表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/59

6.食堂

教会では孤児たちを育てているらしく、30人ほどの子供たちと10人ほどの修道女らしき女性たちが居た。

「こちらは聖女リン様。本日よりみなさんと共に過ごされます」

「リンです。お邪魔します。ご迷惑かとは思いますが、なるべくお手伝いいたしますのでよろしくお願いいたします」

ここは腰も頭も低くいきましょう。

彼らは少なくともこちらに悪意を向けてこないので。


もちろん心は覗きましたけど。


食事はシンプルだけど粗末ではない。

十分に施しなりなんなりがあるのでしょうか。

ちょっとでも食糧難でパンと水だけだったのかもなんて思ったわたしがお馬鹿でしたね、ええ。

有り難く食事を頂きます。


そういえば落ち着いて人と話すのが1ヵ月ぶりです!

こちらにきてから初めてです!!



幼い子供たちは純真な眼差しでこちらを見つめてきます。

かわいいですねえ。


「リン様!リン様のことおしえてください!」

なんて可愛いんでしょうね。

「そうですね、まずわたしのことはもっとお気軽に、リンと呼んでください。仲良くなりましょう」

「わーい!リン!」

と喜ぶ少年の頭をばすこん!!と間髪入れずお殴りになりましたね隣の修道女!!

え、なぜです。


「せめてリンさんとお呼びなさい!!リン様、申し訳…」

「あ、ああいいですいいです。みなさんも様は付けないでください。まだ来たばかりで聖女といわれても実感がありませんし」

苦笑いでもしておきましょうね。


必要以上に崇め奉られると話が進まないから面倒ですし。


「リン…さんは何のお力をいただいたのですか?」

「癒しと転移です、一度行った場所へ一瞬で行けるのですよ」

千里眼は伏せておきましょう。

きっと気味悪がられますし。


「まあ、転移とは珍しいですね。記録の残る限りでは初めてではないでしょうか」

「そうなのですね、きっとわたしが色んなところに行きたいって思ったからでしょうね」

と本当に適当に話をあわせます。

一向に名乗ってくれないので少年Aと修道女Aとします。


「じゃあ別の場所にいってもまたここに来てくれる!?」

「ええ、もちろんです。お世話になるのですからわたしの力が必要になればすぐにおよびくださいね、駆けつけますよ」


盛大なリップサービスをかましておきます。

いえ呼ばれれば本当に行きますけど。


どうやら聖女の力とやらは自分の魔力というより空気中の魔力を使って発動するようで、

実質無限に力が使えます。すごい。



「よければこちらの世界のことを教えてもらえませんか、魔法とか」

なんて聞いてみましょう。

少し顔をこわばらせましたね。なんです?


『お城で教わっていらっしゃらない…?』

ああそこですか。普通は城で教育を受けてから旅立つ習わしかなんかですか?

本によると数百年ぶりの聖女のようですけどその習わしは決まっているのですね。


「みなさんのお言葉で聞いてみたいのですよ」

なんて誤魔化しておきましょう。

あまり不審に思われても困りますし。


湯あみ(水かけ)の魔法しか見たことないし、トイレはなんか不思議な生き物がきれいきれいしてくれていたので魔法じゃなさそうでした。

他にどんなものがあるのか知りたいし、あわよくばわたしも使いたいじゃないですか。

魔法ですよ魔法。



あと泉で水浴びはちょっときついんです…現代日本人なので…!



「では子供たちの授業を見学なさってはいかがでしょうか?」

「ぜひ!」

明日の午後の予定が決まりましたね。



「ところでその…もしかして御靴をお持ちではありませんか?」

修道女A!いいところに気が付きましたね!

自分からはなかなか言い出せなかったんですよ!

せびってるみたいでしょう?


「ええ、森を歩いている間になくしてしまって…」

適当に悲しい顔をしておきましょう。

最初からなかったなんて言えば彼女たちがどう思うかわかりませんし。

逃げ出したとバレたら捕まる可能性もないわけではないですし。



「では私たちの備品で申し訳ありませんが一足差し上げます!ハンス、持ってきてちょうだい」

少年A(ハンス)は元気よく返事をするとさっと走り出した。

お食事はもう終わっていますね、早い。


わたしはまだなのでゆっくりいただきますよ。

折角のまともなお食事、ゆっくりでも全ていただきたいじゃないですか。

ちょっともうお腹がびっくりしちゃってるんですけれど気合ですよ!

明日からはやっぱりパンと水かもしれませんしね。

食べられるうちに食べておかねば。



「お気遣いいただきありがとうございます」

「聖女様に履いていただくには申し訳ないほどの品ですが…」

「とんでもないです、あなた方のお心があればそれはどんなものよりも尊いですよ」

わたしの中の聖女像がふわっとしているせいでおかしなことを言っている気がしなくもないけれど押し通しましょう。

なんだか目を潤ませてこちらに平伏しそうな勢いなので方向性は間違っていないはずです。



食事が終わるころにハンス君が靴を差し出してくれました。

黒いシンプルな脹脛くらいまでのショートブーツで、編み上げた紐で少しサイズを調節するもののようです。

履き方がわからず少し困っているとハンス君が履かせてくださいました。

申し訳ない。

ついでに靴下もいただきました。感謝。



臭くなりますからね、素足でブーツ履くと。



「ありがとうございます、ハンス君」

「い、いえ!聖女様に触れる機会をいただき光栄です!」

くっ砕けた態度が戻ってしまった。

聖女オーラみたいなので萎縮させたりしてます?そういうの出てます?

困りますね。



あら、他の大人(といっても私より年下にみえますが)修道女たちが履いているものとは違いますね。

彼女たちはくるぶしまでのショートブーツで、少しヒールのあるもの。

わたしのはヒールもないぺたんこの。

もしかしてもしかしなくても子供用ですねこれ…

ええまあ、目の前の推定10歳ハンス君と目線が一緒ですものね。


この世界の方々は背が総じて高いですね。

人種の違いでしょうか。


「リンさん、失礼ですがおいくつでいらっしゃいますか?」

「おそらくみなさんの想像よりはずっと上ですよ」

ふふふと笑っておきます。年齢は言いませんよ!!


子供用の靴がぴったりだったので修道女Aが見かねて聞いてきたんでしょうね。

大丈夫、きっとこの世界の成人の年齢も軽く越しています。



「では湯あみにご案内します。僭越ながら私がお手伝いさせていただきます」

少し悩んでお願いすることにしました。

この世界のちゃんとしたお風呂って初めてですし。



もしかすると魔法でばしゃっというのが当たり前かもしれません。

その場合わたしではできませんしね。






20200118:誤字報告感謝します。ら抜き修正しています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ