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107話:どうせなら

 俺はレアエネミーを狙い撃ちで水属性の魔石の欠片をゲットした。

 ちょっと一緒になってしまったオストル少年には口止めをしたが。


 壊れかけのゴーレムが動いた原因が魔石にあるかもなんて言い訳に頷いたのは、一撃で蹴り倒してしまったからだろうな。

 腰抜かしてちょっと動けなかったし。

 脆くなってたとか、靴に鉄仕込んでたとか言ってごまかしたけど。


 まぁ、それはいいんだ…………。


「なるほど、色付き、大きいもの、女性に贈れる魔石を手に入れることが依頼内容か。そして必要としている物が手に入るまでゴーレム討伐をひたすら続けるわけだな」


 つまりゲームで言う周回中だ。

 今はさすがに疲れて一室に立てこもり休憩をしている。


 俺がいつまでするのかという話を振ったことで魔石を集めという目的をさらに詳しく聞くことになった。


 そしてその話の間、倒したゴーレムからは色付きの魔石など見つかっていない。


「いつ見つかるか。これは運だからな。ゴーレムが必ず出てくるという状態であるだけ、捜し回る必要もないから楽と言えば楽なんだけど」


 そう言いながらもイスキスも疲れた様子がある。

 攻撃の要であり相手が物理特化のゴーレムだ。

 イスキスは最前線で戦うことになる。


 十三人に俺プラス、交代でもゲームと違って疲れがたまる。

 とは思うが、俺ほぼ立ってるだけなんだよな。


 そして荷物持ちとしてついて回ったり休憩で世話をする係のオストル少年の視線が痛い。


(色付きの魔石のこと黙ってくれてるけど、これは時間の問題か? いや、蹴り倒したのを疑ってるか? 壊れかけてたって言い訳にも反応微妙だったし)


 ゲームよりもあった迫力に慌てて蹴り倒してしまったけど、どう考えても薬師見習いの戦闘力じゃなかった自覚はある。


 今回は仲間扱いでここまで来ているんだ。

 単独行動でレアアイテムゲットして黙ってるとなると、ゲームでもマナーが悪い行動でしかない。


(運営に携わった意識があるし悪質プレイヤーにはなりたくないんだが)


 けど初レアから取れた記念品として手放しがたいゲーマー心も確かにある。

 大したアイテムじゃないんだよ。

 けど勿体ないんだよ。


 このまま探索して見つかってくれるのが一番なんだが、『水魚』の体力がな。


「やれやれ、ここで休憩できるなら下まで降りるよりも今回は楽じゃい」


 一番年長のホロスが言うと、同調するのは女性陣だ。


「楽だけどこれ逆に下の探索者に私たちの安否心配されてるかもしれないね」

「それはありそう。イスキス入ってるし心配して捜索されたりするかもしれないわ」

「けどあの階段降りてまた昇るの? せめて大きいのか色付き見つかるまではやだな」


 オルクシアの意見に全員が嫌そうに頷いた。


「今回大きさもあまりな。女性用に加工できるものが一番楽でしたが」


 サルモーが手に入った魔石を並べてそうぼやく。


 中小さまざまに二十は集めたが、すべて無色。

 そしてこれだけ集めるのにだいぶ時間も使っている。


 ゲームだと破片、断片と大きくなり、完全な球体だけを魔石と呼んだ。

 それをここでは大中小で全て呼び方は魔石で統一らしい。


(種類で言えば断片五つに破片が十五。欲しがってるのは色付きと魔石か)


 当たりが悪い時には本当に出ないのはここでも同じらしい。


 『水魚』も焦れてる。今日は運がなかったと諦めるか、あと少しと粘るか。


(その分、難易度の高い二つどちらかが出れば満足しそうだな。だからって色付きを渡すのは抵抗があるし。どうせならここは本人たちに手に入れてもらうか)


 俺はイスキスにペストマスクの顔を向けた。


「観光気分で悪いとは思うのだが少し見たいところがある。壁画があると聞いたが?」

「あぁ、そうか。トーマスはここ初めてだったな。落ち着てるし質問なんかも少ないから失念してた。なのにトーマスには作業のようなことをさせてしまって」


 イスキスが申し訳なさそうに言うので片手を上げて応じる。


「いや、似たようなことならしたことがあったものでね。気にしていない」

「やっぱりダンジョン自体は初じゃないんだな。いいさ、行こう。こうして籠ってる分安全なのはいいけど、気分転換も大事だ」


 イスキスの一言で『水魚』たちは腰を上げる。

 ただガドスが首を捻った。


「壁画なんか見て面白いか? ぼろいだけだぞ」

「いや、トーマスは着眼点がいい。何かこのダンジョンの由来でもわかれば褒賞は出る」

「そうなの?」


 ホロスにオストル少年が初耳らしく聞く。

 すると弟子のアクティが応じた。


「ここは古いからもう情報ないけど、基本的にダンジョンはその由来とか何かダンジョン自体の情報を掴んで報告すると褒賞があるんでしたね」


 ダンジョンは急にできるので海のものとも山のものとも知れない。

 だから情報に値段がつくし探索者がいる。


 ノーライフファクトリーは古いから新たな情報もないまま時間が経っているそうだ。

 だから褒賞のことを知らない若い探索者は珍しくないとか。

 五十年前にダンジョンが新発見された時期を知るホロスは知っていたらしい。


 そんな話をしながら壁画へ向かう。


(一番奥の広間に行くまでにゴーレム五体と遭遇。出たのは断片だけ、と)


 成果を見つつ、薄めた回復薬で怪我の治療を行い、一番奥の壁画へ辿り着いた。


 一段高い位置に両脇を太い柱で飾られて、意味深な壁画がある。


 ゲームではこういう壁画を読み解いてヒントにしていた。

 それが神の居所だったり、別のダンジョンの場所だったり、隠し通路の位置だったり。


(実はこのノーライフファクトリーに、大地神の大陸の場所へのヒントあったんだよなぁ)


 それも断片的で全てを繋ぎ合わせないとわからない仕様だった。


 壁画は左から見る形でこのダンジョンの成り立ちが描いてある。

 壁画の最初の所に大地神の大陸に通じるイブの海上砦が描かれていた。

 つまりこのダンジョンという名のゴーレム工場を作った奴は、大地神の信徒なのだ。


(ネクロマンサーは地と闇属性にクリティカル倍化つくジョブだったのにな)


 結局大地神の大陸が見つからずに半端な力の死にジョブになってしまった。


「これ、ゴーレムの作り方が描かれてるって言われてるんだよな」

「けど実際ゴーレム作れる人間いないし、本当のところは謎のまま」

「まず禁術だからのう。魔法の一種とは思うが全く理屈がわからん」

「そんな禁止されてなかったらやるみたいに言わないでください、お師匠」


 魔法使いたちは本当に知的好奇心が強いらしく壁画を真剣に見る。


(だが残念。ここに描かれてるのダンジョンの成り立ちで、ゴーレムの作り方じゃないんだよ)


 もちろんゴーレムを作ってるとみられる絵があるからこその思い違いだ。


 これはこのゴーレム工場があくまで単純労働力であることを示し、真のダンジョンは地下にあることを描いていた。


(これ解いた奴たまたまだったのが惜しかったよなぁ)


 ゲームの時、オブジェクトを適当に弄ることを楽しみにしていたプレイヤーがいた。

 ジョブによっては投げられたり、回収できたりするからだ。


 で、地下に行くのに必要なオブジェクトを回収し、ダンジョン外へ出た。

 けれどフィールドに持ち出せる設定ではなかったのでそのオブジェクトは消える。

 それによって謎も何も解かずに重要アイテムだとばれて、後は怪しいところにそのオブジェクトを使うだけの単純作業で見つかった。


(ちゃんと壁画にヒント入れ込んだのにさぁ)


 その顛末を聞いた時の脱力感は情けないものだったが、同時にプレイヤーの自由さと勘の良さが少し楽しかった。

 ちゃんと後から壁画のヒントにも気づいてもらえたのが良かったのかもしれない。


「おう、トーマスはその絵が気になるのか?」


 暇を持て余したガドスが俺の側に寄って来た。


「あぁ、ここに描かれている女性の絵を、何処かで見た気がするんだが」


 思い出していたせいでつい、そんなヒント染みたことを言ってしまう。

 するとオストル少年が勇んで声を上げた。


「それ知ってる! あっちにある石像だよ。あれ? でも手にそんな丸いの持ってないよ」

「これもどこかで見たことのある模様だな」


 今度はイスキスが寄って来て女性像の絵を観察する。


 女性像は手に丸い炎を象った物を持っていた。

 ついでに言えば反対の手には本を持っているし、これらはダンジョン内部にある。


「あ、あ! あたしわかった! その丸いの床に同じ模様があったよ!」


 オルクシアが言うと、同じ斥候のバーランが本のほうに気づく。


「うん? そっちの四角いのも特徴的な模様で…………あぁ、下にあった本の形の飾りか」

「けどそれがどうしたの?」


 アクティの察しの悪さに俺はがっくりした。


「どうした? 疲れが足に来たか?」

「い、いや、ありがとうイスキス。これは、本来オストル少年がいう石像が持っていた物、ということはないか?」

「床の模様や作り付けの飾りが?」


 イスキスが懐疑的だ。

 なるほど、取れると思ってないし、なんでそんな本来の位置があるのに他の場所にって感じか。

 ゲームじゃないから謎仕様なわけだな。


「その、一応どこにあったか教えてくれないか?」


 俺はそうお願いして移動した。

 そしてもちろん床の模様は取れて『水魚』は今までにない発見に湧く。

 けれど本はダミーも混じっているので、バーランが思い出したのは偽物のほうだった。


 それでやる気をなくされても困るから、俺は本物の本のほうへ誘導し、なんとか石像に持たせることに成功する。


 本来の位置に据えると床の模様だった炎は本物となって燃え、本は勝手にページが開いた。

 そうしてあるべき場所に戻ったことで、女性像の足元に階段が現われる。


「嘘だろう、本当に地下があった…………」


 いつも声が大きいガドスが、その時ばかりはとても小さな声でそう言った。


毎日更新

次回:イスキス・アクアート

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