入社式
なんか登場人物が勝手に行動し始めました。
「はじめに、私の自己紹介をさせて頂きます」
女性はゆっくりと話し始めた。
「株式会社、オーバーラップトライアングル、経理課課長、鈴木佐和子と申します。数ある職業、会社の中からオバトラに入社して頂いた皆様を、心より歓迎いたします」
言葉を切って、会場を見渡す。
「オバトラは、現在、新入社員の皆様を除くと社員8名の小さな会社です。これからの3年間で、大規模な事業の拡大を計画しており、人材の大幅な増員が必要となったため、今回、新規に大量の採用を行う運びとなりました」
後ろに何人かが入室した気配がした。
「本日入社されました皆様におかれましては、2週間の研修の後、即戦力として、最前線で働いて頂きます」
チラリと側方の社員らしき人たちが3人座っている席に目をやる。
「今日の予定ですが、社長挨拶をもって入社式は終了します。のちオリエンテーション、同期懇親会と続きます。オリエンテーション終了後は自由時間とし各自お好きなところでご帰宅下さい」
側方に向かって小さく頷くと、鈴木さんは一礼し降壇した。
十秒ほど間をおいて、さっきの偉そうなオッサンが大きく伸びをし、ゆっくり歩き出した。
(偉そうな人とか言ってごめんなさい。偉い人でした。)
「テメェ社長か!?テメェの下では絶対ぇ働かねーよ!!」
最前列の男の子が叫ぶ。あぁ、なんかあったのね(察し)。男の子はかばんに荷物を詰め込み、机の上に最後に残った封筒を床に叩きつけ、出口を塞いでいた3人のおっさんを殴りかからんばかりの勢いで押しのけ、部屋から出ていく。
「オトプラぁ!」
社長が叫んだのに応えて、おっさんの一人が部屋を出ていった。
「まぁ、色々あったんだが、詳細は省略する。俺が社長の鯖師虎吉だ。よろしく!」
会場を見渡す。
「まぁ、知らねーヤツは居ないと思うが、オバトラはコンビニエンスストアの経営をメインの事業にしている。昨今の不況でなぁ、経営を断念したいっていうコンビニオーナーさん、結構いるんだわ。そいつらが手放したコンビニを引き継いで、面白おかしく経営しようっていうのが、今んとこのオバトラの経営方針だ」
(知ってる。)
「今回、個性的なヤツばっかり採用したから、ぶつかる事も多いだろうけど、うん、まぁ、気長にやってくれ。細かい事はこれから2週間の新人研修で先輩社員が教えてくれっから」
……。社長は視線を彷徨わせる。
「おぅ、なんか大事な事言い忘れてる気がするけど、まぁいいや。よろしくな!」
右手を大きく振り上げ、社長は壇を降りかけた。
「社長!社是!」
鈴木課長が叫ぶと、面倒くさそうに社長が壇上に戻る。
「社是なぁ」
人差し指を胸の前に掲げ、
「一つだけだ、覚えて帰ってくれ」
指を振る。
「利益は、なるべく、後で取れ。以上」
今度はやけにスッキリとした面持ちで壇を降りていった。
再び鈴木課長が登壇する。
「それでは、ここからはオリエンテーションとなります。まず、机上にあります封筒の中身をご確認ください」
ガサガサと封筒から中身を取り出す音が鳴る。
「ボールペンは筆記用具を忘れた方用の予備です。会社のロゴが入っていますので、ご自由にお使いください」
はいはい。誰かにあげたり見せびらかす用に使ってもいいって事ですね。
「資料はオリエンテーションの予定、皆さんの今後1年間、3年間の予定、会社の沿革、業績予想、社員名簿、そしてメモ用の白紙です」
で、この名刺はどう使うのですか?
「暫定的に、常に暇そうな社長に皆さんの名刺を各員5枚づつ、同じく暇そうな社長のPCとプリンターで作らせました。家族や仲の良い友人にお渡しください」
この会社の力関係が分からなくなってきました。
「それでは、本題に入らせて頂きます。これから半年以内に、アルバイトより社員になられた皆さんには、コンビニエンスストア店長として店舗を運営できるだけの知識と経験を積み上げていただきます。コンビニエンスストア未経験の皆様には、OJTも兼ねて、当社で経営するセイブオウルにて店員として働いて頂き、順次店長業務を学んでいただきます」
(よし、半歩リード♪)小さくガッツポーズをする。
「現在、当社では3店舗のセイブオウルを運営しておりますが、3年後には10店舗まで増やす予定です。もちろん、それ以上に増えるのは大歓迎です」
あれ?計算がおかしい。7店舗増やすのに20人近くの増員って必要?1店舗あたり3人も正社員使っていたら利益出せませんよ?
「では、前列左端の方より、1人あたり3分の自己紹介をお願いします。尚、この自己紹介は社員によって採点され、皆様の初任給に、自己紹介手当として加算されます」
鈴木さんは一礼して降壇し、最前列の男の子に手で登壇するよう促した。
次にやる気が起きるのはいつだらふ。
ROUGH DIAMONDつまずききさえも君の大事な一歩なんだよ
『負けないで』
ROUGH DIAMOND(LINDBERG)より引用




