待ち伏せ
小会議室に戻ると、簡単な自己紹介はできたみたいで、『会社』の存在意義についての説明が始まっていた。
うん。面倒なので(略)。詳しくはググってください。
午後1時になり、山査子さんがお昼休みを告げる。
「キハちゃん、お昼一緒に食べに行く?」
尋ねると、キハちゃんはニカッと笑ってカバンからお弁当箱を取り出した。
「ごめんね。お弁当作ってきたんだ」
女子力高っ。
あたりを見回すと、陽斗くんが部屋を出ていくところだった。慌てて後を追う。
会館の入り口で無事に捕まえた。
「陽斗くん、お昼食べに行くの?」
「あ、ぐみちゃん。昨日、すず……サワちゃんから近くに美味しい食堂があるって聞いて今から行くところ。一緒に行く?」
「行く行く!惚気話とかも聞きたいし」
「オッケー。昨日の話するね」
ふふふふふ。鈴木さんの弱味を握っておこう。私は腹黒い笑みを浮かべた。
予測しておくべきだった。食堂では、かなり引き攣った笑顔の鈴木さんがいた。正確には、陽斗くんに続いてお店に入った私を見て笑顔を引き攣らせた。
「ごめん、惚気話無理っぽい」
口に手を当てて陽斗くんがささやく。それを見た鈴木さんから笑顔が消えた。
「は る と く ん?お付き合いした次の日から浮気で す か?」
陽斗くんが鈴木さんの隣に座り、対面に私が座ると、早速鈴木さんの詰問が始まった。
「一緒にご飯食べに来ただけですよ。第一ぐみちゃんにはカッコカワイイ彼氏がいるらしいし。サワちゃん的には同僚と昼ごはん食べるだけで浮気なんですか?」
「他の女と仲良くしているところ見たくない」
鈴木さんがボソリと呟く。
「『昨日の話』って言うのを聞く予定だったんですが、鈴木さんがいるところでは無理だそうなので、他の話しますね」
私が朗らかに宣言すると、鈴木さんは少し首を傾げ目をひん剥いて、
「したら刺す」
と、どすの聞いた声で陽斗くんに宣言した。
「言えない話はちゃんとぼかすよー」
陽斗くんは、のんびりとした口調で返事した。
「それに昨日は人に言えない事、なんにもしなかったでしょ?」
この二人、『人に言えない事』の認識に齟齬がありそう。私は二人を置いといてメニューを開いた。
メニューは正に食堂だった。麺類食べたいなーって思いながらメニューを目でなぞる。
「筆山公園行って……」
「や!め!ろ!」
ラーメンって気分じゃないなー。
「少し歩いて夜景見て……」
「やめて!」
蕎麦にしようかなぁ。
「キ……」
「ホントにやめてください!お願いします!」
よし!決めた。
「ご注文はお決まりですか?」
「鱚の天ぷら蕎麦一つと……。鈴木さんと陽斗くんは注文決まりました?」
「親子丼ください」
「じゃあ俺も親子丼で」
「はい。親子丼2つと鱚の天ぷら蕎麦ですね。少々お待ち下さい」
ふと鈴木さんを見ると、ジト目でこちらを睨んでいた。
ふぅー。美味しかった。いろいろ、
「ごちそうさまでしたっ」
午後は電話の取り方から始まって、敬語の使い方、挨拶の重要性とかラポールとかの講義が続いた。
「では初日はこれで終了となります。皆様お疲れ様でした」
午後5時に解散となった。
「お疲れ様でした」
キハちゃんと陽斗くんに挨拶して、早速雄輝くんにLINEを送ろうとスマホを取り出すと、メロディが流れ始めた。画面には『雄輝くん』と表示されている。
「研修終わった?」
「終わったところだよ。今日、これから暇?」
「暇暇。どっか行く?」
ふと、お昼の会話を思い出した。
「筆山公園行きたいんだけど……」
「オッケー。俺、車出すから家まで迎えに行くよ」
「了解。お家で待ってるね」
そう!私は濃厚な鱚を希望しているのです。




