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16話:王国の英雄

 俺は突然響いた遠吠えに身構えたものの、スタファは頬に手を添えて溜め息を吐く。


「全く、グランディオンには困ったものね」

「今のはグランディオンか? いったい何があった?」


 本性が狼男なのだから巨体から発せられたのはわかった。


(けどなんでいきなり吠えた? やっぱり敵か?)


 するとネフが当たり前のように言った。


「神よ、確かグランディオンは太陽神にかつての住処と族を焼き殺されたのではなかったですか?」


 そうだっけ?

 というか神については饒舌なくせに仲間の身の上は疑問符か。


(なんにしてもグランディオンは俺の言葉で興奮して吠えたと、スタファもそんな雰囲気だな)


 確かグランディオンは幼い設定だ。

 能力は高いけど精神の弱さで狼男形態になると途端に理性が飛んで狂化する。


(そうだ、そう言えば未熟だから人間の姿にも完璧には化けられない。そのため耳と尻尾が常に出てるって設定だった。本当になんでその設定で男の娘なんて属性生えたんだ?)


 俺はかつての制作陣の誰がケモナーの男の娘推しだったかを考えてしまった。


「申し上げます」


 落ち着いてるというより感情のない平坦な声のスライムハウンドが声を上げる。

 ファナは姿の見えない新手に辺りを見回した。


 スタファが俺に目で確認するので、何処にいるかわからないから、そのままスタファに頷き返したことでスライムハウンドが要件を伝える。


「砦を探索中、そちらから武装した一団が現われました。倒れている者たちとは服装が違ったため警戒をしていたのですが、狼男どのがその、声を上げたために気づかれ。索敵魔法を行い距離およそ十歩の範囲にいた一人が交戦となりました」

「索敵の魔法とは知っている魔法か?」

「は、フィールドサーチと思われるものです。そのように言葉にしていましたが魔法でした」


 ゲームにもあるが、それは魔法ではなくジョブのスキルだ。

 狩人やテイマーなどができる、敵の位置をマップ上に表示するスキル。


(たまたま同じ名称か? いや、それはないか)


 そもそも俺たちが最初に転移したという確証なんてない。

 偶然や奇跡を疑うくらいなら、前例があると疑うべきだ。


「ファナ、砦から警備隊とは違う服装で現れる武装集団に覚えは?」

「え、あ、はい! あります。何故か王都から北ではなく南に視察にいらっしゃった英雄ヴァン・クールが連れて来た部下かと」

「英雄? 確か同じように帝国の侵攻を受けて兵になったという?」


 北との交戦で武功立てたとかで、ファナが男装してまで兵になったのはその英雄を真似て復讐を成し遂げるためだったとか。


 つまり相当な戦力となる存在。

 その部下となれば歴戦の猛者の可能性が高い。


「まだ敵を相手にしている者が生きているなら助けに向かえ、スライムハウンド」

「…………申し訳ございません。たった今、倒されたと報告が」

「なんですって? 相手の数は? 人間如きに何故!?」


 スライムハウンドの答えにスタファが部下の失態を問い質す。


「大神より課せられたお役目をなんだと思っているの!? いいえ、配下の不手際は私が雪ぎます!」

「待て、スタファ」

「そうですよ。その役目を仰せつかったのはあなたでなく某どもです」


 俺に続いてネフが止めた。


「私の力を疑うつもり、ネフ? そんな者たち一撃で」

「やれやれ、それこそ確認不足で即死させてしまったティダの二の舞ではありませんか」


 ネフの言葉にスタファは黙る。


(まぁ、それもあるんだけど。相手の手の内がわからないんだから、ここでエリアボスを出して手の内明かすのも悪手だと思うんだよな。慎重すぎか?)


 だいたい相手はこの王国の有名人らしい。

 きっと下手に倒すと国が死因確認のために本格調査にやって来るだろう。


 NPCに日の目を見せたいとは思ったけど、それはきちんと世界を知ってからだ。

 どうやら亜人種とは住まいを別にするような文化だ。

 だったら下手に姿を見られるわけにはいかない。


「ファナ、英雄は何故北ではなく南に? どんな使命で現れた?」

「それが、視察とだけ。砦の中でも最高戦力が何故、難民くらいしか来ないこの南にと噂になってました。その中で、もしかしたら預言が下ったのではないかと」

「預言? つまり、神が何かしらの異変を伝えたと?」


 概念存在じゃないのか?


「はい、救世教には預言者がいます。えっと、五十年くらい前まであった大戦を預言した方だとか。それで、人類存亡の危機が迫っていると預言し、国々に団結を呼びかけ、大戦では異次元よりの悪魔の猛攻を防いだと」

「異次元の、悪魔…………か」


 俺の一言にネフが笑う。

 反対にスタファは険しくなる顔を隠すように扇子を開いた。


(やっぱり前例がいたようだな)


 そして五十年以上前に現れて悪魔として倒されたと思うべきか。


「悪魔とはなんだ?」

「見たこともない姿の魔物と、異教徒と聞いただけで、どのようなとは。ただ、砦に長く務める者でもこれほどの濃霧は初めてで、この異変が預言の前触れかもしれないと」


 ファナではこんなものか。

 それでも一般的な知識だとすれば、やはり異形でしかない俺の姿は隠して正解と。


 ここで考えるべきはすでに起こってしまったことの対処だろう。


「スライムハウンド、敵の数は? 英雄と呼ばれる者がいるか判別はつくか? ファナ、英雄の外見に特徴は?」

「はい、赤毛で身長はそちらのネフさまと同じくらいです。ただ幅というか厚みはあって、でも三十後半という年齢でも老いを感じさせないお顔をしています。あ、武装をしているのなら額にサークレットをつけているのがそうです」

「サークレット?」


 おしゃれ、なわけないよな。


「はい、神よ。英雄ヴァン・クールは帝国の卑劣な侵攻に対して敢然と立ち向かい、帝国侯爵である敵将を打ち取った折、家宝であるマジックアイテムを勝ち取ったそうです」


 マジックアイテム、つまりは何かしらの装備品か。


 『封印大陸』でも決闘という機能があった。

 ギルドやクランの修練場という施設はPVPが可能で、そこで欲しいアイテムや騎獣を賭けて戦った。

 決闘は機能なので先に賞品をお互いに出し合い、勝った側に出した商品が二つとも納められる。


 さすがにそんな機能ないだろうから、死体からの剥ぎ取りか?

 そう考えると野蛮だが、ゲーマーとしては当然の褒賞とも思える。


「その効果は知っているか?」

「はい、どのような守りを敷く相手にも攻撃を届かせるそうです」


 う、必中だとしたら厄介だし、一定ダメージでも脅威だな。

 俺のようなレベル制限で攻撃を受けない設定でも攻撃を届かせることができる。


「あの、あの、いいですか?」


 姿は見えないがグランディオンの声がした。


「どうした?」

「さっきはご、ごめんなさい」

「いや、今は時間が惜しい。言わなければならないと思ったことがあるのなら言うといい」

「は、はい! 僕、見てたんですけど、たぶんそのマジックアイテム、パリィと仰け反りだと思います」

「なるほど、攻撃自体を届かせるのではなく、相手の守りを破る効果か」


 カウンター攻撃の上仰け反り効果とは恐れ入る。


(ゲームではパリィで攻撃遅延とクリティカル率アップ。そこに仰け反り判定での攻撃はクリティカル率が跳ねあがるな)


 つまりスライムハウンドは防御も反撃もできない状態でクリティカル攻撃を受けた。

 それでも大きくレベル差があればすぐさま負けることはないはずなのにやられたとすれば、英雄の名に恥じない強さか。


「グランディオン、良い情報だった。これをもって先ほどの失態は不問にする」


 俺のせいもあるけどここは神らしく偉そうに言っておこう。

 そうじゃないとこの後いうことを弱腰と見なされて神じゃないとばれるかも知れないし。


「預言の有無も推測だが、もしこちらの出現が知られているのならば存在しない狼男の唸りにあちらは全力での偵察を行うだろう。だとすればそれに正面から乗ってやる必要はない」

「では某一人で対応いたしましょう」


 耐久戦を仕掛けるという、敵にしたら厄介なネフが申し出る。

 確かに相手の手の内を計るにはもってこいだが、今は駄目だ。


「相手の手の内を見る以上に戦闘をする利はない。そして相手に付け込まれる危険を冒す理由もない」

「ネフを一方的に攻撃したとして正当防衛を主張してはいかがでしょう」


 スタファが当たり前のようにネフを犠牲にする案を出す。


「駄目だ。無駄な消耗は避けよ。ここはまだ前哨戦でさえない、遊びとも言えない段階だ」

「なるほど、楽しむにはまず準備を整えなければなりませんね」

「これはこれは。気づかず申し訳ございません」


 スタファとネフは何故か怪しく笑いながら頷いた。


(うん、適当言っただけなんだよなぁ。けどなんか納得してくれたならいいか?)


 さて、後問題は…………。


「ファナよ」

「はい、なんなりとお申し付けください」

「お前は、生きたいか? 死にたいか?」


 俺の言葉に従順だったファナの目に葛藤が浮かんでいた。


毎日更新

次回:ヴァン・クール

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