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140話:レジスタンス始動

「まさか予定よりも派手にレジスタンスの始動をするなんて。さすが大神! 大物がかかるとわかっていていらっしゃったんですね!」


 アルブムルナが俺を過大評価してしまっている。

 おかしいな? 曲解しないように口を挟んでいたはずなのに?

 だからって今から否定しても何にもならないしなぁ。


「さて、期待するほどの者であればいいがな。物珍しいだけで終わらないことを願おう」


 それとなく期待しすぎないよういう俺は今、暗い通路から出て砦が見える山林にいた。

 場所としては攻められてる砦の横手。

 砦からは城壁の高さを生かしての抵抗が行われており、旗を掲げた討伐隊からは砦の門を破る破砕槌が繰り出されていた。


(物理だけで考えると、破砕槌なんて攻城武器、運ぶだけで時間がかかる。なのに魔法使いがいきなり岩石で作るんだもんな)


 しかもそれはゲームにある魔法ではできないことだった。

 一番近いのは地属性第七魔法で大地から槌を生成して打ち下ろすもの。

 ただそれではない。

 杭のような形で地面が変形したから、呪文は聞こえなくても地属性第二魔法を使ったんだろう。


 それを兵士が加工して縄をかけることで破砕槌にしたのだ。


(魔法で変形させたものを後から加工って、できるんだなぁ)


 ゲーム仕様を前提に考える俺では思いつかない用法だ。

 それを成したのが弱いと思っていたこの世界の人間なのだから、単に弱いと言うだけの評価は見直すべきだろう。


 そうなると警戒すべきは破砕槌を作らせた指揮官。


 後方には騎馬がおり、しっかり鎧をまとった一団がいた。

 そこには魔法使いたちもいるが城門が破られるまで動く気配はないようだ。

 やはり餅は餅屋というし、喧嘩もしたことないような俺が口を挟むと駄目な気がする。


「アルブムルナ、お前が考えていた方法でも、全然いいんだが」

「いえ! こっちのほうが派手で全然いいですよ! 本当にどうやってこんなタイミングよく、あ、違うか。この流れを作った上であたしたちの所にいらしたんですね!」


 ティダがはしゃいだ様子で言うんだけど、なんか後半おかしくないか?

 二人は当たり前のように俺が何かしたと思っているようだ。

 正直知らないんだけどな、帝国の第四王子とか。


 レジスタンスに引き入れようという反乱軍が籠る砦に討伐軍がやってくるまではアルブムルナとティダが予見していた。

 けれどどうやら本隊に先行して功に逸った第四王子が手勢のみでやってきている。

 それが今、俺たちの目の前で砦を攻撃しているのだ。


「あんなに近づかれて大丈夫ですか?」


 ファナが不安そうに言いながら、俺の隣にやって来た。

 後ろを見れば、戦闘態勢を整えたレジスタンスが今や遅しと気炎を吐いてる。


 帝国でスカウトした人間らしいんだが、なんか、こいつらも目がヤバくないか?

 補給のために来てた砦の者もいるんだが、そいつらよりずっと暗い感じが顕著だ。


 ファナが類友選んだんじゃないだろうな?


「駄目だめ。勝って気が緩んでたんだよ。あれだけ接近されてちゃ体力勝負。けど、こっちから補給する前だったから長くは籠城できないだろうね」


 将軍称号持ちのティダがはっきりと戦局の行方を断じる。

 するとレジスタンスの中からうろたえる声が上がった。


「軍師どの! でしたらすぐに助けに向かわねば!」

「今なら気づいていない奴らの横をつけます!」


 どうやらティダは軍事行動に口出すため軍師とみられているらしい。

 じゃあ、アルブムルナはなんだ?


 肉体的にはティダにも劣るが、すでに軍師の名は取られている。

 やっていることと言えば全体の監督? いや、それとも献策してるってことで策士とか参謀か?


「奥に控えてるから今行っても俺たちが止められるだけだ。それにこれは先発。後から来る討伐軍本隊の距離確認しないと。助けるにしても裏から逃がすタイミングが大事なんだよ」


 冷静なアルブムルナにレジスタンスは反論しなかった。


「将軍が言われるなら…………」

「逆じゃないか?」


 俺が思わず首を捻ると、ファナがこそっと教えてくれた。


「ティダさまだとやりすぎてしまうので、アルブムルナさまが前に出たところ、このような評価に」


 なるほど。

 弱いアルブムルナでもただの人間相手にはレベル差のせいで過剰な戦力だ。

 そして軍を動かすことには慣れたティダのほうが軍師っぽい台詞回しになるんだろう。


「ふむ、そうなると私はなんと呼ばれることか」

「賢者さま、物資の運び出しを始めました」


 王子が使い走りのようにしてやってきた。

 もちろん周囲もそれを聞いている。


(あ、これ、賢者呼び決定だ)


 神と呼ばないだけましか?


「運び出し完了までは動かないからしっかり統率を取るように。それと同時に守りもせねばならん。警戒は厳にせよ。死んでは意味がない。準備は焦らず念入りにだ」

「はい!」


 俺がそれらしいことを言うだけで、王子は嬉しそうに返事をする。


 まぁ、念入りって言い訳で時間稼ぎするだけなんだけど。

 こっちとしては砦のレジスタンスは間引く予定だった。

 砦を破られても既定路線なので、こっちからの助力は先のばしにして、さっさと城門を破ってほしいところだ。


 それに今の距離だと第四王子に逃げられるらしい。


(軍師のティダ曰く、前に向けて走り出した時が狙い目って通路で言ってたが。こうやって後ろに指揮官が構えてるって予想してたんだな)


 俺も戦争なんて知らない。

 そこはさすがにゲーム知識とは全然違うようだ。


 まず王子の処遇だ。

 倒して終わりのゲームじゃない。

 そんなことをしたら帝国の威信にかけて大軍を送られるから殺さず捕らえることで勝利を決定づける必要がある。


(一時の勝利で消し飛ばされては堪らない。だからまずは生け捕りにして人質交渉か。ゲームだと敵の親玉を倒せばなんの問題もなく陣地取れるけど、実際にやると戦争って面倒だな)


 その交渉で帝国から誰が出て来るかで第四王子の価値がわかるそうだ。

 そして相手の手の内を見た後は、逃走。


 交渉の間に次の拠点を手に入れ、また物資の移動を行う。

 レジスタンスの強みは身の軽さであり、国の弱みは腰の重さ。

 それを念頭に、こちらは捕まらないよう転戦することで身を守りつつ名を上げる。


(管轄が違うせいで独断専行は許されず、危機にあっても即応できない。たしか日本にも、レインボーブリッジ封鎖できませんとかいう格言があったような?)


 結局は人間であり人間が作った機構だ。

 日本と似通うところもあれば、即応するには各所との連携が大事らしい。


「ご報告いたします」


 音もなく俺の側にてるてる坊主のような格好の人物がやって来た。

 顔や体格を隠してるがスケルトンであり、ファナ周辺に配置したNPCだ。


 準備云々がなくても勝てる戦力が、実は最初から揃っている。


「敵軍本体は四半日の差がある模様」

「ふむ、ではあまり時間もかけていられないか」


 スケルトンに答えると王子が賢く頷く。


「焦らせて、総攻撃を決意させなければいけませんね」

「何か考えがあるかな?」

「こちらから少数の姿をさらして狼煙を上げてはいかがでしょう。援軍の到来を意識させては?」


 なるほど、砦が複数落ちてるのは知られてる。

 だったら狼煙程度で増援を匂わせ焦らせることもできるだろう。


「王子だけを突出させてるとも思えないですし、四半日より早く来るでしょうね」


 ティダの推測に頷いたアルブムルナが呼ぶ。


「ファナ、指示を」


 指示内容を簡単にレクチャーされたファナは、控えているレジスタンスのほうへと向かった。

 王女仕込みらしい堂々とした様子で、ちゃんと俺たちの話を理解した上で説明と指示をしている。


「成長してるじゃないか」

「まだまだですよ?」


 アルブムルナとしては全く及第点には至らないらしい。

 あれで駄目なら俺なんて…………いや、張りぼてでもNPCを思って纏める役ができるなら、NPCたちは有能なんだし大丈夫なはず。


(うん? そうなるとやっぱり俺、余計な口出ししないほうがいいのか? いや、けど『水魚』のリーダーだったイスキスは先頭に立ってたし、リーダーってあれだと思うんだけど)


 いい見本を失ってしまったのは惜しい。

 あとお手本にできそうなのはヴァン・クールだろうが、何故か王城に籠って出てこない。

 今のところ動きがないので足掛かりとして接触もできていなかった。


 俺がリーダー像について考えていると、王女がこちらにやってくるのが見える。


「ただいま戻りました。退路確保、伏兵の配置、後方砦への連絡を終えたことをご報告いたします」

「こちらも手慣れた様子だな」

「まだまだだと思うんですが」


 やはりアルブムルナからすると合格点は与えられないらしい。

 厳しいなぁ。


「お前の同族たちと同じに見ても、手下と同じに見ても駄目だ。何より、時には何が良いかを口にしなければ、こちらの意図を汲み取る機微さえ育たないものだろう」


 俺は昔何かの気まぐれで読んだ経済紙のコラムを思い出して言ってみる。

 確か叱る時にはしつこくない程度に叱りつつ、褒める時には大袈裟なほど褒めるのがいい上司だとか。


 だいたいアルブムルナのムーントードはレベル七十から八十代の強者。

 耐久や攻撃力で劣るが海賊をしている羊獣人たちも似たようなレベル帯なので、この世界の人間は動きも遅ければ対応できる範囲も狭く見えることだろう。


 そんな俺たちの会話に王女は微笑む。


「賢者たるお方が手ずから従えた方々には劣るでしょうが微力を尽くしますので、どうぞ今後ともご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします」


 さすがに育ちのいい王女は怒ることもなく下手に出た。

 さらに王子もやる気を見せる。


「何より賢者さまがお示しになったのならば、万難を排して遂行いたします」

「気持ちの上ではまぁまぁなんだけどね」


 ティダがフードの中で笑う気配と共に口を挟む。


 その気持ちって俺に対する信仰とか言わないよな?

 戦う覚悟とかそう言うのだよな?


 一抹の不安を覚えている内に、狼煙が焚かれて攻められる砦に合図が送られる。

 すると砦からも返事の狼煙が上がり、帝国王子のほうも気づいたようだ。


「動きが変わった。やりますよ」


 まだそれらしい動きもない内にティダが明言した。


 どうやら狼煙に気づいて予想どおり逸ったらしい。

 帝国王子周辺から人が加わり、勢いが増したことで破砕槌が威力を増した。


 城門が破られ帝国王子も動く。

 ここからがようやくレジスタンス始動の本番だった。


隔日更新

次回:突発的な計画どおり

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