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141話:突発的な計画どおり

 王国の元男装兵士だったファナが、レジスタンスの正面に立って隊列を整える。

 少し前までは隊の統率もしたことがないはずが、なかなかさまになっていた。


 その間にも破られた城門からは敵が雪崩れ込む。

 内部で何が起こっているのか、小火のような煙が昇り始めた。


 砦の上部から討伐隊を攻撃していた反乱兵の元にも敵が表れ始めたようだ。

 やはり討伐隊は精鋭だったらしく、早くもここから見えやすい場所で殺し合いが始まった。


 武器や防具で優位な討伐隊が、軽装の反乱兵を簡単に切り殺す。

 けれど一人を殺すと、討伐隊の兵はすぐに複数の反乱兵によって無慈悲に袋叩きに遭い殺された。

 そしてまた隙の多い反乱兵が一人抵抗する間も与えられずに殺される。


「ふむ、これで失敗したでは恰好がつかないか。スライムハウンド」

「ここに」


 俺の声に応じてすぐさま姿を現したスライムハウンド。

 そんなエネミーの姿に、忙しいレジスタンスたちは気づいていないようだ。


「帝国第四王子がどれかわからない。捜してくれ」

「すでに捕捉しております。というよりも、大変目立ちますが?」


 スライムハウンドに教えてもらうと、確かに目立つ奴がいた。

 白馬にごてごての飾りをつけ、さらに本人も装飾過多な鎧や剣で飾っている。

 しかも派手な深紅のマントまで靡かせているのだから、後方にいて気づかなかったなんて言い訳、ただの注意不足でしかない。


 あと周囲も派手だ。

 中には何故か竪琴持ってる奴もいる。

 なんで雄叫びの上がってる戦場に音楽?


 ただ言われて見れば第四王子だと思われる人物はもろわかり。

 これは、言い訳しないとスライムハウンドからの忠誠が失墜しそうな気がする。


「その、本当にあれか?」


 俺は苦し紛れで重ねて確認した。

 するとスライムハウンドが唸るように応じる。


「確かにあそこまでこれ見よがしだと罠の可能性も!?」


 いや、どうだろ?

 数で押せば勝てるところを突っ込んで来た目立ちたがりの馬鹿にしか見えないけど。


「確かに派手なの置いて横の従者にでも扮してれば負けた時に逃げきれそうですね」


 アルブムルナが聞いてて同意すると、そこにティダも入る。


「ただの派手好きな馬鹿じゃない? まぁ、神のような知恵深い方なら理解できずに警戒してしまうのもわかりますけど」

「う、うむ。そうだな。そう、失敗があっては今後に差し触る。あの周辺全てを捕まえて誰が王子かを確かにしないと、な」


 捕縛してアルブムルナが言うように影武者でしたじゃ恰好がつかないし。

 そう思って言ったら、スライムハウンドがお座り状態から腰を上げる。


「承知いたしました。大神の深謀遠慮を計れぬ非才をお許しください。必ずや第四王子を特定し、御前に引き摺り出してご覧に入れましょう」


 何故かやる気になったスライムハウンドは、絶対を期すためか仲間を呼んだ。

 そのまま過剰戦力を揃えて消えて行く。


「ずいぶんやる気に満ちていたな? 人間相手に戦うことに何か意義を見出しているのか?」

「だってあいつら、神がスタファとネフ連れて外を見に行った時失態犯したじゃないですか。人間程度に後れを取るっていう失態を」


 ティダが無邪気に言いながら、あからさまにスライムハウンドを軽んじた。

 言われて見れば初めてこの世界の土を踏んだ時、ヴァン・クールの持つ特殊効果のあるアイテムによりスライムハウンドが一体やられている。


 どうやらその時の失敗が遺恨になっているらしい。

 妙に呼んだらそれだけでやる気満々だとは思ってたけど、そういう思いがあったのか。


「まぁ、任せるか」

「そうですね。こっちは有象無象の人間たちをさばきましょう」


 アルブムルナが応じると、ティダが元気に飛び跳ねる。


「あ、それならあたしは間引きに行ってくるよ。おーい、ルピア」


 何故か王女のほうに走っていく。

 そう言えば王女は伏兵がどうとか言ってて、そして間引く…………。


 もしや伏兵は追っ手を止めるためじゃなく、レジスタンスにいらない人間を間引くためか!?

 …………怖いから聞かないでおこう。

 それに今の状態だったら間引きしても、第四王子のせいってことにできるだろうし。


「これ以上は猶予がない! 志を同じくする者たちの危難を私は見過ごせない! だが今の戦闘は大望を果たすにはまだ早い段階だ! それでも私は行く! 何故ならこうして立ったのは助けを求める民を救いあげるだけの力が欲しいからだ!」


 ファナが演説を始めた。

 戦場を前に悠長だなと思う。


 けど前の世界でもあったし、映画やなんかでも大抵戦う前には訓示をする。

 なんだったらレイド戦やる前にこういうことをするクランリーダーもいた。


(意識を纏めるとかの意義はあるんだろうな)


 ただ戦況は待ってくれない。

 どんどん砦の中で反乱兵が倒れて行く。


 俺関係ないけどなんか焦る気持ちが募った。

 近くのアルブムルナと王子が平然としてるから急かすことはしないけど。


(最悪、第四王子捕まえればいいから、砦の奴ら誰が生き残ってもいいけど)


 とは言え、俺が言い出しっぺでアルブムルナの計画変えさせたからには上手くいってほしい。


「アルブムルナ、ティダたちの配置を確認してから動くべきか?」

「いえ、あっちはもっと後での出番なんで大丈夫です」

「では、ファナの準備待ちか」


 焦りを悟らせないよう呟くと王子が首を傾げるように俺を見上げた。


「もう行ったほうがいいとお思いですか? 僕は帝国王子が砦に入ってからが確実だと思うのですが、浅慮でしょうか?」

「確かにそれじゃ遅いな。入りに行くくらいでいいって。せっかくわかりやすい恰好で固まって本隊と離れてるんだ。だったら、あ、そうか!」


 アルブムルナが王子に説明する途中で気づいたように声を大きくした。


「だったら乱戦の間に後ろから襲えばいいじゃん。そうですよね、神よ」

「う、うむ?」


 わからんが頷いておく。


「おい、ファナ!」


 途端にアルブムルナはファナのほうへ行ってしまった。


「どういうことでしょう」


 くそ、王子が残ってた。


 ちょっと待て、考えろ。

 わかりやすく固まってるのを乱戦の間に後ろから?


 そして今は横腹を突いて敵を攪乱の構えでレジスタンスを動かそうとしてるファナに向かった。

 当初はファナが攪乱してる隙に砦内部の者を逃がしつつ間引きだったが、その指示を変更するんだろう。

 だからここで問題になるのは…………。


「第四王子を抑える手順、か」

「あぁ、なるほど」


 今のでわかるのか?

 俺なんて一つ一つ状況抑えないと筋道通せないのに?


 王族っていうのは一般人とは出来が違うのか?

 俺、この王子の歳の頃何してたかな?

 少なくとも悲惨な経験を果たした上で、こんな真面目ないい子ではなかったぞ。


「ですが、ここから横を貫いて分断となると、第四王子を捕縛するために別動隊を割く必要があるのではないでしょうか。そうなると、横を貫くだけの人員が足りないのでは?」


 その上新たな問題提起をしてくる。

 王子どんな教育受けたらこんな風に育つんだ?


 というかそこまで自分でわかるなら俺に聞くなよ。

 いや、もっとオブラートに包んで答えないと、また質問返されそうだ。


「アルブムルナとファナのお手並み拝見と行こう。気になるのならば、君も加わるといい」


 これぞ俺の常套句丸投げ。

 すると王子は笑顔を返してきた。


「神のお側にいさせていただきます」


 俺の側いても何もわからないぞぉ。


 そんなことを言ってる間にファナたちが準備を終えたらしい。

 見ると隊列を変更し、正面にいたファナが隊列の真ん中に移動していた。


「行くぞ! 彼らを救う手立ては私たちにしかない!」


 勇ましい掛け声に呼応してレジスタンス後方で旗が上がる。

 そして戦闘は雄叫びを上げながら抜き身を掲げて走ることから始まった。


 残って見守る俺は、討伐隊が驚いて動きを鈍らせる姿を見る。


「実質的な指揮官は前方にいたようですね。あ、今後方にも伝令が走り出しました。旗の数でこちらが少数であることを気づかないでいてくれるといいのですが」


 王子が隣で解説してくれるお蔭で、混乱してる程度しか俺にはわからないのに、どういう状況かが見えて来た。


 ファナたちが迫るのは指示がない討伐隊の真ん中。

 まだ砦に入っていない者たちはいち早く敵の接近に気づいたからこそ浮足立つ。


「守るにしても、抗戦するにしても中途半端な形です。これなら」


 王子が言うと同時に討伐隊がレジスタンスとぶつかる。

 そうして先頭を走っていた者たちは食い破るのではなく左右に展開するように動いた。


 離れて見ていると討伐隊の隊列を押し開くようだ。

 そうしてできた道を、足を止めずファナたち後続が駆け抜ける。


「まるでドアをこじ開けるようだな」


 抜け出したファナは手勢を連れて大きく回ると方向を変えた。

 向かう先は後方でゆっくり余裕の前進をしていた第四王子。

 狙われていると知って抗戦の構えを始めるようだ。


「焦って近習を減らしたのが駄目でしたね」


 こちらのあげた狼煙をみたことで、早急に砦を破ろうとして手勢は半減。

 そのせいで第四王子近くにいた人数は減り、魔法使いも半数になっていた。


「ふむ、スライムハウンドも動いたな」


 影から現れたスライムハウンドが人間に見られないように馬の足を攻撃する。

 そのせいで王子らしき派手な男が落馬。しかも装飾過多なせいで一人では立ち上がれないようだ。

 残っていた手勢のまた何割かが、守りではなく第四王子の世話に回った。


 そのまま半端な守りの体勢で、討伐隊本陣とも言える場所へファナの接近を許してしまう。

 そうして第四王子らしき男は戦闘で巻き起こる砂埃の中に姿を消した。


隔日更新

次回:二十一士寛容

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