11話:第一現地人発見
スタファを下がらせ次の報告を求めると、ヴェノスが進み出た。
紫色の尻尾を振り振りしてるのはまさか犬と同じ意味じゃないよな?
ヴェノスは騎士団長という称号を持つ戦闘系エネミー。
本拠は宝石の街だけれど、キャンプ地である西にも移動すれば、大陸の何処かで騎士団を連れて大移動しているという存在だ。
これに遭遇して倒すと高レアのお宝ゲット。
ただし相手は集団でヴェノスもエリアボスなのでそう簡単には倒されてくれない。
もちろんオープンワールドという世界観を生かしてどうとでも作戦を立てて襲撃できるという仕様だったが。
「アルブムルナの要請を受け、我が騎士団とは協力しての巡回体制を調えましょう。ただ人数が必要となるので、騎士団を保持しつつ、各種族から騎乗スキルを持つ者たちによる混成の警邏隊を発足したく」
うん、まとも。
ヴェノスは物理職だけれど職業熟練度というジョブのレベルに相当する部分が高かった。
もしかしたらそういうステータスが影響してこの人格かもしれない。
(一見信用できそうなんだけど、問題はリザードマンという種族なんだよな)
一度恨みを買うと執拗に追いかけてくるというゲーム仕様は覚えてる。
けれどもっと詳しい種族的なステータスとか覚えてない。
ただ自分が考えた設定でも執念深いって書いた気がするし、リザードマンが信仰するのは始祖神だ。
(確かこの大陸の何処かに始祖神の像があるけど、壊せと言わんばかりの邪悪な造形と配置だったな)
もちろん壊したらリザードマンが群れで追い駆けてくる仕様だった。
神じゃないとばれると絶対怨んでくるタイプだ。
そんなヴェノスに兵力を集めるのは正直不安しかない。
「いや、待てよ。混成の警邏隊か。…………面白そうだな。同じ装備、同じ条件でどれほど戦力や技量に差が出るのか、この目で見たいものだ。それを確かめてからでも遅くないだろう」
これならどうだ?
ヴェノスは大きく尻尾を振ると声を弾ませた。
「御前試合ですか。それは腕が鳴りますね。神がそう望まれるのならば手配いたします」
通じた!
なんか勝った気分だ。
けれどそんな俺に水を差す声が上がる。
「じゃ、大神の御前で無様に負けた奴はその場で処刑でいいの? だったらあたしもお手伝いできるよ!」
ティダが妙なやる気を出して真っ直ぐ手を上げた。
「ティダ、頭数を揃えたいと言って集めた者たちを悪戯に減らしてどうするの」
こういう時はまともなスタファだ。
ただまだスライムハウンドが一人見張りについてる。
「で、でも、大神のご覧になっているところで、殺さず、手加減なんて、できません」
実は瞬間的な物理火力はティダに勝るグランディオンが何か言ってる。
あ、やっぱりこいつら怖い。
(俺、ばれる前に一人で出奔したほうが安全なんじゃないか)
これだけやる気だと自力で日の目見れるように動きそうだし。
いや、せっかく俺がここにいるんだからライターとして関わりたい気もする。
「馬鹿ね、だったら死んだ奴は蘇生アイテムで生き返らせて、奴隷にでも落として警邏隊をさせればいいのよ」
イブもまたとんでもないことを言い出したぞ、おい。
(けど、忘れてた設定思い出したな。この大地神の大陸にある街には奴隷がいるんだった)
基本的に羊獣人で哀れっぽい感じだし、話を聞けば忠告もしてくれるのが奴隷。
だがそれに絆されて助けると、実は犯罪奴隷だった羊獣人が所持金の半分を奪って逃げるというトラップだ。
とはいえ、試合しろって集めておいて負けたら犯罪者扱いはどうかと思う。
「…………誰か、蘇生アイテム以外でも、消費タイプのアイテムを使った者は?」
俺の問いにエリアボスたちは顔を見合わせる。
どうやら誰もいないようだ。
「では使わないよう配下に徹底せよ。もし使った者がいるのならばそれが以前の世界と同じく機能したかを報告させるように」
「承りました。ご命令とあらば蘇生アイテムの効果を検証いたしますが?」
ヴェノスがごく当たり前のように聞いてくる。
けどそれってつまり、誰か殺して試すってことだよな?
町の住民はエネミーだけど条件を満たさないと敵に回らない。
ただ敵に回った時倒してしまうと、二度と戻らない仕様はこの大陸に限ったことではないゲームの仕様。
そこに商人ジョブのプレイヤーが入り込んで、町を拠点として遊ぶのだ。
「ポップするエネミーに使うには高価であり、もし作用しなかった場合の補填も効かない。ヴェノス、今は必要はない。いずれ機会はあるだろう」
勿体ない精神で俺は止める。
(あれ、これ良かったかな? 神ってもっと傲慢っぽいほうがいい? みみっちいって思われたらどうしよう?)
俺が不安に駆られると、スタファが勝手に納得して声を上げた。
「なるほど、ですからネフに周囲を。そうですわね。実験にも段階を踏むべきでしょう」
わからないなんて言えないからここは頷いておこう。
よし、突っ込まれない内に次だ!
「グランディオン、森はどうだった?」
「は、はい! 崖が健在で、そこにはエネミーを配置して守りにしました。狼男たちで森を巡回するようにも命令してきました」
「うん、うん。妥当な判断だ。それによく配下を指導したようだな」
「え、えへへ」
グランディオンは照れながら、何故かヴェノスをチラ見する。
グランディオンは幼さと才能故の暴走という狂化能力がある上に、狼男は一匹オオカミが多いという設定だった。
だからエリアボスであるグランディオンは狼男を圧倒的な暴力で支配している。
見た目赤ずきんには似合わない設定だが、同時に統率系統のスキルはないという運用側としては使いにくさのあるエネミーだ。
「ふむ、崖か…………魔女の家は確かめたか?」
「はい、長老さんはすでに戻ってて、魔女たちに状況説明してくれてました」
魔女は森に棲むエネミーで、オープンワールドなので封印大陸が解放されれば崖からも侵入は可能だった。
だいたいプレイヤーが太陽神の加護があれば飛行というフィールドモーションが使えるし。
なので崖が侵入ポイントになるのはわかっている。
そうして正規の道を通らない者のために、浜辺周辺には海賊、上空にはドラゴンホースやスカイウォームドラゴン、そして森には魔女がいる。
崖から森に侵入すると、転移トラップによって魔女の家へと強制転移させられるのだ。
そこに無断で入るとブタ化の呪いがかかる。
プレイヤーの外見はブタとなり、本来の能力が封じられ、代わりに動物言語、走行などのスキルが使えるようになる。
エネミー判定となり倒されれば戻れるが、それ以外では魔女に高額を支払うことで戻れた。
ただその場合は大陸外へと放り出されてやり直しとなる。
「崖からの侵入者のことを言ったら、対処するって言ってくれてます」
「そうかそうか。良く助けを求めた。正しく頼るのは成長にもいいことだ」
魔女の防御は紙なので、エリアボスのグランディオンが酷い目にあうことはないだろういい人選だ。
そう思ったが、何故かヴェノスと顔を見合わせて苦笑いをしていた。
「御前を失礼。スライムハウンド、某は大神の命により動いているんですが?」
「ネフ、戻ったのか」
広間にネフが現われたんだが、後ろからは睨むようなスライムハウンドがいる。
そう言えばスライムハウンドは転移の番人。
この城は転移禁止で、確か転移で城門まで来ると必ず一体スライムハウンドに見つかる仕様だった。
どうやらネフは転移で城門に現れ、スライムハウンドに目をつけられたようだ。
同じく察したらしいスライムハウンドの執事が鼻先に当たる部分を振って、ネフに貼りついていた配下を下げる。
「急ぎ戻った理由を聞かせよ」
「えぇ、お察しのとおりです。現地人と思われる少女を発見いたしました。他三人の人間とみられる男の死体があり、少女も虫の息ですので危険はないと思われます」
「以前の世界の人間とは違うのだな?」
「恥を承知でお答えするなら、わかりません。長らくこの大陸内の人間でさえ見ておりませんので」
そうだ、ここに踏み込んだプレイヤーは俺だけ。
そして恥を承知でなんて殊勝なこと言ってる割に顔が面白がってる。
こいつ顔に布垂らしておいたほうがいいんじゃないか?
ネフから情報を聞く限り、見つけた人間の四人ともが同じ装備であることから、何かしらの組織に所属する者であるらしい。
隊長格らしき者もおらず仲間が現われる可能性があるそうだ。
「ふむ、では少人数で行くか。外見が人間と変わらぬ者が好ましいが」
ざっと見ると、尻尾、耳、尻尾、羽根、目無し。
条件に合致するのは、白いスタファと黒いティダに限定される。
「となれば、スタファ。一緒に…………いや、伴をせよ」
「はぁい! おおせのままに!」
スタファが歓喜の声を上げる姿に、ちょっと早まったかと後悔してしまう。
「大神の御幸であるのに華のないことで。まぁ、そのお姿があればどこでも宝石箱を散らしたような輝きですが」
ネフが変な言い回しをするが、言いたいことはわかる。
ネフとスタファがどんなに人間っぽくっても俺が完全に人外なんだよな。
「あぁ、それと森が深く動物もいるので狩人のジョブがあるグランディオンがいてくれたほうが動きやすいかと。死体に獣が寄って来ても面倒でしょう」
「ではグランディオンも身を隠して同行せよ」
「は、はい! 不埒なけだものは僕が追い払います!」
子供がやる気になってる姿をみるのは悪い気がしない。
うん、俺もグランディオンみたいにちょっと頭巾でも被って顔隠そうかな。
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