54.4人目
数日スタシオさんの元で過ごしたおかげで、双子とランプレヒトが少し仲良くなったようです。
なんの仲間意識かはわかりませんが、何かが芽生えたようで硬く握手など交わしているところを目撃しました。
ランプレヒトは下心が一切なく、信仰心のみでついて来てくれているようなので、いつかかわいいお嫁さんと出会えるようにサポートもしてあげたいですね。
と勝手に息巻いています。
お節介にならないように気を付けましょう。
「あ、そうです。年齢を聞いてもいいですか?」
ヴェインなんて数か月経つのに年齢すら知りませんでしたね、これではいけません。
「俺とヴァイトは29歳です」
やはり年上でしたか、よかった。
「私は22歳です」
思ったよりも年下ですね!しっかりした年下ですねちくしょうめ。
「なるほど、わかりました。では今日はユーフォミアを迎えに行きましょうか」
「主様は?」
自分の年齢は言わずに濁そうと思ったのですが、仕方ありませんね。
「どちらかというとヴェインとヴァイトと近いですよ」
とぼかしていうと、3人に盛大に驚かれました。
あれ、やっぱり子供だと思ってました?
言動が幼いつもりはないのですけれど。
スタシオさんと別れ、魔王の元へ転移です。
「出発しますよ、ユーフォミア」
「ああ、待っていたぞ!」
わたしにがばっと抱き着こうとするのを今回はヴェインが阻止してくれます。
どうもあの話し合いが良かったようで、今のヴェインとヴァイトがユーフォミアと張り合えるくらいには力が揮えるそうです。
心を預けるというのももしかしたら2人の糧になるのかもしれません。
だとするとわたしは今まであまりいい主ではなかったのでしょう。
これからは少し、気にかけようと思いますよ。
「ユーフォミア、連れて行くのはいいですが、約束をしてください」
これは出発前3人と話し合ったことです。
あまり好き勝手されては困りますからね、これからの人間領では特に。
「約束?なんだ?」
約束という言葉すら初耳みたいな顔をしていますね、さすが生まれながらの王ですか?
「わたしは貴方よりも前に、この3人と旅をしています。ですから、彼らを蔑ろにしたり、更には害すようなら連れていけません」
先日のように言葉を封じたりするのはご法度ですからね!
「わかった、尊重しよう」
返事が素直かつ早いですね。
今初めてランプレヒトのことを認識したようですがそれでも聞いてくれるのですね。
そんな奴はいたか?みたいな顔やめてください。
「あと、わたしに近づきすぎるのは困ります。」
「な、なに!?どの程度なら良いのだ!?」
手をわきわきとするのをやめてください、せっかく綺麗な顔をしているのに。
セクハラですよ。
どの程度と問われても具体的には言えないので、先輩を示すことにしましょう。
「ヴェインとヴァイトと同じくらいまでなら許可します」
「ふむ、2人を見て学習せよと言うことだな?」
お願いしますよこの200歳児。
そして先輩なのですからそういう振舞いをしてくださいね、ヴェインとヴァイトは!
ユーフォミアは意外と懸命に守ってくれる気があるようなので、今のところは様子見で行くことにしましょう。
彼だって、人間領のことはほとんど知らないでしょうから。
ユーフォミアに外を見せることがわたしにしかできないことなら、見捨てたりはできませんからね。
***
ということで、転移でユミディーテ王国に舞い戻ってきました。
第一都市の例の家です。
突然の転移でしたが全く動じない使用人たち、訓練されていますねえ。
ここがユミディーテ王国の中心地なので、次の街へ行く足がかりになるわけですが、どこへ行くかはベネディクトさんに頂いた本に従おうと思い開いたのですが。
本来ならば、第二都市からユミディーテ王国へ入り、第一都市、第三都市へ行き、その隣国であるヘンドラー公国へ行くのが決まっているルートのようです。
そこは一旦飛ばしますので次は第四都市ですね。
決まったルートとは前後しますが問題はないでしょう。
そしてその先に位置するのはドラゴニア帝国、もしくはただの帝国。
この世界に帝国を名乗るのは一つしかないそうで、帝国と言えばドラゴニア帝国を指す。
多数の中小国家を配下にしているけれど、決して悪の国ではないそうです。
むしろ優れた治世でどの国からも一目置かれている、国力だけで言えば間違いなくこの世界で一番の国だそうです。
ここまで大国に囲まれているのでユミディーテ王国が脳筋王国になってしまったのもなんだか仕方がない気がしてきました。
全部別の国ですけれど四面楚歌ですものね。
「ということで今日は第四都市を目指します…と思ったのですが。」
既にお昼ですし到着しない場合はテントなのですよね、忘れていました。
「テントの数とか足りないですよね。買い物の日にしましょう」
人数が増えたので食器とかも必要ですよね、ヴェイン。
「であれば聖女様はお休みください。私とヴェインで行って参ります」
確かにこの二人に任せていれば安心なんですけれど…
「ユーフォミアも連れて行ってください。これくらいの距離なら問題ありませんね?」
どうやらべったり一緒ににる必要はないそうで、同じ街くらいならば彼の"澱み"はわたしが吸うらしい。
だからティターナさんやスタシオさんのところにいる間も"澱み"が広がることはなかったそうです。
こればかりは試してみなければわからなかったことでしたけど。
で、「なぜ?」みたいな顔をしていますが。
「ユーフォミアは買い物したことないでしょう?覚えてください」
「リンは行かぬのか?」
「わたしが行くと練習になりませんから」
人に囲まれて買い物になりません。
「聖女様からお代はいただけません!」のオンパレードです。
お金を受け取ってもらうのにも一苦労なんですから。
説明すればユーフォミアも納得してくれたので、3人を買い物に送り出した。
「ランプレヒト、頼みます」
一番年下だけれど一番しっかりしているのは多分あなたですからね!
わたしはヴァイトとゆっくりお茶をしながら待つことにします。
さすがに飲み物にまでは入っていませんからね、香辛料。
チャイのようにスパイシーな感じはしますが、この程度ならむしろ好きです。
お茶はおいしいのですよね、この家で出てくるものでも。
「ヴァイト、ヴェインと感覚を共有するというのはどういうことなんですか?」
「あ、そっか詳しく話してなかったよね。いつも共有しているわけじゃなくて、呼びかけてOKなら見えるし聞こえるようになるって感じかな。呼びかけることはできるけど会話はできないんだよね。もちろん独り言を話してくれれば聞こえるから意思疎通はできるけど」
なるほど、映像の見える糸電話のようなもの…でしょうか。
便利ですね、双子の特殊能力すごいです。
それにしてもヴァイトも随分素直に話してくれるようになりました。
他の人と違うっていうのはやっぱり話しづらかったのでしょうか。
わたしにしてみれば何もかもが違うので逆に気にならないのですけれど。
2人への気遣いが足りなかったことは反省しなければなりませんね。
「そうだ、ドラゴニア帝国は寒いから、服装も気にしたほうがいいかもね。第四都市でも買えると思うけど」
「え、寒いのですか?」
「苦手?」
「雪は好きですけど寒いのは苦手ですね」
「寒かったら僕かヴェインがずっと抱いててあげる。あったかいよ」
それはいいかもしれませんねえ、絶対あったかいです。
さて、そろそろ買い物組が気になるので少し覗いてみましょうか。
『ヴェイン、足りないものはなんです?』
『そうだな、魔王とランプレヒトが持っていなければ食器の類がない。あとはテントと寝具だな。
主様は俺とヴァイトと眠るからお前たちは2人で一つのテントを使え』
『む、なぜだ』
不服そうなユーフォミア。
『狭いからだ。あと主様は俺たちをベッドとして認識していらっしゃる』
という真顔の発言にユーフォミアは納得したようですが。
わたしの認識のほうがまずいのではと今更ながらに気になってきました。
ところで魔王って呼ぶのやめさせた方がいいでしょうか。
周りの人がぎょっとしてますよね、あれ。
マオという名前ですよじゃ多分無理ですよね?
ヴェインがわたしの従者っていうのはかなり有名ですし大丈夫だとは思うのですけれど。
うーん、以前舞踏会の時に着ていたように同じ服を着せたほうがわかりやすくていいかもしれませんねえ。
あの服は恰好良かったですし。
聖女の従者であることがわかればおそらくあまり変な顔では見られないと思いますし。
そうすればユーフォミアももう少しスムーズに買い物できるようになるかもしれません。
ということをヴァイトに相談すれば、「それいいね」と軽く同意を得られたので服屋を探すことにします。
もうヴァイトに置いて行かれるのは嫌なようで、余計な護衛はついて来ないようです。
まあ無駄ですものね!
一応家令におすすめのお店を聞き、もちろん呼び出しますと言われたのをお断りして高級なお店が立ち並ぶ区画にやってきました。
さすがにわたしだって正装を用意するのに安いお店に行こうとは思いませんよ。
お金を貯めこんでいても仕方がないので経済を回しましょう。
「主様、ここはよさそうだよ」
家令が勧めてくれた店を何件か眺め、ヴァイトの審美眼に適うお店があったようで、そこへ入ります。
買い物が終わったら来てもらえるようにヴェインに伝えてもらったので、すぐに合流もできるでしょう。
「いらっしゃいま…聖女様あああああ!?」
あ、この感じ久しぶりですねえ。
わたしが話すと進まないのでヴァイトに説明を任せます。
「お任せください、そのような栄誉をいただき感激いたしております!」
「どうかもっと普段通りになさってください。」
ビシッと背筋を伸ばす店主に必殺困った笑顔を向けてブートキャンプを脱してもらいます。
うん、すぐに仕事モードに戻ってくれたこの店主のことは信用できそうです。
奥の部屋へ通してもらい、打ち合わせ開始です。
何を隠そうわたしはコスチュームが好きなのですよね。
折角の美形を燻ぶらせておくのは勿体ないことでした。
ヴェインもヴァイトもあまり自分の見た目に拘りがないのか、服装が適当なんですよね…
服に魔法を掛けるのもヴェインができるはずなので、どんな服でもいいはずなんですけれど。
「主様があんまり着飾らないのに僕たちがするわけにはいかないなあ」
ってわたしのせいでした…!
なんという宝の持ち腐れ。
わたしの愚か者。
ああ、だからドレスの時はちゃんと着飾ってくれたんですね!
ユミディーテ王国風のもの以外にも作れますよと言ってもらえたので遠慮なく要望をお伝えしていきましょう。
お揃いの軍服とか好きです。
和装も好きなのですが、全員顔が派手なのでコスプレっぽくなりそうなので却下です。
だとしたらやはり軍服でしょう。
ランプレヒトに似合うかが少し心配ですけれど。
神官だからか華奢ですしローブ姿しか見たことないのですよねえ。
本人たちに似合うように少しずつ意匠が異なるものもいいですよね。
ヴェインとヴァイトは左右対称になるようにしたいですし、ユーフォミアはあの綺麗な瞳の色をどこかにいれたいです。
ランプレヒトはローブかマントのようなものを羽織るようにすれば違和感がないかもしれませんね。
「…と、ごめんなさい。」
少々興奮してしまったようで、長々と要望をお伝えすることになってしまいました。
ヴァイトがぽかんとしています。
幸いにもお針子さんたちは楽しそうにデザイン画を量産してくださっていますが。
「え、待って。主様がこんなに楽しそうなの初めて見たんだけど」
なんで?という顔をしているヴァイト、ごめんなさい。
わたしもこんなに楽しいとは思っていませんでした。
ヴェインたちも買い物から戻って来、規格外の美形に彼女たちのやる気も鰻上りの様子。
うん、なによりです。
採寸に入るようですが、全員慣れているのか顔色一つ変えませんね。
あ、そうでした全員貴族のようなものですものね。
わたしは満足げに仕事を終えた顔をしていると、お針子さんたちにずずいっと数枚の紙を差し出された。
それは女性ものの、つまりわたしの?
「聖女様の御召し物もご用意させていただけませんか!!!」
わたしがどうしようかと狼狽えている間に
「あ、僕これがいいな~」
「俺はこれがいいと思う」
「私はこれが好みだ」
「では私はこちらを」
と全員がにっこりと紙を差し出してくるので、わたしはその圧に負けて作ってもらうことにしたのでした。
「聖女様も採寸をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、それは僕とヴェインがやるから」
と、ヴァイトがお針子さんたちからさっさと巻尺を奪い取り衝立の向こうへわたしを運搬する。
あまりに鮮やかな手口に誰も口出しできませんでした。
ちょうどユーフォミアも採寸中、というのもあるのでしょうけれど。
「…はあ、貴方たちのそれももう少し緩和されるべきでは」
「ごめん、それは無理。主様に触れていいのは僕とヴェインだけ。ランプレヒトと魔王はまあ…少しだけ許すよ」
やったことでもあるのか、慣れた手つきで測られていくのが少々恥ずかしいです。
「僕たちヴィーの採寸をよくしてたから」
にこっと笑うヴァイトに首を傾げます。
いくら妹相手でもそんなことします?
数字を告げるヴァイトと、それをメモしていくヴェインの連携は完璧なので何度もやっているのは嘘ではなさそうですが。
「ヴィーは金猫っていう種族だって言ったよね?ちょっと特殊で、侍女であろうと触らせるのは嫌がるんだよ」
「…?わたしの手はわりと簡単に握ってくださっていたような」
ふにふにの肉球を思い出すと今でもにやけそうになります。
嗜好のおててでした。
「それは珍しい、さすが主様」
「そうだな、さすが主様です。」
おそらく習性のことなのでよくわかりませんが、ヴィーに嫌われていないならよしとしましょう。
無事採寸を終え、今日はユミディーテ王国の家に泊まることにしました。
そういえばここまで休みなしに移動を続けていましたし、服ができるまでの数日間は休んでもいいかもしれません。
わたしがいつも休んでいるのはさておき、他の面々が、です!




