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52.黒の精霊

意気揚々とランプレヒトさんを連れて魔王を訪問したわけですが、まあどうせもうついてくることはほぼ確定しているのですよね。

それを上手く…できればおかしな契約などなしに進めたいって言うだけです。


「ユーフォミア、来ましたよ」

「待っていたぞ。君に会えぬと"澱み"が日に日に濃くなりそうで不安で仕方がなかった」

転移した瞬間にぎゅっと体をホールド。


うぐ、潰れます加減してください!


ちょっと双子、出番ですよ!!

耳元ですーはーしているこの変質者から距離を置かせてくださいお願い。


「魔王、主様が嫌がっている。離せ」

ヴェインが私の肩を掴んでくれたのですが、びくともしませんね。

魔法か何かを使っているのでしょうか。


ランプレヒトさんが笑顔のまま固まっていますね。

目を逸らしてはいけません、今代の魔王はこれですよ。


「離してくれませんか。」

「む…仕方があるまい。」

離してはくれましたが拳一つ分程度の距離しかありませんね。

パーソナルスペースって知ってます?


埒が明かないので、ため息交じりに黒の精霊さんのお宅へのご案内をお願いします。



ユーフォミアはランプレヒトさんのことを視界には入れたようでしたが興味はないようなので、ひとまずこのままです。



***



さっくりと案内いただくと、ティターナさんの家の真反対に同じくらい進んだ場所にありました。

こちらは街中ではなく少し外れた郊外です。

大きなお屋敷ですね。

少なくとも魔王の居城より大きいです。

それでも城と形容するには小さすぎるので、お屋敷。


扉の前に立って挨拶しようとした瞬間、腕らしきものに体をがっつりホールドされて家に引き込まれました。

この可能性も考慮には入れていたので、少々心臓が激しく脈打つくらいで済みました。

悲鳴は上げていないのでセーフです。



「よく来たね、待っていたんだよ」

エンドレスすりすり再びです。ティターナさんとおっとりした感じが似ている気がします。

でもほっぺた無くなりますから!!それやめてください。


「スズ・クジョウです。」

名乗るとランプレヒトさんがぴくりと眉をあげたのが見えました。

本名は外では名乗れないのですみませんね。


「ぼくはスタシオ・アーテル。よろしくね、スズ」

ちゅうっと額に濃いめの口づけを落とされた。

これで全ての精霊さんとの契約が為ったのでしょう。


漸く放していただけたのでスタシオさんのことを確認できます。

魔王とよく似た紫紺の髪ですがそれより淡く、瞳は鮮やかな紫色です。

そして何より目立つのが着流しを着ていること。

やっぱり聖女の誰かから教わったのでしょうか。


すらりとした体躯に着流しとは。

だめですこれとてもよくお似合いですね!!

正直に申し上げるとどストライクです。


刀とか佩いてくれませんか?ないですか?


ひとしきり興奮したのでもはや無意味でしょうけれど質問を。

「スタシオさん、ユーフォミアは何歳かご存知ですか?」

「ん?ユーフォミアは194歳だよね」

具体的な数字どうもありがとうございます。



「はあ…ですよね。ユーフォミア、改めて話をしたいのでまた数日待っててくれますか?」

これで一応ユーフォミアが嘘をついていないこととして、腹を括るしかないようですね。


「またか?ここで待っていてはいけないのか。」

不服そうにこちらを見ているけれど、無視です。

「準備でもして待っていてください。必ず行きますから大人しくしててくださいよ」

問答無用で居城へ飛ばすことで最大の問題はひとまず先送りです。




先にランプレヒトさんのことをどうにかしたいのです。

そうでなければ正しい情報を得ることができませんから。


「スタシオさん、契約の魔法について詳しく教えてもらえませんか?」

「うーん?もうスズはこれがあるし、好きなように行使すればいいよ。約束したいことを口にして、ぼくの名前を呼んでくれればいい」

額をつんつんとつつかれる。


契約しているからどんな魔法も、というのはわかっていますが。

「でもわたし魔力が少ないみたいなんです。ランプレヒトさんと契約したいのですが、彼の方が魔力が多いですよね?」

契約の魔法は魔力が多い方が覆せてしまう。それでは彼も納得しないですし、発言の真偽も疑えてしまいます。


「ああ、なるほど。確かに巡りは良いし、制御も上手くいっているけれど絶対量が足りていないね」

ちょっと待っていて、と言ったスタシオさんは巨大な鷹のような姿に成り、どこかへ羽ばたいていった。



「せ、聖女様の魔力が私より少ない…!?もしや召喚の儀の不備ですか!?」

「どうなんでしょう、何かあったのかもとはルーリアさんが言っていたようですが」

と告げるとぐっと眉根を寄せて手を握りしめている。

「申し訳ありません、まさか正規の手順の儀式を踏まなかったことがこんな影響を及ぼすとは…なんとしてでも止めるべきでした」

「大丈夫ですよ、精霊の方々になんとかしてもらっていますし。」

ランプレヒトさんばかりが気に病む必要は全くないですしね。

どうやら命令があって逆らえなかった部分が多々あったようですから。


もう二度とそんな命令聞く必要ありませんからね。


「魔力をどうにかしてもらったら、わたしの名前についても契約にいれてもかまいませんか?」

「ええ、もちろんです。お名前を伏せられたのは正しかったと思いますよ」

出来のいい教え子をほめるような顔つきに思わず嬉しくなってしまいます。


わたしの頑張りや浅知恵が少しでも報われたと褒められるのは悪い気がしませんね。



***



すぐに戻ってきたスタシオさんは、綺麗な白と黒の宝石のようなものを持っていました。

「これはぼくとティターナの魔力の源を少しだけわけたものだよ。これをあげる」

そっと胸の中央の辺りに触れると、その宝石のようなものがわたしの体に吸い込まれた。


「不調はない?」

「は、はい。けれど魔力が増えた感じはわかります」

「よかった。これで彼と契約できるよ」

急に魔力が増えたのになんともないのは、キーエンさんとガレスさんのお陰かもしれませんね。

きっと今までのせせらぎのような流れから濁流のような流れに変わったはずなのに、それが溢れずに済んでいて制御もできる様子なので。




では少し失礼しますと断りを入れ、ランプレヒトさんの前に立つ。

「スタシオさん、契約の魔法を行使するので御力をお貸しください。」

いつもと違い、口に出して伝えます。


「ランプレヒトさんへ、わたしの本名を口にすることを禁じます。わたしに対してのみ嘘を吐くことを禁じます。わたしが求めるすべての知識を開示することを望みます」

一般的には口頭ではなく契約書を必要とするらしいのですが、この方法でも問題ないと待っている間ランプレヒトさんに教わりました。

「ランプレヒト・マグエットはこの契約を遵守することを神々と精霊、そして聖女様に誓います」

ランプレヒトさんがわたしの手の甲…は既に契約で使われているから無理だということなので、靴を脱いだつま先に口づけて契約完了です。


あくまで平常心を保ちましたが普通に恥ずかしいです。

美形の顔に足を寄せるとか冷静にできるわけありませんからね、素数を数えて凌ぎました。


「これで私のステータスを確認すれば契約内容の確認もできますよ」

と結局見たことがなかったステータス画面を見せてくれる。

確かに先ほど結んだ契約の内容が書かれている。

契約主(わたし)の名前が伏せられているので安心ですね。




「で、スズはここに3日くらいはいてくれるんだよね?」

にっこり笑うスタシオさんに頷きます。

他の方の場所にも3日ずつだったので、平等に、です。

魔族領に於いては3日で澱みがなくなるわけではないのですが。





さてこれでランプレヒトさんから"主従の契約"について詳しく聞けますね!








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