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9.ベネディクト

翌日、昨日と同じように癒しを授けてベネディクトさんの授業です。

一度やってしまったものは仕方ないので思い切りどうぞと言われたので部屋にいた人全員に癒しをかけました。


きっとこうして人気取りをして、わたしの味方にしようとしてくれているのでしょう。

ひとまず前向きに考えますよ。



ベネディクトさんとは図書室でお勉強します。

「さて、聖女様。もう隠しませんが、城でひどい扱いを受けられたようで、私から謝罪させてください。突然この世界にお呼び立てした上に失礼をいたしました」

平伏の姿勢で謝られると慌ててしまいます。


手を取って立っていただけるように促します。

杖のご老人を地に伏せさせるとか普通に罪悪感が半端ないですからやめてください。


「いいえ、ベネディクトさんはわたしによくしてくださっているじゃないですか。お勉強、楽しみにしているのですよ」

「まさしく貴女様は聖女様であらせられるのですね…!」

ああ拝むのもやめてください、わたしはただの事なかれ主義ですから…!



そのほうが自分の望む通りに進むだろうという打算しかありませんから!



「では魔法についてもう少し詳しく学びましょう。聞くところによると詠唱は必要ないようですから、精霊の種類から参りましょう。

彼らに力を借りることとなります。」


――この世界には、炎と熱を司る赤の精霊、水と浄化を司る青の精霊、

地と重力を司る黄の精霊、樹と成長を司る緑の精霊、

光と(いかづち)を司る白の精霊、闇と冷気を司る黒の精霊

の6種類の精霊がいる。


見える人はたまにいるが、ほとんど人の前に姿を現すことはない。

それでも詠唱をすれば近くにいる精霊が力を貸してくれる。


全ての精霊が下級、中級、上級に分類され、そのあたりを飛び回っているのが下級。

優れた魔法使いであれば、固定の上級精霊が力を貸すようになる。

その場合は"青の精霊"ではなく固有名詞で呼びかける。



「そうなのですねえ」

「おそらくですが聖女様であれば上級精霊が率先して力を貸してくださることでしょう。記録によれば精霊に愛されるとありますから」


わたしが疑り深いのをもう承知してくれたのか、複数の本に書かれているということを

引用元として示してくれるのでわたしも信用しやすいです。



精霊に愛される所謂"いとし子"は、動物にも愛されるそうで、彼らはそれで優しくしてくれたのだとわかった。

そしてその他に、女神様から加護として幸運を与えられているそうだ。

「ああ、やっぱりそうなんですね」

「おや、さっそくなにか実感されましたか?」

「探し物がすぐに見つかりました。本棚で」

「ああ、それはまさしく。聖女様方はあまり大きなことを求めないことも関係しているようですよ」

なぜかとても嬉しそうに微笑まれてわたしもつられて笑ってしまう。


なんて優しいおじいさまなんでしょうね。


「以上のことから、聖女様は理を知りさえすればどのような魔法も使えるということになります。

我々は精霊との相性があり、一つ二つの属性が使える程度ですから。」

だからきちんと使い方を学んでおきましょうねっていうことらしいです。

ありがたい。


「ではまず小さな炎を、この蝋燭に灯してみましょうか。」

(精霊さん、小さな火をお願いします)

と心の中で念じると、ぽっと蝋燭に火が灯る。


「お上手ですね。魔力が減った感じはありますか?」

「いいえ、特に体に変化はないです」

「そうですか、ではもう少し大きな魔法を使ってみましょう」



さすがに教会内でぶっ放すわけにはいきませんので、街を出て森までやってきました。

ベネディクトさんは杖をついていらっしゃいますが、わたしより早足です。

お元気。



「このあたりで良いでしょう。教会の子供たちの練習場でもあります」

少し開けた広場になっていて、的になるであろう木の板などが置かれています。

「白と黒の精霊は比較的消費魔力が大きいのであの木の板を雷で打ち抜いてみてください」


目とか額からビームのようなものがでるとさすがに恥ずかしいので、指先から出すように手を銃の形に構える。

(精霊さん、雷であの的を射ぬいて!)

お願いと同時に指先から雷が奔り、的の真ん中を打ち抜いた。


後ろの木々にも穴が開いた気がするけれど一旦無視しましょう。


そしてベネディクトさんの言葉通り、魔力が抜けた感覚がわかる。

軽い貧血のような、そんな感覚だ。

「魔力は食事で回復します。お昼にしましょうね」




***




昼食後、再び図書室です。

「この感じだと私の手助けはあまり必要ありませんね。

どうでしょう、聖女様、この世界を救うというお気持ちはありますか?」

「ありますよ、もう帰れないならばこの世界がわたしの世界でもありますし」

「貴女様は心から聖女様なのですね…!」

くそうどのスイッチで崇められるのかわかりませんね…!



『虐げられていらしたのになんと心根のお優しい…!』

とのことらしい。

虐げられていたことを知ったのはここ数日なので仕方がないです。

そしてもうやつらのことは忘れることにしましたし。


ともあれ虐げられていたのに勤めを果たす部分がなんらかの琴線に触れたのでしょう、多分。

イメージ的にはいいのでこういう感じで行きましょう。

虐げられていたけれど健気にお勤めを果たす聖女、ですね。イメージがおおむね決まってきましたよ。


「ですがわたし1人だと困るな、とは思っていました。どこを巡ればよいのかわからないのです」

「でしたらこの本をお役立てください。」

と渡されたのは、"巡礼の路"という本だった。

それには細かく王都から世界を巡る道筋が示されていて、たしかにこれがあれば一人でも各地を巡ってゆけそうだ。


「聖女様はおそらく誰の手も借りたくないとおっしゃるでしょう。ですから、せめてこの本だけはお持ちください」

ベネディクトさんは長年人を見るお仕事をされているからか、わたしの懐疑心なんかをすっかりお見通しらしい。

「ありがとうございます、もう少し情報等を収集したら出ますので…」

「ああいえ、ここにはいつまでも居て下さっていいのですよ」



その言葉に甘え、もうしばらくここに滞在しようと思います。

旅に出るほど体が回復していませんから。






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