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160話:広がるタイムアタック

 レジスタンスは無事帝国でデビューを飾り、第四王子を人質にした手腕が噂になっているという。

 その後は穀倉地帯の領主に一時匿われたが、すぐに別の隠れ家へと移動した。

 連絡は取れるようにと領主側から王子と王女の世話役をつけられたが、どうもそちらもレジスタンスのために有用な人材となるようだ。


 アンとベステアはまだレジスタンスへの合流は早いとなり、いちど西のほうへ戻した。

 そこから旅をして、身の安全はユニコーンとバイコーンが守る。

 そしてペストマスク装備を着たスケルトンがお供に加わることになった。


「なんとわたくしが神の代役を務めさせていただけるとは光栄の極み! このリッチィ、必ずやご期待に添えるよう、こちらのお嬢さま方を守り、そしてエリアボスの女神さまにご満足いただける素材を集めてみせましょう! ノホホホ!」

「ねぇ、本当にこれスケルトン? アンデットってもっとじめっとしてるもんじゃない?」

「陽気な方ですねぇ。ちょっとトーマスさんっぽくないですけど」


 ベステアは呆れ、アンは戸惑いを隠せずにいる。

 俺だってなんでこんなハイテンションかわからないが、まぁ、いきなり俺が消えるのもという話になったから適当に代役見繕ったらこいつだったんだ。


「ちゃんとアルブムルナの計略を理解して動くならそれでいいんだが」

「神が素材を取れというならそれのほうが大事ですし、実際あのレベルのエネミーが勝手に寄ってくるなら儲けもんでしょう」


 俺の隣に立つアルブムルナが満足げに頷いてるしいいんだろう。

 ここは帝国の西で、ティダもいて二人はレジスタンスを離れた。

 もちろん配下はレジスタンスに紛れさせているので連絡は可能だが、それでも人間だけでやらせるいい機会だと、こうして俺について来ている。


「まずはレジスタンスとして逃げるのが先決。その間に人助けはありでしょ。けど帝国の軍と戦うのはまだなし。あんたたちはそこに合流して、その時にあのモグラとか言うのみたいに上手くやってよ。神が手本を見せてくれたんだから、失敗するはずないよね?」


 ティダが褐色の顔に愛らし笑みを浮かべてるんだが、何やらアンとベステアが震え上がった。

 というか、俺も別にマッチポンプの手本をしたつもりはなかったぞ?


「上手くいくならそれにこしたことはないか。では戻るぞ」

「えへへ、久しぶりに戻れるぅ」

「はぁ、戻れるってだけでなんか気が抜けるな」


 ティダとアルブムルナがそんなことを言っている間に、転移で大地神の大陸へ着いた。

 今日はスタファたちに戻ること言ってあるので湖上の城の前まで来ている。


「お待ちしておりました、我らが神よ」


 スタファとチェルヴァ、そしてネフも城への橋に並んで俺たちを出迎える。

 俺も派手な仮面を取って本来の姿に戻り開放感を味わった。


 おっと、気を抜きすぎてもいけないしちょっと神らしく答えておこう。


「出迎えご苦労。報告を聞くためにもまずは移動しよう。ティダとアルブムルナは疲れているなら一度エリアに戻ってもいいが」

「いえ、全然平気です」

「俺たちもこっちどうなってるか知りたいですし」


 元気に返され一緒に城へと入る。

 向かった先は広間ではない。

 俺が用意させた円卓のある会議室だ。


 誰が偉いかで喧嘩しそうだが、それを解決すのがかの有名な円卓。

 それに円卓を理由に俺を特別視しないで自由に意見をという言い逃れを考えていた。


(なのに、円卓にしたのに…………)


 会議室に入ったら、円卓とは別に裁判官席みたいな高い席が一つ用意されている。

 俺専用の席だと言われ、しかもネフがスタファとチェルヴァが仲良く作ったとかいうから断れず。

 俺は高い位置に一人で座ることになってしまった。


 落ち込む間に円卓に座ったティダとアルブムルナがレジスタンスでのことを報告する。


「吸血鬼相手に暴れられなくて、アルブムルナに止められてさ。久しぶりに骨のある相手と戦えると思ったのにー」

「戦闘狂かって。神のお考えを見れたんだからティダは出なくて正解だったじゃないか」

「おや、海賊の頭であるのに戦いに興味はない?」


 ネフが聞くと、アルブムルナは口元を三日月型に歪めて笑う。

 その大きな口はムーントードの面影があった。


「まさか。罠に嵌めて一方的に甚振るのがいいんだよ。虚を突いた時の間抜け面ならいくらでも拝みたいね。だからこそ、正面から血を浴びるティダとは違う」

「嫌だわ、汚い。宝石城ではどちらも自重なさい。わたくしの城を穢してほしくはないわ。それはそれとして、大神はこの世界にある駒を動かし望む結果を得ることを狙ってらっしゃるのね。でしたらわたくし、エルフの国でどう動くべきでしょうかしら?」


 チェルヴァが俺を振り仰いで聞いてくる。

 エルフの国行く予定ではあるが、別に何かしてほしいなんてないんだが。


「思うようにすればいい。今のところエルフはどういう者かわからん。御しやすければいいが、あぁ、そうだな。スタファとのように巨人という近似種同士で諍いを起こさないほうが良いだろう」


 恥じ入るまではいいんだが、チェルヴァに睨まれスタファも口を歪めてメンチを切り始めた。

 それだそれ。


 ともかくこの特別席でもやはり話は振られるようだ。

 もっとも意見を聞かれてもノープランなのでそれらしいことを考える時間稼ぎをするしかない。


「まだ帝国での報告が終わっていないな。ヴェノスとグランディオンのことだ。ふむ、私ではヴェノスたちをつぶさに見ていたわけでもない。スライムハウンドの中に知っている者はいるか?」

「は、僭越ながらご報告させていただきます」


 良かった、いた!

 スライムハウンドは港町について因縁つけられるところから話し出し、俺が探索者ギルドから指名されたのはガトーの手回しだろうと推測を上げる。


 言われてみればあの不自然な指名依頼はそんな裏があってもおかしくはない。

 アンとベステアのお蔭でフェアリーガーデンが面白かったし忘れてた。


 途中俺の攻略見てたスライムハウンドが入って話をし、そして最後にグランディオンを倉庫から連れ戻した後のことも丁寧に会話を再現して話す。


「その騎士どのの言うタイムアタックとは?」

「時間制限を設け、その間にどれだけの成果を収められるか。もしくは付された目標を達成できるかどうかを競う催しのことです」


 ネフにスライムハウンドが答えるが、なんで知ってるんだ?


 やっぱりベータ版の記憶ありか?

 湖上の城でタイムアタックしたテストプレイヤーが、バグを発見したせいで何度もタイムアタックする羽目になったと聞いたことがある。


「愉快な催しのようですね、神よ」

「相応の実力と技能を要求される玄人向けの遊びだがな。大前提がただ達成するだけなら容易という者の遊びだ」


 ネフに答えた途端、ティダが椅子を蹴立てるように立った。


「あたし! ドワーフの国でタイムアタックして滅ぼしたいです!」


 なんか物騒なこと言い出した!?


「うふふ、神の遊び? それはわたくしこそすべきでしょう。エルフの国の内情を調べて、滅ぼすかどうかはともかく、最小時間で掌握すればクリアかしら?」

「こういうのは時間の制限を設けるものなのでしょう? 王国はすでに手を入れているし、一緒になって競うにはハンデが必要ね」


 どうやらタイムアタックをやりたいらしいチェルヴァとスタファが前向きに話し合う。

 それを見てアルブムルナは頬杖を突いた。


「いいなぁ、俺やることないのに。レジスタンス使って帝国滅ぼすのは違うだろうし」

「それでは拙は、少々毛色は違うものの、羊獣人たちを使って最大限の収穫をすることでしょうか?」


 ネフまでタイムアタックに参加する方向で考えている。


(えぇ? どうしようこれ。タイムアタックしろって言ったわけじゃないのに)


 その間にも条件や期間の調整が進み、活発に方向を決めてくれていた。


 これはこれでありがたいし、そう言えば競争してこそ良い成績がでるとも聞いたことがある気がする。

 これだけやる気になってるのを止めるのは無粋かもしれない。

 けどやりすぎてプレイヤー出て来ても困る。


「そう言えばイブはどうした?」


 ツンデレで足並みを崩しそうだと思ってしまったが、そのイブがここにはいない。

 スタファが答えようとしたところに、突然蝶ネクタイのスライムハウンドが現われる。


「失礼いたします、山脈を探っていたスケルトンが至急ご報告をと」

「む、西へ抜けられたのか? すぐに呼べ」


 抜け道があると聞いて危険かもしれないから探りを入れていた者たちだ。

 その途中でこの世界産のドラゴンに出会うようなこともあったのでこっちを優先すべきだろう。


 スケルトンが一体やってきて頭を下げるので俺は手を振る。


「挨拶はよい。報告を」

「ははぁ! 失礼をいたしまして。我ら山脈の低きを狙って西側へ移動しておりました。探っていると道を見つけることに成功。辿れば噂のとおり西へ抜ける道があり、東の先は帝国へ。王国側へは通じていない様子。西に行った先にはどうやら吸血鬼の住処があるようでした」

「ほう、本当にあった訳か。そして吸血鬼ということは帝国の傭兵か? ノーライフキャッスルでもあれば」

「おぉ、神のご慧眼には骨身が震えるほど驚かされますな。ダンジョンらしき城があり、赤い吸血鬼たちとその眷属と思しき吸血能力を持つエネミーがおりました。周辺で耳を澄ませたところノーライフキャッスルと呼ばれる場所であることは確かです」


 予想どおりダンジョンがあったわけか。

 まぁ、そこにしか出ないクリムゾンヴァンパイアいたしな。


「手を打ちますか? あの吸血鬼、レジスタンスだけだと対処できませんし。俺が行ってもいいですよね?」


 タイムアタックに加わる機会を見つけて、アルブムルナが前のめりになる。


「いや、傭兵として戦地が狙いだ。であれば放置でいい。あちらとしては食事場所があるほうがいいだろう。つまりは戦争継続のため大局を動かすような動きはないはずだ」


 とはいえどうしよう。

 どれから手をつけようか迷う。

 レジスタンスも見ないといけないし、王国放置も駄目だろう。

 けどエルフの国とドワーフの国にやる気すぎるエリアボスを送り込むのも不安だ。

 ヴェノスとグランディオンがライカンスロープ帝国に行ったらそっちも様子見しておくべきだろう。


 さらに吸血鬼となると手が回らないから後回しとして、あ、ネフが共和国に行きたいって話も合ったな。

 そっちも何するつもりか聞かないと。


(ただ一番気になるのはダンジョンだな。フェアリーガーデンは楽しかった。どうせならノーライフキャッスルにまたアンとベステアを連れて行きたい。けどさすがに高難度だからパーティしっかりしないとな)


 本当に迷うな。

 そう思っていたら会議室の扉が突然開き、転がるように入って来たのは豚姫ことオークプリンセス。


「申シ訳ゴザイマセン! 敗レマシタ! イブサマガ敗レマシタ!」


 転がり込むようにして齎された報告に、俺のみならずエリアボスたちもフリーズしてしまったのだった。


隔日更新

次回:純潔

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