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114話:本気の攻略

 王国に三組しかいない金級探索者の『水魚』が壊滅した。

 その報は王国を揺るがし、ダンジョン周辺では街も村も混乱をきたすほどだ。


 それほど金級探索者は貴重で有用な人材。


(当たり前か。獣よりも厄介なエネミーが生息する世界で、ダンジョン攻略の馴らしや経験のために退治してくれる貴重な戦力なのだからな。前の世界でも猟友会の高齢化が問題になっていた)


 もちろんダンジョン攻略失敗という死因も流布されたんだが、それと一緒にある噂も広がった。

 どうやら『水魚』がダンジョンに向かった理由である依頼者が王城の者であると。


 その噂がさらに人の目を集めたらしい。

 実際、王城に住む者が依頼者だというのは『水魚』からも聞いている。


(まぁ、王城に住むって結局誰だって話なんだが。たぶん偉い人の誰かなんだろう。金級探索者って権力者とも繋がれるらしい。つまりは猟友会よりもスター性があると思うべきか?)


 ともかく、国の上のせいで死んだということで、よりスキャンダラスに広がっているのだとか。


「大変な騒ぎになりましたね。まさか『水魚』がそれほどの者だったとは」

「全くだ。まさか依頼主が王城の者とはな」


 俺はヴェノスに適当に応じる。

 今一緒にいるのはヴェノスだけで、商人のカトルはいない。


 商人も商人でこの騒ぎで呼び出されているらしいとヴェノスから聞いた。

 どうも『水魚』と親しくお茶をしていたことから、少しでも詳細を知りたい者たちに引っ張りだこだとか。

 実際何も知らないが、そこは商人。

 顔を繋げるだけでもめっけもん、と言っていたそうだ。


 俺にそんなバイタリティはない。


「『水魚』がすぐにメンバーから外してくれて良かった。ギルドも俺が関わってることの秘匿に協力的であるのも嬉しい誤算だ」

「誤算などとご謙遜を。神をそれだけ重く見た結果であり、それだけの下準備を神がなされたからこそではないですか」


 重くって、なんでだ?

 こういう場合、一人でも人材欲しくて引き留めないか?

 だからこそすぐ外された俺は駆け出し探索者で重要性ないからってことになるんじゃないのか?


 俺たちがダンジョンから生還すると、『水魚』壊滅とイスキスの死でギルドも混乱に陥った。

 もちろん俺も当時の状況を聞き取りされたが、これ以上巻きこめないとアクティたちが言い出したのだ。


(俺からの聞き取りもしつこくしようとした、ダンジョンのある街のギルドさえ撥ねつけてくれているのは部外者がこれ以上関わると手が回らないっていう事情だろ?)


 王都のギルドのほうがすぐに手続きなんかしてくれたおかげで、俺は『水魚』とは無関係の探索者に戻っていた。

 そして今は身を隠すべきだと王都のギルドからも言われて人のいない場所にいる。


「神の選ばれる人間に間違いがない故ですね。非才の私にもご教授いただけませんか。人間を見極めるのに、何か決め手がおありで?」

「いや、自ずとそういう流れになるだけで、決め手というほどのこともな」

「なるほど全ては大神の望まれるとおりになるのですね。さすがは知啓に優れたお方」


 適当な返しにもヴェノスは上機嫌に頷く。

 いや、本当に俺は何もしてないけどな。


「こうして人間たちを翻弄しその目を掻い潜っておられるのも、神の目論見どおりなのですね。王城は今頃ことが動いているでしょう。王国自体が揺らぐ今こそホージョーの望んだ最後の一押し。ここまで予見して動かれていたとは。さすが神の中の神、大神であらせられる」

「うん? うん、そこまでのことではない」


 何言ってるかわからん。

 いやホージョーが王城で何かしてて、俺がこっちで問題起こしたんだからもしかして影響があるのか?

 まずくないか?


 って聞くわけにもいかないよな。

 下手に聞いても墓穴掘りそうだしここは話を変えよう。

 ホージョーには後で手伝うことあるか聞いてみよう。


「さて、ヴェノス。目の前のことも気にすべきだ。強化ゴーレムを倒してその槍に変化は?」


 今俺たちはノーライフファクトリーの裏面、つまり地下にいる。


 『水魚』壊滅でノーライフファクトリーごと閉鎖され、ダンジョン内には誰もいない。

 同時にイスキスたちの死体も未回収でそのままだ。


 俺たちはイスキスたちを横目に奥へ向かう。

 もちろんゴーレムは強化ゴーレム一体と言わず、ゲームで設定したとおりの集団で襲って来ていた。


「は、神のおっしゃるとおり今までよりも扱いが繊細になったように思われます。というか、アーツによっては武器破壊に繋がりかねない動作がありますね。発動はしますが武器が構造的に壊れます。今までこのようなことはなかったはずですが」

「やはりそうか。元の世界とは違うのだ。まぁ、世界が違うのだから法則が違うのも当たり前だろう」


 身を隠すついでに俺はダンジョンの地下に誰も行きたがらないと知ってやってきた。

 検証のためだから、もうペストマスクなしの本来の姿で歩いている。


 検証内容はもちろん杖がアーツで折れたことについてだ。

 物理的に考えると当たり前のことだが、アーツは発動していたのはゲームのとおり。


 ヴェノスにも一通りアーツを使ってゴーレムを倒させた。

 すると何度かアーツをやめたことがあったが、武器が破壊されるとわかったかららしい。


「む、新手が来たな。今度は私が試しをしよう。これでな」


 取り出すのは暗耀紫幻杖。黒曜石のような鉱物でできた杖は、キラキラと光る紫色の星雲を纏っていた。

 ペストマスクの杖とはランクが違うレアイテムだ。

 何せ大地神を倒すことでようやく手に入る装備品なのだから。


 マップ化で位置は把握した六体のゴーレムに、一体の強化ゴーレムが後方から来ている。


「ふむ、色付きか」


 ゴーレムに属性に応じた色があり、七体の中に青と赤がいる。

 その色に応じた魔法の耐性があるということだが、基本的に上位属性はいない。

 ここダンジョンとしては初級だしな。


「それでは先制をさせてもらおう」


 俺は左回りで移動し、ゴーレムの側面に柱に身を隠しつつ接近した。

 そうして気づいていないところから、魔法は使わない。


 杖術アーツで抜き打ちのような動きを放つ。

 打撃と同時に吹き飛ばしの効果があるんだ。

 固まっていたので一体を吹き飛ばせば、近くのゴーレムに掠めて、他の一体にぶつかり折り重なって倒れた。


「杖は、どうやら大丈夫そうだ。見た目どおりこちらのほうが強度は勝るんだろう。では続ける」


 今度は床撃ちのアーツを発動。

 これでペストマスクの杖は壊れた。

 やると俺に狙いを定めようとしていたゴーレムが、弾き飛ばされるように体勢を崩してたたらを踏む。


「ヴェノス、そっちの動かないゴーレム二体はどうなっている?」

「壊れています。神が飛ばしたゴーレムに潰されて。こうした自滅もこの世界に来たことによる弊害でしょうか」

「そうだろうな」


 フレンドリーファイアのせいだろう。


 話ながら俺は次のアーツを放ち、杖を左右に振る。

 ターンしてさらにゴーレムを打ち、掲げた杖で打ち下ろす。


 からの前転して移動。

 撃ち上げるように蹴り上げて、着地と同時に杖を振る連撃のアーツだ。


「ふむ、これは、なんと、言うか、耐久、コンボ、したく、なる、な!」


 アーツでは体が勝手に動く。

 普段なんの体術もできないのに、というか今の姿は足の形も判然としないのに蹴りなんかの攻撃は当たっていた。


 ゲームでもコンボ記録はステータス上に表示される。

 アーツは上手く連鎖させれば切れないし他のエネミーに移ってもカウント続行ができる。

 死体蹴りも上手くできればいつまでも続けられるんだよな。


 だがここはすでにゲームではない。


「む、これ以上は無理か」


 俺はアーツの連撃やめ、すでに粉々になったゴーレムの群れだったものを見下ろす。


「杖は、傷んでいるな。曲がっているか?」


 杖を正眼に据えて見れば右に曲がっていた。

 どういう原理かわからないが鉱石でできているようにしか見えない杖が、木製の杖のように曲がってる。


「仕込み杖が折れるのは強度の問題とわかるが、これは鉱石がどう変形したんだ?」

「そうですね。もしかしたらこの世界に存在しない素材なのでは? だからこそこの世界に存在する何か我々の未知なるものに置き換えられたと考えられます」

「置き換え?」

「私見ですが、我々の世界にそのような性質の鉱石は存在しません。ですが、この世界にはないと言えない。であれば、そうしたこともあるかと」


 それだけでは説明できないことはわかってる。

 けれど考えから排除する必要はない。


(だいたい正解わかる奴もいないし。電気信号のはずのNPCがこんなことになってるんだからな)


 今はやっと現れた強化ゴーレムに目を向ける。こいつが色付きで青い。


 先に来ていた六体は粉々で、最初は赤が一体混じっていのが見た目でわかったんだが、今は混じった残骸で見る影もなかった。

 これはこれでやりすぎだ。

 でも魔石探しにはちょうどいい。


 ついでに曲がった杖も替え時か。


「壊すつもりでやるか」

「ふふ、それを使い捨てられる者などこの世界には他におりませんね」

「何を言う。お前たちがいるだろう。望むのなら与える。いつでも言うがいい」


 インベントリに無限大入ってるし。


 俺の言葉にヴェノスの尻尾がビュンビュン揺れてる。

 あと槍を両手で握り締めてるのはどうした? そんなに傷んでるのか?


「素晴らしい…………。どうぞ、神よ。大神にのみ許されたる破壊と散財をお見せください」


 嬉しそうにヴェノスは言った。


 それと同時に強化ゴーレムが来た。


「いいだろう、一撃だ」


 俺は移動態勢のゴーレムに向けてそう宣言した。


 打ち出すのは一撃必殺のアーツ。

 たぶん心臓を掌打して止めるのと同じようなイメージだ。

 引き絞るように杖を引いて駆け出す。

 そして強化ゴーレムの目の前に至る。


 力任せに杖を打ち出すと硬い感触が返った。

 ただそれで終わり、ではなかった。

 そのまま杖は突き抜ける。


「む? 杖も壊れたが強化ゴーレムも砕け、あ」


 零れ落ちるゴーレムの体とは違う、透き通った石が足元に散らばった。

 それは魔石、しかも色付きだ。

 だが今や丸かった面影だけを残して散らばっている。


 俺の必殺の一撃は、丸かった魔石を破片にまで砕いてしまったようだ。


毎日更新

次回:工房を作った理由

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