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55.休暇2日目


翌朝、昨日の疲れは残したままですがランプレヒトと約束があるので起きよう、と目を開いた時。

「おや、おはようございます」

こちらを凝視している笑顔の彼と目があいました。


「…なぜここに」

寝起きで少しぼーっとしますので起動までお待ちくださいね。

「ヴェインとヴァイトが入れてくれました」

「そうですか」

あの2人を手懐けるとはやりますね、ランプレヒト。



「で、ええと。」

彼の手を借りてベッドから降り(相変わらず高くて一人で降りるのが困難です)彼のエスコートで朝食へ向かう。

「今日は準備からお世話させていただけませんか?」

という彼は、どうやらこうして聖女の世話をずっと焼きたかったそうなので、

やりたいようにやってもらいます。


いつもは全部ヴェインかヴァイトがやってしまいますし、わたしもそれを許していますからね。


すっかり毒気の抜けたランプレヒトは、普通に穏やかな笑みを湛える好青年です。

下心もなくおかしなこともしてこない安心感があります。


「御口に合うとよいのですが」

と、軽くサンドイッチなんかを出してくれたのですが。

「おいしいです。これはランプレヒトが作ったのですか?」

味がいつもと違いますので、ヴェインが作ったものではなさそうです。


「ええ。よかった。失礼します」

わたしの口の端についていたらしいソースをそっとぬぐってくれます。


言い訳させていただくと、具が多くって食べづらいんです!!

おいしいんですけど!!

決してわたしが食べ汚いわけではありませんから!!


「あ、ありがとうございます」

「いいえ、もう少々小さく作るべきでしたね、申し訳ありません」

なんだかその笑顔、以前の企んだ顔に似てます?


『わざとですが。すみません聖女様』

って!

「覗くの前提で考えるのやめてください!」

「はは、可愛らしいですよ」

少々印象を訂正しておきます。


ランプレヒトは根が少し意地悪です。

サンドイッチは本当においしいのでよしとしますけど!




***




「で、どこへ行くんですか」

しっかり手を握られた状態で街へ出てきました。

これはわたしが小さいので迷子防止ですかね。

この街に来てからもこの人ずっとあの空色ローブなんですけど、暑くないのでしょうか。



「いい店があるのです」

そうでした、ランプレヒトだって隣国には詳しいですよね。



案内されたのは、高級なお店が立ち並ぶ並びの一つ。

カフェ、でしょうか。

連れられるままその店に入り、個室へ通されます。


「ええと、ここは…?」

「個室で本を読みながら飲食ができる店です」

高級な漫画喫茶みたいなお店でしょうか?漫画はありませんが。

「へえ、こんなお店があったのですね!」

「ええ。個室ですから好きにお話もできますし、ゆっくり過ごしてください」

なんとランプレヒトはわたしを休ませるためにここへ案内してくれたらしい。


こういう気遣いができる人なんですよね、味方であるうちは!




「そうだ。ランプレヒト、好きな女性のタイプとかいないのですか?」

いつかわたしがこっそり斡旋するための情報収集ですよ。

折角お話しができるのですから聞いておきましょう。


「いませんね。私は生涯を聖女様に捧げました」

「重いです、それはあの二人だけで十分です」

はぐらかされたようなのでむすっと返します。


「ふふ、いないのは本当ですよ。私これでもかなり忙しい身でしたので。家の決めたお相手と結ばれるのだと思っていましたよ」

そういえばこの方貴族でしたね。

家同士の婚姻とかそういうのがあるんでしょうね。


「今は家を出てきたので関係なくなりましたが」

という言葉にわたしはぴしりと固まりました。


え、家を出たって、一時的ではなく!?

「冗談抜きに私は聖女様に生涯お仕えし、今までのことを償いたいと思っているのですよ」

それにはあの家もあの国も私の邪魔でしかありませんでしたし。

なんて呟いているの聞こえてますけど!


ランプレヒトが捨てた側ですか、これ。


「あなたに後悔がないのならいいのですけれど…それはそれとして結婚願望とかないのですか?」

「今は聖女様一筋ですし、あまり」

にこりと清々しい笑顔を向けられ、心臓が思わず音を立てる。



この人も顔がいいんですよね!!

自覚ありそうですけれど!!

大層おもてなのではないですか!?



「それではわたしが申し訳ないんですが」

「私は三番目の夫なんかでも構いませんが」

「わたしが構います…というかそれは認められているのですか?」

「ヴェインやヴァイトの出身国では認められているのであの二人は当然そう思っていると思いますよ」

ランプレヒトがそれに便乗しようとしているわけですね、なるほど。


ユーフォミアも乗ってきそうなのでやめて欲しいところですね。


「ですが聖女様はほかの方の望みを叶えるのがお好きなようですし、そのうち絆されそうですね」

にこっと笑って言われたけど、その通りだと思います。

「…叶えるのが好きというか流されやすいのですよ、わたしは」

いうことを聞いているほうが楽なんです。

考えるのは面倒くさいことですから。


「結果的に救われた者がたくさんいるのです。聖女様は正しく聖女様でいらっしゃいますよ」

「うーん、今度ランプレヒトに頼みたいことがあるんですけれど、それを聞いたらわたし嫌われちゃうかもしれません」

ジルヴェスターさんのことなんですけどね!

わたしの旅が終わるまでは内緒にしておきましょう。


「ありえませんよ、聖女様。たとえ貴女が世間から極悪人のようだと思われたとしても。

この世界で澱みを払ってくださっているそれだけで私としてはなによりも尊いのです」

「そうですか。ランプレヒトは聖女のことを神聖視しすぎなんですよ」

むす、としてみたが笑って流されるだけだった。


「ああそうだ、せっかくですからわたしの国の話を聞いてください。そして情報を更新しておいてください」

このまま聖女がお菓子ではちゃめちゃに喜ぶと思われたままでは困りますからね。

「そのような栄誉をいただけるとは。全力でやりましょう」

軽い気持ちで聞いてもらおうと思ったのに、思わぬやる気を見せられてちょっとたじろぎつつ。



たっぷり数時間、ランプレヒトに日本の話を聞かせたのでした。

ランプレヒトは驚きつつも興味深そうに話を聞いてくれ、必ず本にして配ると約束してくれたのでした。

これで次の聖女が少しでも快適に過ごせるといいです。



***




「ああそうだ。獣人と人間のあいだに子供ってできるんですか?」

帰る前にふと思い出したので聞いておきましょう。

「ええ、もちろん」

と肯定されたのでこの話はここまでです。

「わたしがこの質問をしたこと、誰にも話さないでくださいね!」

「ええ、もちろんですよ。聖女様」

その含み笑いやめてくださいよ!!

わたしは可能性のひとつとして考慮にいれた、ただそれだけですから。




ところで怖くて聞けないのですが、「三人目の夫」の話は本気でしょうか?

だとしたらわたし、ランプレヒトの印象を変えなければいけません。









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