを袋叩きにしたという者たちなのだろう。


 他はその三人に守られながら、北に向けて撤退中といったところか。


「さて、イブは何処だ? 戦う三人より逃げている者たちのほうか」


 足を止めて表記を探ってもイブはマップ化に映らない。

 冷える肝もないのに、何かがすっと落ちるような感覚があった。


(まさか俺が遠回りしている間にイブは…………? いやいや、バグったままだがまだ生存状態だ。大丈夫。まだ間に合うはず)


 コンソールを開いても変化はない。


 俺は自分に言い聞かせつつ、フォーラゾンビの後を追うように転移を行う。

 するとすでに走って行ってる背中が見えた。

 やはり迷うことも止まることもなく一直線に進んでいる。


 ほどなく、フォーラゾンビは四足で跳躍して猿のように飛びかかった。


「新手です! レイスじゃない!? まさか大量のレイスで他の死霊系の魔物まで来てるの?」

「おい、これゾンビ!? ぐ、あぁ!?」


 一人が気づいて警告を発するが、フォーラゾンビの一番近くにいた人間が迎撃しようとして襲われた。

 短剣二つを構えて防御はしたが、フォーラゾンビに押し切られて転がる。


 間をおかず光を放つ魔法使い。

 どうやら光属性の魔法らしくレイスが弱る。

 そこを逃げる人間たちが幾人かでとどめをさしてまた先へと進むことをしていた。


 魔法使いは少年で、角を飾った杖を握っている。

 トライホーンを持つそいつにフォーラゾンビは牙を剥くように吠えた。


「まさか、フォーラさん?」


 少年は驚愕と共にゾンビの元の名前を呼ぶ。

 フォーラゾンビは理解力が残っているのか、少年の声に反応して襲いかかった。


 少年は杖術もできるらしく、ゾンビの爪による攻撃を弾き返し、さらに身を返してそのまま攻撃に転じる。

 フォーラゾンビは角の鋭利さで裂かれるが、回復力に物を言わせてなおも執拗に攻撃を繰り返した。


 ゾンビがゲームよりもずっとしつこく、グロく、案外役立つ奮闘ぶりを見せる。


「そんな、満足して逝ったと思ったのに。いえ、それともダンジョンが溢れて影響が?」

「節制! レイスよりもやりやすいのでこちらはお任せを! あなたはレイスを!」


 一度は転がされた二つの短剣を持つ者が割って入ると、流れるような連撃でフォーラゾンビの指を輪切りにする。


 ゾンビには物理が効くのに対して、レイスは魔法が効く。

 役割分担としては正解だろう。


 ただフォーラゾンビは執拗にトライホーンの少年を狙い、指がなくなっても気にしない。

 血涙を流す黒い目は少年しか見ていなかった。


「く、こっちは対処する! 止まるな! 馬の所まで走れ!」


 少年がフォーラゾンビを相手にしつつ隙を作ってまた魔法を放ち、レイスが引いたところで仲間に指示を叫ぶ。


 光魔法でフォーラゾンビの体からも白い煙が出た。

 それでも斬り飛ばされた指は再生し、人間ではない四足走行で翻弄する。

 レベルを引き上げたこともあるが、ゾンビ化で体力や攻撃力が上がり、生前の身軽さも相まって一人で大立ち回りを演じていた。


「強い!? 生前より格段に強くなっている!?」

「そんな! ゾンビは脆さと鈍重さのせいで、探索者がゾンビ化したところで生前よりも弱体化するはずでは!?」


 少年の言葉に短槍を持つ者が聞き返す。

 この世界でもゾンビは弱い部類らしい。

 けれどレベル六十台というこの世界では強者に分類されるとやはりそれなりの働きができるようだ。


 同じくレベル六十台のレイスを消し飛ばしていたのは、相性のいい武器を持っているからのようだ。

 俺のスキルで底上げされたフォーラゾンビも所詮は屍霊系なので、凌ぐ程度はできるらしい。


 俺はその場はフォーラゾンビに任せて先に行く者たちを見る。


(こいつらは馬を用意していた? いったいどの時点でイブを誘拐しようと目をつけてたんだ。戦ってる三人は武器しか持っていない。つまりは今指示を受けた十一人の中にイブがいる?)


 俺はフォーラゾンビにまとわりつかれる少年たちを一旦無視して木立の中を進んだ。

 腹立たしい相手ではあるが、イブの状態がわからない今は後回しにする。


 もしレイスに追われて荷物になるから捨てたとか言われたら、その場所を聞きだす必要もあるだろう。

 イブを確保した後でいい、今は我慢だ。


「どうしてこんな霧と雲が! これがなければレイスなんて!」

「無駄口を叩かない! 気象を操る魔法なんてないわ! 偶然よ!」


 逃げる者たちの側面に転移すると、必死の形相で言い合いつつ、俺に気づかず駆け抜けていく。

 木々の合間で固まって動いているのでイブの姿は見つけられない。


 あと気象を操る魔法は確かにないが、火や氷といった気温を変えられる魔法や上昇気流を起こす魔法なんかはあるんだから雲くらい動かせる。


 レイスを新たに湧きださせて、俺はあえて逃げる十一人を襲わせた。

 観察する十一人は、やはりレイス相手に苦戦する程度の実力しかないようだ。


「本当にイブはこいつらに捕らえられているのか?」


 負ける要素が思いつかない。

 やはりダンジョンのバグでリポップできなくなっているのだろうか。


「もうすぐだ! まずは封じることを優先! それから馬だ!」

「節制や二十一士は!?」

「待ってる余裕はない! 今はこの化け物を倒せる方の下へお届けすべきだ!」


 俺はレイスのように森の地形に邪魔されず並走しつつ、人間たちの声を拾う。


 十一人にはさらにレイスを嗾け、足止めを狙った。

 すると荷物を抱えた三人が抜け出し、残った八人が一丸となってレイスを止めるように動く。


 レイスの対処をする者たちは、どうやら荷物を持った三人を優先して逃がすつもりらしい。


「なんだあれは?」


 三人が決して離すまいと抱えているそれは、黒ずんだ布の塊だった。

 それと同時にマップ化の表記がおかしいことにも気づく。


 目がなくともそこに荷物として抱えられた物が見える。

 なのにそれはマップ化に反映されない物体だった。


(いや、3Dの表記に歪みが出てる。座標を間違えて入力して歪んだような…………間違い…………バグ…………?)


 俺は思いつきで咄嗟に荷物を抱えている三人のすぐ足元からレイスを湧かせた。


 霊王之呼集は俺から離れた位置にも出現させられる。


「うわぁ!? 湧いて来た!」

「この! 邪魔をするな!」

「止まっては駄目! 一人が持って先へ!」


 レイスの対応のため三人中二人が足を止めた。

 残った一人は荷物を肩に担ぎあげて先を急ぐ。


 その瞬間、布の間から揺れる緑の髪が見えた。


 俺は体の大きさを膨らませてそのまま手を伸ばそうとする。

 けれど思いとどまった。


「…………ティダが、声をといっていた、な」


 挽回のために、イブのために。

 そんな思いを無碍にはできない。

 まだ我慢だ。


 俺は自分を落ち着けつつコンソールを開いた。

 気が急くけれど、イブの名前をタップしてメッセージを送る準備をする。


(あ、なんて入れよう? イブ動かないし気絶してるのか? 状態異常の類はイブのスキルで回復できるはずだしな。ここでおはようは違うだろうし、聞こえているかも違うな)


 迷った末に俺は『助けは必要か?』と一言送ったのだった。


隔日更新

次回:七徳の節制

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[一言] イブが負けた時は焦れたけどそのぶんここでの主人公の活躍が面白い
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